第314話
【お知らせ】
いつもご覧いただきありがとうございます。少々忙しく遅れておりました。『ウマ娘』の新シナリオ実装のせいではありません。本当です。
引き続き、 週一更新を目標に頑張りますので、よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
数ヶ月後に予定されている、イングリットからアンジェリカへの譲位へ向けて、着々と準備を進めてきましたが、『北国境のダンジョン』から緊急の連絡が入りました。
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『深層域でセクレタリアス王国の街並みが構成されている』
これが『北国境のダンジョン』の管理官から入ってきた第一報だった。
『通話の魔導具』に応答した補佐官のリアムが、その内容を内容を復唱しながらメモを取る。
それを聞きながら、キースは足下のカゴに入れてあるいつもの鞄へと手を伸ばす。そして、書類筒から『転移の魔法陣』を取り出し自分の足下に広げると、「ちょっと確認してきます」と言い残し姿を消した。
「あっ!?ちょっと、父様!?」
アンジェリカの咎める声は本人には届かず、執務室の天井に虚しく響いた。
「ふふ、まるで放たれた矢ですね。止める間もありませんでした」
「もうっ!母様!またそんな悠長な事を!護衛も付けずに何かあったらどう致します!」
「現地には管理官もいますし、冒険者も複数います。第一発見者は、深層域の探索に許可が出ているパーティでしょうから、不足なく守ってくれるでしょう。それでなくても、キースさんに危害を加えるのはかなり難しいですよ?」
キースは護身用魔導具を常に複数身に付けている。それらは、一見地味な指輪やブレスレット、ネックレスなどの装飾品にしか見えないが、物理、魔法それぞれに対応しており、自動的に反撃も行われる仕様だ。下手に手を出すと酷い目に遭う。
「アンジェリカはそれでも心配なのですね。後でお父さん大好きな娘にあんまり心配かけるなと、よく言い聞かせておきますから」
「いえっ!べ、別にそういう訳では!あっ、いや、あれ?なんと言うか……」
アンジェリカは何やら口の中だけでモゴモゴと言っていたが、頬を染めると黙り込むのであった。
□ □ □
ダンジョン内の各フロアは『魔素』という目に見えない成分で作られているという。そしてそのフロアの構成は、半月前後で定期的に変化する。
『草原』、『岩山』、『荒野』、『海岸』、『洞窟』、『城塞』、『森林』、『廃墟』など様々な状況が再現される。過去、世界のどこかに存在した場所と言われているが、それをはっきり確認できた者がいるのかは分からない。
少なくとも、一緒にダンジョンに入った仲間が『ここ俺の地元の森の中だ!』などと言い出したとしても、素直に信じる者はいないだろう。それぐらい例が無い。
そして今回出現した『無人の街』
最近では、10年程前に他のダンジョンで出現した記録が残っていた。確かに珍しくはあるが、それだけならわざわざ緊急として連絡する必要は無い。
だが、街の入口の門の上部に、セクレタリアス王国の紋章が彫られてるとなると、話は変わってくる。
深層域に降りられる(しかも転移でだ)クラスになると、セクレタリアス王国関連については、王配がご執心である事を十分に理解している。
発見した冒険者達はお互い顔を見合わせると、すぐに転移で地上に戻り、冒険者ギルドの支部長に面会を求めた。
驚いたのは支部の職員達である。深層域へ向かったパーティがすぐに戻ってきて、支部長に面会を求めたのだ。誰もが何かあった事を察した。話を聞き終えた支部長は、彼らを連れて管理事務所へと向かった。
管理官は、連れ立ってやってきた支部長と冒険者達から話を聞くと、すぐに王城へと報告した。彼もまた『王配案件』である事は十分に理解している。
現在、『北国境のダンジョン』で管理官を務めるのはマシューズ・ファンアールトである。兄のジュリアンを家長とするファンアールト伯爵家の一門だ。
魔術学院ではキースの一学年後輩に当たり、言わずと知れた『女王陛下と90人の魔術師』の1人である。キースが魔術学院で『呪文』の展示を行う際に、半分言いがかりの様な事を言って絡んだ。これは、彼の中では、若気の至りだけでは済ませられない黒歴史である。
報告を終えたマシューズは溜息を一つ吐くと、足早に会議室へ入った。支部長や有力な冒険者達と情報の共有を図り、今後の対応について話をするのだ。
だが、座ろうと椅子を引き、中腰になったところで動きを止めた。会議室にいた人々は、中途半端な姿勢で固まってしまったマシューズを訝しげに見ている。
「……転移の魔法陣が動いた」
眉間に皺を寄せたマシューズがぽつりと零す。
「許可していないのに、ですか?…まさか」
ダンジョンの管理官等が業務で使用する為に設置されている『転移の魔法陣』である。
悪用を防ぐ為に、使用前には事前に連絡が入り、特定の手順で起動する事で、初めてこちらに転移できる様になるのだ。いわゆる安全装置である。
にも関わらず、それを無視して強制的に起動し転移してきたのだ。そんな事ができる人物は、この世に一人しかいない。作成者だけだ。
「ああ……来るぞ」
マシューズが振り向くと同時に扉が開いた。そして、彼らが予想した人物が部屋に飛び込んできた。
「お疲れ様マシューズ!皆さん!第一発見者はどなたですか?おお、フェルナンド達でしたか!さすがはベテラン、適切な状況判断に素早い報告!素晴らしい!まさに皆の手本ですね!」
「王配殿下」
「とりあえず一度現場に行きたいのですけど一緒に来てもらえますか?大丈夫?助かります。1人で行っても大丈夫だとは思うのですが、バレるとアンジェリカに怒られてしまうのですよ!あっはっは!」
「王配殿下」
「それにしても、まさか"かの国"の街が現れるとは!いやーこりゃ楽しみだ!よし、では行きますか!直接深層域へ転移しますよ!はい、乗って乗って」
「キース先生!!」
「……なんですかマシューズ、あ、もしや一緒に行きたいのですか?でも、君は連れて行く事はできませんよ?責任者がいなくなってはさすがにまずいですから」
「そうではなく!いや、確かに興味はありますが、とりあえず一度おかけ下さい。ご説明しますので!」
「第一発見者と一緒に行くのですから、道すがら話してもらえば良いでしょう?現状は深層域に行ったら街があり、門の上に"かの国"の紋章が彫ってあったから戻ってきた、という事ですよね?」
「ま、まあ、確かにその通りですが……」
「なら十分です。ではちょっと行ってきます」
そう言い残すや否や、キースと冒険者達は、魔力光の向こうにその姿を消した。
会議室に入ってから出て行くまで100数える間も無い。
半ば呆然としながら、キースらを見送ったマシューズは、とびきり大きく深い溜息を一つ吐くと、時系列と報告書をまとめるべく、机に向かった。
□ □ □
キースが出て行ってから、イングリットは、国務長官と王城にいた各国務大臣に招集を掛けた。
王城は広いが、大臣達はすぐに大会議室に姿を現し始める。このような緊急招集に備えて、大会議室の隣の控え室に『転移の魔法陣』を設置してある。よって、大臣達は自室からすぐに来られるという寸法だ。
キースもすぐに戻ってきた。元々当座の状況確認のみで、隅々まで探索するつもりは無かったというのもあるが、キースが見てきた結果をイングリットに伝えないと、今後の方針が決められないのだ。好きな事となるとまさに鉄砲玉だが、そのくらいの分別はある。
「お疲れ様でした王配殿。報告をお願いします」
「はい、セクレタリアス王国の街、それも王都でまず間違いございません」
「……この短時間でそこまで特定できたという事は、紋章以外にも何か決定的な証拠がありましたか?」
「2つございます。1つ目は、『照明の魔導具』の設置状況です。大通りはもちろん、一本、二本裏の通りまで、等間隔で設置されておりました」
「『石力機構』と『石力』で一晩中灯していたという話でしたね。なるほど、それは確かに、セクレタリアス王国の街ならではと言えそうです」
「2つ目は、降りる階段の正面の奥に、王城と思しき、ひときわ大きな建物が立っていました。代官の庁舎らしきものは別に建っておりましたので、あれがまさしく王城だったのではないかと」
「それほどまでに大きな建物でしたか……ここと比べてどうでしょう?どちらが大きかったですか?」
「敷地の広さも建物の大きさも、向こうの方が上回っておりました。合わせて、街自体が非常に大きい。<探査>で全体を探れなかった程です。おおよそ5km四方といったところではないかと」
「王配殿の<探査>で探れない程とは……実際どうでしょう?危険はあると思いますか?」
「門から3kmまでは、大きな魔力の反応はありませんでした。それ以上は、とりあえず一回りしてみない事には何とも。地下などにも何かあるやもしれません」
<探査>では、地下数m程度なら感知できるが地面で魔力が遮られる為、あまり深くまでは判らない。
「……分かりました。では、安全が確認できるまで、『大規模災害発生時の対応計画』を発動します。合わせて、『北国境のダンジョン』からは全員退去、周囲15kmを立ち入り禁止区域とします」
イングリットの言葉に会議室の空気がザワリと揺れた。『そこまでするのか』という驚きと方針の決定の速さ、両方に対する反応だ。
「中には『半月待てば構成が変わるのだから、こんな対応無駄だ』と考えている者もいるかもしれません。ですが、"かの国"が滅んだ理由を思えば、決して過剰な対応ではありません。それに、構成が間違いなく半月で変わる保証もありません。未確定なのですから備えは必要です。よろしいですね?」
「賛成です。危ないと分かってからでは大混乱になります。今だったら静かに、整然と退去できるでしょう」
母の決定にアンジェリカが賛意を示し、各大臣達も頷く。
『セクレタリアス王国は、石力機構に発生した不具合からの爆発で滅んだ』という意見は、あくまでもエレジーアの推測であるが、もはや定説となっている。意見を否定する材料どころか他説すら出てこないからだ。
「『北国境のダンジョン』から15kmの範囲となりますと、村が3箇所ございます。避難先はどちらに致しましょう?」
「王都です。対応計画に合わせて王都の城壁沿いに避難キャンプを設置してください」
「承知しました」
「範囲外すぐの所に衛兵の詰所がございます。そこを拠点とし、立ち入りの規制などを行ってはいかがでしょうか?」
各街道沿いに設置された、治安維持を目的とした詰所だ。街道と周辺地域に巡視を行っている。
「それは好都合ですね。ではそこを前線指揮所といたしましょう。なお、この件はアンジェリカを総責任者とします。アンジェリカ、頼みましたよ」
「かしこまりました。お任せください」
大臣達の提案に、イングリットが了承をしてゆく。上が有能だと話はどんどん決まる。せっかく役職を任されても、このスピードに着いてらこれる人材でないと出世できない。それどころか、ある程度で見切りをつけられ交代させられてしまう。大臣以下は皆必死だ。
「それでは解散いたしましょう。各自、計画に沿って対応を開始してください」
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