第319話
【更新について】
週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
ダンジョン内に構成された、セクレタリアス王国の王都を探索中です。王城の執務室で隠された魔法陣を発見しました。ですが、その魔法陣は『転移の魔法陣』によく似ており、皆大混乱です。
□ □ □
「やはりそう見えますよね……いや~、こりゃ参ったな」
キースは大きな溜息を吐くと、両手を広げ『やれやれ』という仕草をした。
『石力機構』の手掛かりを探しに来たのに、出てきたのは『転移の魔法陣』と思しき魔法陣だ。いくらなんでも予想外に過ぎる。
「魔術師の目から見ると、これが『転移の魔法陣』である事は間違い無いの?」
フランがまだ固まって動けないエレジーアとサンフォードを見る。彼らにしてみると、これが何時できたのかも重要なのだ。王国初期に作られ国民には秘匿されてきたものなのか、王国中期以降の、自分達が死んでからなのか。前者だとかなり衝撃的である。
「基本機能を司る部分は僕が作ったものとほぼ同じです。一部明らかに違う箇所もありますが、そこは行き先に対応している部分かなと」
「そう……」
キースの返答に、常に冷静沈着なフランも言葉が続かない。
「とりあえず知りたいのは、本当に転移の魔法陣なのか、そうであればどこに転移するのか、誰が、いつ作ったのかだが……それを調べている場合でも無いか」
今度はサンフォードが溜息を吐き、エレジーアも頷く。
真偽と行き先については、実際に起動すれば分かる。だが、どこに出るか分からない転移など絶対に嫌である。設置した時は建物内の部屋だった場所も、今現在は水中や地中、挙句の果てには石の中かもしれないのだ。
作成者や来歴なども知りたいが、この場には記録の類は何も無い。魔法陣と建物だけあっても調べ様が無い。
「……とりあえず、これについては一旦保留という事にしましょう。まだ確認していない部屋もありますから、先にそちらを調べて終わったら戻ってくるという事にします。あ、一応写すだけ写しておこうかな」
皆が一瞬意外そうな顔を見せたが、いつもの鞄から紙と筆記用具を取り出そうとしていたキースは、それに気が付かない。キースの後頭部を見ながら、アリステアは昔も似た様な事があったのを思い出した。
あれは北国境の城塞跡で、エレジーアの部屋を見つけた時の事だ。大量の貴重な蔵書を部屋ごと手に入れたというのに、城塞内でまだ見ていない箇所もきちんと見に行った。
成果を得てもそれに惑わされず、最後まできっちり完結させる、それがキースという男である。
「よし、できました!それでは行きましょう」
複雑な魔法陣であるにも関わらず、手を止める事無く写し終えると、執務室の扉へと向かった。
□ □ □
結果的にこの判断は正解だった。さらに別の『転移の魔法陣』が見つかったのだ。
場所は調度品から判断するに、国王の私室と思われる部屋。そのクローゼットの脇に偽の壁があり、クローゼットの後ろにある空間を隠していた。
「……ここの記号が先程の魔法陣と違いますね。やはりこれが行き先を決めている様です」
執務室で紙に写した魔法陣と床の魔法陣を見比べながら、キースが指さす。
「となると、今度はどちらを先に確認するか、という話になるねぇ……」
エレジーアの言葉にキースは腕を組み目を閉じる。
(それぞれ違う行き先……執務室は国王達が仕事をする部屋だ。そこに設置しているのだから、やはり『石力機構』関連の施設に、私室の方は個人的な、他の人に知られたくない行き先の可能性が高いか。そっちも気になるけど、先に見るならやはり……)
「執務室の方を先に確認しましょう。仕事場にある以上、あちらが『石力機構』に関連していると思うのです」
「賛成だよ。『石力機構』の施設に行くのに私室に設置するのは違和感がある」
「ええ、魔法陣を使う度に他人を私室に入れるのは落ち着きません」
エレジーアとサンフォードの賛意にアリステア達も頷く。こちらの魔法陣も写し取ると、折り畳んでローブの隠しに突っ込みながら、執務室の『転移の魔法陣』の前に戻る。
「さすがにちょっと怖いので、自分の『転移の魔法陣』も置いておきましょう。もしこの魔法陣に不具合が発生しても帰ってこれますから」
そう言いながら床に自分の『転移の魔法陣』を広げ固定する。キースは笑顔を見せてはいるが、その表情はどこか固いし、アリステア達も同様だ。行き先もきちんと動くかも不明な『転移の魔法陣』に乗るのは、さすがに緊張する。
「よし、では行きますか」
キースを中心にし、3人が背中を合わせて囲む様に立つ。キース単独でも余程の事が無い限り安全なのだが、アリステア達は、国とイングリット、曾孫達の為にも、何がなんでもキースを無事に帰さなければならない。これまで通り、決して油断せず、自分達に取れる手段は全て用いて安全を図るのだ。
「では……起動」
発動語が目の前の壁にぶつかり跳ね返る。次の瞬間、キース達の姿は魔法陣の上から消えていた。
□ □ □
そっと目を開けると、先程と同様、目の前に壁があった。
「転移……しましたよね?」
「ああ、魔法陣の作動は感じたぞ」
「……壁紙の柄が違うわね」
「先程は格子柄でしたものね。なら、この壁は」
手を伸ばして触れると、音もなくスっと消えた。同じ様に偽の壁で隠してあったのだ。
キースは薄暗い部屋の中に一歩踏み出した。すると、天井の『照明の魔導具』が点灯し、薄暗かった部屋を温かな光で満たす。屋敷にも付いていた、動くものに反応して点灯する仕組みである。
少し目を細めながら辺りを見回すと、ある事に気が付いた。
「この部屋、『北西国境のダンジョン』で見た施設にあった部屋と同じです」
あの時の事は、30年以上経った今でもはっきりと思い出せる。キースは正面の大きな窓に歩み寄ると下を見下ろした。
「やはり……」
そこには記憶の通り、薄緑色の水で満たされた巨大な水槽があった。緑色の魔石、緑石を溶かした『石力水』(せきりょくすい)だ。
「やはり間違いありません。ここは『石力機構』の施設の中です」
キースの声は少し震えていた。
その存在を知り、再び足を踏み入れたいと探し続けて30年以上が経ったが、遂にたどり着いた。心も頭も様々な感情が渦を巻き、ぐちゃぐちゃで、何が何だかわからない。
「良かったなキース!」
「ええ、おめでとう!」
「執念の勝利だな!素晴らしい!」
キースに声をかけつつも、アリステア達も同じぐらい嬉しかった。キースが冒険者として出る時はいつも一緒だった。という事は、同じ年月同じ回数ガッカリしてきたという事なのだから。
エレジーアとサンフォードは、実際に『石力機構』を使っていただけに、感激もひとしおである。王族だけの秘密だった『石力機構』の中枢部にいるのだ。魔術師、魔導具技師としてもこれ以上無い程に感慨深い。
「よし、それでは下に降りましょう。部屋の外に階段があったはずです」
そう言ってドアノブに手を掛けたその時だった。けたたましい、耳障りな音が室内に響き渡り、壁に取り付けられたの操作盤らしきものの一部が、赤く点滅する。
さらに、どこからともなく声が聞こえてきた。その声はこう言っていた。
「石力炉内の、石力の値が安全基準を超えています。状況を確認してください。繰り返します。石力炉内の、石力の値が安全基準を超えています。状況を確認してください」
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