第28話
【更新日時について】
書き溜めが尽きるまでは、毎日5時・11時・16時に更新いたします。
通勤・通学、お昼休みのお供としてぜひどうぞ。
昼食と宿の確保を済ませたキースは、4の鐘に合わせてギルドに戻ってきた。
待合室には冒険者らしき姿は無い。依頼に出たパーティが戻ってくるにはまだ少し早いのだ。
(とりあえず「パーティメンバー募集」の掲示板でも見よう)
と、掲示板の前へ移動しようとした時
(なんだ?)
ほとんどの職員が、明らかに自分の方へ意識を向けている。
目線は向けていないが、こちらを探る様に意識が向いている者、チラチラ見ている者、露骨に視線を向けてくる者、タイプは様々だが明らかにこちらの動きを注視している。
(昼前まではどちらかと言えばユルい感じだったのに、なんだろう・・・)
気になりつつも、「パーティメンバー募集」の掲示板の前に行き、そこに貼られている募集を改めて見る。
(増えていることはないだろうけど、一応ね・・・)
掲示板は、募集したい職種ごとに戦士系(前衛職)なら左上、魔術師なら右下というように掲示場所が分かれている。
(!?)
しかし、右下には先程まで貼られていた募集用紙が一枚もない。
(出てくるまでは確かに3枚貼ってあった。日中の間に決まってしまった?募集を取り下げた?いや、募集をかけた3パーティとも王都にいないと言っていた。ではギルド側で外したのか?本人達に確認を取らずに募集を取り下げる?パーティにとって欲しいはずの人材が入ってこないのは死活問題だろう、そんなことを勝手にするのか?これはちょっと確認が必要だな)
(見てるめっちゃ見てる)
先程キースが気づいたように、今ここにいるギルド職員は、全員がキースの動向を気にしていた。自分が申し込もうと思っていた募集が全てなくなっているのだ。普通は戸惑う。彼はこの後どうするのか・・・
ディックも一般職員に紛れて、カウンターの中からキースの様子を伺っていた。
小さい頃に会ったことはあるが、大きくなった姿を一度見ておきたかったのだ。大体そのまま大きくなっただけではあったが・・・
確かに見た目は非常に愛らしい少年だ。あのアリステアが慌てるだけのことはある。
しかし、その見た目によらず、彼が大変な力の持ち主で、近衛騎士団長や国務長官から直接スカウトされていた、という事は聞いている。冒険者ギルドには色々な話が集まるのだ。
(さて、どうするかな・・・)
ディックは続けて様子を見ることにした。
(あの子があの・・・)
ギルド職員であるマーガレットはキースを見て思う。
彼女はパトリシアと同様、各種受付業務を担当している。
実際に目にするのは初めてだったが、彼女はキースの事を知っていた。
彼女の弟が魔術学院に通っており、キースの一学年後輩にあたるのだ。
マーガレットは魔法のことは詳しくないが、弟もかなりの素質があるようで、学年でも三本の指に入るほどらしい。
その弟が実家に帰ってきた時に話していた先輩、それがキースだった。
弟が興奮しながらしてくれた話を思い出す。
「本当にすんごい人なんだ。みんな表立って口には出さないけど、陰では、宮廷魔術師のバグリイ様より上なんじゃないかって言ってるぐらいなんだよ」
「有名なお話でさ、【心が壊れた魔術師 アイザック】ってあるだろ?アイザックは蛮族の軍勢を食い止める為に、「メテオ」、隕石を召喚するもの凄い魔法なんだけどさ、それを成功させたんだけど精神が持たず心が壊れて、廃人になってしまった。でもキースさんならメテオも使えるだろうって言われてる」
「もちろん魔法だけじゃないよ?頭もいいし回転も早い。魔力も桁外れに多い。研究書を基に、既存の魔法陣を改造したりもしている。元々完成しているのにいじったら、普通まともに機能しなくなるからね」
「でさ、普通それだけ力があれば偉そうにしたり威張ったりするじゃん?でもね、全然そういうところが無いの。チョーいい人なの。解らないところとかも親切丁寧に教えてくれるし。あの人の事を悪く言う人なんていないんだ」
「そんなところも含めてとにかく規格外なんだよ。なぜか冒険者志望だから、もしかしたらギルドに来るかもしれないね。こう言っちゃなんだけど、見た目は12、3歳にしか見えないんだ。でも騙されちゃダメだよ。ほんと凄いんだから」
(とんでもない人か・・・確かにとんでもなく可愛いけど、とてもそんな風には見えないな・・・)
パトリシアはキースの後ろ姿をドキドキしながら眺めていた。
(絶対怪しんでるよね・・・)
そりゃそうである。
鐘数回前までは貼ってあったのだ。
募集した当人達がいないのに、枠が埋まったり取り下げられるはずがない。
ギルド側で何かしたなとすぐに分かる。
キースが振り返りこちらに歩いてきた。
(やっぱり来た・・・)
「パトリシアさん、ちょっとお尋ねしたいのですが」
「ひゃい!」
噛んだ。
「先ほどお尋ねした、魔術師を募集しているパーティの件なのですが」
「はい」
「掲示板から募集の用紙が無くなっているのですが、枠が埋まり募集自体が無くなったのでしょうか?」
「い、いいえ、そういう訳では・・・」
「では、募集はまだ継続しているのですね?」
「いや~、そういう訳でも・・・保留というか・・・」
「・・・?皆さんまだ戻ってきていないのですよね?」
「はい、まだ戻ってきていません」
「本人達はいないのに募集が保留になっている?」
「はい」
「それはギルド側が行った対応という事で間違いないのですね?」
「はい」
キースは筋道を立てて一つ一つ言質を取っていく。
「何故保留という処置に至ったのでしょうね?」
「えーとですね、申請書類に不備があったようで・・・」
「3件の募集は、全て違う申請日になっていました。1週間経っているものから一昨日のものまで。3つ全て、この午後の鐘数回の間に不備が見つかったという事ですか?」
(そんなところまで見ているのか・・・恐ろしい子・・・)
パトリシア以外の職員は、自分が対応している訳でもないのに冷や汗をかく。
「そ、そ、そうですね、そう聞いています」
「分かりました。ありがとうございます」ニッコリ
パトリシアはブルッと震えた。
新規登録の時には可愛く思えたあの笑顔が、なにぜとても怖いものに感じた。
キースがすんなり引いた事にほっとしたような空気が流れる。
その空気の変化を感じ取ったキースは確信した。
(どうやら、彼女を含め、ここにいる職員は保留になった本当の理由は知らないようだ)
(一般職員が知らないのであれば、知ってる人間は1人しかいません。そうですよね、ギルドマスター)
現在のギルドマスターは魔術師だと聞いている。カウンターの奥の方で、一人書類仕事をしていた年配の男性、そちらへ向けて意識を飛ばす。
感じていないはずがないのに、眉一つ動かさない。さすが王都でギルドマスターを務めるだけの事はある。
(じたばたしても仕方ない。今は募集していたパーティーが戻ってくるのを待とう)
キースはいつも持ち歩いている、魔法陣の研究書を取り出し読み始めた。
(やはり噂は当てにならんな)
ディックは、書類から顔を上げずに考える。
(キース少年・・・彼は噂以上の逸材だ。だが、こちらも君を王都の外に出すなと頼まれているのでね。それに、世の中能力だけではどうにもならん事も多い。どこまで頑張れるのか楽しみだ)
ディックは事務処理をしながらほくそ笑んだ。
ブックマークやご評価いただけると嬉しいですね!
お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)




