表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
301/341

第300話

【更新について】


週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ


【前回まで】


執務中に冒険者ギルドから連絡が入り、落ち着きが無くなったところを娘に追い出されたキース。冒険者ギルドへと転移しました。


□ □ □


(お、来たな)


ライアルは隣の部屋に人の気配を感じ、扉の方を向く。それとほぼ同時に、蝶番ごと外れるのでは?と思わせる勢いで扉が開いた。


「失礼します!お待たせしました!」


「……扉が取れる。もっと静かに開けなさい。お客様もびっくりしてるぞ」


「あ、はい、すいません」


謝ってはいるが、ライアルの苦言を気にした素振りなど全く見せない。今の彼にとって扉の事など全く頭に無いのだ。


(全く、夢中になるとコレだからな。歳をとっても王配になっても、子供が生まれても全然変わらん。良いのか悪いのか……)


ライアルはそんな息子に内心溜息を吐いた。そして、彼の母が昔言っていた事を思い出した。


『人間は知識や経験を重ねる事で行動はより洗練されてゆく。だが、その人の本質、心根は、余程大きな何かが起きない限り、ほとんどの人は死ぬまで変わらないし、変わったとしてもごく僅かである』


という話だ。


(あれは……あの祝賀会の時だったか。懐かしいな)


秋の収穫祭が急に一日延長になったかと思ったら、まさかそれが、自分達の昇級のお祝いだったのだ。まさに、死ぬまで忘れられない思い出となった。


結局、ライアルは50半ば、金級で現役を引退引退した。


体力面ではまだまだやれたが、マクリーンやニバリはそうもいかない。ハイエルフのシリルは若いままだが、今更妻とニバリがいない中で活動する気にもなれなかった。


それに、自分程の実績があるベテランが最前線でガツガツやるというのは、ライアルとしてはどうもしっくりこないというか、違和感を覚えたのだ。


(終わる事に未練が無い、という事だろうか?)


そうはっきり自覚した時、何となく心がストンと落ち着いた気がした。その為、冒険者としての活動を終える事にしたのだ。


ちょうど、ディックの後を引き継いでギルドマスターに就いていたサイモンが引退した事もあり、そのままギルドマスターになる事になった。


ライアル自身は『いきなりマスターは無いだろう』と固辞しようとしたが、『金級だった人間を一般職員とかサブマスターという訳にはいかない』『そんなの仕事がしづらくて仕方が無い』という職員達の声に押され、結局引き受けた。もちろん、『引退即ギルドマスター就任』というのは初めての事である。


過去5人しかいない『金級冒険者』という看板を持ち、元々頭も良く、書類仕事も苦にしない事から、現在も大過なくギルドマスター職を務めている。


職員や冒険者達は(やっぱり上に立って指示を出す事に向いた人っているんだな)と、妙なところで納得、感心しながら日々を送っていた。


□ □ □


「こんにちは!魔術師のキースと申します!今日はご連絡ありがとうございます!」


「……あ、はい、こちらこそ、なんと言いましょうか……よろしくお願いいたします」


2名の男性は困惑した顔を見合わせた。王配殿下が、あの白銀級冒険者が来ると気を張っていたら、やって来たのがコレである。


「右側がロシュフォールの街のギルドマスターを務めるネアルコさん、左側が持ち主のニアークさんだ。お2人共、先程も言いましたが、彼はここにいる時は一冒険者の魔術師ですので。色々面倒な事は一切気にしないで結構です。普通になさってください」


「は、はい。分かりました……」


皆がソファーに座ると、職員がお茶を配膳してゆく。退出したのを機にライアルが話を切り出した。


「それで、今日は本をお持ちいただいたという事ですが」


「はい、コチラになります」


ニアークが木箱の蓋を外し、詰めてある緩衝材を抜いてゆく。箱の中で動くと角が潰れてしまったり、本自体に擦り傷ができてしまう。それを防ぐ為に柔らかい布で包み、箱内の隙間を埋めて固定してあるのだ。


中から出てきた本は、表紙の装丁こそ黒い表紙に銀の縁どりと見栄えのするものだったが、大きさも厚さも程々と、ごく一般的なものだった。


「ネアルコさんは中を確認されたのですか?」


キースの言葉に、話を振られたネアルコだけでなくニアークも困った表情になる。


「それが……なんと言いますか……これは、見ていただいた方が早いと思うのです」


そう言うと、ネアルコはライアルの方へと本を押しやった。キースは横から手を出しそうになったが自重した。さすがにお行儀が悪過ぎるだろう。


「……分かりました。では失礼します」


腿の上に本を載せ表紙をめくる。だが、手はそれ以上動かず首を傾げる。


「これは……一体」


「はい、何も書かれていないのです。というか、実際は書いてある様なのですが、見えないのです。ギルドでも読める、見える者を探したのですが、1人だけしかおりませんでした。その1人にしても読めたのは『後書きにかえて』という部分だけで……本文は誰も見る事ができていません」


「それはまた……」


ライアルも眉間にしわを寄せる。が、キースの答えは明確なものだった。


「恐らく魔力が一定量ないと読めない仕様にしてあるのだと思います。昔、一度だけ見た事があります。本では無くメモ紙でしたが。ちなみに、今開いているページは目次です」


北国境の城塞跡で、エレジーアの部屋に一番最初に入った時の事だ。メモ用紙が机の上に置かれていた。キースには読めたが、アリステアやフラン、クライブは『何も書かれていない』と読む事ができなかった。


「そんな仕組みがあるのか……だが何の為にそんな事を?」


「本の内容を活用できる力があるかどうかを見極めているのだと思うのです。そうする事で、本棚で死蔵されるのを防ごうとしているのかと。読めない本を持っていても仕方ありませんから」


「『読めないのならこの本を役立てる事はできない。さっさと手放しなさい』という事か?それはそれで中々に厳しいな」


親子のやり取りに、ネアルコとニアークは繰り返し頷いている。


「こちらはその『後書き』を写したものになります。これを見てライアルさんに連絡をしたのです」


ネアルコが書類筒から紙を1枚取り出し、キースへと渡す。読み始めてすぐに、キースは心臓がドクンと大きく跳ねたのを感じ、書類を見つめたまま固まった。


横からライアルが書類を覗き込むと、そこにはこう書かれていた。


『何も持たなかった私にこれを記す知識を分け与えてくれた我が師、ヌレイエフに感謝を捧ぐ。そして、師へと英智を繋いだ偉大なる先達たち、エミーリア、サンフォード、エレジーアらにより大きな感謝を。ミエスク』


(ヌレイエフからミエスク……エレジーア、サンフォードから続く直系の弟子筋という事なのか!? )


まだキースが白銀級になったばかりの頃、猫型の『依代の魔導具』を作成する際に、冒険者ギルドで素材の買取の募集を行った。その時に一緒に『サンフォード、エミーリアという名前が出てくる本や資料』も募集した。


これは今も継続して募集が掛かっており、現在のキースの立場も相まって、どこのギルドでも一番目立つ場所に掲示されている。ネアルコはこの募集に応じたのだ。


キースが冷めてしまったお茶を一息で呷り、大きな溜息を吐いた。


「いや~、これはまた、凄いものが出てきましたね……衝撃的過ぎます」


「いかがでしょう?買取の方はしていただけそうですか?」


「はい、もちろんです!こちらこそぜひお願いします」


「おおっ!それは良かったです。……この本はやはり、アリステアさんの一族の方が持つ運命だったのでしょうな」


ニアークが感慨深げに溜息を吐いた。


「と、言いますと?」


なぜここでいきなり母(祖母)の名前が出てくるのか。しかも運命とは少々大仰とも思える。親子は不思議そうに視線を交わした。

ブックマークやご評価、いいねいただけると嬉しいですね!


お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ