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第303話

【更新について】


週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ


【前回まで】


本の取引から戻ったキースを補佐官達とアンジェリカが待っていました。アンジェリカは休憩の時に話題になった、『依代の魔導具を作成する理由』をキースに尋ねます。


□ □ □


「口外禁止……でございますか?」


「そう。目標が達成されるまで、お父さんが『もういいよ』と言うまで、口に出してはいけない。約束してくれるかい?」


アンジェリカは、訝しげに首を傾げ父を見る。正直『口外禁止』とまで言われるとは思っていなかったのだ。


「父様、自分から言い出したにも関わらず、この言い草はどうかと思うのですが……これはそこまでの事なのですか?確かに、王城には父様の目標を知っている方は多くは無いかもしれませんけど……」


(お城だと、まずは母様でしょ。後は、国務長官と、マルシェとレーニア辺りは知っていそう。結婚前から付き合いがあるし)


アンジェリカがパッと思い浮かぶのはそれぐらいだ。


だが、この考えは少々甘かった。


彼女は、自分の父親が常識では測れない人物である事を、改めて思い知らされる事になる。


「うん、1つ目の理由はね、目標を知っている人なら全員知っている。でもね、2つ目の理由を知っている人はほとんどいないんだ。お母さんだって知らないぐらいだから」


最後の一言にアンジェリカの目は驚きに見開かれた。


この父が行っている事の詳細を、母が知らないなどという事があるとは思わなかったのだ。


生み出してきた数々の魔法陣や魔導具、冒険者と王配、正反対と言ってもよい職業を両立させている事から分かる通り、この父親は(言葉は悪いが)非常識が服を着て歩いている様なものだ。


それでもそれを破綻させずに成立させてきたのは、母が父の行動と考えを把握して、がっちり手綱を握っているからだと思っていた。


それに2人は、仕事上の上司と部下(実際には相棒だが)という面でも最高のコンビであるし、それに加え私生活でも非常に仲が良い。


結婚して20年弱、子供も5人いるというのに、常にお互いを気遣い、ちょっとした言動や態度に愛情が滲み出ている。意見をぶつけ合う事はあっても、声を荒らげるところなど一度も見た事が無い。


以前には、側仕え達が『永遠の新婚夫婦』と言っているのを耳にした事もあった。心の底から納得した。


(だけど、まさか、そこに抜けがあったなんて)


・イングリットは知らない

・口外禁止


という事は、母にこの話をするつもりも無いし、知られてはいけないという事だ。


アンジェリカは単純な驚きと、『あれだけ仲が良い夫婦にも秘密がある』『尊敬する大好きな父親が母親に対して隠し事をしている』という事実に、言葉を失っていた。この辺りは、思春期の女子特有の潔癖さと言えるだろうか。


キースは微笑みながらアンジェリカの返事を待っている。


「……父様がそう仰るなら」


何とか気持ちを整理し、やっとの思いで返事をしてから、アンジェリカはあることに気がついた。


父が先程、自分の事を愛称ではなく名前で呼んだ事に。家族や親族しかいない場では愛称で呼ばれた記憶しか無い。にも関わらず、名前で呼ばれたのだ。


そこに気付いた瞬間、ただでさえ重い『口外禁止』、『母にも内緒』という2点が、より重さを増した様な気がした。


「その、2つ目の理由というのは、誰もご存知無いのですか?」


「いや、いわゆる僕側の、冒険者側の親族やデヘントさん達は知っている。貴族出身の方だと……前近衛騎士団長と現近衛騎士団長だね」


「……イゼルビット副団長は知らないのですか?」


意外な返答にアンジェリカは瞬きを繰り返す。


一代前の近衛騎士団長であるマテウスと、その後を引き継いだボブは知っているのに、同じ組織の責任者であるミーティアは知らない。それに違和感を覚えたのだ。


しかも、彼女は、長い間魔術師部隊の責任者を務めてきた、王国屈指の魔術師である。魔導具に関する事なのだから知っていてもおかしくないと思うが、彼女は知らないのだという。


「あ~、それは完全に偶然なんだ。2人に説明した時に、ミーティアさんはその場に居なかったんだよ」


「そうでしたか……知っている方とも話題にしてはいけないのですね?」


「そうだね。どこで誰が聞いているか分からないから」


「承知しました。口外禁止の件、改めてお約束します」


アンジェリカは父の緑の瞳を真っ直ぐに見返しながら頷いた。


「……うん、ありがとう。じゃあ伝えます」


部屋には誰もいないにも関わらず、キースはアンジェリカの耳元に顔を寄せて話し始める。


最初は耳にかかる息をくすぐったく感じていたアンジェリカだったが、父の明かしたその内容に、そんな事はどこかに吹き飛んでしまった。


(……口外禁止と言うわけだわ。本当に父様という人は……なぜこんな事を思いつけるのでしょう)


頭の中での整理が終わり、アンジェリカが再び口を開いたのは、キースが話し終えて100も経った頃だった。彼女はそれ程までに父の計画に衝撃を受けていた。


「……父様、何か私がお手伝いできる事はございますか?何でも仰ってください」


隣に座るキースの手を取り、これまでに見た事の無い程に力強く真剣な、だが、どこか少し悲しげな眼差しで見つめてくる。


「それは賛成してくれると受け取って良いのかな?ありがとうアンジェリカ。そうだね……今君が取り組んでいる様々な事柄について、引き続き頑張って欲しいかな」


「それだけですか!?もっとこう何か……」


思わず声が大きなり腰が浮きかけたが、口を噤んで座り直す。逸る娘を落ち着かせるかの様に、キースは自分より少し色の薄い金髪を優しく撫でた。


「一生懸命になってくれるのはありがたいのだけど、今のアンジェリカは、まだ基礎をしっかりと身に付ける段階だからね。焦る必要は無いよ?大丈夫、ゆっくりやろう」


「はい……」


確かに、計画に必要な『依代の魔導具』だって出来上がっていないのだ。自分でも気が逸り過ぎた事に気づき、頬が少し赤くなる。


「次の国王が誰になるのか、今の段階では何も決めていないのは知ってるよね?まあ、コーデリアはさすがに無いとは思うけど。レオンハルトも難しいかな」


コーデリアとは先日産まれた一番下の妹姫、レオンハルトは4歳になる下から2番目の王子の事だ。


男女取り混ぜて5人兄妹ともなると、下の2人は兄姉が成人してもまだ1桁の年齢である。その為、年長者全員が命を落としたり、デキが余程悪くない限り、その王位継承権が発揮される事は無いだろう。


「アンジェリカ、ゲオルグ、ジェラール、レオンハルト、コーデリア、5人で国王、近衛騎士団長、国務長官、いずれかの国務大臣、という感じになれば文句無いとは思うけど、これは本人のやる気と特性もあるからね。選択肢として示す事はしても、決めつけたくは無い。もちろん、完全に自由にして良いという訳でもないのだけど」


エストリアでは昔から『本人が嫌がる仕事をさせるのは能力の無駄遣いであり害悪である』という考え方が浸透している。だが、キースが上げた例は少々極端だとしても、能力以外に王族や貴族という立場が必要になる職種、というものが存在するのも間違いない。


能力もやる気もあるからといって、昨日まで漁師だった者を国務長官にする事はできないのだから。


普段から特権を得ている層は、その分同等の量の義務と責任を果たす必要がある。好き放題に生きる事は許されない。


「それでは、私は、母様の後を継ぐべく国王を目指す事に致します。もし国王向きでは無かったり、弟達の誰かの方がより良いという事であれば、それを助ける国務長官や大臣を目指しましょう」


「うん、分かりました。ありがとうアンジェリカ。……これはお母さんに伝えても良い?」


「自分の事ですから自分でお伝えしたいと思います……そうだ、夕食の前にお母様とコーデリアの様子を見に行きませんか?今日の報告もしなければいけませんし」


この『報告』というのは、2番目のゲオルグが生まれた時に始まった。安静にしているイングリットが、お見舞いに来た当時4歳のアンジェリカに、その日の出来事を尋ねたのだ。それ以来、イングリットが出産で休んでいる時の恒例行事となっている。


「では、皆にも声を掛けて全員で行こうか。バラバラに行くとその分お母さんの負担になるからね」


キースはソファーを立つと、通話の魔導具に近付き、子供達が居る部屋に対応している青石に魔力を流した。魔導具が起動したのを確認し、四角い受話器を手に取る。そして、部屋に詰めている指導官にこれからそちらへ向かう事を告げると、受話器を置いた。


この時間は毎日、各自のカリキュラムに合わせた座学を行っており、もう間もなく、6の鐘で終了するのだ。


さらに今度は別の青石に触る。そちらはイングリットの私室に繋がっていた。


「はい、こちらは女王陛下のお部屋、マルシェがお応えしております」


応答したのは、今も代わらずイングリットの側仕え兼護衛を務めるマルシェだった。もちろんレーニアも一緒に仕事をしている。


2人とも40半ばを過ぎたが、常にキビキビとキレのある動きを見せており、肉体的な衰えなどは全く感じられない。近衛騎士団出身で若い頃から鍛え続けている成果だ。


むしろ、徒手格闘では、近衛騎士団の師範でも敵わない域に達していた。肉体的にも体力的にも優位である筈の若い騎士達が、掴みかかっても捕らえ切れない。やっと捕まえたと思っても簡単にいなされ、投げられてしまう。2人の中年女性の足元に、大柄な騎士達がゴロゴロ転がっている光景は圧巻だ。


側仕えとしても、歳を重ねた事で『未知の手段で意思疎通でもしているのでは?』と思わせる程の連携を誇っている。


「マルシェさんお疲れ様です、キースです」


「これは王配殿下。いかがされましたでしょうか」


(こういうところがほんと流石なんだよな)


周囲にいる人々にも誰からの連絡なのか分かる様に、わざと誰が掛けてきたのかを口に出しているのだ。


「6の鐘過ぎに全員でお邪魔しようと思うのですが、大丈夫そうですか?」


「6の鐘の後に皆様方全員で…はい、かしこまりました。『待ってます』と仰せです」


「色々報告があるのでお楽しみに、と伝えてください。ではまた後で」


「はい、失礼致します」


キースは受話器を置くと、いつもの鞄と持ち帰った本を手に取るが、そこで動きを止めた。


「……アンジェリカ、さっきの口外禁止の件なのだけど」


「はい、どうされました?」


「いやね、僕と2人きりの時はアリ、としようかなと。全く話せないのもしんどいだろうから」


「……お気遣いありがとうございます。父様がそれで良いとされるなら、そういたしましょう」


「まあ、正直ね、この事を話題にする事はほぼ無いとは思うんだ。『依代の魔導具』が完成すればそれは皆に伝えるし。どちらかというと、お母さんに2つ目の理由があるという事を知られたくないだけだから」


キースでは、イングリットに一度怪しまれてしまったら、隠し通すのはまず無理だ。なら、怪しまれる切っ掛けを作らない様にするしかない。


「ふふ、分かりました」


「よし、では参りましょうか、姫様。お手をどうぞ」


「もう、父様ったら」


アンジェリカは左手を伸ばし、おどけた口調と共に伸ばされた右手を取る。2人は顔を見合わせて短く笑うと、執務室を出た。

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お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)

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