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第313話

【更新について】


週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ


【前回まで】


『大連合』成立後、『ソランタス』の庁舎に元評議員達が押し掛けて来ました。ですが、イングリットとキースはそんな事は予想済みです。待ち構えていたイングリットは彼らをぎゅうぎゅうに締め上げ、騒動の鬱憤を晴らしました。


□ □ □


秋も深まってきた、とある日の夫婦の寝室。


キースは、ベッドの上で半身を起こし本を読んでいたが、側仕えが妻の髪の手入れを始めると本を閉じ、そちらへ視線を向けた。


赤茶色の髪はいつもきっちり結われ、整髪料で整えられている為痛みやすい。専用のオイルを付け何度もとかして馴染ませる事で、艶やかな髪を維持しているのだ。


そして、その髪を解くのは寝る前、正確には湯を使う時だ。という事は、この姿を見られるのは、側仕えを除くとキースだけという事になる。


息子達も、いくら相手が母親だとしてもこの時間に面会を求めてくる事はまず無い。成人済みであれば余計である。


夫である自分だけが見る事ができる妻の無防備な姿。そう考えると、何歳(いくつ)になっても胸がザワつく。


「今年も無事終わりましたね」


そんな視線を感じたのか、髪をとかされているイングリットが鏡越しに目を合わせてくる。


「そうだね。できあがりが楽しみだよ」


「はい……」


キースは、イングリットが何かを言おうとしてやめた気配を感じとった。


髪の手入れを終えた側仕えが部屋を出ると、イングリットは鏡面台の椅子から立ち上がり、ベッドにやってくるとキースの横に座る。


「……どうしたの?」


「…………いつまで全員揃った形で遺せるのかな、と思ってしまって。縁起でもないですよね。ごめんなさい」


「いや、それは今日来た全員が思ったはずだよ。もちろん僕もね」


キースはそう言うと、ベッドについた手に自分の手を重ねる。キースの気遣いにイングリットは笑顔を見せたが、内心は晴れと曇りが半々というところだろう。


今日は午後から、絵師に絵を描いてもらっていた。


イングリットが王位を継いだ翌年から年に一度、キース側親子三代、フランにクライブ、ライアル、デヘントのパーティメンバーを王城に集め、集合した姿を描いてもらうのだ。


もちろん、アンジェリカを始めとする子供達も、生まれる都度そこに加わる。


その場では、とりあえず全体的な人の配置や、それぞれの衣裳のデザインと色を控え、それを大きなキャンバスに落とし込んでゆくのだ。人数も多い為、毎年出来上がりまでには3、4ヶ月程掛かっている。


アリステアやライアルらとは、月一程で顔を合わせる様にしている。だが、ここ数年は、デヘントを含めそのパーティメンバーだった、ローハン、バルデ、ラトゥールらとは、この絵を描く機会でしか顔を合わせる事が無い。


そうやって年に一度会うと、『腰が痛い』『膝がギシギシする』、『近くが見えなくなってきた』と、体の悪いところ自慢(?)が始まるのだ。


『王国筆頭』と謳われたライアルやデヘントでも、強く特性が出ていないとそうなってしまう。

そんなやり取りを見ていると(みんな歳をとったなぁ)と実感してしまうのだ。


「お父さん達も70半ば、デヘントさん達が60後半だからね……」


「皆さん大きな病気などとは無縁ですが、それぐらいの歳になるといつ何がどうなるか分かりませんもの。命はいつか尽きるものではありますが……」


イングリットはしばらくの間、どこか遠くを見るかの様に宙の一点を見つめていたが、目を閉じてそのままベッドに倒れ込んだ。ベッドに敷かれたマットで身体を弾ませると、そのまま深呼吸を繰り返す。


「よし!あれこれと考えても仕方がありません!毎日毎日できる事を、できる範囲でやるだけです!」


そう言うと、倒れ込んだまま万歳をする様に手を上げ、身体全体を伸ばす。


(……切り替えはできたみたいね)


イングリットは王女の頃から気持ちの切り替えが上手い。既に済んでしまった事、今考えてもどうにもならない事を一旦頭の中から追い出す。そうやって自分で心の平穏を保つのだ。


「そういえば、来年から絵の構図が変わりますね。真ん中がアンジェリカとヴィクトールになりますもの」


ヴィクトールとはアンジェリカの夫である、ヴィクトール・ティモンド伯爵の事だ。ベルナルの前に国務長官を務めていたアドリアン・ティモンド伯爵の孫であり、最近家を継いだ為、現ティモンド伯爵でもある。


「そうだね。2人が真ん中になって、僕達はその右隣になるのか……いや、それにしても、遂に、だね」


「ええ……ちょうど30年ですか、我ながらよくここまでやってこれました」


天井を見上げたまま、感慨深そうにポツリと零す。


18歳の成人と同時に王位を引き継ぎ、今年で丸30年となる。そして、今度はイングリットがアンジェリカに王位を譲るのだ。


本来であれば2年前、アンジェリカが25歳になるのを機に引き継ぐ予定だったが、『大連合』騒動が起きてしまった為先延ばしになっていた。


2人は、アンジェリカなら、国王も主幹国の責任者も問題無く対応できたと考えているが、親として、中途半端な状態で子供に丸投げするのは嫌だった。


『大連合』を無事に成立させ、さらに、きちんと機能するか、不具合は無いかを丸一年かけて確認し、少しでも負担を減らしてから引き継ぐ事にした。


どうせこの先も色々苦労するのだ。今から目一杯頑張る必要は無い。


「頭では理解していたつもりだけど、改めて考えてみると、なんと言うか、凄いよね。だって国王を30年だよ?毎日朝起きたら国王!これを30年って……いやー、本当に言葉も無い」


キースはイングリットの隣に横になる。


「ふふ、確かにそうですね。でも、おじい様は倍の60年ですよ?しかも、引き継いだと思ったらまた戻る、というのを2回です。信じられない程の心の強さです」


『おじい様』というのは、当然アルトゥールの事である。一度目は息子に、2度目は孫に引き継いだが、何の因果かその度に玉座に戻る事になり、一人で王族としての責任を果たし続けた。


「でも、どうやら無事に引き継げそうですね。その日は、一日一日、確実に近づいてきています。もちろん油断する訳ではありませんが」


「それが在位30年の節目の年になるとはね。『大連合』騒動も悪くなかったのかも」


「……それは無事に終わったから言えるのでしょうね。私は無い方が良かったです」


そんなイングリットを、キースは顔だけ横に向けじっと見つめると、頬に手を伸ばす。


「……ん、なんですか?」


「君は本当に凄いね」


頬から髪の毛をゆっくり撫でる。イングリットは目を閉じ触れられるがままだ。


1歳の時に父王を亡くし、次の国王になるべく育てられた。それ以降47年間、その小さく細い肩に国民の期待を背負い、ただ前だけを見据え、どんな状況でも足を止めること無く進み続けてきた。


「……そんな真顔で凄い凄い言わないでください。恥ずかしいです……」


照れたイングリットが頬を染め、撫でるキースの手を取り指を組み合わせる。50歳に手が届くところまで一緒に過ごしてきたというのに、手を繋ぐと今だに胸が高鳴る。


キースは部屋の照明を常夜灯に切り替えた。ベッドの枕元に『照明の魔導具』の遠隔操作用の操作盤が取り付けられているのだ。急に暗くなり戸惑うイングリットの身体に手を回し、自分の方に引き寄せる。


「えっ、キースさん?ちょっと、そんなっ、急に、っつ!」


『永遠の新婚夫婦』の夜は、今日もいつも通りに更けてゆく。


□ □ □


数ヶ月後の『譲位の儀』に向け着々と準備を進める日々だったが、ここにきて雲行きが怪しくなる。


『北国境のダンジョン』から緊急の連絡が入ったのだ。

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お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)

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