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第317話

【更新について】


週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ


【前回まで】


管理官であるマシューズを始めとする『北国境のダンジョン』の職員及び施設従業員達は、皆避難を完了しました。キースはアリステア達とエレジーア、サンフォードと合流し、王都を調べながら進みますが、何も見つけられないまま王城に到着。『王城の地下が怪しい』とみて、出入口を探します。


□ □ □


王城の中に入ったキース達は、中庭に面した渡り廊下を進んでいた。もちろん、例の珍妙な馬車っぽい乗り物でだ。ただ、操縦はクライブに交代してもらい、自身は<探査>に専念していた。


季節は春という設定なのか、中庭には暖かな陽射しが降り注ぎ、廊下を吹き渡る乾いた風が様々な花々の香りを運んでくる。とてもダンジョン中とは思えない程だ。


「ちょうど良いですね。そこでちょっと休憩しますか」


キースの指さす先には東屋があった。乗り物を降り、石畳が敷かれた花壇の間の小道を歩く。王城や街中の建物はもちろん、この東屋もとにかく誂えが立派だ。この城の中は何を見ても感嘆の溜息が出てしまう。


ミルコ親子が用意してくれたサンドウィッチと冷たいお茶を分け食べた。


アリステアは、『ミルコと冷たいお茶』という組み合わせから、かつて彼がウェイターをしていた姿が思い出された。トレーにお茶の入った容器とグラスを載せ、そろそろと慎重に歩いてくる姿に、皆でドキドキしたものだ。


「あ、そうだ。お2人ともちょっとお尋ねしたいのですけど」


空になったお茶のボトルをバスケットに仕舞いながら、キースが尋ねる。


「ん、何だい?」


「サイード王という方はどんな方だったのでしょう?実績よりも人として、という意味で」


「……正史には口数の少ない、厳しい方だったという記載があったが」


「ふむ……」


「どうしたんだい急に」


「いえ、前から少し気になっているのですが、彼はなぜ国王になったのかなと」


「……?」


キース以外、3人と2匹は顔を見合わせる。


「いつかは王になりたい、と考える者は、世の中それなりにいるのではないか?」


アリステアの答えにキースは目を閉じ口をへの字にする。まるで納得していない時に見せる仕草だ。若い頃と変わらない為すぐに分かる。


「サイード王は元々魔術師で魔導具技師です。国王になってしまったら、執務で忙しくて研究や開発ができなくなってしまうではありませんか。お二人だったらいかがですか?国王になれるからといって自分から進んでその座に就きますか?僕は嫌です。王配が精々です」


『王配だって忙しいだろ』とは誰も言わなかった。キースは30年以上、その王配と冒険者の活動、様々な研究を両立させてやってきたのだ。そんな彼にこの指摘は意味が無い。


確かによくよく考えてみると不思議ではある。エレジーアは、北国境の城塞の司令官に任命された夫に着いてきた訳だが、王都で貴族同士の社交に関わらなくて良いから、というのも理由の一つだった。その分自由な時間が増え、魔法陣の研究に充てられる。


サンフォードも、大聖堂の魔導具の管理という仕事は、はっきり言ってしまえば閑職であるし、給料も、魔術師が就く他の仕事と比べれば低い。


自分の技術で金を稼ぐ事ができたから費用を気にせず研究に打ち込めただけで、普通ならそこまでの余裕は無い役職だ。


この様に、2人とも研究に打ち込める環境があったからこそ、『物質転送の魔法陣』や『依代の魔導具』など、歴史に残る成果を出せたのだ。


「『石力機構』なんてとんでもない仕組みを作り上げる様な人が、前の国王を追い出してまで国王になる。そんなの自分から研究を放棄する様なものではありませんか。僕には不思議で仕方がありません」


力強く言い切ったキースの隣でエレジーアとサンフォードは視線を交わす。


「先生……」


「あぁ、あの話だろう?私も今それを考えていたよ。確か一度それに絡む本が出たという話だね。読んだ事は無いが」


「ですが、あの話の最大の根拠は『こう考えれば全て辻褄が合う』というものでしかありません。証拠も無いし信憑性に欠けるかと」


「何言ってんだい。1000年以上前の話だよ?証拠や信憑性なんてどこ探したってありゃしないだろ」


「まあ、確かに……」


「んん?何かありますかお2人とも?」


「ああ、一つあるぞ。これは昔昔、サイード王が亡くなられた50年程後に出た、一冊の本の話だ。聞くか?」


「もちろんです!お願いします!」


サンフォードの提案にキースは瞳を輝かせ、座り直し姿勢を正した。


□ □ □


「その本は『サイード王はなぜ国王になったのか』というタイトルだった」


「……そのタイトルまずくないですか?」


「ああ、まずい。亡くなられて50年経ってはいたが、言うまでもなく、サイード王はゴドルフィン朝の初代国王で一族の中でも特別な存在だからな。神格化され廟を作りお参りする人々もいた程だ。そんな人物が、実際には国王になりたくなかったなんて、たとえそれが事実だったとしても、王家としては認めることはできない。本はすぐに『さすがに不敬が過ぎる』と発禁指定され回収された。だが……」


「まさかお持ちとか!?」


椅子から腰を浮かせサンフォードの方に身を乗り出す。屋敷の地下室にはそんな本は無かった。キースとしては、他所にあるならぜひ回収したい。


「い、いや、持ってはいない。読んだ事があるだけだ……すまんな」


露骨にガッカリしてしまったキースの姿に、思わず謝罪の言葉が口をついた。


「紛らわしいフリするんじゃないよ!全く!」


「いえ、自分も何とか買い取りたかったのですが、どうにも売ってもらえませんでした。全ては、自慢気に見せびらかせてきたモルコフの奴が悪いのです」


サンフォードは師匠の怒りの矛先を変えるべく、貸してもらった恩を棚に上げ、かつての同業者に責任を押し付けた。


「そもそもゴドルフィン一族は、貴族でこそ無かったが、多くの魔術師や魔導具技師を輩出してきた事もあり、その界隈では名の通った一族でだった。そんな中でも、サイード少年はやはり図抜けていたという。一族の年長者たちもすぐにそれを認め、サイードを中心に据えて研究、開発を行う方向に切り替えたそうだ」


「そういった、方針転換ができるのもさすがですね。効率の極みというか。主導権を持ちたがったり、仕切りたがる人がいてもおかしくなさそうですが」


サンフォードの説明に頷くキースを、他のアリステア達がチラリと見る。キースをリーダーとした自分達のパーティと似ていると思っているのだ。


「『石力機構』を完成させた彼らは、手始めに自分達の屋敷に設置した。そして、パーティなどを催し行政官など街の有力者たちを招待して、彼らに『石力機構』の快適さを実感させる。行政官は王族だからな、サイード達が何もせずともその評判は王城まで届くという寸法だ」


「その評判を聞き付けた当時の国王、ダニエルソン・ウーナ・ウィルデンシュタインは、サイードらを王城に呼び寄せ説明をさせた後、実際に彼らの屋敷に足を運び自ら視察を行ったそうだよ。そして、『王城と王都、それが終わったら国内の他の街にもこの仕組みを導入せよ』と指示を出したんだ」


ネルシャ猫姿のエレジーアが、身体を伸ばし大きく欠伸をする。長毛種である彼女のブラッシングは、フランの朝の仕事の一つだ。


「国王のお墨付きと後押しを得たゴドルフィン一族の意気は上がり、一族の総力を挙げて取り組み出す。そして、勢いを得た一族に、サイードとはまた別の路線で頭角を現した人物がいる。誰か分かるか?」


「何を勿体ぶっているんだい!そんなの分かる訳無いだろう!早く進めな!」


「あっ、はい、すいません……それはな、当時サイードの婚約者であったアハルケティだ」


「後の王妃様ですね」


「うむ。彼女はゴドルフィン一族では無く、ウィルデンシュタイン朝の貴族家の出身だ。サイードと知り合った経緯は伝わっていないが、彼女も魔術師だったというから、その辺りから意気投合したのだろうな。彼女は研究よりも、国や街、商人らとの折衝や調整を担っていたそうだ」


ゴドルフィン一族は技術者集団であった為、そちら方面の人材に乏しかった。そこに、国内の貴族の令嬢という立場を持ち、礼節と社交的な会話術を身に付けているアハルケティはぴったりハマった。


当初は、年長者達の交渉事に同行しているだけだったが、いつの間にやら彼女が主に話を進める様になり、年長者達は了承するだけ、という状況になる。彼女はすぐに全権を委任されるに至った。


一族の誇る若き天才と、後ろでそれを支える、こちらも若く美しい婚約者。ゴドルフィン一族はこの2人を中心に事業を推し進めていった。


「ここまでは皆知っている、一般に伝わっている内容だ。だが、その本によると、アハルケティはゴドルフィン一族と少し違う感情を持っていた、と書かれている」


「それは……?」


「彼女はウィルデンシュタイン家を恨んでいた、らしい」


サンフォードを除いた4人と一匹は目をぱちくりさせながら顔を見合わせた。

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