第290話
【更新について】
週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
成人、譲位と儀式はほぼ予定通りに進んでいます。次は遂に……
□ □ □
『譲位の儀』が終わり、アルトゥールと侍従長、立会人を務めた司教達が壇上から降りると、介添人を務めるマルシェとレーニアが再び袖から現れる。
マルシェがイングリットの頭に載る女王のティアラを外すと、そっとトレーの上に置く。2人でイングリットの後ろに回ると、レーニアが抱えていた薄布を広げ、イングリットの頭から背中に掛けた。
花嫁のヴェールである。
ケープ、手袋と同じ糸で作られており、これも凝った模様が編み込まれている。しかも床に着き少し余る程の長さだ。アリステアの頑張りが窺える。
ティアラの邪魔をしない様に後頭部寄りで固定し、顔の前に下ろした。マルシェが再びティアラを載せ位置を微調整する。
今回の一連の儀式は、早い時期から年配者の負担軽減という観点から、儀式毎のお色直しは行わない事が決まっていた。だが、『王族の儀式を余り簡略化してしまうのも』『おめでたい事なのだから気にせず盛大に行うべき』という意見も出た。
確かに、今回の成人、譲位、結婚と、どの儀式も10年単位で行われておらず、次の目処も立っていない。それに、次に執り行われる王族関係の儀式はおめでたくない事が予想される。
そう、アルトゥールの葬式だ。さすがに誰も口にはしないが。
イングリットがマーメイドラインのドレスを着たがった事もあり、成人、女王、花嫁(正確には嫁では無いが)と、儀式の趣旨に合わせて装飾品や小物を増やし、衣裳を完成させよう、という事になった。これならば『ドレスは敢えて着替えないのだ』と言う事もできる。理想と現実のバランス調整は難しい。
「それでは、引き続き『結婚の儀』を執り行います。キース、立会人は壇上へ」
イングリットの準備が整った為、式が進み出す。キースとマクリーンが列から外れステージ脇の階段へと向かう。
(まさかこんなに早く結婚するなんて思いもしなかった)
キースの後ろに付いて歩きながら、マクリーンは考える。
魔術学院を卒業し、冒険者になって『北西国境のダンジョン』まで会いに来てくれた事は、まるで昨日の様によく覚えている。
駐屯地の会議室で久々に顔を合わせた時には、思わず飛びついて泣いてしまった。
その後も、その奇想天外な発想と深い知識、そして圧倒的な魔力量で、この息子は数々の成果を出し続けてきた。そのどれもが歴史に残る偉業と言っても良い程だ。
だが、マクリーンが感慨深く思っているのはそれだけでは無い。
この小さく、可愛いく、優しい人の良い息子が結婚し、そう遠くないうちに人の親となるのだ。
(正直全然ピンとこないのよね)
僅かに笑みを浮かべながら演台の前に立つと、息子と義理の娘と目を合わせる。イングリットはリラックスしており自然な笑顔だが、キースは少々緊張している様で、笑顔が少々ぎこちない。フロックコートに包まれた肩に力が入っているのが分かる。
イングリットは続けて儀式を行っているし、元々場馴れもしているが、キースは報奨の授与式や祝賀会ぐらいしかない。その差であろうとマクリーンは考えた。
「イングリット女王陛下、王配殿下、この度はご結婚、誠におめでとうございます」
マクリーンはそこまで言うと、じっと2人を見つめる。この場の皆が、その沈黙が不自然なまでに長いと感じ始めた頃、再び口を開いた。
「先の立会人方の様に、少しお話をしようと考えていたのですが……お2人の凛々しく眩しい姿を拝見していたら、私の話など必要ないと感じてきてしまいました。さて、いかがしましょう」
「ではマクリーンよ、立会人では無く2人の母として話をしてやってくれ。それができるのはそなたしかおらぬ」
壇の下の列からアルトゥールの声が飛んだ。マクリーンは軽く目を見張ると頷いた。
「かしこまりました。では女王陛下は愛称で、王配殿下も…呼び捨てで失礼しますね」
(一瞬間があったけど、お母さん、まさかちゃん付けと迷ったんじゃないだろうね)
さすがにこれだけの人々の前で、更に『結婚の儀』でそれはキツい。格好の話のネタになり、未来まで語り継がれてしまうだろう。
そんな事を考えているとマクリーンが口を開いた。
□ □ □
2人の事を最初に知ったのは、アルトゥール様らが『北西国境のダンジョン』の視察を終えて王都に戻る時でしたね。経緯を聞いた時は、イーリーの余りの思い切りの良さに本当に驚きました。
お話を知って少し考えたのですが、キース、私はあなたはこのお話を受けるだろうと思ってました。あら、不思議そうですね?ふふ、母親は息子の考える事などなんでもお見通しなのですよ?
まあ、それは冗談としても、自分では気が付いていなかった様ですが、あなたの行動には整合性が欠けていたのです。
それは、結婚の申し出を数ヶ月も保留していた事です。
確かに、突然のお話でしたから考える時間は必要だったでしょう。ですが、そこまでの月日が必要な事でしょうか?少し考えればすぐに、申し出を受け王配となれば、冒険者としてこれまでと同様の活動はできなくなる、という結論に行き着いたはずです。
にも関わらず、きちんと断らずにそのまま保留し続けた。
即ち、自分でも意識していないところで、『イーリーと結婚しても冒険者を続ける為にはどうしたら良いか』という、結婚ありきで考えていたという事です。もしかしたら、あの瞳の色のお話は真実なのかもしれませんよ?
ですので、申し出を受ける事にした、と聞いた時も、さほど驚きませんでした。受けたタイミングには驚きましたけどね。
……イーリー、無事にこの日を迎える事ができた事、あなたと同じく、私も心の底から喜び安堵しています。
ドレスや髪型、今日の装い全てがとてもよく似合っていますよ。あなたと皆さんの頑張りが目に浮かぶ様です。
今日からエストリアが関わる全ての事の責任を背負う人生が始まります。真面目なあなたの事です、きっと大きな重圧を感じている事でしょうね。
ですが、私は、お仕事についてはほとんど心配していないのです。あなたにはもう既に多くの実績がありますもの。
あなたがこれまでに培ってきた経験、知識を元に判断を下せば、ほとんどの物事はきちんと進むでしょう。
大事なのは自分の芯、判断の基準を揺るがさない事。
あなたは国の頂点です。そのあなたの基準、それは即ち国の基準です。周りの人々もそれに沿う様に物事を進めます。あなたがブレると全てがブレる事になる。少しのズレでも、それが遠くまで、末端まで伸びた時には大きなズレになります。
迷った時は一度足を止めて時間を掛けましょう。大抵の場合、慌てて決めてやり直すより良い結果に繋がるものです。
お仕事も重要ですが、お世継ぎの事に触れない訳にはいきません。
王族を増やしたいと考えても、自分が産まない限り増えてはいかないのですから。いくらまだ若いとはいえ、子供を産むという事は命を掛けた大仕事です。ましてやそれを複数人というのは難儀な事です。
心の状態が大きく影響を及ぼすとも言いますからね、心身ともに健やかに、軽やかに過ごす必要があります。ですので、あまり意識せずゆっくり進めていきましょう。
キースは得意分野以外の事についてはまだまだ足りない事も多いです。もちろんイーリーにもそういった点はあるでしょう。ですが、あなた方は、それを素直に認め学ぶ事を全く厭いません。
女王と王配という立場ではありますが、まだ18歳と20歳です。どうかその、学ぶ姿勢をいつまでも持ち続けてください。努力の末に身に付けた事は
、必ずあなた方を助けてくれるでしょう。
最後にもう一度、キース、イングリット、結婚おめでとう。
これからの2人の活躍が本当に楽しみです。私達で手伝える事があれば何でも言ってきてくださいね。皆で力を合わせ、エストリア国民が幸せに暮らせる様に、頑張ってまいりましょう。
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