第320話
【更新について】
週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
ダンジョン内に構成された、セクレタリアス王国の王城内を探索中のアリステア達は、遂に『石力機構』の施設を発見。感激に浸っていましたが、妙な警報音と音声が聞こえてきました。
□ □ □
けたたましい警告音に、アリステア達はキースを囲み、室内を見回す。点滅する赤い光がアリステアの顔半分を染めている。
「何なんだ……?」
「これは……明らかに良くない何かが起こったみたいだねぇ」
「ちょっとよく聞いてみましょう」
警告音と重なり聞き取りづらいところもあったが、室内に流れ続けている声に耳を傾ける。
「『石力炉』というのは、石力を作り出す設備の事ですね、きっと」
「うむ、その石力炉で作られた石力が、炉の内部で基準値より多くなっているから確認しろ、という事の様だな」
「なら、基準値より下げれば解決なのだろうが……」
「うむ、その石力炉、ですか?私達でも操作できるものなのですかな?少々不安ではあります」
「キース、何も見なかった事にして帰る、という選択肢もあるぞ」
「な、なんて事言うのですかアーティ!その選択だけはありません!」
キースはアリステアの提案に血相を変える。長年探し続けてきたものがすぐ近くにあるのだ。諦められるものでは無い。
「大丈夫だキース、我々はここを、この状況を放置する事はできない」
椅子の座面に乗ったサンフォードが尻尾をぴこぴこと動かす。
「……どうしました?」
「ちょっと嫌な事に気づいてしまったのだが、もしや、この不具合が爆発の切っ掛けだったのではないのか?」
「あ……」
セクレタリアス王国の王都と全ての街を、文字通り跡形もなく消滅させた、と考えられている大爆発の事だ。もしこれが原因ならとてもそのままにはできない。
「石力水は魔力の塊である魔石を溶かし込んだ水だ。その水で満たされた巨大な水槽、それを元に作られた石力が過剰に溜まっている石力炉、これらが爆発すれば10km範囲をクレーターにするだけの爆発が起きるかもしれん」
「確かに……」
「いや、状況は過去より悪いねぇ」
「エレジーアさん?それは?」
「ここがダンジョンの深層域だってことさ」
エレジーアの指摘に皆が息を呑む。
という事は、今サンフォードが挙げたものに、魔素で満たされ、魔石が転がるダンジョンが丸ごと一つ加わる事になる。
『北国境のダンジョン』から王都までは約45km程。東側はすぐ海である為除くとして、残りの3方向の45km圏内には街も村も複数ある。退去と立ち入り規制は周囲15kmしか行っていないし、トゥーネ川の対岸の、ターブルロンド王国側にも街や村がある。
想定より範囲が広くなっただけでも大変な事なのに、他国も含まれたらとてもではないが対応しきれない。
そもそも、ダンジョンの内部で全てがまとめて爆発した時、被害範囲がどれ程になるのかなんて全く予想がつかない。45kmどころか、100kmぐらいまで更地になるかもしれないのだ。
「と、とりあえず石力炉を見つけましょう。僕達で何とかできるかも知れません」
「ああ、それに、今警告が出たところだ。さすがに後鐘一つで爆発するとか、そこまで切羽詰まってはいない、と思う」
さすがのサンフォードも自信無さ気だ。彼にとっても未知の設備である。対応しきれるのか、自信は全く無い。
「ねえ、これこの施設の地図みたいよ」
フランが目の前の壁を見上げている。壁には、大きなプレートが貼り付けてあり、そこには図面の様な何かが描かれていた。
「…そうですね!えーと、どうやらこのフロアの地図みたいですが……あ、ここ見てください」
キースの指の先には『石力炉↑』と書かれている。
「位置的にこの部屋は『管理室』だね。となると、この大きな水槽を挟んで反対側となるねぇ」
「下に降りる時間も惜しいです。魔法で飛んでいきましょう」
開け放った扉の前で猫の2人が懐に潜り込みアリステア達がキースにしがみつく。魔法で支える為重さは関係無い。掴まっていさえすれば良いのだ。
「では行きます。<飛翔>!」
ひと塊となった4人と2匹の猫は、部屋の反対側を目指して空中に躍り出た。
□ □ □
水槽の上を飛び部屋の突き当たりまで来ると、速度を落とし床に降りる。
正面には扉があり、数m右には、クライブでも抱えきれない程大きなパイプが壁を貫いていた。キースなら中で立つ事もできそうな程だ。
パイプは水槽に繋がっており、途中には大きな弁が付いている。
「これは、石力炉に石力水を補充する為のパイプかな?」
「そうだな。自動的に補充し石力を作り続けているのだろう。本当に考えられん程の仕組みだ」
サンフォードはキースの肩の上で首を横に振った。
扉は近づいただけで音も無く開いた。動くものを感知して自動点灯する『照明の魔導具』と同じで、<探査>の応用だ。
「奥に非常に強くて大きな魔力の反応があります。間違い無さそうです」
室内に入ると、こちらでも警告音とアナウンスが繰り返されており、点滅する赤い光が用途不明の設備を照らしていた。突き当たりの扉を通り抜け、さらに奥へと進む。
石力炉と思しき施設は、次の部屋に設置されていた。
思しき、というのは、これまでアリステアらが生きてきた中で、目にしたことがある建造物とは似ても似つかなかったからだ。
云わば直方体を縦にした様な形状をしており、要するに『ビル』なのだが、この世界には存在しない為、キースがそう認識する事は無い。
「もっと、こう、金属加工の『高炉』の様なものを想像していたのですが……」
「そうだな。私もそう考えていた」
「これは外側で、内部にそういった形の仕組みがあるのではないかい?ほら、あそこに扉があるよ」
エレジーアの視線の先には、ここまで通り抜けてきたものと同じ扉が付いている。キース達は扉の前に立ったが、先程までとは違い、扉はピクリともしない。
「開きませんね……」
「特別な立場の人でないと開けられない、とかかもしれないわね」
「この施設の中でも最重要箇所だろうからな」
「それに、この見た目もですが、ここまで大きいとは考えていませんでした」
「ああ、私もだ。こんなもの一体どうやって作るのだろうな?想像できん」
「高さは……50から60m、横幅も奥行も30mぐらいあるねぇ」
最上部を見ようとすると、ほぼ真上を向いてしまう程に高く、横幅と奥行も十分だ。こんな状況ではあったが、サンフォードやエレジーアからも感嘆の溜息が漏れる。アリステアらは、見上げながらポカーンと口を開けている。
そして、その巨大な建造物全体が薄緑色に包まれ、発光している。
「これは……もしや、魔力?、石力?、過多で飽和状態になってしまっているのでしょうか?」
「そうだとするとまずいな。数値が正常に戻っただけでは不具合は解消しないかもしれん。とにかく、室内と周辺を確認してみよう」
4人と2匹の猫は散り散りになり室内を調べ始めた。
□ □ □
最初に声をあげたのは、パイプを辿り一つ前の部屋に戻っていたアリステアだった。皆が集まるとパイプを指さす。
「なあ、さっきのこれ、閉めた方が良いんじゃないか?」
指さした先には、奥に行く時にも見た大きな弁があった。弁のレバーには『常時開放(水平)』と書かれた札が下げられ、脇には小さな照明が青い光を放っている。
「確かに、これ以上石力水を補充し続ける必要は無いな。私は閉めて良いと思うが、どうだ?」
サンフォードの提案に皆も頷くと、クライブが弁に近づく。両手で大きなレバーを掴むと、垂直になる様に下へ90°動かした。すると、青く光っていた照明が赤に変わり、先程とは違う声が聞こえてくる。
『主注水弁が閉鎖されました。繰り返します、主注水弁が閉鎖されました』
「……なるほど、不具合発生以外に、重要箇所で通常とは違う操作をしても案内が流れるのか」
「周りにも聞こえていれば、操作が間違っていたとしてもすぐに正す事ができますものね。こいうのは真似したいな」
「……そういえば、石力炉の裏側にも大きなパイプがありましたね。そちらも見た方が良いのでは?」
フランの提案に全員で石力炉のあった部屋に戻ると、石力炉の裏側へと回り込みこむ。こちら側は石力炉から大きなパイプが伸び、壁を貫いて先へと続いていた。精製された石力を炉から貯蔵施設に送る為のパイプだ。
だが、反対側とは違う点もあった。
小さな照明は赤く点灯し、弁のレバーが垂直になっているのだ。
「……これ、閉まっていますよね?なんで閉まっているのでしょう?」
「うむう……解らん」
「理由なんてなんだっていいだろ!原因はこれだ!早く弁を開けるんだよ!!」
エレジーアが考え込む2人を叱り飛ばし、その怒声にクライブが弾かれた様に動いた。レバーに取り付くと先程とは逆に、90°上へと動かし水平にする。
『主供給弁が開放されました。繰り返します。主供給弁が開放されました』
弁の脇で点いていた小さな照明は、赤から青に変わり、先程とはまた違うアナウンスが流れた。
「ここが閉まっていたから精製された石力が流れずに、炉の内部に溜まってしまった。その為、安全基準の数値を超えた、という事で良いのかな?」
「おそらく」
この施設に入ってからのサンフォードは終始歯切れが悪いが、これは仕方がない。根っからの技術屋であるが故に、仕組みが解らない施設の事を断言する事ができないのだ。
「では、これで石力が流れていけば基準値より下がって無事解決、という事だな」
アリステアの言葉に皆は顔を見合わせた。
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