第302話
【更新について】
週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
王都の冒険者ギルドから連絡を受け、本の買取に出向いたキース。その本はかつて、アリステアが遺跡の最深部で見つけ、同行した魔術師に報酬として渡したものでした。不思議な縁にびっくりです。
□ □ □
「戻りました~。皆さんありがとうございました!」
冒険者ギルドから戻ってきたキースは、声を掛けながら奥にある応接セットへと向かう。
そこでは既に帰る準備を整えた補佐官達が、アンジェリカとお茶を飲んでいたが、キースの姿を見て立ち上がった。
「お帰りなさいキースさん……手応えは如何でしたか?」
「その様子だと、好感触だったみたいですね」
「流石は女王の両輪と名高いお2人、簡単に見破られてしまいましたね!」
(そんな弾む様に歩いてくれば、私でも判ります)
(行く時その本持ってませんでしたから)
アンジェリカとリアムの視線を受けながら、一人掛けのソファーに座る。キースが座るのを見て補佐官達も再び腰を下ろした。キースの前にもお茶が運ばれてくる。礼を言って一口飲み喉を湿らせる。
「もうお察しだとは思いますが、冒険者ギルドからの連絡は、この本の買取をするかどうか、というお話でした」
本を両手で持ち胸の前に持ってくる。皆の視線が本に集まった。
「父様、やはり『依代の魔導具』や『石力機構』に関わるご本、でしょうか?」
「多分ね。まだ後書きしか見てないから、何が書いてあるのやら……あ、目次は見たけど『魔導具について』とか、とてもシンプルでそれだけでは内容が分からなかった。サンフォードさんの弟子の弟子の弟子、というかエミーリアさんから繋がっている人が書いた本だから、そちら方面だと思いたいけど……」
サンフォードからでは分岐が多過ぎるが、エミーリアは猫型の『依代の魔導具』を作った人物だ。そこから繋がっているから大丈夫と考えている。
「お屋敷にお邪魔した時も言っておられましたね。何でもお出来になったから、お弟子さんもたくさんいらっしゃったって」
リアムはキースの屋敷にある地下室で、エレジーアとサンフォードと話をした事を思い浮かべた。
「お師匠様が一緒でも、専門が違えば全然関係無い内容になりますものね……」
ハンナの言葉にキースは頷く。
キースは未知の知識を得るの事も大好きだが、最初に猫型の『依代の魔導具』を作成してから、間もなく20年が経とうとしている。期限があるわけではないが、さすがにそろそろ進展が欲しくもあった。
「では父様、楽しみだけども、期待が大きいだけにちょっと怖い、という心境でしょうか」
全く進展の無い状況で見つかった新しい資料。その内容にはどうしたって期待してしまう。期待度が高ければ当然ガッカリ度も高くなる。
「まさにそれだね。早く読みたいけど中途半端に読んでしまうと、また落ち着きが無くなってしまうから。アンジェさんに怒られてばかりはいられませんよ」
「あら父様、そもそも、お城でお仕事しているだけなのに、怒られる方がおかしいのでは?母様もまだお休みなのですから、真面目にやってくださいませ」
わざとらしくゆっくり言うと、目を細めてにっこりと笑う。
「え、あ~、そ、そうね、そう……だよね。あ、それでね、この本とは何やらとても不思議な縁があるみたいで」
キースは露骨に話題を変えると、二アークから聞いた本の由来を説明した。
さすがのアンジェリカや補佐官達も、かつてアリステアが見つけ出した本で、数十年後に孫であるキースの手元に届いたという事実には、驚きを隠せなかった。
その後、産まれたばかりのコーデリアの話題でひとしきり盛り上がった後、補佐官達は席を立つ。
「それではキースさん、殿下、失礼致します」
「はい、お疲れ様でした!また明日もよろしくお願いします!」
代表してハンナが挨拶をし、補佐官達は執務室を出る。
本来、補佐官達が、自分より立場が上であるキースの事を『さん』呼ばわりは有り得ないのだが、キースの『殿下と呼ぶのは他の貴族の前や公の場だけにして欲しい』という、強い希望によりそうなった。どうにも落ち着かないのだという。
結婚当初からの事なので、ハンナとヨークはもうこの方がしっくりくる。逆に今から『やっぱり殿下で』と言われたらかなり戸惑うだろう。まだ若いリアムならまだしも、2人とも50の半ばも過ぎた。咄嗟に切り替えるのは難しい。
補佐官達を見送ると、部屋の中は静かになった。頃合いとみたアンジェリカは、既にピンと伸びている背筋を改めて伸ばすと、父に対して向き合った
「父様、もうお察しとは思いますが、お尋ねしたい事があってお待ちしていたのです」
イングリットの執務室は『勤務終了時間になったら速やかに終了し帰宅する事』と定められている。にも関わらず業務終了後も残ってお茶を飲んでいたのは、キースの帰りを待つアンジェリカに付き合っての事だったのだ。
「……どうぞ」
「『依代の魔導具』を再現する理由を教えていただけますか?」
アンジェリカは真っ直ぐに問い掛けた。
父は駆け引きが必要な周辺国の駐在大使でも、大商会のオーナーでも無い。それに、この件に関しては小細工せずに正面から当たった方が、自分の気持ちが伝わりそうと感じたのだ。
「……ふむ。なぜ知りたいのかな?」
アンジェリカは、キースが出掛けた後の、中庭での休憩の時に補佐官達とした話を説明する。『石力機構は生活の質を上げてくれそうだけど、依代の魔導具は使用者を選ぶし……』というアレだ。
「なるほど……確かにそうかもしれないね。では、お答えしよう。お察しの通り、『石力機構を再現させる為』というのが一番の理由だね。あれは仕組みの詳細は秘密にされていたし、全ては爆発して無くなってしまった。時間がかかる事は最初からわかっていた。だから、『依代の魔導具』をある程度まで完成させて、じっくり研究する時間を確保する必要があると考えたんだ」
実際、エレジーアとサンフォードにその存在を教えられ20年が経つというのに、判った事といえば『時を告げる鍾は石力機構で動いている』という事だけである。
キースはアンジェリカに説明しながら、娘が素直に自分に尋ねてきた事に胸を撫で下ろしていた。そして、同時に、自分の目算が甘かった事を痛感していた。
『分からないから知ってそうな人に尋ねてみよう』と考えたアンジェリカが、最初に思い浮かべた相手は父方の関係者だったが、これらの人々にはいつ会えるかはっきりしないという欠点がある。
屋敷や冒険者ギルドとは『転移の魔法陣』で繋がってはいるが、いくら身内とはいえ、王女たる者が好き勝手に移動しては大混乱である。周囲の人々にとっても迷惑この上ないし、いくら曾祖母や祖父母が彼女に甘いとはいえ、そんな身勝手な事をする相手には、会ってくれないだろう。
だが、あの時アンジェリカと補佐官達は気付かなかったが、もっと近くに一番知ってそうな人物がいるのだ。逆に、なぜ思いつかなかったのかと考える程に。
そう、妻であり母であるイングリットである。
キースの目標に対してイングリットが詳細を知らない、などという事は誰も思いもしない。むしろ、知っていて当然なのだ。彼女はキースの配偶者であり、上司なのだから。
だが、実のところ、先程キースが言った一番目の理由以外は知らない。
イングリットは娘以上に察しが良く、人生経験を積んだ事で、ちょっとした切っ掛けさえあれば、あっという間に真実に辿り着いてしまう程になっている。
その辺キースは甘っちょろい。いかにも貴族的な、少々回りくどい思わせぶりな会話はできるが、その程度でイングリットに対抗するのはとても無理だ。
イングリットが娘の質問に違和感を覚えた事で、じっと目を合わせながら静かに問い詰められー、すぐに丸裸にされてしまうだろう。キースは自分でした想像に内心身震いした。
「……一番の理由、ですか。という事は二番以下の理由もあるという事ですね?」
(こういう頭の回転の良さがイーリーそっくりだよね)
その問い掛けにはすぐには答えず、この可愛いく聡い娘をじっと見つめる。そして先程の予測(予想や想像では決して無い)が現実にならない様に、先手を打つ事にした。
「アンジェリカ、もう1つの理由は口外禁止だよ?守れるかい?」
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