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第312話

【更新について】


週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ


【前回まで】


『大連合』成立が発表されてから5日後、『ソランタス』の街では、都市国家の頃の行政官と評議員が庁舎に押し掛けてくる、というトラブルが発生しました。これから担当者が来て対応します。


□ □ □


「代官殿!担当の方はまだ来ないのですかな?いつまでこうしておれば良いのですか!」


「本当に!私達も忙しい身。あまり時間は取れせんからのう!」


「まだ時間が掛かりそうなのか、ちょっと確認してみては?」


「通常業務の隙間をついて来ますからね。先触れは来ておりますから、もう間もなくでしょう」


先に講堂に戻ったハリーは、口喧しく言い立てる元評議員達を適当にあしらっていた。


本当は「呼んでもいねぇのに勝手に来て好き勝手言ってんじゃねぇぞ!こちとらお前らに付き合う程暇じゃねぇんだ!」と怒鳴りつけたいところだったが、相手はエストリアの一般市民である。代官が怒鳴りつけるのはさすがにまずい。


それに、元とはいえ行政官と評議員だ。この街では知られた存在で顔も広い。思わぬところで面倒事の種になる可能性もある。


「そうは言いますがね代官殿、市民の陳情に耳を傾けるのは国の役人の義務ですから!業務を一時中断して聞くぐらいの姿勢を見せませんと、市民からの信頼は得られませんぞ!」


「そうそう!我らはそうしておりましたからな!編入の後は、街の皆さんから惜しむ声をたくさんいただいたものです!」


「まさに!今でもそういった声は多いと言います。ぜひご再考いただきたいものですね」


(何を白々しい事を。それに、『惜しむ声を掛けられた』なんて言ってるが、そんな事証明のしようが無いじゃないか。アホらしい)


ハリーが大きな溜息を吐いた時、講堂の扉が開いた。皆の視線を受けながら入ってきたのは、黒味を帯びた鎧を纏った若い騎士だ。先触れ兼護衛のゲオルグである。


「ゲ、ゲ、ゲオルグ殿下!?なぜこちらに!?」


『ソランタス』の行政官だったダンドルフと元評議員が慌てて立ち上がる。ボイラート』側の元評議員達はゲオルグには会った事は無いが、『ソランタス』側につられて立ち始めた。王族が来たのに座っている訳にもいかない。


「ご無沙汰しておりますね、ダンドルフ殿。お元気そうで何よりです。今日は護衛を兼ねた先触れとして来ているのですよ」


「さ、左様ですか。これはまた何とも……」


ダンドルフと元評議員達の顔色は良くない。一年前の占拠&解任劇を思い出したのだ。あの日彼らは有無を言わさず無職となった。思い出したくない悪夢だ。


「『ソランタス』とは縁もありますのでね。喜んで引き受けました」


ゲオルグの言葉を聞いた何人かは(近衛騎士団所属だから護衛はまだしも、王子が先触れなんてするのか?)という疑問を持った者もいたが、ゲオルグの「縁もあるから」という言葉に、腑に落ちないものを感じつつも(そんなものか)と納得した。


「時にダンドルフ殿、あなたは娘さん夫婦の商会でお仕事をされていると聞いていますが……この場に来てしまってよろしかったのですか?」


(な、なぜそれを!?)


ギクリとしたダンドルフの顔色が悪くなる。まさか一年も前に解任した行政官の、今の勤め先を知っているとは思わなかったのだ。


「事前の約束も取り付けずに、大人数で代官の庁舎に押し掛け『担当者を呼べ』などと(のたま)う。『ソランタス』ではどうか知りませんが、エストリアでは考えられない程に行儀の悪い行為です。父親がそこに参加した事が商売に影響を及ぼさなければ良いのですが」


ダンドルフの顔色は今や真っ白である。若い2人の営む商会は、まだまだ不安定な状況にある。少しの逆風が大きな影響を与えてしまうだろう。人件費を少しでも削りたいのに、『元行政官という立場なら商売のプラスにもなる』と説得し、無理を言って雇ってもらっているのだ。足を引っ張る訳にいかないのである。


そもそも、ダンドルフ自身は決して来たかった訳では無かった。『最終決定した行政官だったのだから一緒に来るべきだ』という意見に押し切られただけなのだ。


(やはり来るべきでは無かったか……)


ダンドルフの頭の中を後悔の二文字が走り回り始め、娘と義理の息子の顔を思い浮かべた。


再び閉じていた扉が開くと、今度は若い魔術師が入ってくる。ゲオルグが来たという事は、当然この魔術師はジェラールである。兄の顔を見て一つ頷く。


ジェラールが来た事で、今度は『ボイラート』の元評議員達(元行政官は来ていなかった)が落ち着きを無くし始める。『ボイラート』は庁舎占拠の際、一部の評議員が会議室に居座ろうとした為、強制的に排除されたのだ。その時の事を思い出したのであろう。


「お待たせしました。間もなく到着です」


元評議員達は扉の方に顔を向け、さあ何を言ってやろうかと身構えた。


□ □ □


まず入って来たのは小柄な男性だ。


まるで金の糸の様なさらさらの髪は、前髪がまつ毛を隠す程の長さで整えられ、緩く流してある。


ゆったりとした魔術師のローブを着ている為、身体付きは判らないが、肩幅は狭い。右手で後ろに続く女性の左手を取り、講堂のステージへの階段をゆっくりと上がる。


エスコートを受けている女性は男性より背が高く、スラリとした体型をしていた。だからといって細過ぎる事はない。ドレスを着ていても、健康的で、メリハリのある、引き締まった身体付きである事がうかがえる。


ぱっちりとした二重と硬質な水色の瞳は、相手に心の奥底まで全てを見透かされる様な印象を与える。だが、程よくふっくらとした、愛嬌も感じさせる艶やかな唇がそれを和らげていた。


赤茶色の髪は後頭部で一纏めに結われ、その後頭部には髪飾りが刺さっている。はめ込まれた複数の緑石が『照明の魔導具』の光を受けて煌めき、磨き抜かれた真珠の様な(うなじ)と絶妙なコントラストを作り、色気を醸し出していた。


入ってきた男女はステージの中央に差し掛かると立ち止まり、元評議員達が座る席の方へと向き直った。お互いの視線が絡み合う。


席に座る元評議員達を、右から左へゆっくりと眺めてゆく。威圧感などは感じないが、彼らは皆、心臓をぎゅっと掴まれた様な、不思議な息苦しさを覚えた。


そして女性が口を開いた。


□ □ □


こんにちは皆さん。そして初めまして。イングリットです。


お気づきの方も多いと思いますが、エスコートしてくれたのが、王配であるキース、そして護衛を務めているのが、騎士で長男のゲオルグ、魔術師である次男のジェラールです。


……皆さんのお顔から察するに『なぜわざわざ女王を始めとする王族が4人もこの場に来ているのか?』とお考えの様ですね。


ハリー代官は皆さんになんと言いましたか?


そう、『担当者が説明に来るから待っていてくれ』、そう言った筈です。


その担当者が私と王配です。


随分と不思議そうですが、『大連合』は国同士で結んだ経済協力と不可侵の条約です。であれば、担当者など私と王配に決まっているではありませんか。


護衛も、息子達の腕前であれば十分にその任を果たすせますし、2人ともこの街にはいささか縁があります。少しでも勝手が分かっている者という事で、来てもらいました。


それで皆さんは『なぜ他の4都市は自治が認められているのに、自分達はクビなのか』をお尋ねに来た、という事でよろしいですか?


なぜ分かるのか?という顔をされていますが、私達は、『大連合』が成立して詳細が発表されたら、まず間違いなく、あなた達が押し掛けてきて、この件について尋ねるだろうと予想、いえ、確信しておりました。


そして、その暁には、あなた達のお相手は絶対に私が務めようと決めていたのです。その為に、今週は動かせる予定しか入れなかった程なのですよ。


それで、あなた達と他の都市国家とで扱いが違う事ですが、本当に分からないのですか?本当に?


……都市国家とはいえ、一つの国の責任者がこの程度とは。だから他国の間者につけ込まれるのです。


何の話だ?と考えている様ですが、この話のそもそもの出どころはどこなのか、はっきり覚えている人はいますか?いませんよね?大方、あなた達の誰かが、何かのパーティーや会合などの酒の席で、得体の知れない人物から耳打ちされ鵜呑みにしたのでしょう。


あなた達はもう一般市民ですから、詳しくは言えません。ですが、怪しげな話を真に受けよく考えずに行動すると、大変な事になるというよい例と言えるでしょう。自分達が迷惑を被らなければ、ですが。


話が逸れましたね、戻りましょう……4つの都市との違い。これは、あなた達が望んだ結果です。


私達は『検討するから待ってくれ』と言いました。ですがあなた達は『自分達が最初に言い出したのだから、自分達の対応を先にして欲しい』と言いましたね?


私達に考える時間を与えずに、答えを欲しがったのです。


となれば、あの時点でできる唯一の手段である、『2都市をそのままエストリアの街として扱う』という対応をしました。


他の4都市については、一年間じっくり検討する時間がありました。その結果、エストリアの庇護下にある都市国家として自治を認め運営させる、これが最適だと判断したのです。理解できましたか?


説明は以上ですが……何か言いたい事はございますか?『大連合』は成立し、既に動き始めています。即ち、余程の何かが起きない限りもう個別の対応はしない、という事です。今を逃したら金輪際、こんな機会はありませんよ?


よろしいですか?


まあ、この2都市を自治都市にして、自分達を元の役職に戻して欲しいなんて、いくら図々しいあなた達でもさすがに言えませんよね?


何をそんなに驚いた顔をしているのですか?あなた達の考えている事などお見通しです。そもそもなぜ私達が予定まで空け、『担当者だから』などと理由までつけてここへ来たのか、本当に気付きませんか?先程から本当に察しが悪いですね……私達はあなた達に直接言いたい事が山ほどあるからです!ええ、そうですとも。企んだ者がいるにせよ、この件が一気に大騒ぎになってしまった最大の原因はあなた達にあります!他国の間者の手の上でクルクルと踊らされて、何の相談も無くあんな宣言などして……それでもあなた達は一つの国の頂点にいたのですか!情けないったらありゃしない!その軽率な行いが私達にどれだけ迷惑を掛けたか全然理解していないし!そこのあなた!右から2番目、下から3番目の、二重アゴのあなたですよ!人が話をしている時はちゃんと相手の顔を見なさい!まさか私の話を聞きたくないと言うのですか?違う?ならなぜ下を向いていたのです!あなたは私が良いと言うまで立って聞きなさい!全く……本来行いたかった事もできず、使わずともよい金を使い、背負わなくても良い苦労や新たな責任まで負わされて!様々な予定が押してしまっているのですよ!私達はエストリアの王族です。エストリア国民の為であれば幾らでも力を尽くしますが、なぜ他国民の為にこの様な苦労をしなければならないのですか!あなた達に損害を請求したいぐらいです!そもそも、編入して欲しい側が『編入しろ!早くしろ!』と迫ってくるというのは一体どの様な了見なのですか!入れて欲しいのであれば、まずは私達に話を通し自分達を編入する事の利と理を説くべきでしょう!それをなんなのですか、あなた達は!あまりの度し難さに言葉を失うというものです…………


□ □ □


「そもそも、行政官と評議員というのはですね都市国家に於いて……」


「父上、止めなくてよろしいのですか?もう11の鐘が鳴りましたが……」


ゲオルグが一度イングリットをチラ見した後キースに耳打ちする。


転移で移動した後、講堂へ移動している時に10の鐘が鳴っていたのを覚えている。という事は、イングリットの説教( っぽい何か )は丸々鐘一つ分続いているという事になる。だが、心配する長男に対し父親は首を横に振った。


「ハリーから連絡を受けて『やっと直接文句言える』ってすごい張り切っていたからね。それに、止めたら止めた者に矛先が向くよ?それでも良ければ構わないけど……」


「さすがは兄上、自らを盾とし国民を救おうとするとは……まさに騎士の鏡でございますね」


「……いや、どうやら私ではまだまだ力不足の様だ。断腸の思いではあるが、今回はぐっと堪え、十分に鍛錬と経験を積み、次の機会に雪辱を果たせる様に努力していこうと思う」


「うん、それがいい。まあ、もう少しだと思うから、みんな頑張れ」


「はい」

「承知しました」

「……」


4人は姿勢を正し、静かに深呼吸をすると目を閉じた。

ブックマークやご評価、いいねいただけると嬉しいですね!


お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)

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