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第30話

【更新日時について】


書き溜めが尽きるまでは、毎日5時・11時・16時に更新いたします。


通勤・通学、お昼休みのお供としてぜひどうぞ。


冒険者たちへの声かけを終え、他の職員にキースが帰ったことを確認したディックは、アリステア達の出迎えのため西門へ向かうことにした。


「サイモン、ちょっと出てくる。いつ戻れるかわからんから、時間になったら終了して帰ってくれ」


「承知しました。お気をつけて」


サブマスターであるサイモンは、今年50歳、やはり元冒険者だ。現役の頃はレンジャー系の冒険者として活動していた。


正面きって戦うのではなく、弓による遠距離攻撃や、相手の横や後ろへ回り陽動、奇襲を仕掛け戦うタイプだ。


屋外では、周囲の気配を探りパーティの安全確保に努め、更に食事や消耗品の管理までしていた。


パーティに1人いると色々な面でストレスフリーになる、素晴らしい人材だ。それは今も一緒である


(8の鐘には少し早いか・・・)


ディックはいつもの店で夕食をとることにした。


空いていたカウンター席に座り、日替わり定食を注文する


(一杯ひっかけたいところだが・・・やめておくか)


今日はここまでも色々あったが、メインはここからなのだ、酒を飲んでいる場合でもない。


注文した日替わり定食は、今日はディックの好きな「チキンのガーリックトマト煮込み」と焼き立てのパン、サラダだった。


(やはりワインを頼むべきだったか・・・)


後ろ髪を引かれつつ、この後のことを考えていたディックの耳に、後ろのテーブル席から話し声が聞こえてきた。


「学院卒の・・・」「まだ18・・・」「いや、でも・・・」「イケるって・・・」


気になる単語がちょいちょい聞こえてくる。


< 聴 力 強 化 >の魔法を使い聞き耳を立てながら、店に入った時の様子を思い出す。


(確か身体の大きな戦士、小柄なスカウト風、背の高い魔術師だったな)


「だからよぅ、いつもみたいにうまいこと口車に乗せて、途中の人気の無いところで身ぐるみひっぺがして放り出しゃいいんだよ。ガキ一人ぐらいなんとでもなるだろ」


スカウト系の男の様だ。


「確かに18歳にしてはかなり小柄ではあったな・・・3人で不意をつけば問題なさそうではある」


「で、でも学院の首席卒業者って言ってたぞ?本当に大丈夫なのか?」


「お前は相変わらず気が小せえなぁ・・・体はこんなにでかいのに。18の学院卒業したばっかのガキが、不意打ち食らってきっちり魔法を発動させるなんてできるわけねえだろう、なぁ」


「まぁ、まず無理であろうな」


魔法が発動するまでは集中→イメージ→魔力操作→発動というプロセスが必要となる。


仲間だと思っていた3人に奇襲を受けて、魔法が発動できる者はほとんどいないだろう。


「いきなり新米魔術師をパーティに入れる物好きなんていねぇ。あのガキは明日も自分を入れてくれるパーティを探すだろうが、どうせ無理だ。そこで俺たちが声をかけて、あいつを誘う。誰にも相手にされなかったこともあって、俺達に感謝してパーティーに入る」


「で、王都からある程度離れたら、色々回収しておさらばだ」


「ふむ、問題なかろう。学院のローブや杖は使用者制限がかかっているが、首席の刻印が入ったものなど出回らんからな、欲しがる金持ちはいるであろう。それにしても・・・」


魔術師が嫌な感じで笑う。


「とても・・・そう、とても可愛い子であったな」


スカウト風の男と大柄の戦士は若干引いている。


「ま、まぁ、俺達はその辺は関知しねえから好きにしろ」


しかし、大柄な戦士だけはまだ踏ん切りがつかないような


「な、何か嫌な予感がするんだよなぁ・・・」


「お前、いつもそう言ってるじゃねーか!じゃあお前はもう宿で一日寝てろ!分け前もねぇからな!」


「いや、行くけどさぁ・・・」


(うん、こいつらが動くのは明日の夕方から夜ぐらいか・・・それまでには終わってるとは思うが、一応耳には入れておくか)


ディックは食事を終え、金を払って店を出た。


もうすぐ8の鐘というところで西門に到着した。冒険者証を見せながら、立哨をしている若い衛兵に声をかける


「お疲れさん、冒険者ギルドのディックだ、当直の責任者はどなたになる?」


「はい、本日はマーカス副隊長です」


「今お邪魔しても大丈夫か?」


「確認してまいります。少々お待ちください」


中に入った衛兵はすぐに戻ってきた。


「お待たせしました。どうぞ御案内します」


「ありがとう」


詰所内に入ると30代後半ほどの男が立って待っていた。


「どうもディックさん。こんな時間にどうされました?」


「もうすぐ知り合いが馬車で到着するんだ。ただこの時間だし、冒険者でもないから、身分保証のために迎えに来たんだ。世話になった人だからな・・・まぁ仕方がない」


「そうでしたか・・・それはどうもお疲れ様です。お茶でもいかがですか?まだ夜は冷えますし」


「ありがとう、いただくよ」


まだ4月だ、上着は着てきたが気温はまだ低い。


(もう年寄りなんだから、こういうのには巻き込まんでほしいんだがなあ)


椅子に座ってお茶を飲んでいると、< 探 査 サーチ>の魔法に反応があった。


(馬2頭と人が3人・・・おそらくこれだな。だが・・・何だこの3人は・・・)


訝しげな顔で考える。


(なんというか、人型だが、魔力が人間らしくないというか・・・)


とりあえず外に出る。


あの3人が来るなら御者は間違いなくヒギンズだろう。


そう思い、馬車の御者台を見るが、そこにいたのは見たことのない若い大男だった。


「筋肉の壁」という点では共通していたが。



「ディックさん、ご無沙汰しております!」


大男は御者台から降り、ディックに近づきながら挨拶をしてくる。


「なんだ貴様は!お前など知らん!」


と叫ぶ寸前、大男が衛兵からは見えないように、掌に握り込んだ何かをかざしてきた。


青白く光る白銀のプレートだ。


(ミスリルの冒険者証!)


そんなものを持っている人物は1人しかいない。これ以上ない身分証明証だ。


(では、やはりこの馬車で間違いないのか)


咄嗟に調子を合わせる。


「いや、久しぶりだな!元気であったか!」


「はい、お陰様をもちまして、なんとかやっております」


「立ち話もなんだ。宿はとってあるからそちらへ行こう。皆さんも長時間の馬車旅でお疲れだろう」


「宿の手配までしていただいて・・・何から何までありがとうございます。奥様もお喜びです」


「副隊長、夜分にお騒がせした。お茶をどうもごちそうさま。では失礼する」


ディックは周囲で見守る衛兵達へ挨拶をして、馬車へ乗り込む。


そこには2人の若い女が座っていた。


赤髪で背が高く鍛えられた身体付きの女と、銀髪をお団子にし眼鏡をかけた良いスタイルの女だ。


外の大男同様、全く見覚えはない。


しかし、あの冒険者証、そして何よりこの2人の瞳だ。


色や形は違うが、その奥には自分が知っているあの2人を感じる。


「ごめんなさいねディック、驚いたでしょう」


と銀髪の女が静かに微笑む。


(この、嵐が来ても波一つたたないような、落ち着いた声音と口調)


「うちの孫が手数をかけたな。助かったぞ、ディック。ありがとう」


(・・・こちらは男口調だしだいぶ感じが違うな)


「あなた方が、私の考えている人達であるのは間違いないようですね。宿に着いたら説明をお願いします」


(やはり1、2杯引っ掛けておくべきだったか)


この後のことを考えると、ため息しか出ないディックだった。

ブックマークやご評価いただけると嬉しいですね!


お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)

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