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第281話

【更新について】


週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ


【前回まで】


まだまだ続く祝賀会。次にアリステアを訪ねて来たのは、最初にパーティを組んだかつての仲間でした。泣き喚き激怒するアリステアと、何で怒っているのか解らず困惑する元仲間達。当時を知るデズモンドが皆に説明を始めます。


□ □ □


「デズモンドさん、お話の前に一つお尋ねしたい事があるのですがよろしいですか?」


「ああ、なんだ?」


「おばあ様達はなぜ3人パーティだったのでしょう?結構珍しいと思うのですが……」


「もっともな疑問だ。3人は明らかに少ない。当時でもまずいなかったし、それが新人を含んだ若手だけなんて、危なっかしい事この上ない」


火力、継戦能力、イレギュラーへの対応力、収入面、全てで一番バランスが取れるのは、やはり4人又は5人だろう。


「あいつらも最初は4人で活動するはずだったんだ。元々4人で活動しているパーティがあり、そこから一人抜けた。空いた枠に新人のアーティが入る、という話だった」


ネイシア、カインド、アリステア、いなかった4人目、という構成になる筈だったという事だ。初めて聞く話に、ライアルもデヘントも目を丸くしている。こういった伝わっていない話が聞けるのも、当時を知るデズモンドならではと言えるだろう。


「問題は、そのいなかった4人目が、元々のパーティのリーダーで、一番腕の立つ奴だったってことだ。腕だけで無く頭も回る奴でな、そいつがリーダーとして仕切れば、残りが若手3人でも大丈夫だろうって目されていた。歳も一番上で……確か30手前だったか?」


デズモンドは腕を組み目を閉じている。何といっても50年以上前の話だ。年寄りという事もあり、記憶の沼の底から引っ張りあげるのは一苦労なのだ。


「……その方はなぜパーティにいなかったのでしょう?」


「初めてこの4人でダンジョンに向かうという何日か前に、酔っ払って川に落ちて死んじまった」


遥か昔の出来事であるにも関わらず、皆思わず肩を落とし溜息を吐いた。


誰もが(この頼れるリーダーが生きていてくれたら)と考えたが、これは一概にそうとも言えない。


もしかしたら、彼が先頭にたってどんどん奥へと進んだ結果、強敵に出くわし全員死んでいたのかもしれないのだ。力のあるメンバーがいる事は大抵の場合には好結果に繋がるが、常に良い結果をもたらしてくれる保証はどこにも無い。


未来というものは、本当に少し何かが変わるだけで全然違う方向へと進んでしまう。バックアップを取っておいてやり直す事はできない。


「残った3人も直前でお預けくらって色々溜まっていたんだろう。血気盛んな年頃だしな。 3人でダンジョンに入ってしまった。そしたら、あいつらは中堅どころのパーティに匹敵するぐらいの魔石を持って帰ってきた」


「……今思えばそれだけの素地はあった、という事でしょうか」


アリステアは4つの特性を持ち、国王に認められ史上初の白銀級に至り、ネイシアとカインドも、銅級に認定されギルドの指導官を務める程になった。そもそも、引退まで五体満足で生き残った、それ

だけでも大変な事なのだ。


「そうなるな。まあ、その時は怒られもしたが、想定以上の成果は出ているし、怪我もほとんど負っていない。結局人数を理由に止められる事は無くなった。もちろん、4人目を早く入れろ、という事は言われ続けたがな」


「男爵は母達の事をどうお考えでしたか?何か憶えていらっしゃいますか?」


「正直、俺はそこまで深く考えていなかった。3人から個別に話を聞いてみると、戦い方はもちろんだが、ダンジョン内で進む、戻るの押し引きの考え方などもきちんと意思統一されていたしな。デズモンドと同様、4人目についてだけは話はしていたが……」


ハインラインが腕を組んで目を閉じる。キースはその様子に違和感を覚えた。


「……何かございましたか?」


「うむ、まあ要するに金の話なんだがな。当たり前の話だが、分ける人数が4人と3人じゃ一人頭の金額が全然変わってくるだろ? あいつらは3人でもやっていけそうな手応えと自信を掴みつつあった。そのせいで、4人目を積極的に入れようとしなくなっていた」


「基本的に、冒険者になる奴には貧乏人が多いからな。守銭奴とまでは言わんが、金には拘る奴が多い。取り分が減るのは嫌がる」


デズモンドがハインラインの言葉を受け続けた。


「その取り分は安全性を下げた分の割増分だったのだと思いますが……まだ痛い目を見た事が無かったおばあ様達には、実感できなかったのでしょうね」


「そうだな。だが、その点でもあいつらは見切りというか、勘所が良かった。こういった事は誰かが大怪我をしたり、下手すりゃ死んでから気が付くものだが、あいつらは盾役のカインドの怪我が増えてきて、アリステアの細腕での攻撃では厳しいと感じ始めた時点で『金は二の次。やっぱり4人目を入れないとダメだ』と考えを変えたからな。それで一度相談された事がある」


ハインラインがグラスを傾け中身をあおり、息をつく。


「だが、なまじ名前が売れ始めたせいで、勢いのあるパーティに入って美味しい思いがしたい、みたいな奴ばかりが寄ってきちまってな。結局決めきれなかった」


「カインドさんの装備を少しでも良い物に更新するという事も考えていた、と聞いた事がありますが、それも結局はうまくいかなかったのですね?先程のお話だと、母達はお金はそれなりに持っていた様ですが」


ライアルがハインラインに尋ねる。


「ああ、金はあった。だが、若いだけに武具屋に伝手が無かった。質の良い装備はもっと金を持っている先輩達に回ってしまう。当然予約に割り込む事はできねぇ。店の信用問題に関わるからな。鍛冶屋で鍛えてもらう事ならできたが、そもそも鍛冶屋は劣化した武具の状態を整えるのが仕事だ。素材の質は変わらんし、元々の武器の性能を超えるものにはならんからな」


先程同様、皆腕を組んで唸る。新規募集をかけても申し込んでくる冒険者はいまいち、良い装備は手に入らない、八方塞がりである。


「次第にギスギスしだして、言い争いが増えた。だが、ここでも勘所の良いところが発揮されたのか、大事に至る前にパーティは解散となった。不幸中の幸いと言えるだろう」


デズモンドは話を締めるとグラスを手に取り傾けた。


□ □ □


「そこからは知っての通り、アーティは1人で、あの2人は他のパーティに加入して活動を始めた。解散はしたがな、3人の仲は不思議なくらい良かった。喧嘩別れみたいな話も流れてたが、それは違うとはっきり言える。お互い納得ずくだったって事だな」


「命を預け合わなくなった事で、『仲間』から『友達』になった、という事なんじゃないですかね?」


静かに話を聞いていたデヘントがぼそっとこぼした。


「ああ、きっとそうだろう。だが、アーティが活躍するにしたがって、2人に対して誹謗中傷をしてくる輩が現れ始めた」


「誹謗中傷……ですか?」


キースが眉間にしわを寄せる。


「そうだ。『1人でもあんなにお宝を持って帰ってくる奴と一緒に組んでいたのに、解散するなんてバカじゃねぇのか』とか『使えないからアリステアから見切りをつけられてクビにされた』とか、まあ、そんな感じだ」


「ほんと、そういう輩はどこにでもおりますな。碌な者ではない、全く」


ヒギンズが鼻息を荒くする。


「2人も最初は無視していたんだがな、パーティの他のメンバーにも絡む様になってきた。そして遂には2対2で大喧嘩になり、お互いに結構な怪我人を1人づつ出しちまった。本人達が怪我するのはまだ仕方がないが、近くにいた一般人も巻き添えを食って怪我をした。これはさすがにまずかった。ギルドとしては、治るまでの治療費を持って、実際に喧嘩した4人から罰金を取って、被害者に慰謝料として渡したんだ」


当時の対応を思い出したのか、ハインラインが肩をすくめる。当然、アリステアの新人支援は始まっておらず、冒険者の質と社会的地位が低かった頃の話だ。一般市民に迷惑を掛ける行為に、批判は強かっただろう。


「2人から『所属をウェリントンに移して活動したい』という話があったのは、それからしばらくしての事だ。ネイシアの魔術学院の同期にウェリントン所属の魔術師がいて、状況を話したら誘われた、と言っていたな」


「私も相談されました。別に悪さして逃げる訳でも無いからな、所属を移す事に問題は無い。ああいう状況でもあったしな。だが、その時、ちょうどアーティの奴はバーソルトに行っていなかったんだ」


今も続けられている、バーソルトの孤児院と街への支援の事である。


「だが、誘ってくれたパーティも、ウェリントンで仕事の約束があり、日付に余裕が無かったらしくてな。出発を遅らせる事ができなかった。仕方がないから、2人はアーティに挨拶と説明をせずにウェリントンに行ったんだ」


「それでおばあ様は『あの2人は何も言わずに行ってしまった』と怒っていたのですね……あれ?でも、お2人はさっき『ちゃんと伝えてもらえる様に頼んだ』って言っていましたね。その伝言は伝わらなかったという事か」


キースの言葉にデズモンドが目を丸くする。


「ほう!?では、原因はそれを伝え忘れた人物にあるという事になるな」


「そうなりますね!どなたでしょう、そんな大事な事を伝え忘れた方は。いい迷惑です、ほんと」


わざとらしく大きな溜息を吐き、両腕を広げて『やれやれ』のポーズを取る。


「おい、キース」


ライアルが息子のローブの袖を軽く引っ張った。魔術学院卒業生のみが着られるローブの、柔らかな生地が波打つ。


「なんですかお父さん?」


父の視線の先を見ると、そこには腕を組んで首を捻るハインラインの姿があった。キースは一瞬見ただけで全てを察した。


「もしかして、伝言を受けたのは……」


「……ああ、多分俺だ。この話になって初めて思い出した」


50年忘れっぱなしだったという事だ。ハインラインを中心に微妙な空気が広がった。


「え、あー、何と言いますか、その……」


「いや、キース、お前の言う事はもっともだ。忘れた俺が悪い」


「キース、男爵の名誉の為に一つ付け加えさせてくれ」


デズモンドが割って入る。


「あ、いえ、そんな。僕は別に」


「確かに伝え忘れたのは男爵の手落ちだが、同じ頃にギルドの経理担当者の横領が発覚してな。大変な事になったのだよ」


思いもよらないニュースに皆の目が大きく見開かれる。


「あったな、そんな事が。そうか、あれと同じ時期だったか……ユーリカ、あいつには参ったぜ」


「ええ、まさかあの大人しいユーリカがと思いましたものね。移籍と横領の発覚、どちらが先かははっきり覚えていませんが、その対応で伝え忘れてしまったのでしょう」


「まぁ、なんにせよ俺が忘れたことには間違いねぇ。ちょっと向こうのテーブルに行って3人に謝ってくるわ。横領の件についてはまた時間がある時にでも話をしよう」


ハインラインは席を立つと、今だに3人が睨み合っている(アリステアが一方的に睨んでいるだけだが)テーブルへ歩み寄った。

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お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)


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