第297話
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【更新について】
週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
各種儀式から3年が経ち、遂にイングリットとが出産を迎えます。初めての状況にキースは全く落ち着けません。エストリア王国では、イングリットの懐妊を機に、一般市民への出産と子育てに関する助成制度を立ち上げる事になりました。
□ □ □
私室へと続く扉が開き、他の側仕えとは装いが違う女性が顔を覗かせた。イングリットの側仕えの一人であり、護衛を兼ねるマルシェだ。
「お待たせ致しました。無事にお生まれになりました。陛下が皆様をお呼びでございます。中へどうぞ」
キースがマルシェの言葉が終わらないうちに、扉をすり抜け中へと入る。常ならぬその様子にマルシェも思わず笑みを零した。アリステアとクライブは、それを呆れ半分で見ながら立ち上がる。
部屋に入ったアリステア達がまず目にしたのは、ベッドの脇の椅子に座り、危なっかしい手付きで赤ん坊を抱っこするキースと、それを笑顔で眺めるイングリットの姿だった。万が一に備えて、フランも赤ん坊の下に腕を伸ばしている。
「イーリー、お疲れ様でした。身体の調子はどう?」
声をかけながら枕元へと近づく。
「ありがとうございます、おばあ様。痛みや疲れなどはございませんが、こう、なんと言うか、違和感が強いです」
その言葉通り、ベッドの上で半身を起こしているイングリットからは、出産を終えたばかりと感じさせる要素は無い。顔を見ても、頬が上気し多少赤みを帯びているぐらいで、汗の一筋も無いしぐったりもしていない。
「そりゃね、さっきまでこんな大きなのが入っていたのだから。それにしても、ふふ、可愛いわね」
「はい、ふにゃふにゃのしわしわで、まるで小猿みたいですのに、愛おしいという気持ちしか湧いてきません」
キースに抱かれて眠っている我が子の指先を触る。それに反応したのか、赤ん坊の指が動き、イングリットの指先を握った。
「あら!寝てるのに握ってる!これは、身体を動かす事に関しては天才かもしれないわね」
「え、おばあ様、そういうものなのですか?」
「あ、いえ、根拠は無いのだけどね。そうかなって」
(どんだけ曾孫贔屓なんだよ……)
部屋にいる全員から、アリステアに生温い視線が突き刺さった。
「か、髪色は金髪なのね。キースよりは少し色が薄いかしら?」
誤魔化す様にアリステアが急に話を変える。
「どうやらその様です。髪質はどうでしょうね? キースさんみたいにサラサラなのも良いですけど、くせっ毛なのも可愛いですし」
「成長するにつれて変わったりもしますからね。そこは楽しみにしておきましょう」
「アーティ、取り上げた時に右のまぶたが少し開いていたのですけど、瞳の色はイーリーと同じ明るい青系の様ですよ」
「あら!それは凄いじゃない!」
フランからの思わぬ話に思わず大きな声が出た。
かつて一部で伝えられていた『青と緑の瞳の人間は極端に少ない。それは、セクレタリアス王国初代王とその王妃に何がしかの縁がある証』という伝承。親子2代でとなると非常に珍しいだろう。
「ふぇっ!?」
アリステアの声に反応したのか、寝ていた赤ん坊が身動ぎする。だが、キースが軽く揺するとすぐに静かになった。キースも抱っこにだいぶ慣れてきた様だ。
「おばあ様、お静かに。アンジェリカが起きてしまいます」
「ご、ごめんなさい。気を付けます……あ、結局その名前にしたのね」
「はい。アンジェリカ・ロウ・クライスヴァイク、どうでしょう、語感や響きも良いと思うのですが」
「アンジェリカ、アンジェリカ、アンジェ、アンジェリカ、うん、とても良いと思うわ。どういう由来なの?」
「エレジーアさんが生きていた頃に、"かの国"で人気だった名前だそうで、『天使』とか『神の遣い』という意味だそうです。ぴったりですね」
「エレジーア先生もご自分のお孫さんにつけられたそうです。『お前さんの娘なら私の孫みたいなものだからね』と仰ってました」
(エレジーアめ……相変わらず油断も隙も無いわね!私も何か考えておけば良かった!)
(アーティったら、『負けた』って顔してるわね。ほんと分かりやすいのだから)
フランは悔しがるアリステアの胸の内を正確に把握している。数十年の付き合いは伊達では無い。
「でも、キースの金髪にイーリーの瞳か……これ以上無い程に2人の子供ね!」
柔く少ししっとりとしている金色の髪を撫でる。赤ん坊特有の、ほんのり甘い匂いが広がった気がした。
「おばあ様どうぞ。抱っこしてあげてください」
「そ、そう?じゃあ遠慮なく……」
実のところ、先程からいつ言い出そうかと考えていたのだ。アリステアは空気が読める孫に感謝しつつ曾孫を受け取ると、横抱きにした。
「軽くてちっちゃいわね……こんなだったかしら。赤ん坊なんてキースを抱っこした以来だから、もうよく覚えて無いわ」
まだ開かない目、歯の無い口と薄いピンクの唇、葉っぱの様な小さな手と足、見ているだけで目元に涙が滲んできてしまう。そうしているうちに、なにかに気がついたのか「あっ」と小さく声を漏らした。
「忘れてた。産着、着せてくれてるのね。使ってくれてありがとう」
「いえ、とんでもないですこちらこそ。素晴らしいお品をありがとうございます」
アリステアは出産祝いに産着を縫って贈った。赤ん坊の肌に優しい最高級の生地を用いたのは勿論、成長に合わせて少しずつサイズを大きくした物を、それぞれ複数枚用意した。
もちろんイングリットも準備していたが、それらと比較しても全く引けを取らない品質だった。裁縫にかけられる時間、高級素材を揃えられる金、そしてそれを活かし切る技術、どれか一つ欠けてもこうはならなかっただろう。個人でここまでできるのは、まさにアリステアならではと言える。
「ふふ、綺麗に残しておいて、次に産んだ子にも着せたいと思います」
「何言ってるの、産着なんてその子が大きくなるまで着倒したら終わりで良いのよ。次の子にはまた縫いますからね」
そう言いながら、アリステアは赤ん坊の少し乱れた産着の合わせ目を整えた。
□ □ □
結局イングリット女王は35歳迄に、女、男、男、男、女と5人の子供を産んだ。
かつてアルトゥールが願った『王家の血の活性化』は無事に成し遂げられ、イングリットは女王としての実績とはまた別に、クライスヴァイク家の血筋において『中興の祖』と呼ばれる様になった。
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