第301話
【更新について】
週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
ライアルから連絡を受け冒険者ギルドにやって来たキース。本の後書きを読んだだけで大興奮です。持ち主である二アークから『アリステアさんの一族の手に渡る運命だった』と言われ不思議に思っています。
□ □ □
「この本は昔、アリステアさんが私の父と街の近くの遺跡に行った時に発見されました。父、クエイドというのですが、その時の報酬として、この本を貰ったのだそうです」
ライアルとキースは目を丸くしたが、ネアルコは笑顔のままだ。ニアークから予め聞いていたのだろう。
「ロシュフォールの街からほど近い所にあるあの遺跡は、当時まだ誰も最深部まで到達できていませんでした。それをアリステアさんと父が初めて成し遂げたのです」
「ギルドでも、当時の名高い冒険者達を退けてきた、まさに『難攻不落』といってもよい程の遺跡だったと伝わっています」
「お父上は、クエイドさんは銀級冒険者だったと伺っていますが……もしや『遺跡の最深部の扉に魔法陣で鍵が掛けられていた為、開ける事ができなかった。一度地上に戻り魔術師を連れてもう一度最深部まで行き、魔術師が扉を開けてお宝を回収して、無事戻った』というお話ですか?」
キースがアリステアオタクっぷりを発揮した。もちろんライアルも、そらで語れるぐらいしっかりと覚えてはいる。
「はい、その通りです。その連れられた魔術師が父なのです」
「「おお~……」」
目を丸くしていた親子は、今度は感嘆の溜息をハモらせた。
「『アリステアの単騎駆け』の中でも一番有名なお話ですね!あれにご一緒されていた魔術師だったなんて!これは凄い!」
基本的にアリステアは1人で遺跡に入っていた為、ほぼ全て『単騎駆け』なのだが、この件は
・未踏破で、下層にはまだ守護者も残っている遺跡
・一度最深部まで辿り着いたのに地上へ戻っている
・魔術師を誘導をしながら、再度最深部に辿り着く
・お宝を回収して2人とも無事に地上へ戻ってきた
という、単騎駆けシリーズ(?)の中でも飛び切りヤバい内容だ。
「父は当時はまだ20代後半でクラスも銅級でした。アリステアさんから依頼があって、皆が手を挙げた中、当時のギルドマスターから『ぜひクエイドに』と請われたそうです」
「この事はギルドでも語り草になっています。魔法陣の鍵を解除できるだけの力があり、尚且つ、着いて行けそうな体力のある魔術師は、あの場に何人かいたそうです。ですが、当時のギルドマスターは、その中でもクエイドさんが一番と考えて送り出した、という話ですね」
ネアルコがギルド側からの視点を明かす。
未踏破(当時)の大きな遺跡に近い街である事から、ロシュフォールの街を拠点に活動する冒険者は多かった。当然、それに比例して魔術師も多くなる事から、達成できそうな魔術師がクエイド以外にいても不思議は無い。
だが、相手は国民的冒険者で、冒険者の在り方を根本からひっくり返した、ある意味全冒険者の恩人ともいえる存在だ。地元の冒険者がその足を引っ張り、万が一があったらどうなってしまうのか。人選にも慎重になろうというものだ。
「しかし、守護者の守る遺跡を母のペースで一緒に進むのか……絶対に嫌ですね」
「ええ、本当に……勘弁して欲しいです。クエイドさんを心から尊敬します」
親子は溜息を吐きながら顔を見合わせた。
「お2人でもそうなのですね……父もこの話はあまりしたがらなくて。余程の目にあったのかなと思っていましたが……」
2人に釣られてかニアークも溜息を吐く。
無事に戻ってきたクエイドに対して、皆こぞって話をせがんだが、クエイドは二、三度話しただけだった。さすがに息子であるニアークにはしてくれたが、今思えば子供向けに端折ってあったし、父がこの話をしたがっていないと気がついてからは、せがむのをやめた。
「クエイドさんが亡くなられて4年程経つと伺いましたが、この本以外の遺品で何か残っている物はありますか?」
銀級まで到達した魔術師の遺したあれこれであれば、自分の捜し物があるかもと考えたのだ。
「思い出の品とした愛用の杖とローブだけです。父はギルドの指導官を引退してから、手元の本や素材をお金に替えて遺してくれました。なので、この本が鍵の掛かった引き出しから出てきた時は、まだ残っている物があったのかと少し意外だった程なのです」
「そうですか……残念です。では、ニアークさんはこの本の存在を知らなかった、という事ですね?」
「はい。先日見たのが初めてです」
「ふむ……ネアルコさん、クエイドさんがこの本を読める程の魔力があったかどうか、なんて分かりますか?」
「さあ……私が冒険者になった頃、クエイドさんはまだ現役でしたけど、お話した事はありません。雲の上の人過ぎて、ペーペーの新人が話し掛けるなんてとてもとても……あ、そうだ」
「何かありますか?」
「クエイドさんはこの件以降、全ての遺跡に行かなくなった、という話を聞いた事がありますね」
「……この遺跡以外もですか?どんな理由がありそうでしょう?」
確かに最後の扉は開いてしまったが、道中は全てスルーである。途中にまだ隠されているお宝はある筈だ。それを見つけ出すだけでもかなりの稼ぎになるだろうし、魔術師的に貴重な物が手に入る可能性だって十分にある。それを見逃すのは冒険者を生業にする魔術師らしくないし、直接関係無い遺跡までとなると、余程の理由が無ければそうはならないだろう。
「……先程のお2人の反応からすると、入ると色々思い出してしまうから、とか?あ、別にアリステアさんがどうこうという訳では無いですよ?」
「はは、お気になさらず。言い出したのは私達ですから」
「そうですとも。全てはおばあ様のせいです」
慌てて言葉を足したネアルコに、ライアルとキースは笑いながら、この場にいない母(祖母)に責任を押し付けた。
その時ちょうど、遠くから5の鍾の音が聞こえてきた。
「おっと、お話が楽しくてだいぶゆっくりしてしまいました。そろそろ帰らないとまた娘にどやしつけられてしまいます」
「仕事中抜け出してきたのだものな。大丈夫だったのか?」
「案件の数的には大丈夫、の筈です……『このままでは役に立たないから早く行ってこい』と言われましたので。でも、遅ければ遅いでまた怒られるのだと思います」
アハハと右手で後頭部を掻く。この辺は若い頃と変わらない仕草である。後ろから見たら今と昔、見分けがつかないだろう。
「あ、王女が常に怒っているという訳では無いのですよ?そこはご承知おきください。あと、この話は一応内緒でお願いします」
笑いながら人差し指を口の前で立てる。これはアンジェリカの変な噂が流れない様にする為だ。
「本の代金は私が代わりに出しておくから、また時間のある時で良いぞ」
「ちょうどお願いしようかと考えていたところです。ありがとうございます」
「……急いで出てきたから用意していないだろうとは思っていた。案の定だったな」
ライアルがわざとらしく胸を張る。息子の考えなどお見通しである。
「ニアークさん、ネアルコさん、今日はありがとうございました。一度その遺跡に行ってみたいと考えていますので、その時はまたよろしくお願いします。あ、あと、クエイドさんのお墓参りもさせてください。直接お礼も伝えたいです」
「父はよくキースさんの事を『本当にとんでもない魔術師だ』と、まるで孫を自慢するかの様に語っておりました。ご本人に来ていただけたらきっと喜ぶでしょう。本も、書いてある内容がお役に立てば良いのですが」
「私共もお出まし楽しみにしております。その時はギルド総出でお出迎え致しますので」
「え、いや、静かにそっと行きますのでそこは……」
キースは本を左手に持ち脇で抱え、いつもの鞄をたすき掛けにすると、最後にもう一度礼をして続きの部屋へと入っていった。3人は閉まった扉を見つめていたが、誰とも知らず大きく息を吐いて背もたれに寄り掛かる。
「いや本当に騒がしい事で。お恥ずかしい限りです」
「いえいえ、王配として忙しくされているのですから、どこかで素の自分を出して発散していきませんと」
「私はただの定食屋の親父で冒険者ですらありませんが、こう、何と言うか、活力に満ち溢れているというのでしょうか?勢いが凄いですね。聞いた事のあるお話の通りの方でした」
ロシュフォールの街は王都から南に1000km程と、かなり距離が離れている。その為、一般市民が王都や王族に関する話を耳にする機会など、ほとんど無かった。
だが、『転移の魔法陣』の供用により人の行き来が増えた事で、人と一緒に情報が行き交う様になった。人々の口には様々な話題が登る様になり、逆に、ロシュフォールの街の事も王都に伝わっていった。
「ギルドの馬車を出しますので、転移所まで乗っていってください。あと、大金をお持ちですから、私もご一緒しますので」
「ありがとうございます。まさか金級の方に護衛していただけるとは……恐縮です」
かつてライアルが『北西国境のダンジョン』でメルクス伯爵(当時)の護衛に就いていた頃、その契約は時給2000リアルだった。歳を取ったとはいえ、そのライアルの護衛である。国内最高峰レベルの心強さと言って良いだろう。
「では少々お待ちください。今お持ちしますので」
ライアルは息子の代わりに支払う本代を用意する為、執務室を出た。
ブックマークやご評価、いいねいただけると嬉しいですね!
お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)




