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第299話

【更新について】


週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ

【前回まで】


月日は流れ、イングリットとキースの長女であるアンジェリカも14歳となり、定期的に執務室で業務を行っています。仕事どころでは無くなってしまった父を追い出し、補佐官達と午後のお茶休憩をしています。


□ □ □


かつてイングリットがアルトゥールに話をした様に、イングリットとキースは、頃合の年齢になった子供達には、性別に関係無く執務に携わせる事にした。アンジェリカも13歳を迎えてから、両親や補佐官達と共に執務に取り組み学んできた。


ただ、イングリット自身の時とは状況が違う事もあり、執務室に来るのは週に2日程と、かなり余裕をもたせてはいる。


王女であればお茶会やパーティなどの社交、特性に合わせた技術的な修練、一般的な教養など学ばなければならない事は多い。執務だけしていれば良い訳では無いし、基本的に手は足りているのだ。


では何の為に行っているのかといえば、やはり『王族としての義務を果たせる様になる為』である。


政策の立案から成立するまでの流れや、陳情に対しての考え方や処理の過程等、これらは王族として当然身に付けていなければならない事だ。それを一番手っ取り早く学べるのは、やはり実際に執務に携わる事である。


ここ数十年間のエストリアは、きちんと務めが果たせる王族がアルトゥールしか存在しなかった事で非常に苦労した。国民も(人によって程度の差はあれど)心が波立つ様な思いを感じながら生活してきた。


アルトゥールの様にひとりしかいないならまだしも、受け継ぐ資格の有る者が複数いるのであれば、誰が国王になったとしても、きちんと国が回る様に育成し備えておかなければならない。『世の中何があるか解らない』というのは王室も国民も痛感しているのだ。


アンジェリカの下には弟達が3人おり、先日5人目となる妹も産まれた。必ずしも『長子相続』という訳でも無い事から、将来誰が国王になるかは現時点では全くの未定だ。


能力、性格、やる気、健康面など、考慮しなければならない事は多い。よって、現時点で決めたとしても意味が無いのだ。むしろ視野が狭くなるだけで害悪しかないと言える。


弟王子達も順次この部屋に加わっていく予定になっている。その過程の中で見極めていく事になるだろう。


□ □ □


「先程父様が受けた連絡、あれは冒険者ギルドからでしたよね?」


アンジェリカは、今日のお茶菓子であるクッキーを一つ手に取り口に入れると、続けてお茶を一口飲んだ。この茶葉を混ぜて焼いたクッキーは、彼女のお気に入りだ。生地に混ぜられた茶葉との相乗効果で、どちらもがより美味しくなる。


飲むお茶と生地に混ぜる茶葉との組み合わせは無限と言える程である為、一言で『茶葉を混ぜたクッキー』と言っても、膨大な数のレシピがある。


中には、レシピとして残らなかった残念な組み合わせもあったはずで、どれだけ試行錯誤されてここに至ったのか、アンジェリカには想像もつかない。


彼女にできる事は、残さず食べ作った者に『美味しかった。ご馳走様』と礼を言う事ぐらいである。


「はい。連絡を受けた時、青石が短く3回、点滅を繰り返しました。あの光り方は、王都の冒険者ギルドのギルドマスターからです。間違いありません」


リアムが言い切った。この辺りはさすが魔術師である。


執務室の一角には、相手方とリアルタイムでやり取りできる魔導具が設置されている。そこに入ってきた連絡を受けてから、キースの様子がおかしくなったのだ。


「おじい様からですか……どんなお話でしょうね。父様があそこまで挙動不審になる事は、なかなか無いと思うのですが」


「……やはり『依代の魔導具』か『石力機構』絡みではありませんか?状況が変わる様な、画期的な何かが見つかったのかもしれません」


ハンナの視線の先では、キジトラ柄と白毛、2匹の猫が日向で丸くなり寄り添って寝ている。この2匹は仲が良く、城内の至る所で一緒にいる姿を見掛ける。


キースが生涯を懸けて取り組むと決めた『人型の依代の魔導具の作成』と、街を魔力で満たし魔導具を稼働させる仕組みである『石力機構の構築』、これらはどちらもここ10年以上進展が無い。


『依代の魔導具』については、猫型の物を無事完成させる事ができたが、そこから先には進めていない。『石力機構』については開始から進捗ゼロだ。暇を見つけては国内の遺跡に出向いて手掛かりを探したりもしているが、全く芳しく無い。


そんな状況で進展が望める何かが出てきたとなったら、それは落ち着きも無くなるだろう。


「そもそも、父様はこれらを再現してどうしたいのでしょう?『石力機構』は国民の生活の質が間違いなく上がると思うので良いのですが、『依代の魔導具』は扱える人と扱えない人がいるというではありませんか。確かに、過去の叡智を甦らせるという事にはロマンを感じますけど……ご存知の方いますか?」


アンジェリカの疑問に補佐官達は顔を見合わせる。よくよく考えてみると、その辺りの理由は聞いた事が無かった。


「そうですか……お時間ある時にでも父様にお尋ねしてみます」


(もし内緒だと仰るなら、おじい様やおばあ様、おじ様おば様方にお会いした時にお尋ねしてみましょう)


アンジェリカの指す『おじい様』『おばあ様』『おじ様、おば様』というのは、ライアルやアリステアら父方の血が繋がっている人々と、デヘント達を含めた各パーティのメンバーの事だ。特に曾祖母はアンジェリカには甘い。見込みはあるのではと考えていた。


話が途切れたその時、ちょうど3の鐘が鳴った。


「よし、ではもう少し頑張りましょうか!父様が置いていった分もありますしね」


アンジェリカはカップに残っていたお茶を飲み干し、ミレットに「ご馳走様でした」と声をかけて席を立つ。腕を回し、肩をほぐす様に動かしながら執務室の扉へと向かう。


(……肩から背中、腰にかけてとか、本当によく似ていらっしゃるのよね)

(懐かしい。だが、今もはっきりと思い出せる)


ハンナとヨークはその後ろに続きながら、アンジェリカの背中に、執務に取り組み始めた頃のイングリットの姿を重ねていた。


イングリットが執務に携わる様になったのは12歳の頃だ。


次の国王という重圧と不安、解らない事だらけな自分の不甲斐無さに、よく涙目になっていた。


だが、彼女は、決して挫けず、泣き言を漏らさず、手を抜かず、補佐官達を質問攻めにして食らいついてきた。その姿に感銘を受け、彼らも毎日全力で臨んだ。


だが、そんな姿は最初のうちだけで、すぐに自分達を越える処理能力を発揮し始め、皆で舌を巻く事になったのだ。


(この方が王となるかは分からないし、私が何か言える立場では無いけれど、もしそうなっても良い様に最後まで全力を尽くしましょう)


まだ細い肩とその後ろ姿をじっと見つめながら、ハンナは思いを新たにした。

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