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第27話

【更新日時について】


書き溜めが尽きるまでは、毎日5時・11時・16時に更新いたします。


通勤・通学、お昼休みのお供としてぜひどうぞ。


ひとしきり囲まれていたが、しばらくすると自然と人垣が割れてきて、一本の通路の様になった。


その通路は「鑑定」の窓口まで伸びていた。


アリステアは松葉杖をつきながら静かにその間を進んでいく。


受付の前に着くと、キャロルが背負い袋を下ろすのを手伝ってくれ席に座る。


目の前には明らかにホッとしたいつもの笑顔がある。


そして、「お帰りなさいアリステアさん、お疲れ様でした」といつも通り声をかけてくる。


「はい!ただいま戻りました!頑張りました!これ、例の照明の魔道具だと思います!鑑定お願いします!」


「はい、では拝見しますね」


アーサーはアリステアから受け取ると、角度や向きを変えながら一つ一つ丁寧に確認し、メモに何やら書き付けていく。


(聞いていたのと少し形は違うが、照明の魔道具であるのは間違いないようだな。この周囲の透明な板が割れやすいという話だったが、傷一つない。箱に入って隠し部屋にあったというだけあって新品同様だな。この窪みの大きさなら・・・5gの魔石か。お、はまった。魔法陣が光ったという事は・・・点いた!十分に明るいな。熱くもならないし、裸火でもないということは、火事になる心配がない。さらにロウソクの様に煙も臭いもないのだから、やはりこれはいいな)


「やはりこれは照明の魔道具です。こんなに状態の良いのものを大量に見つけてくるとは、さすがですね・・・」


「これがあと27個あるんだけど・・・」


「欲しがっていた技師に幾つあれば良いのか確認します。この状態のものを30個というのは大変な金額になりますから」


「わかった。じゃあ買取金額はその辺がはっきりしてからでいいよ」


「ありがとうございます。助かります」


「あっ、あともう一つあって・・・」


「はい、なんでしょう?」


「こ、こ、これなんだけど・・・」と封筒を渡す。


(おおっ!遂にいった!と周囲の人々は心の中で拍手喝采する)


「1人の時に読んでほしい。暇な時でいいから!全然急いでないから!」


「いえ、今拝読します、大事な手紙なんですよね?」


アーサーは封筒の口を切り便箋を取り出し読み始めた。


(皆の前じゃなくていいのに・・・恥ずかしい・・・)


周りの皆はニヤニヤしているのだろう。とても顔を上げることができない。


アーサーは真剣な顔で読み進めている。


「今度食事に行きましょう」というだけの内容なのに、なぜか便箋3枚になってしまったのだ。読む方も大変である。


モジモジしながらアーサーの顔をチラ見していたアリステアだが、読み終わったアーサーは細く息を吐き、目を閉じている。


何かを考えているようだが、あの内容で何をそんなに考えているのだろう。


(まさか断る理由を考えているのかな?)


アリステアは不安になってきた。


こんなみんな見ている前で断られたら、この先どうやって生きていけばよいのだろうか。


(だから1人で読んでって言ったのに・・・)


「お話は分かりました。お受けします」


(!?)


「女性の方からこのような申し込みをさせてしまうとは、男として失格ですね。申し訳ありません」


(マジで? 断るのに考えていたんじゃないの?)


「ドレスや指輪の用意もありますし、家も新しいほうが良いですよね?」


(・・・ん? 何か・・・あれ?)


「そうなると、式自体は来春ぐらいでしょうか」


(式? 今式って言った?)


「でも、お話はもちろん嬉しいのですが、私で本当に良いのですか?」


(良いかって?良いに決まってる!)


「はい!お願いします!」


「分かりました。ではこの結婚の申し出をお受けいたします。よろしくお願いします。アリステアさん」


(結婚?誰が?アーサーが?アーサー結婚しちゃうの?誰としちゃうの?でも今よろしくお願いしますって。え・・・?)


待合室にいる人々は呆然としている。


アリステアがアーサーにベタ惚れなのは誰もが知っている。


それこそ、ギルドの周りに住んでいる野良猫でも知っている。


しかし、いきなり結婚を申し込むとは思っていなかった。


せいぜい食事とかデートの約束程度だと思っていた。


なんと言ってもアリステアは実戦経験ゼロの新兵(ありとあらゆる意味で)なのである。


それがいきなり「結婚」では、単騎で敵本陣に突撃し、総大将を討ち取ってきたようなものだ。


こういう時に頼りになるギルドマスターもデズモンドも、さすがに固まっている。


その時、静かにアーサーに近づいた者がいた。キャロルである。


「ちょっと拝見しますね」


と言って手紙を受け取り読み始める。


最初のうちはまだ食事の誘いだった(それでもだいぶ遠まわしだったが)、しかし、2枚目の途中辺りから内容が怪しくなり、3枚目は完全に妄想垂れ流しだった。


「将来は庭付き二階建ての家に住み、庭では季節ごとに様々な花が咲き乱れ〜」


(随分乙女チックですね)


実際ユニコーンが懐くぐらいの真正の乙女である。


「大きな暖炉があるリビングのソファーで、編み物をして〜」


(確かに編み物は得意ですものね・・・ん?)


どうやらこんな話になった原因の箇所を見つけたようだ。


「あなたもわたしも、共に長生きできるよう身体を大切にし慈しんでいきましょう」


これを、「年老いても労りながら一緒に生きていきましょう」という風にでも受け取ったのだろうか?


(ちょっと飛躍しすぎではないでしょうか・・・ですが)


(確かにいきなり「結婚」というゴールまで突き進んでしまいましたが、結婚したい人間が申し込み相手がそれを承諾したのだから、これはこれでアリなのではないでしょうか)


(これは食事の申し込みだから、とか余計な事言わずに、これから2人でずっと自宅で食事すれば良いのです)


(では、これはこれという事で〆てしまいましょう)


キャロルは、本人達を含め皆が固まっている状況を利用して押し切る事にした。


「おふたりは冒険者と冒険者ギルド職員でいらっしゃいます。ここにはギルドマスターであるハインライン様という、そんな2人にはこれ以上ない立会人がおられます。ハインライン様、おふたりのご婚約を間違いなく見届けられたという事でよろしいでしょうか?はい分かりました。この、海の神「ウェイブルト」にお仕えする神官、キャロルも間違いなくお二人の将来を誓い合うご意志を確認致しました。さらにこの場にはお二人の事をよく知るお仲間もたくさんいらっしゃいます。皆様方もどうぞお二人がご婚約された事をご記憶くださいませ。では新たな道へ進み始めた両名へ盛大な拍手を!」


パ、パチパチパチパチ・・・?


皆が(当人たちも含めて)煙に巻かれているうちに、神の名の下に2人の婚約は成立した。


デズモンドは、海の神の神殿に、神の啓示を受けたという若い神官がいるという事を知っていた。


(1年かけても全く進まなかったこの2人を、たったの5分で婚約させてしまうとは・・・これが神の啓示を受けた神官のお力か・・・)


と、妙なところで感心していた。


アリステア27歳、アーサー28歳


2人は夫婦になる事になった。

アリステアの過去編はこれで終わります。


また別のタイミングで挟まってくる事があるかもしれません。


次回からは、久々にキース君が登場し、時間が進んで行きます。


ブックマークやご評価、よろしくお願いします(*´∀`*)

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