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第311話

【更新について】


週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ

【前回まで】


『大連合』調印式後のパーティーで、フルーネウェーフェン子爵と話をしたキースですが、彼のおとぼけにご立腹。『彼を生かして帰したのは間違いだったか』とまで考えましたが、子供達の気の利いた会話に救われました。イングリットと『うちの子凄い』と喜びました。


□ □ □


エストリア王国最南端である『ソランタス』の街。


かつてはプラオダール連合に所属し、都市国家として栄えていた街であるが、ちょうど一年前にエストリア王国へと編入された。


その編入の経緯に少々いわくのある事から、エストリア首脳陣はこの街の代官の人事にはかなり気を配った。


指名する前に本人を呼び出し、イングリットとキースが直接話をした程だ。街の責任者である代官の人事は決して軽いものでは無いが、一役人の人事で女王と王配が直接対応する事は基本的に無い。


そんな特別な対応の末に指名されたのは、ハリーという男だった。


魔術学院でキースの一学年後輩、『女王陛下の90人の魔術師』( 長い為通称『90'sナインティズ』と呼ばれている )の1人、王都の冒険者ギルドの職員であるマーガレットの弟である、あのハリーだ。


彼は魔術学院卒業後は、王都の行政官の庁舎に入った。当初はキースに憧れていた事もあり、冒険者を志望していた。だが、卒業前の実地研修(要するに希望職種でのお試し期間だ)の後志望を変えた。


『あ、これは向いてないな』と感じたのだ。


後でその時の事を振り返っても、なぜそう感じたのかさっぱりわからない。だが、そう感じてしまった以上、もう無理だった。冒険者は自分の行動が複数人の命を左右する。そんな中途半端な気持ちで無理に続けてよい職業では無い。


各部署で実務の経験と知識を積み上げ、まだ30歳過ぎであるのに『助役補佐』というNo.3にまで昇進したところで、地方の街の代官に任命された。その後も複数の街の代官職を渡り歩き、指名を受けこの街へやってきた。


彼なりに覚悟してやって来たが、特段大きな問題も無く勤めあげている。元々都市国家として完成していた街である。国の仕組みは違えど骨格はしっかりしていたという事だ。


だが、『大連合』の調印式から5日程経ったこの日、問題が発生した。


『ソランタス』と『ボイラート』の2つの街が都市国家だった頃、行政官と評議員を務めていた者達が庁舎に押し掛けてきたのだ。


□ □ □


ハリーは15人ほどの集団を適当にいなしながら講堂へと誘導した。好き勝手に言い立てる集団に辟易としつつ、「担当者が説明に来るから待っててくれ」と言い残し執務室へ戻った。


(まさか本当に来るとは。さすがはキースさんと言いたいところだが……)


「おかえりなさい。大変でしたね」


入ってきたハリーの姿を見て、秘書官が執務机に淹れたてのお茶を置く。


「ありがとうミューズ、いただきます……ふぅ、全く、やれやれだ」


息を吹きかけて冷まし一口啜ると、スパイシーな香りと、程よい苦味が舌を刺激する。どちらかというと、ここより南の国のお茶に近い味わいだ。赴任当初は少々面食らったが、飲みつけた今は何とも思わなくなった。


「それにしても本当に来るなんて。予想通りなのはさすがお2人、と言ったところですけど……」


「ああ、こればかりは外れて欲しかったな」


また一口お茶を飲むと、2人で同時に溜息を吐く。そのタイミングが被った事に、思わず顔を見合わせ笑みを零した。


□ □ □


ハリーが『ミューズ』と名前で呼んだ事からも分かる様に、この2人は夫婦である。そして、魔術学院の同級生でもあった。という事は当然、ミューズも『90's』の1人という事になる。


魔術学院卒業後、ミューズは出身の街の代官の役所で働き始めた。王都で幾らでも働き口はあったのだが、その時母親の体調が今一つであった事から地元に戻ったのだ。


役所では<地形変化>の魔法を用いての土地改良を主な仕事としていた。『北西国境のダンジョン』を確保した後、キースがエドゥー川沿いに貯水池と水路を作成したアレである。


指定された範囲内の地面を掘り下げたり、動かすのが困難な大きな岩を砂状に変えたりし、建築物や畑の基礎となる部分を作るのだ。


ミューズは学院のクラスの中でも、一、二を争う程に魔力操作に長けていた。そんな彼女にこの仕事はうってつけだった。


地上部分は範囲制御の魔導具を設置するが、見えない地中を変化させるのは、魔術師の感覚が全てだ。


一度で手直しが必要無い精度で変化させられる魔術師は少ない。図面を頭の中で描きながら、その通りに魔力を拡げ、決めたところで『呪文』を唱え魔法を発動させる。


変化させた後の地形を測量技師が測っている間の緊張感も堪らないが、図面通りにきっちり変化できていた瞬間が最高に気持ち良いのだ。そして誰もが『さすがは90s'(ナインティズ)の魔術師!』と褒め讃える。それも非常に誇らしく嬉しいのだ。


その結果、仕事にずっぽりハマってしまい、お年頃にも関わらず浮いた話一つ無く、仕事一筋の日々を送っていた。


本人は全く気にしていなかったが、休みの日も家でゴロゴロしている娘の姿に、ミューズの両親は内心(どうやら孫の顔は見られそうにない)と諦めていた程だ。


そこに新任の代官として赴任してきたのが、出世街道驀進中のハリーだった。


異動してきて右も左も分からない状況で、街と役所内どちらにも通じているかつての同級生。ハリーがミューズを頼りにするのも当然といえた。


私生活はもちろん、仕事に関しても(もちろん話して良い内容だけだが)相談した。外から来たハリーにとって、ミューズの地元民ならではの視点と意見は非常に有益なものであった。


それ以外にも、例えば食事でも、ハリーでは知りえない、地元民行きつけの美味しい店を教えてもらったりもした。そんなやり取りをしていれば当然の流れで、『じゃあ今度一緒に行こう』という事になる。


元々、2人の間には『5年間同じ教室で学んできた元同級生』 という下地がある。過去と現在を共有しながら過ごす事で、お互いの距離はどんどん縮まっていった。


ハリーがミューズに結婚を申し込み、ミューズも喜んでその申し出を受けたのは、赴任から半年後の事だった。2人は過去と現在だけでなく、未来も共有する事になった。


驚いたのはミューズの両親である。


夕食を食べて帰ってくる、私服の種類が増える、休みの日もゴロゴロせずに出掛ける、などの変化から(これはもしかしたら)という気はしていたが、それを本人に確認する間もなく「結婚する」と相手を連れてきたのだ。しかも、それが『切れ者』と名高い新任の代官なのだから。


2人はキースにも結婚を報告したが、それもまたちょっとした騒ぎになった。


ハリーは報告がてら、『夫婦が同じ職場にいる事に何か問題はあるか』と確認した。規定などには書かれていないが、ハリーは一般の職員ではなく最高責任者である代官だ。『規定には無いが好ましくない』的な事を気にしての事だった。


キースの返答は『規定に無いなら特に無し』というものだった。問題は、それをイングリットとキースが直接伝えに来た事である。


役所内にある転移室から、女王をエスコートした王配が出てきて、「代官と土木科のミューズ専任担当を呼んでください」とやったのだ。業務終了間近の役所内は騒然となった。


連絡を受けて飛んできたハリーとミューズが目にしたものは、待合ロビーの椅子にちょこんと並んで座る2人と、それを少し離れた所から見守る職員達の姿だった。


「お、来たね。ハリー、ミューズ、結婚おめでとう!ほら、職員の皆さんも、はい、拍手拍手!」


2人は椅子から立ち上がると、周囲を促しながら拍手をする。他の職員達も、何がなにやらという雰囲気に包まれたまま、拍手をし始めた。彼らとしては女王と王配に拍手しろと言われたらするしかない。


「馴れ初めを聞くのは結婚式まで楽しみにしておきますね。流石にこの場では恥ずかしいでしょうし、今後の仕事にも差し支えるでしょうから」


「皆さん、どうかこれからもこの2人をよろしくお願いします。2人とも、結婚式の日取りが決まったらすぐに伝える様に。予定を入れない様にするので。では、私達はこれで」


そう言い残すと、彼らの女王と王配は悠然と転移室の中に姿を消した。後には、呆然とする代官以下の職員達が取り残された。


しかし、女王と王配が直接お祝いを伝えにきた事で、2人はこれまで以上に一目置かれる存在となり、仕事は益々やりやすくなった。


そして、家族が増えたり、ハリーが他の街へ異動したりしながら年月を重ね、現在はこの『ソランタス』で代官とその秘書官(たまに土木科での指導官)を務めている。


□ □ □


「お2人共お久しぶりです。お元気そうで何よりです」


「ゲオルグ殿下!?これはどうも、ご無沙汰しております!」


『転移の魔法陣』が設置してある部屋から出てきたのは、ゲオルグだった。まさか王子が来るとは思っていなかった2人は、驚きながらも挨拶をする。


「今日は護衛兼先触れを拝命しまして。それに、この街については、全く無関係という訳でもありませんしね」


「……お忙しい中、皆様にはお手数お掛け致します」


「ふふ、本人達が相手すると言っているのですから良いのですよ。気にしないでください」


ゲオルグに限らず、イングリットとキースの子供達は、相手が貴族、一般市民に関係なく、歳上と話をする際は丁寧な言葉遣いをする。


これは自分達に無い経験や技術、知識を持っている存在への敬意を表したものだ。特に、父方の親族やその周囲には、唯一無二と言っても過言では無い程の、かなり特殊な(わざ)を持った人が何人もいる。


それらを知ってしまったら生まれを盾に偉そうな口をきこうとは思えないのだ。そもそも真の貴顕たる存在は、相手の立場によって言葉遣いや態度を変える様な事はしない。


だが、彼らもただ歳上だから敬意を払っている訳では無い。相手が残念な存在であれば、当然それなりの対応になるのは言うまでもない。


「よし、ハリー代官、担当者の案内は私がしますので、先に講堂へ行ってもらえますか?あ、ネタバレは無しでお願いします


「合わせて承知しました。それではお先に」


ハリーはもう一度礼をすると静かに執務室を出た。


□ □ □


ミューズは256話に登場しました。魔術学院での講義の後、キースにカノジョができた事を指摘したり、誰が<探査>を一番遠くまで拡げられるか、という競走で勝ったりしています。

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お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)

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