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第323話

【更新について】


週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ


【前回まで】


各大臣や関係機関の役職者、実際に対応する『ナインティズ』らを集めて状況と手順の説明を行っています。最後にシリルが手を挙げました。


□ □ □


「壊す時、穴の縁から魔法を撃つの?」


「そうですね、そのつもりですが」


「……壊すのクラーケンにやらせようと思うのだけど」


「と、言いますと?」


唐突に水の上位精霊の名前が出てきた事に、キースだけでなく、講堂にいる全ての人々の頭に疑問符が浮かんだ。


エルフは、10歳を迎えた朝に『守護精霊』という存在が付く事がある。風の下級精霊であるシルフ、水の下級精霊のウンディーネなどが、召喚せずとも常に自身の近くにおり、見守ってくれる。指示を出せば通常の召喚より強く力を行使してくれる。


シリルの場合、なぜか水の上位精霊であるクラーケンと、風の上位精霊のジンがついた。風と水自体はエルフと親和性が高いが、1人に守護精霊が2体付いた事などは過去に無く、さらにそれが上位精霊なのだ。もう意味不明過ぎる。


「石力炉が転送されてきたら穴に水を満たす。そしてそのまま圧をかけて水で押し潰す。水で包む事で衝撃と爆風も防げる」


「それは良いですね!確かにより安全に処理できそうです!ぜひお願いします!」


「わかった……できるよね?」


シリルが宙に視線を向け呼び掛けた。


すると、何も無かった空中にポツポツと小さな水玉が現れ始める。それらはすぐに一点へと引き寄せられ、くっつき始めた。水玉は、大人が一抱えできるギリギリの大きさになった瞬間弾け、皆思わず目を閉じる。


たが冷たくは無い。それどころか濡れてすらいない。ほとんどの者は、目の前の現象に意識を持っていかれていた為、そこに気付いた者は僅かではあったが。


再び目を開いた時には、半透明の裸の上半身と、水に溶け込んだ様な下半身という姿の、見目麗しい青年が浮かんでいた。だが、クラーケンのその綺麗な顔はしかめられている。いきなり呼びつけられて機嫌が悪い様だ。


(あれが水の上位精霊であるクラーケン……シリルお姉様の守護精霊……姿を現しただけなのに、なんという圧力……)


イングリットは思わず自分の身体を両腕で抱きしめる様に、腕を組んだ。


「……できるか、だと?お前、俺を誰だと思っていr」


「できるのかできないのかを訊いているのだけど」


「…………できる」


「うん、頼んだよ。偉いね」


「っ!? ~~~~~~~~!」


思わぬお褒めの言葉に、シリルから顔を逸らし俯いている。照れているのだ。


(皆は何が何だか分からないだろうけど、あのへそ曲がりで嫉妬心の強いクラーケンが、素直に引き受けるなんて……ちょっとびっくり)


キースは、『北西国境のダンジョン』を確保する際のやり取りを思い出す。


流れを変えた川を隠す為に、クラーケンに霧を作ってもらったのだが、呼び出されたクラーケンはジンに嫉妬して不貞腐れており、シリルの頼みにゴネていたのだ。


講堂にいる皆が、神に近い超常の存在を見上げていたその時、室内に一陣の風が吹いた。


空中の一点に小さな渦巻きが生まれ、徐々に大きくなってゆく。その様子は、まさにクラーケンが出現した時の様子に酷似していた。


渦巻きが消えた次の瞬間には、筋骨隆々とした上半身に、立派な口髭を生やした男性の半身が浮かんでいた。


風の上位精霊であるジンだ。


「森の娘よ、我の助力は必要無いのか?」


「……」


ジンの思わぬ言葉に、シリルは軽く目を見張り瞬きをすると、腕を組み目を閉じて考えだした。


(……あれ?なんだろう?ちょっとなんか違う様な)


キースはシリルを見下ろすジンの姿に、どことなく、以前とは異なる印象を受けていた。


だが、キースがジンを見たのは、『北西国境のダンジョン』でドラゴンを倒した時だけだ。いくら相手が特別な存在とはいえ、30年以上前に一度切りの経験があるだけでは、その違和感の正体に気づく事はできなかった。


「おいおい、呼ばれてもいないくせに、何しゃしゃり出てきてんだよ。今回お前に用は無ぇってよ。姫の事困らせてんじゃねぇぞ」


役割をもらったクラーケンが得意気にふんぞり返った。ジンはクラーケンの言葉には反応せず、シリルをじっと見ている。


(ひ、姫!?今シリルの事姫って言った? この2人(?)普段は姫って呼んでいるんだ……あ、そうか、さっきの違和感はこれか……)


表情にこそ表れていなかったが、ジンは役割を振られなかった事で、不安になり凹んでいるのだ。


「何だそのしょぼくれたざまは。まるで迷子の犬みてぇだな!ほれ、犬は犬らしく、さっさと住処(すみか)に帰って、尻尾でも抱えていじけてろ!」


クラーケンは追い討ちの様にシッシッと腕を振る。見た目は美青年、水でできた半透明の身体は『照明の魔導具』の光を反射し美しく煌めいているが、言動はかなりゲスい。


目を閉じて考えていたシリルが、キースをチラリと見る。その意図を正確に読み取ったキースは小さく頷いた。


「で、では、『北国境のダンジョン』の周囲に風の障壁を作ってもらうというのはどうでしょう?そうすれば、万が一、転送前に石力炉が爆発するなんて事になっても、周囲への被害を防げるかと」


「頼める?」


「承知した、森の娘よ。造作もない」


何となく声の調子が上向いたジンとシリルのやり取りを尻目に、舌打ちをしたクラーケンがキースに視線を移す。


その視線には、明らかに『余計な事言いやがって』という意思が込められていた。神に匹敵する存在からの冷たい圧力に、キースは文字通り震え上がったが、クラーケンは先程までの様に悪態をつく事は無かった。


彼らはシリルに喜んでもらい、褒められる事を目的としている。これ以上言い募れば、自分が悪者になり、彼らの姫の機嫌が悪くなる。その辺りの見極めもさすが(?)上位精霊である。


「で、では、ダンジョン側での対応を説明します。資料の4枚目を見てください」


上位精霊を気にしつつも、皆は資料に目を落とした。


□ □ □


【キースの説明その2】


縦穴を掘り終わった後に、石力炉を外殻ごと転送させます。手順を読みますね。


1.外殻の隣に『物質転送の魔法陣』を広げ起動、待機状態にする。


2.外殻の左右に繋がっている大きな配管を切る。


3.外殻に対して<念動力>の魔法を掛けるのと同時に、<地形変化>の魔法で外殻の周囲と真下の床を削る。この時点で、外殻は宙に浮いている状態となる。


4.浮いている外殻を<念動力>の魔法で『物質転送の魔法陣』の上に下ろし、転送させる。


要するに、『石力機構』の施設から石力炉だけを切り取って転送させる、という事です。


よって、ダンジョン内で対応を行うのは、配管を切る2名と、<念動力>、<地形変化>、それぞれの魔法を担当する魔術師が1名づつとなります。


配管を切るのは、私の伝手で手配した冒険者が行います。


魔術師2名ですが、<地形変化>については、『ナインティズ』からミューズが担当します。彼女はこの魔法に関しては、エストリアで3本の指に入る使い手です。その腕については私が保証します。


そしてもう1名、<念動力>の魔法を担当するのは、第二王子であるジェラール、よろしく頼む。


□ □ □


説明を聞きながら資料に目を落としていたジェラールは、弾かれた様に顔を上げた。その目は驚きのあまり、これ以上無い程に見開かれている。


「ち、父上!? 私……ですか?」


「そう、ジェラール、君だ。<念動力>の魔法、得意だろう?」


「そ、それなりに扱えているとは思いますが……」


「ふふ、大丈夫、君は本番に強いタイプだから。そんなところも私によく似ているよ。自分で言うのもなんだけどね」


資料を閉じ、演台の上でトントンと揃える。


「説明は以上です。これにて一旦解散とし、質問がある方はこの後でお受けします」


キースの視線を受けイングリットが立ち上がる。


「それでは、これより作戦を開始します!皆さん自身とエストリアの未来を守る為に、その持てる力、全てを発揮してください!!」


イングリットの激に、講堂にいた全員(シリルを除く)が跪き、頭を垂れた。

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お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)

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