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第315話

【更新について】


週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ


【前回まで】


『北国境のダンジョン』の深層域で、セクレタリアス王国の王都が構成されていました。イングリットは達は、安全が確認できるまでは大規模災害と同様の対応をとる事にしました。


□ □ □


会議が終わった後、イングリットら王族3人と国務長官のベルナルは、執務室の向かいにある食堂にいた。


忙しくなる午後に備え少し早めに昼食を済ませ、食後のお茶を飲んでいるところである。


「キースさん、どうかくれぐれもお気をつけて。おばあ様やおば様方にもよろしくお伝えください」


「父様、興奮するなとは言いませんが、皆さんの指示をよく聞いて、落ち着いて行動しましょうね?1人で先走しらずに、じっくり進みましょう」


「アンジェリカ、君は父をなんだと思ってるの。そんな子供が初めてのお遣いに行くみたいに」


「あら、それは失礼いたしました。ですが」


アンジェリカはキースをじっと見つめる。笑顔ではあるが目は笑っていない。


「先程みたいな事をされる方が、どの口でそれを仰るのですか?」


護衛も付けずに勝手に転移した事に、まだ腹を立てているのだ。


「……」


これについては、さすがのキースも自分に非がある事を自覚している為、返す言葉もなかった。居心地の悪さを感じつつ、カップに残っていたお茶を飲み干して席を立つ。


「よ、よし、では行ってきます!6の鐘目安で戻る様にするから」


「はい、承知しました。……『石力機構』に繋がる何かが見つかれば良いのですが」


「そうだね……今回はこれまでで最大のチャンスだと思う。なんと言っても彼らの本拠地だから。……これで何も見つからなかったら、もうダメかもしれないな」


どことなく寂しそうな笑顔をみせる。キースの口から出たとは思えない意外な言葉に、イングリット達は目を丸くした。


基本的にキースは後ろ向きな発言はしない。実際、大抵の事は自力で何とかできてしまうし、自分ではできない事も、周囲の人々に協力してもらい成し遂げてきた。困難はあっても、最終的には何とかなると考えている。


だが、『石力機構』の存在を知ってから既に30年が経った。


忙しい日々でも時間を作っては国内の遺跡に足を運んできたが、『石力機構』に関する資料は何も出てこず、この30年間で判明した事といえば、サンフォードから聞いた『時を告げる鐘は石力機構で動いている』という事だけだ。


いくら王都と全ての街が消し飛び何も残っていないとはいえ、資料一つ残さなかったゴドルフィン一族の情報管理能力は、完璧と言わざるを得なかった。さすがのキースも弱気になろうというものだ。


室内の空気は少々どんよりとしてしまったが、それを打ち破ったのはアンジェリカだった。


「何を弱気な事を仰るのですか父様!」


テーブルに両手を叩きつける様に、勢いよく立ち上がる。


「その様なお考えでは目も曇ろうというもの!実際に何かが目の前にあったとしても、見つけられないのではありませんか?」


「……」


「何があってもサラリと解決してしまうのが父様ではありませんか!『万人の才』と謳われたそのお力、今一度私達にお示しくださいませ!」


「そうですね。キースさんは両先生からも『王国にすらこんな魔術師はいなかった』と言わしめた程ですもの。大丈夫ですよ、きっと見つかります」


「少々詭弁の様な気もするが、諦めた時点で負けが決まる、続けていれば負けにはならない、とも言う。30年見つからなくても、30年と1日で見つかる可能性もあるというもの」


キースは3人からの叱咤激励に目を丸くしていたが、目を閉じ、二度三度と深呼吸をする。再び目を開けた時には、先程までの寂しそうな笑顔は消え、瞳にはいつもの煌めきが戻っていた。


(少し湿っぽくなっていたが、皆の、特に殿下の言葉で空気がガラリと変わったな。窓と扉を同時に開け放ったかの様だ。さすがは自ら進んで国の頂点に立とうというだけの事はある)


ベルナルはアンジェリカの横顔をそっと窺う。父親譲りの金髪を後頭部で結い上げ、母親譲りの薄い青石色の瞳は切れ長で、涼やかな印象を与える目元だが、十分に力強い。


「……そうだね。ありがとうアンジェリカ。どうやら、余りの好機に『何も出てこなかったらどうしよう』と考えてしまっていたみたいだ」


『石力機構』は王都で集中管理していたという。どこかにあるであろうその施設を、直接探す事ができるのだ。最大最高の機会といえるし、この状況で手掛かりが掴めなかったら絶望的だろう。


「ふふ、"かの国"の街の様子を自分の目で確認できるのです。『石力機構』の有無に関わらずとても興味深い調査ではありませんか。もっと肩の力を抜いて、楽しんできてくださいませ」


「ああ、そうするよ。では、改めて行ってきます」


キースはいつもの鞄をたすき掛けにすると、食堂をを出て行った。


□ □ □


キースが出て行き扉が閉まると、アンジェリカは大きく溜息を一つ吐いた。そして、先程から自分を見ている母と国務長官の方を向く。2人の表情はニヤける一歩手前といったところだ。


「……何ですか母様、国務長官?何か言いたい事がおありの様ですが」


アンジェリカは、その表情から何を考えているのか気が付いてはいた。尋ねたのはある意味照れ隠しの様なものだ。


「……いえね、何と言うか……怒ったり励ましたり忙しいわね、と思って」


(やっぱり)


「仕方ございませんでしょう。行くからには、きちんと成果を出していただかなくてはならないのですから。あの様な」


「確かに、あの様な弱気なキースさんはらしくありません。お父様こそ至上と考えているアンジェリカには、我慢できませんよね」


「なっ!?な、何を仰るのです母様!私は別にそこまでh」


「ふふ、殿下が父上をどうお思いかはさておき」


「国務長官!さておかないでくださいませ!」


「安全面などまだはっきりしない面もございますが、これは彼にとって千載一遇の機会です。心晴れやかな、迷いの無い気持ちで臨んで欲しいところ。その点、殿下のお声掛けは間違い無く効果的でありました」


「ええ、そうですよ。娘にあんな事を言われたら、奮起せざるを得ませんもの」


「か、母様達だって励ましたではありませんか!愛する妻や古くからの友人の言葉だって、十分に効果はございます!私だけ言われるのは納得できません!」


この様な、自分でも苦しいと分かっている言葉しか出てこない。2対1、しかも相手がイングリットとベルナルでは、アンジェリカでも状況を覆すのは無理だ。


「陛下と私は殿下の言葉に乗っただけですからな。それに、父親を動かすのに一番効くのは娘の言葉です」


「この調査で何かを見つける事ができたら、その最大の功労者は間違い無くあなたです、アンジェリカ」


イングリットは空になったカップをテーブルに置き、焼菓子を一つ手に取ると口に入れた。生地に混ぜられたゴマの香りが香ばしい。


「もう!私の事などどうでも良いのです!父様にきちんと調べ上げていただく事こそが、皆の安全と国の利益に繋がる。私はそう考えただけでございます!」


そっぽを向いて腕を組む。


キースが無事に『石力機構』関連の何かを見つけ、それを基に機構を組み上げ国内に普及する事ができたら、ただでさえ高いエストリアの生活水準はより向上し、長期的には人口と税収の増加が見込め、人材の確保にも繋がるだろう。


そして、『石力機構』にばかり意識が向きがちになるが、構成された王都の奥がどうなっているかは全く判らない。多くの魔物で溢れかえり、とても人が立ち入れる状況では無い可能性だってあるのだ。


深層域の探索が認められているパーティーでも手に余る程となれば、当然、立ち入りを禁止しなければならないだろう。息を潜めて半月後に構成が変わるのを祈るしかない。


「とにかく、国にとっても父様にとっても、良い結果が出る様に祈る。それしかありません」


「そうね、私達は私達で、キースさんが調査に専念できる様に頑張りましょう。よし、初動だけ皆で対応計画の方に取り掛かりましょうか。動き出してさえしまえば、後は微調整で大丈夫でしょうから」


「かしこまりました。では参りましょう」


3人は席を立つと、食堂を出て向かいの執務室へと入って行った。

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