第29話
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5の鐘を過ぎた辺りから、依頼を終え戻ってくるパーティーが増え始めた。
キースは待合室全体が見渡せる端の席に座っていたが、一つ困った事に気が付いた。
声をかけたくても、どのパーティが魔術師を募集していたパーティーなのか分からないのだ。
パトリシアさんにでも確認したいところだが、窓口は絶えず冒険者が来ており忙しそうである。
空気が読める(読み過ぎてしまう)子のキースは、図々しく割って入ることができない。
とりあえず「報酬受取」の窓口の横で、待っている間に書いた「魔術師1名パーティ募集中!」と書かれた紙を、胸の高さに持って立つ。
報酬を受け取り窓口を離れる冒険者に、魔術師を必要としていないか手当り次第に声をかけてゆく。
「魔術師1名いかがですか?昨年度の学院主席卒業生ですよ!ほら、杖のここに刻印があるでしょう?これは主席卒業者の杖にしか入っていないのです!いかがですか?」
「お見受けするに、魔術師がパーティにいらっしゃらない様ですが、僕なんていかがですか?見た目じゃない事をお見せしますよ!」
自分を売り込む事に一生懸命だったキースは、ギルドマスターの姿が待合室にないことに気が付いていなかった。
ギルドマスターは建物の外に居た。
「おう、お疲れさん」
「マスター? どうしたんですか、こんなところで?」
「いいか、中に入ると金髪の魔術師の少年が、魔術師を募集していないかと尋ねてくる。それには募集していない、今は必要としていない、と答えてくれ」
入ろうとする冒険者相手に、自分で直接声を掛け言い含めていたのだ。
その中には、例の魔術師を募集していた3つのパーティも含まれていた。
「魔術師の募集は一旦保留とさせてほしい。なに、明日か遅くとも明後日までの話だ。すまんが、よろしく頼む」
「あ、はい・・・分かりました・・・」
(人に任せるより、これが一番確実だな)
なんと言っても依頼者が依頼者である。ミスは許されない。なりふりかまっていられないのだ。
冒険者達は(どんな話なんだこれ・・・?)と不思議にと思いつつも、ギルドマスターに直接頼まれては断れない。
皆、キースの勧誘に対しそう答え続けた。
そして、7の鐘が鳴る頃には人の流れも止まってしまい、また閑散としてくる。
(これは・・・今日はもう厳しいかな)
今ここにいるのは、既に声を掛け断られた人だけだ。
(これは早めに宿に戻り、明日の朝に賭けた方がいいな)
「今日は一日お騒がせしました。ありがとうございました。また明日も喧しいとは思いますが、よろしくお願いします。おやすみなさい」
キースは職員達に声を掛けてギルドを出た。
(いい子過ぎるだろ・・・天使かよ・・・)
ギルド職員達は変な罪悪感を感じた。
宿へ戻る道すがら、キースは先程の状況について考える。
声を掛けた人達、皆が判で押した様にほぼ同じ返答だった。
口裏を合わせている、というのは間違いないと思う。
そのうちの何人かは、明らかに目が泳いでいた。
それが募集をかけていたパーティだったのだろうか?
ほとんどの人は建物内に入ってきて、必要な窓口に寄っただけ。職員に呼ばれて奥へ入ったとか、そういった人はいなかった。
入口から報酬受取の窓口までの間で、どうやって口裏を合わせる?
窓口に寄った時に、指示が書かれたメモを必要書類と一緒に渡していたとか?
まさか「外で直接声を掛ける」という原始的な手段だったとは夢にも思わない。
(ちょっと分からないな・・・夕方になって、あのギルドマスターの姿を見かけなかったのも気になる。できれば明日の朝にはパーティに入れてもらって、王都を出たい。いつまでもここにいたら間違いなく捕まる。とりあえず今日は早く休んで、明日の早朝から声をかけていくしかないな)
キースは、宿の隣の昼食をとった店に入り、お店のお姉さんに大歓迎されつつ食事をとり(デザートをサービスしてもらった)宿に戻った。
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