第318話
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【前回まで】
『北国境のダンジョン』の深層域に構成された、セクレタリアス王国の王都を探索中のキース達。休憩をしながら、初代国王夫婦であるサイードとアハルケティについて話を聞いています。
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「自分の主家を恨んでいたと……それはどういったお話なのでしょう?」
「うむ、彼女の祖父という人物が裁判に掛けられた際に、先代、ダニエルソン王の父王だな、彼の下した判決で処刑されているそうな。原因は、他家との金にまつわる揉め事だったらしい。だが、残された一族は、それは偏った判断による不公正な処罰だと考えていたという」
「確かに、金銭が理由の揉め事で命までとるのは厳しいと感じますね……お金以外にも理由があったのでしょうか?」
「本には、父王が弟と王位を争っていた際、彼女の祖父は弟王子の方を支持していたと書かれている。だが、王位をめぐる血で血を洗う争い、という訳では無くてな。どちらが父王に認められるかという、極々真っ当な競争だったそうだ。現に弟王子は、兄の即位後は、l死ぬまで臣下としての立場を崩さなかったそうだしな」
「でも、ちょっと怪しいですよね。血を分けた弟は許せてもそれを応援した貴族は許さん、という事なのかな……あ、もしかして、彼女は復讐の為にサイードに、ゴドルフィン一族に近付いたとか?」
「いや、さすがにそれは考えづらいな。彼女とサイードが知り合ったのは、今で言えば訓練校に通う前ぐらいの年齢だったそうだからな。ゴドルフィン一族が評価され王家に近い存在になり、彼女自身も交渉担当として接する機会が増えた事で、恨む心が芽生え始めたのではないだろうか?」
子供の頃から復讐心を持っていたとしても、彼らが評価されなければ王家には近づけない。彼女は貴族で実際に能力もあった。初めからそういうつもりなら、そんな他人任せの方法では無く、自力でのし上がる道を選んだだろう。
「確か、ゴドルフィン一族、いや、サイード青年と言った方が良いのかな?彼の熱烈な支持者達がダニエルソン王に対して反旗を翻したのですよね?」
「そうだ。彼らは貴族や近衛騎士団内部にも多く存在していた。本には、彼らを焚き付け扇動し、実行させたのがアハルケティだったと書かれていた。交渉事に長けた彼女にとって、自分達に好意を持っている相手を転がすぐらい、お手のものだったのだろうな」
「サイード青年はこの話を全く知らなかったのだろうか?まあ、知っていたらさすがに止めるか……」
アリステアの疑問にフランやクライブも頷く。
「そうだな、やはり知らなかったと思うぞ。それに、サイードが王になる直前の1ヶ月程、体調を崩していたという記録が残っている。恐らく、サイードが寝込んでいる間に一気に終わらせたのではないだろうか?」
サイード程の人物なら、もしこの計画が成ってしまったら、自分が王に祭り上げられる事も予想できた筈だ。ダニエルソン王には一族を引き立ててもらった恩もある。知っていたら止めた可能性は高い。
皆は目を閉じて深い溜息を吐いた。
体調を崩し快復したと思ったら『前国王は退位させました。皆、次の国王にはあなたになって欲しいと言っていますので、よろしくお願いします』と言われたのだ。王位を望んでいない者にとっては悪夢といって良いだろう。
「頭の良いサイードは、すぐにどうにも逃れられない状況であるのを察したのだろうな。その日のうちに王になる事を承諾したそうだ」
「何ともはや、同じ魔術師として同情します。後、サイード王が渋々国王を務めていたとなると、周辺国への侵攻もおかしいですよね。もしかして、サイード王では無く、アハルケティ王妃の仕切りで行っていたとか?」
研究一筋に生きたかったであろう魔術師が、国王になった途端周辺国の制圧に乗り出す。どうにも納得できる理由が見つからない。
「ああ、それについても、王妃主導であったのではないかと書かれていたな。彼らが取った手法は、先に送り込んだ諜報部隊が軍隊の強さと『石力機構』の良さを広め、街全体を厭戦気分で満たした後、軍隊で包囲し戦わずに降伏させるというやり方だが、今思えば、いかにもアハルケティ王妃が得意そうなやり方だ」
「さっきサンフォードさんが言った『サイード王は口数が少なく厳しい方』というのは、やりたくもない国王を務めさせられていたからじゃない? 『何で俺がこんな事しなきゃならないんだ』っていつも思っていたのよ、きっと」
「可能性はありますね!それで常に不機嫌だったのですよ、きっと」
皆は、執務室の自分の机で、大量の書類を前に一人頭を抱えるサイード王の姿思い浮かべた。
□ □ □
休憩を終え探索を再開したキース達は、大きな扉を見上げていた。これまでに見掛けてきた扉より、より一際重厚で、細かい模様が彫られている。
「ここから先が王族の私室がある区画になる」
「遂にですね……」
キースの声にも興奮が滲み出ている。ここまで特段何も見つかっていないが、それもこの先にあるからであれば何もおかしくない。
扉を開け中へと進む。廊下は左奥へと続いており、その左右に部屋が並んでいる。キース達は手前から順に調べ始めた。
大きな会議室、その控え室、面会をする応接室と調べ終え、次の部屋に入ると、整然と並べられた執務机と椅子、簡単な応接セットが目に留まった。
「ここは……執務室でしょうか?」
「恐らくね」
「では、ちょっと時間を掛けて調べましょう」
エストリアと同じ仕組みであれば、この部屋には国王と補佐官という、国政を司る人々が集まる。『石力機構』に関する何かを隠していても不思議無い。
そしてそれは間違っていなかった。
「あっ!そこの壁、それ偽物です!」
キースが一際大きい机の背中側の壁を指差した。一見なんの変哲も無い、ごく普通の部屋の壁だ。
「他より大きな机という事は、国王の机であろうな」
「きっとそうね。国王の机の背後に偽の壁……怪し過ぎます」
クライブとフランが顔を見合わせ頷き合う。
「ふむ、私が先生の部屋を隠した時と同じ手法だろうか?そうであれば、近くに偽の壁を作り出す魔法陣がある筈だ。それを探そう」
サンフォードの言葉に、皆が膝を着いて床を探り出す。あの時は、壁の近くにあった調度品を飾る台に描かれていた。台の上の壊れた壺をどかしたら出てきたのだ。
しばらく皆で部屋の中で這いつくばっていたが、最初に声を挙げたのはアリステアだった。
「キース!これじゃないか?確認してくれ!」
大きい執務机の一番下の引き出しを外し、机の上に置く。集まった皆で覗き込むと、引き出しの内側の底面に確かに魔法陣が描かれていた。薄緑色の魔力光に包まれているのは、起動中の証だ。
「さすがはおばあ様!お見事です!」
「いやいや、これぐらい大した事じゃない!」
言葉だけなら謙遜している感じもするが、堂々とした口調、手を腰に当て胸を張り満面の笑顔ときては、とてもそうは見えない。逆に、もっと褒めろという印象すら受ける。
「よし、では削るぞ」
アリステアがショートソードを抜き、切っ先で『×』を書くと魔法陣は効力を無くし光を失った。同時に目の前の壁が音もなく消え、窪んだ空間が現れた。
空間は奥に2m弱、幅1m程と、はっきり言って狭い。だが、問題はそこでは無かった。一番奥の床に魔法陣が描かれていたのだ。
「おっ!これはこれは……今度は何でしょうね」
キースは、逸る気持ちを抑えながらゆっくり歩み寄る。だが、その頬は興奮で染まっている。その後ろを、エレジーアとサンフォードが着いて行った。
3人( 2人は猫だが )は魔法陣の手前でしゃがみ込み、覗き込んだ。
□ □ □
(どうしたんだ、もう3分位経つぞ。なぜ誰も何も言わないんだ?)
魔法陣の前でしゃがんだキース達は、その姿勢のまま身じろぎ一つしないし、言葉も発しない。まるで3人だけ時が止まってしまったかの様だ。
アリステア達は訝しげな顔を見合わせると、自分達もそっと魔法陣に近寄った。
「キース、どうしたの?大丈夫?」
フランがキースの背中に右手を当てながら声を掛けるが、やはり反応は無い。横から顔を覗き込んだが、次の瞬間驚きに目を見張った。
キースは全くの無表情で顔色も真っ白だった。3分前まで笑顔で頬を染めていた彼とは、まるで別人である。
「……この魔法陣見てください。みんななら気付けると思います」
キースは喉の奥から何とか言葉を絞り出すと、エレジーアらと魔法陣の前から避け後ろへと下がった。
アリステア達は首を捻りながら魔法陣の前へと進むとしゃがみ込み、描かれた線と記号を視線で追った。
見始めた時は(専門家でも無いのに私達で分かるのか?)と思っていたが、見続けているとキースがそう言った理由が解った。
(確かに……どこかで見た事がある気がしてきたぞ)
アリステアは左右にいるフランとクライブをチラリと見る。2人の表情から自分と同じ事を考えていると判断し声をかける。
「見た事ある様な気がしているんだが、2人もか?」
「あらっ!アーティもですか?私もです」
「いつ、どこで見たのかは思い出せ無いのですが……間違いなく見た事はある、という気がしていますな」
3人で顔を見合わせた後、再び魔法陣へと視線を戻し見続ける。
(この外縁部の༄と§§、༅〝〟の連続した並び、確かに見た事があるのよね。でもどこで…………)
(普通に生活を送るうえで目にする魔法陣というのは、意外と多くない。台所や風呂には加熱と冷却、馬車には反発、後は物質転送、そして、あ)
アリステアの脳内で何かが火花の様に煌めき、次の瞬間、全てに気が付いた。実際のところ、アリステア達はもう30年以上、事ある毎にこの魔法陣を見てきていた。
衝撃でうまく動かない身体を無理矢理動かし、ゆっくり後ろに振り返る。キースの顔は少し赤みを取り戻してきているが、今度はアリステアの顔色が悪い。
「……キース、何でここに『転移の魔法陣』があるんだ?どういう事なんだこれは?」
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