第280話
【更新について】
週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
引き続き祝賀会開催中です。アリステア達の元には続々と昔馴染みが訪ねてきていますが、今度の2人組は少し様子が違う様です。
□ □ □
「これはどうもご丁寧に。さすがは『万人の才』と名高いだけの事はある。挨拶も完璧だな」
「白銀級で王女殿下の婚約者でもあるのだからな!全く、まだ若いのに大したものよ」
「アーティの教育……と言うより、息子や周りの人達の影響だろうか?」
「ああ、そんな気はする」
謎の2人組は顔を見合わせ笑顔を見せた。その笑顔にキースは内心首を捻る。
(近くで見ると結構年配なんだ。おばあ様と同じぐらいか少し上かな?呼び方も気安いし……これはやはり)
「私はネイシア、魔術師だ。こちらの戦士はカインド。ウェリントンの冒険者ギルドに所属している」
「今は、2人とも支部で指導官をしている……していた、の方が適当か」
2人は首元から青い冒険者証を取り出し、埋め込まれた魔石に魔力を流した。ほんのり光った青い光が2人の言葉を裏付ける。
「ウェリントンと言いますと、王都から南西に850km程行ったところですね?『ジョイホール盆地のダンジョン』の近くの」
「ああ、そうだ」
『ジョイホール盆地のダンジョン』は、毎年5.5tから6tの魔石を産出している優良ダンジョンだ。ウェリントンはそのダンジョンに最も近い事もあり、国内で5指に入る程に栄えた大きな街だ。当然、所属している冒険者の人数も多い。
(大きな街で指導官を務めていたぐらいだからな。きちんと技術を身に付けた正統派なのだろう。接してみるとそれがよく分かる)
ヒギンズは先程まで怪しんでいた自分の認識を改めた。
遠くに見えていた時は、祭り会場の人混みの中という事もあり、雰囲気と風体が浮きまくっていたが、実際話をしてみると至ってまともだ。人は見かけだけで判断してはならない、という典型である。
「それで、お二方は今日はどなたをお訪ねでしょうか? 」
と言いつつも、キースの中では当たりはついている。
「ああ、俺達は実はn」
「はぁ~、本当に今日は色んな人が来るわねぇ!ゆっくりする暇も無いわ」
エレインと話を終えたアリステアとキャロルが歩いてきた。アリステアは自分の肩を揉み、首を回している。元の身体は70歳だ。生きているだけで疲れ傷んでくる。
「良いではありませんか。これで誰も来なかったら寂しいですよ? それに、もしそんな状況だったら周りの人も困ってしまいます」
「まあ、それはそうだけど」
10年以上振りに姿を現したのに、挨拶にすら誰も来ない。周囲の人々も、そんな、『誕生日パーティに誰も来なかった』みたいな状況に遭遇するのはゴメンである。
「それにしても、フィーナもエレインさんも、今日は泣き虫さんだったわね」
「実際に解決に動きましたからね。お礼を言われて頼りにされるのは素直に嬉しいでしょう?お姉ちゃん?」
「ふふ、そうね……あらキース、お客様かしら?」
キースの前に小柄なカインズが立ち、大柄なベイシアの前にヒギンズが立っている為、アリステア達からは姿がほとんど見えていないのだ。
「ええ、おばあ様にですよ」
「あら、また私?もう、今日は私はオマケなんだから良いのに……もっと皆の事を称えてあげて欲しいわ」
そう言いながらも、満更ではなさそうな表情を見せる。非常に解りやすい。
「それで、どなたがいらしたの?」
「はい、こちらのお二方です」
キースとヒギンズが左右にサッと分かれる。アリステアとネイシア、カインドは、正面から顔を合わせた見つめ合った。
「よう、アーティ、元気そうだな」
ネイシアが声を掛ける。
「ちっとばかし遅くなったが、白銀級おめでとうな。今回も親子3代、全く大したもんだぜ」
カインドも続く。だが、アリステアは瞬きをするぐらいで無反応だ。無表情で2人の事をじっと見つめている。
「……なあ、これ、俺達の事憶えてないんじゃねぇのか?」
「さすがにそれは無いと思うがな……おい、アーティ、俺達が誰だか判るか?」
2人が覗き込む様に顔を寄せ合う。その言葉に反応するかの様に、アリステアの肩がピクリと動いた。顔がみるみる紅潮してくる。
「……誰か判るかって?……忘れる訳無いでしょ、こ、こ、このバカーーーーーっ!!!!!」
アリステアは前に踏み出すと、2人目がけて飛びつき、そのまま寄せ合った頭を抱え込む。年齢と足の不自由さなどまるで感じさせない動きだ。
そしてそのまま、辺り一面に泣き声を響かせ始めた。居合わせた人々は今度は誰の泣き声かと顔を見合わせ、アリステアと判ると困惑の空気に満たされた。
(どうやら今日一番の泣き虫さんはアーティだった様ですね。それにしても、どうしましょうか、これは)
わんわんと声をあげて泣き続けるアリステアと、こいつは一体どうしたものかと困り顔の、年配の元冒険者達を眺めつつ、キャロルはどうやって泣き止まそうかと頭を巡らした。
□ □ □
「いや~、まさかあそこまで泣いてしまうとは。予想外でした」
「約50年振りだものな……」
「しかも、半分喧嘩別れみたいなものだった様ですし」
キース、ライアル、デヘントの3人は、少し離れたテーブルに視線を送る。視線の先では、アリステア達3人に加え、キャロルとマクリーンが一緒に座っている。
まだグスグスと鼻を啜るアリステアを神官2人が宥め、向かいに座る元仲間達が気まずそうに様子を窺っている、という図だ。
そして、神官2人は、宥めながらアリステアの心の内を正確に掴んでいた。
「……お義母さん、お二人に対して何をそんなに怒っていらっしゃるのですか?」
「せっかく50年振りの再会ですのに、それではお話もできませんよ?お二人も取り付く島もありません」
アリステアは目元を押さえているハンカチをずらすと、向かいで小さくなっている2人に目を向ける。まるで、親の仇でも見るかの様なキツい視線だ。
(……視線だけで射殺せそう)
キースはその視線に肌が粟立つのを感じ、ローブの袖の上から腕をさする。
「……なんで何も言わずに出て行ったの」
(地の底から響いてくる様な声だな……)
母親の聞いた事の無い声に、ライアルは自分に向けられた訳でも無いのに、背中に変な汗を感じた。
「……俺達が王都を出てウェリントンに移籍した事を言っているのか?」
「他に無いでしょ……」
「……ちょっと待て。俺達はちゃんと伝えてもらえる様にお願いしたぞ」
「誰に」
「ギルドのm」
「おーっす、邪魔するぞ!」
お誕生日席にやってきたのは、かつての冒険者ギルドギルドマスター、現『北西国境のダンジョン』管理官、ハインライン・ウォレイン男爵だった。『指揮官』の二つ名を持つ魔術師、デズモンドも一緒だ。
「……おい、あっちの席、何やってんだあれは?」
ハインラインは、アリステア達が座るテーブル周辺に立ち込める、どんよりと重い空気に気づき眉間に皺を寄せた。
「……男爵、少々間が悪かった様ですね。誰かあれを説明してもらえるか?」
「え、えーとですね……あ、ではこちらへどうぞ」
キースが空いているテーブルを指し示す。ヒギンズは『イクシアガーデン』の店の一つで飲み物を受け取ると、3人の前に置いた。それを合図にするかの様に、キースが状況を説明し始める。
「なるほどな。確かに、ネイシアとカインドが歳を取った姿と言われれば、そんな感じにも見える。それにしても懐かしいな」
「憶えていらっしゃいますか?」
「もちろんだ。あの2人はある意味有名人だからな」
デズモンドの言葉にキースは不思議そうに首を傾げる。
デズモンドが飲み物の器を手にし、中身を一口飲んだ。樽で熟成させた蒸留酒を炭酸水で割ってある。薫香をまとったアルコールと炭酸、両方の刺激が喉に心地よい。ちなみに、キースには果汁に無味無臭のアルコールを少々加えたものだ。酒に慣れていない若者にはちょうど良い。
両隣のテーブルには、いつの間にかライアル、デヘント、両方のパーティ全員が集まっていた。全員冒険者になる前どころか、この世に生まれる前の話だ。当時を知る人から話を聞ける機会はもう無いだろう。
「冒険者になったアリステアがあの2人とパーティを組み、どういう過程を経て、最終的にどうなったのかは当然知っているだろうから省くぞ。これはその後の事だ」
デズモンドはもう一度飲み物を口にすると、静かに話し出した。
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