第294話
【更新について】
週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
素材となる糸を手に入れる為、エルフ達の集落にやってきたキース達。そのエルフ達とシリルのやり取りに違和感を覚え、蜘蛛を探す前に質疑応答中。エルフ達にかかっているという『強制誓約』とは……?
□ □ □
Q.まず『強制誓約』とは?
A.決まった言葉を聞くと発動する、とても強い誓約。
Q.その『決まった言葉』というのは普段口にしない様な言葉?何かの拍子に聞いてしまう事は無い?
A.どんな言葉にするかはその時に決める。彼らに掛かっている『強制誓約』は、さっき言った私の出身の集落名か、彼らが被害を与えた集落の名前だから、まずない。
Q.本人達は、自分達が『強制誓約』の影響下にある事は分かっている?
A.分かっている。そうでないと罰にならない。
Q.発動すると具体的にどうなる?
A.相手の言葉に拒否する気が湧かなくなって、それを叶える為に考え動く様になる。本当はやりたくなくても関係無い。
Q.例えば『自殺しろ』とか『あいつを殺せ』とか、そういう指示を受けた時は?
A. その人が考える禁忌や一般的に犯罪となる行為はしない。理性はあるから。
Q.各自の知識や経験に則って理性的に行動するけども、基本的には拒否はしないと。
A.そう。族長と奥さんもそうだったでしょ。言葉や質問、提案はまとも。その上で私達の意思を叶える事が最優先。意識の下では『なぜ自分達がこんな事に』と思ってるかも。
Q.あの集落に住むエルフ全員に掛かっているの?
A.掛かってる。集落に小さい社があって、それが『強制誓約』の力の源。
Q.その社を撤去すれば『強制誓約』は無くなる?
A.そんな甘くない。社を取り除いたらこの一帯の精霊力のバランスが崩れて酷い事になる。
Q.……どんな事に?
A.シルフとウンディーネは近付いてこないし、そんな中で暮らしているエルフ達の事を拒否する様になる。そうなったらエルフとしてというより、生き物として生きられない。
Q.精霊に嫌われるとどうなる?
A.ウンディーネに拒否されたら水に触れない。飲もうとしても顔を避けてこぼれてく。手ですくえないから顔も洗えない。シルフなら息苦しくなって歩くだけでも苦労する。窒息はしない。シルフに空気を完全に遮断するまでの力は無いから。
Q.もはや『呪い』と呼んでも良いと思うけど、なぜこんな強烈な誓約が掛かっているの?先程『被害を与えた集落』とあったけど、彼らが他のエルフに何かしたという事?
A.そう。彼らの先祖が他の集落のエルフ達にした事の報い。それがずっと続いている。
Q.酷い事をされたエルフ達がやり返した?
A. ……少し違う。酷い事をした事がバレた後、そのまま死ぬか『強制誓約』かを選ばせた。その結果。
Q.『彼らの先祖が』とありましたが、何年ぐらい前の話?
A.600年いかないぐらい。先代の族長はまだ生まれていなかったと思うから。彼の父や祖父の代がやらかした事。
Q.先代族長が生まれていないとなると、今あの集落に住んでいるエルフ達は、ほとんどが直接関わっていないのでは?それでも罰は続く?
A.確かにほとんどいないと思う。いても数人。でも、彼らが自分達で決めた贖罪。それだけの事をしたから。
Q.そ、そんな彼らは一体何をしたの?
A.集落で育てていた作物を毒でダメにして、その毒のせいで子供達が5人死んだ。
Q.(ええ……)も、もう少し具体的に良いですか?
A.この湖の反対側、7日ぐらい行った所に他のエルフの集落がある。その村では希少なキノコを養殖していた。彼らはその菌株を欲しがった。でも、苦労して養殖に成功したから、いくら同族とはいえタダでは無理と断られていた。それでも何とかと頼んでいたら、『蜘蛛の糸と交換なら良い』と言われた。でも、彼らは糸を出すのを惜しんだ。さらに、『得られないならいっそ無くしてしまえ』と養殖小屋に忍び込み、毒キノコの菌株が付いている容器を小屋に隠して置いた。結果、小屋の中に成長した毒キノコの胞子が溜まり、収穫を手伝おうと中に入った子供が5人死んだ。毒キノコの胞子が付いた養殖小屋は建て直し。キノコにも毒キノコの胞子が付いたから、養殖も一からやり直し。
Q.(最悪だ……) シリル達はなぜその集落に?
A.母の友人が住んでいたから家族で会いに行った。そしたら、そんな事になっていて大騒ぎだった。死んだ子供達の中にその友人の子供もいた。
Q.そのキノコはそんなに希少なキノコなの?
A.1日探し回ってゼロでも珍しくない。食べても美味しいけど、乾燥させて粉末にしたものを素材に使うと、薬の効果がすごく上がる。だからみんな欲しがる。
Q.なぜ彼らの仕業だとバレたのでしょう?
A.キノコの菌株の事もあって元々怪しまれていた。
Q.それで問いただしたと。素直に白状したの?
A.素直では無かった。けど、ジンとクラーケンに手伝ってもらった。
Q.それは……?
A.さっきの『社を撤去したらどうなるか』というのを大人達に体験させた。精霊は上位種の命令には絶対服従だから。5日で降参した。
Q.(水が飲めない、息も苦しいとなると兵糧攻めよりキツいな)それで彼らが『何でも言う事をきくから許してくれ』と言ってきたと。
A.そう。最初は『そのまま放置しろ』という意見も多かった。でも、母の友人が『私達の未来を奪ったのだから、引き換えに未来をもらう。簡単に死んで終わりなんて許さない』って言った。どちらの意見も支持が半々だったから、間を取って『では奴らに選ばせてやろう』となった。
Q.(間とは……?)クラーケンとジンが力を貸したという事は、その社を建てたのはもしかして
A.うん、私達家族が建てた。社の中にはジンとクラーケンが力を込めたご神体がある。
□ □ □
「あの集落のエルフ達には悪いが、これはちょっとダメだな……」
「はい、よりによって子供が死んでしまったというのは。可哀想に」
フランが聖印を握り祈りの言葉を呟く。何百年も前の話だ。子供達の魂はとうにこの辺りにはいないだろうが、神官としてそうせずにはいられなかった。
「被害にあった方の集落は今も暮らしているのだよな?あの集落とは今も行き来はあるのだろうか?」
「ある。糸の取引で得たお金を賠償金として納めているから」
「だが、あの糸は高級品で集落の主要産業なのだろう?その売上を賠償金として渡してしまっていては、集落の運営が成り立たないのではないのか?どうしているんだ?」
アリステアは立ち上がって伸びをし、腕を大きく回す。予想外に話の内容が重かった。その重みが肩に乗っかっている気がしたのだ。
「利益だけを渡す約束だから大丈夫。他にも収入源はあるだろうし。全部払わせて続かなくなったら意味が無いから」
「あ、集落に蜘蛛を狩る話をしに行ったのは、彼らに気を遣ったというより、僕達が蜘蛛を勝手に狩る事が、糸の売上、ひいては賠償金の支払いに影響が出るからですね?」
「そう」
「しかし、働いても働いても利益は無しとは。これはキツいな」
「しかも『強制誓約』に縛られているから、自分達で集落ごと放棄する事もできませんよね?」
「外部から何かに襲われて集落が無くなったり、社が無くならない限り、永遠に続くという事ですな。欲をかいたばかりに」
アリステア達も何とも言えない表情だ。
「……キノコの件だけならお金で済んだと思う。それこそ糸を分けるとか。でも、子供が死んでしまった。それだけは本当に許されない。わたし達は子供ができにくいから」
それは4人も知っている。人間に比べエルフの繁殖頻度が低いのは一般常識のレベルだ。発情期などがある訳でも無いのに、とにかく子供ができにくい。
(亡くしてすぐに『じゃあ子供作るか』とは中々ならないだろうし……それもあって余計生まれにくくなってしまう)
キースは腕を組んで宙を睨む。さすがに口に出すのは憚られた。
「……取り敢えず、蜘蛛を倒しに行きますか。これは僕達が踏み込んで良い話ではありません」
キースの提案にアリステア達も頷く。遥か数百年前から続く2つの集落での遺恨だ。種族も違う自分達にできる事は無い。
「では、ちょっと探しますね……」
キースは蜘蛛の居場所を特定すべく<探査>の魔法を広げた。
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