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第298話

【更新について】


週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ

【前回まで】


イングリットの初めての出産は無事に終わりました。その後も複数の子宝に恵まれ、クライスヴァイク家の血筋は勢いを取り戻し、再び繁栄を続ける事になりました。そしてさらに月日は流れ……


□ □ □


エストリア王国の王都エストリオ、その王城の最奥にある執務室。そこは、女王とその夫である王配、補佐官達が業務を行う、国の最終意思決定機関とも言える部屋だ。


今この部屋には5人の人物が仕事をしていた。それぞれが大振りな執務机に付き、各部署から回ってきた書類に目を通したり、何やら書き物をしたりと様々だ。


だが、5人のうち4人の意識は、目の前の書類にはほとんど向けられていなかった。少し前から残りの1人の様子が明らかにおかしく、どうしてもそちらに意識を持っていかれてしまっている。


片手に書類を持ってはいるが、聞こえてくる独り言が、どう好意的に捉えても、書類に関係あるとは思えない内容なのだ。仕事をせずに別の事を考えサボっている、と言っても良いだろう。


皆、『さて、どうしたものか』と考えていたが、遂に我慢できなくなったのか、1人が声を掛け始めた。


「父様」


「最寄りはロシュフォールの街か……ここは確か行った事無いよな。遺跡以外には何があるんだろ」


「父様」


「25歳で銅級、38歳で銀級と言ってたな……十分に早い。かなりの腕利きだったみたい」


「お父様」


「そもそも城塞や神殿以外の遺跡って何なんだ?あんな大きな建物、誰が何の為に作ったのか……エレジーアさんやサンフォードさんが生きていた頃には無かったっていうし」


「(すぅ~)お父様ぁっ!!」


「はいっ!?はいはいはい!何でしょう?」


席を蹴立てて立ち上がり気を付けをする。


あまりの勢いに、黒い、魔術学院のローブの裾が波打ち、頭のてっぺんにできた寝癖が揺れた。


「その書類、先程から、そうですね、鐘半分ほどずっと手にされていらっしゃいますね。父様ほどの方がそれ程までに時間をかけて検討されているとは、余程のお話なのでございましょう。私はまだまだ至らない身。後学の為に、ぜひどのような案件なのか教えてくださいませ」


眉間にしわを寄せ、わざと大仰な言葉遣いと嫌味な言い回しで尋ねる。書類の内容を把握していない事など百も承知だ。


「え、あ、えーと……」


「……ずっと見ていらしたのに、なぜ今から読み始めるのですか?」


「……」


黙り込む父に向けて、わざとらしく大きな溜息を吐く。


「はぁ……どうぞ行ってらしてくださいな。そちらは私が見ておきますので」


「いや、でもね、そういう訳には。お母さんもいないし」


「母様が出産でお休みの間の最高責任者が、そんな集中を欠いた、ソワソワと落ち着かぬ様子でお仕事に臨んでよろしいのですか?皆に示しがつかないのでは?」


「……」


「先程から、ずっと心ここに在らずではありませんか。その様な姿勢で間違いが起きたらいかがされます?それに」


一旦言葉を切り、母譲りの明るい青の瞳でじっと見つめる。


「父様がそんな様子では皆が落ち着きません。はっきり言わせていただくと、今の父様は、戦力外、役立たず、お邪魔虫でございます。早く用事を済ませてきてくださいませ」


「……はい。できるだけ早く戻r」


「そういうのは良いですから!中途半端で帰ってこずに、きちんと、はっきり、すっぱり終わらせてからお戻りください!」


「は、はいっ!行ってきますっ!」


娘にドヤしつけられた小柄な男性は、勢いよく身を翻しいつもの鞄を引っ掴むと、続きになっている部屋へと姿を消した。


「全く……」


そう言って再び大きく溜息を吐くと、午後の休憩をを知らせる魔導具が鳴った。


「……ちょうど良いですね。一息入れて気持ちを入れ直しましょう。今日は暖かいですし、テラスに出ましょうか」


□ □ □


室内にいた4人は、執務室から続く中庭に出ると、幾つか置いてあるテーブルセットに向けて歩いて行く。


冬の終わりという、本来であればまだ肌寒さが残る時期だが、今日は風も無く、春を思わせる程の眩しい陽射しが降り注いでいる。さすがに日陰はひんやりしているが、日向なら十分に暖かく過ごせる程だ。


テラスのテーブルにはお茶菓子の入った籠が並べられ、その脇には年配の女性茶師が待機している。皆が席に着いたのを合図に彼女がお茶を淹れ始めると、屋外にも関わらず、辺りは芳しい香りで満たされた。


「殿下、今日のお茶はどちらのものかお判りになりますか?」


尋ねたのは、座っている4人の中で一番年上の女性だ。女王であるイングリットがまだ子供の頃、執務に携わり始めた時から補佐官を務めるハンナである。


かたや、『殿下』という敬称で呼ばれたのは、若い、まだ少女と言っても良い程に見える女性だ。


しかし、若くはあるがその物腰には気品があり、明らかに只者では無い雰囲気を醸し出している。向かい合ったら思わず跪いてしまいそうな、まさに『殿下』と呼ばれるのに相応しい空気をまとっていた。


それもそのはず、この『殿下』こそが、イングリット女王と王配キースの第一子、アンジェリカ王女(14歳)であった。


「……茶葉の香り以外にはベリー系の香りが強めですが、僅かにミントのスっとした香りもいたしますね。ターブルロンドのウェイティス産、ログホール農園か、隣のロンド農園、そのどちらかのブレンドでしょうか」


質問に答えた後、アンジェリカは、配膳されたお茶を一口、二口と口にすると、すぐに頷いた。


「うん、ログホール農園ですね。ミレット、どうでしょう?」


「はい殿下、お見事、正解でございます。流石でございました」


お茶を淹れ終わり控えていた茶師が、感嘆の声をあげた。香りだけで産地まで判別できるだけの大したものなのに、飲めば農園まで特定してしまう。特異な才能と言えるだろう。


「うふふ、ミレットが淹れてくれるお茶が美味しいから判るのです。招かれた先で飲んでも判らない事も多いですもの」


彼女にとって、産地が特定できない=淹れ方がいまいちという事だ。勿論、その場で何か言う事はない。まだ若い彼女が、あまりこまっしゃくれた事を言うと角が立ってしまう。


「それにしても、王配殿下も変わりませんね」


そう言うと、男性の補佐官はお茶菓子の入った籠に手を伸ばした。こちらはヨークだ。ハンナと同じく、最初期からイングリットの補佐官を務めてきた。


「はい、王配殿下は昔から、学生の頃からああでしたから。環境が変わり歳を重ねてもそのままでしたし、この先も変わらないのではないでしょうか」


そして、その言葉に反応したのは、もう1人の女性補佐官だった。


見た感じ30半ばから40手前程といったところの、特徴的な眼鏡を掛けたこの補佐官はリアムという。


そう、魔術学院でのキースの1学年後輩で、『呪文』の講義が初めて行われた際、キースに彼女ができた事を問い詰めた、地方の大規模農家の娘で引っ込み思案な、あのリアムだ。


様々な分野で活躍している『女王陛下の90人の魔術師達(Her Majesty's ・ninety・magicians)』の1席を占める才媛でもある。


魔術学院を卒業後、国務省に入省したリアムは、地方の街を含め様々な部署で経験を積み、5年前に引退したイエムの後任として補佐官となった。


抜擢された当初は『なぜ自分が』という事ばかり考えながら仕事をしていたが、仕事にも慣れ肩の力が抜けてきたところで、はたと気がついた。


『私普通にちゃんと仕事できてる』と。単純に、彼女は非常に優秀だったのである。


そこからは、変に色々考える事はしなくなった。引っ込み思案だった性格も変わりつつあり、仕事帰りにハンナとお茶を飲みに行ったりもする様になった。


「ほんと、父様ったら自分の興味のある事となるといつもああなのですから……母様は『あらあらまあまあ』とか『しょうのない方』と笑っているだけですし……」


そう溜息を吐くと、再びお茶のカップに手を伸ばす。


「『冒険者としての活動を続ける』というのは、結婚される時の条件の一つでございましたからね。陛下としては、王配殿下が変わらないのは嬉しいぐらいなのでは?」


「ふむ……こういうのを『惚れた弱み』というのかしら?まあ、私も先程はああ言いましたけど、父様の事は尊敬しておりますし大好きですよ?ただ、さすがに見境が無くなり過ぎでは?と思いはしますけど……」


これぐらいの年齢の女子が、父親の事を『尊敬しており大好きである』と公言するのは、中々に珍しいと言える。親子(家族)関係が上手くいっていると同時に、アンジェリカが父の実績と能力を客観的に見る事ができている事の現れと言えるだろう。


アンジェリカも、もっと子供の頃は何とも思っていなかったが、歳を重ねながら様々な事を学び、経験と知識を積み上げていくと、父の成し遂げてきた事は、どれも尋常ではない事がよく解る。


(おとぎ話の主人公でももっと大人しいのではないかしら?)


彼女は本気でそう考えているのである。

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