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第309話

【更新について】


週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ

【前回まで】


『大連合』の調印式は無事に終わり、そのパーティーが行われています。ちょっと一息入れようとバルコニーに出たキースにある人物が近づいて来ました。かつて『北西国境のダンジョン』の確保を争った、アーレルジ王国のフルーネウェーフェン子爵です。


□ □ □


「ご無沙汰しております、フルーネウェーフェン子爵。ご活躍はかねがね伺っております」


「いえいえ、とんでもない。今回の件はもちろんですが、女王陛下と王配殿下の名声は留まるところを知りません。我らはそのご威光にあやからせていただいているだけでございます」


もちろんキースは子爵の言葉を真に受けたりはしない。笑顔で受け流すと、バルコニーに設置してある屋外用のテーブルセットへと誘う。


2人が席に着くと、すぐにお茶とお茶菓子、ワインや蒸留酒等のアルコール類、簡単に摘める惣菜類が運ばれてきた。パーティーには多くの人が出席しているが、主幹国の王配と隣国の代表ともなれば、その動きは常に注視されている。その対応に遺漏は無い。


2人は共に白ワインを手に取り、キースが口をつけたのを見て、フルーネウェーフェン子爵も口に含んだ。


(……身体が細くなったというか、全体的に薄くなった、かな?報告にあった件だろうか。まあ、もう60も半ばというのもあるだろうけど)


グラスを傾ける様子をさり気なく見つつ、キースは子爵に関する昔の記憶と、新しい情報を記憶の沼から引き上げる。


2人が直接顔を合わせたのは、ダンジョン内で消耗し切った子爵とその護衛を救出した時と、ダンジョンから出てきた子爵が物見櫓に登り、周囲を確認した時の2回だけではある。だが、背が高く、横幅も厚みも十分で、専業の戦士に全く引けを取らない程に鍛え上げられていた事は忘れられない。まさに堂々たる偉丈夫だった。


「実は、数年前に一度身体を悪くしまして。お休みをいただいたのです」


まるで、キースの心の内を見透かしているかの様に、フルーネウェーフェン子爵は語り出した。もちろんエストリア側でも、フルーネウェーフェン子爵が健康を損ねた事は把握している。


『北西国境のダンジョン』の取り合いでは勝つ事ができたが、エストリアとしては『油断ならない重要人物』という認識は変わらない。その動向については常に把握に努めているのだ。


「復帰はできましたが、歳も歳ですので交代を申し出たところで、あの2都市の編入の件が起こりました。それを受けて我が王からこの件を終わらせてから交代せよ、と言いつかりました。最後の花道を作っていただいた、という訳ですな」


「なるほど……そうでしたか。長きに渡るお役目、お疲れ様でした」


「いやいや、月日ばかりで、お国の為には何もできずお恥ずかしい限りです……実際に、ダンジョンも確保できませんでしたしね」


どこか遠くを見る目で中庭を眺める。


噴水の水が、『照明の魔導具』の柔らかな光を反射して煌めき、まるで小さな星の様だ。噴水は普段は昼間だけ稼働しているが、今日の様なパーティーや式典が催される時は夜も動かし、光と水の演出で出席者の目を楽しませている。


『北西国境のダンジョン』に関してキース達にしてやられたフルーネウェーフェン子爵であったが、その事についてはほとんど追求されず、責任を取らされる事も無かった。


彼は、自分の祖父が当時の国王の指導官を務めていた縁で重用された訳だが、幾ら国王の肝いりとはいえ、周囲が皆味方だった訳ではない。逆に、他の貴族にしてみれば、国王に贔屓されている存在ほど足を引っ張ってやりたくなるというものだ。


それがほぼお咎め無しで済んだのは、他ならぬ彼の貴族社会での世渡りの上手さと、王都へ戻る際に仕上げた『嘘では無いが全てを誇張をしてある報告書』、そして何よりも、『発見から4年間に掛かった全ての経費』と『産出した魔石の売上の3%相当の金』が受け取れるという事実だった。金の力は偉大である。


「フルーネウェーフェン子爵、私、今どうにも頭から離れない事がございまして」


「ふむ、それは一体どの様な?」


「『プラウダール連合』の行政官達を焚きつけて、エストリアへの編入を唆した人物がいるのでは?という事なのです」


「ほう?それはまた興味深いですな……」


フルーネウェーフェン子爵は軽く目を見張る。


「あの宣言はそんな考えに陥ってしまう程に唐突でしたので」


「ううむ、確かに」


ワインのグラスをワゴンに戻し、フルーネウェーフェン子爵をじっと見つめる。子爵の表情は会話前と全く変わらない。


相手の都合を考えずに、勝手に他国への編入を宣言する。国同士のやり取りではとても考えられない。キースがそう考えるのも無理からぬ事だった。


「まあ、そうは言っても私がそう考えているだけで、証拠も何も無いのですが。ですが、きっとどこかで、上手くいったと内心ほくそ笑んでる人物がいるのだろうなと。そう思うと少々癪ではあります」


そう言うと肩をすくめる。


「……王配殿下は、その唆した相手が、まあ、実際にいた場合ですが、何を目的にそんな事をしたとお考えですか?」


「はい、その人物は自分達だけが同盟を結ぶより、周辺国も巻き込んで、より大きな話にしたかったのではないのかなと考えています」


「ははぁ……ですが、それは一体どの様な理由で?」


「『国内にいる、エストリアに反発しようとする勢力を抑え込む為の理由作り』だったのではと」


「…………」


「その人物は、自国とエストリアの関係を強化したかった。またはその様な指示を受けた。手前味噌となりますが、エストリアには他の国には無いものが多くあります。同盟を結びそれらを自国にも導入したいと考えた」


フルーネウェーフェン子爵はキースの言葉に耳を傾けながら頷いている。


「ですが、現状、既に近い距離にあるのにそのまま同盟を結ぼうとすると、その勢力への刺激が強過ぎると考えたその人物は、反エストリア勢力も納得せざるを得ない理由を作り出すことにした。それが今回の『大連合』です」


キースは言葉を切ると白ワインを一口含み喉を湿らせる。微発砲の炭酸が喉を刺激しながら滑っていった。


「都市国家群の不安を煽り暴発させる。これはどこでも構いません。一つでも爆発すれば、放っておいても他の都市も続きますから。都市群が騒げば騒ぐ程『周囲が同盟を結ぶのに自分達だけが乗り遅れる訳にはいかない』という理由ができます。誰だって仲間外れにはなりたくありません」


「なるほど……確かにターブルロンドには、自国とエストリアが近づく事を好まない派閥があると聞いています。そこには複数の有力な貴族も参加しているとも。かの国はどちらかというと親エストリア派が多い情勢ではある様ですが、その声の大きさは無視できない程になりつつあるそうな」


「……はい。どうやら、私達が自国には無い資源や技術を持っている事が気に入らない様で。まあ、今のところ実害はありませんし、そもそも他国のお話です。基本的には様子を窺いつつ放置するしかありません」


勝手に羨んで逆恨みの様な感情を抱かれているのだ。一々まともに取り合っていられないが、警戒だけはしておかなければならない。


「妙な方向に進まなければ良いのですが。何と言っても、我らはもうただの隣国では無く同盟国なのですから。様々な意見はあるとは思いますが、ターブルロンド側には、そういった声を外に漏らさない様に、貴族の意思統一に努めていただきたいものですな」


「全くその通りです。せっかく苦労してここまで作り上げたのですから。あっという間に崩壊したとなっては、さすがに……」


キースは笑顔を見せたがその眉間にはシワが寄っている。この1年、エストリアはこの件に散々振り回された。事前に立てていた計画を幾つも取りやめ、『大連合』設立に人と金を割いてきたのだ。そう簡単に解散してもらっては困るのである。


「ふふ、我らも一枚岩となり、『大連合』を支える一柱として励む所存。どうかご期待ください」


「ありがとうございます。頼りにさせていただきます」


2人はお互い立ち上がり、力強く握手を交わした。

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