第278話
【更新について】
週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
アルトゥールの講話後、祝賀会開始直前。『コーンズフレーバー』のフィーナは、久々に『アリステアの姿のアリステア』に会い、大泣きでした。珍しく公式の場に姿を現したアリステアのところには、まだ他にも誰か来そうです。
□ □ □
「奥様っ!どうもご無沙汰しておりますっ!お変わりなさそうで何よりです!」
「ええ、スカルポーニ。あなたは……言うまでもないか。ロッタとワーデンはお元気?」
「はいっ!おかげをもちまして元気に過ごしております!」
ライアル達の『お誕生日席』にやってきたのは、エストリア国内の『照明の魔導具』を一手に扱う、リクイガス商会のオーナー、スカルポーニだった。
体格はクライブにも匹敵する大男、頭髪は白髪だが年齢にはしては量も多く長い事から、後ろで一本に縛ってある。もみあげから顎にかけてはきちんと手入れをした髭に覆われている。
そして身体の大きさに比例してか声も大きい。一見豪快そうだが、細かい作業が得意で性格は真面目で控え目、さらに結構弱気なところもある。挨拶の中で出たロッタというのは妻、ワーデンは息子で現在の商会オーナーだ。
息子にオーナー職を譲った後は一技術者に戻り、『照明の魔導具』はもちろん、興味を持った魔導具を弄り倒している。要するに、引退して趣味活動に邁進しているという事だ。
「坊ちゃん!坊ちゃんの坊ちゃん!この度は、昇級、ご婚約、誠におめでとうございます!」
「……ええ、はい、どうもありがとうございます」
「ありがとうございます……」
スカルポーニのアリステアへの『奥様』、ライアルへの『坊ちゃん』呼びにはもう諦めている。これまでにも数限りない程に『やめろ』と言ってきたのだが、スカルポーニはこれだけは頑として譲らなかった。
「さすがに『坊ちゃんの坊ちゃん』はちょっと……」
「それは失礼いたしました!では、『キース坊ちゃん』と呼ばせていただきます!よろしくどうぞ』
「あ、いえ……いや、解りました。じゃあそれで」
為人を承知している事もあり、キースは早々に『もうこれでいいや』と匙を投げた。
ひとしきり、今回の昇級やキースの婚約、アルトゥールの講話についての話をする。
「お祝いに、オリジナルの『照明の魔導具』をお作りしておりますので、お楽しみにお待ちください。ぜひ、皆さんのお屋敷に飾っていただければと思います」
「ありがとう。期待してるわ」
「そうだ、スカルポーニさん。ちょっと珍しい『照明の魔導具』が見つかりまして。おそらく見た事無い種類のものかと」
「ほぅ……それはそれは」
『珍しい照明の魔導具』『見た事無い種類』という言葉に、スカルポーニの顔つきと雰囲気がガラッと変わった。
(まあ、『照明の魔導具』については譲れないわよね。キースもわざと煽る様な言い方して。全く……)
「拠点として借りた屋敷にあるので今持ってきますね」
「いやいや、キース坊ちゃん、それは確かに見たいですが……祝賀会の最中ですぞ」
キースは間違いなく今回の主役の一人である。いなくなる事を心配しているのだ。
「大丈夫ですよ。『転移』を使いますから。パッと行って戻ってくるだけです」
書類筒から屋敷の魔法陣と対になっている『転移の魔法陣』を取り出し、即起動する。いきなりの『転移』に、席の周辺にお祝いに来ている人々からどよめきが起きた。
「もう隠さなくて良いとなると、遠慮も何も無いわね。ごめんなさいね、驚かせて」
「いえいえ、お気になさらず。これが『転移の魔法陣』でございますか……いや~本当に姿が消えましたな!間近で見ると何とも言葉がありません」
スカルポーニは目を白黒させた。『照明の魔導具』にも魔法陣は使われているが、専門は『照明の魔導具』である為、普段扱わない魔法陣についてはそこまで造詣は深くない。
「はい、お待たせしました。こちらなんですが。あ、ちょっと人がいない所の方が良いですね……あそこへ行きましょう」
手提げ袋を手に戻ってきたキースが指さす。
特設ステージ裏の、間仕切りで作られた仮設の控室だ。ステージの解体は始まっているが、控室側はまだ手がつけられていない為そのままになっている。3人は控室の一つに入った。
「パッと見は普通なんですが……では少し離れてください」
室内のテーブルに『照明の魔導具』を置いて後退りする。すると、点灯していた『照明の魔導具』は消えた。
「んんっ!?……故障、では無いのですね?」
触ってもいないのに消えたのを見てキースの方に向き直ったスカルポーニだったが、笑顔のキースを見て自分の考え違いを察した。
「ふふ、手に取って確認してみてください」
「……では、失礼して」
スカルポーニが一歩、二歩と近付くと、今度は点灯する。スカルポーニは大きな身体をビクッと震わせ立ち止まった。
「なっ!?これは…………まさか」
「はい、近付くと自動的に点灯して、離れると消えます」
「……」
スカルポーニはこれ以上無理いう程に目を見開いている。長年『照明の魔導具』に関わってきた彼にしてみれば、これは衝撃的な機能だった。
点灯から消灯までを時限式にする事はできた。しかし、定めた時間は点いたままである為、どうしても魔石の魔力は消費してしまう。
しかし、この機能があれば無人の時は消えるのだから、魔力を使わない。即ち魔石が長持ちするという事だ。
「恐らく、<探査>の魔法の様な機能が、本体か魔法陣に組み込まれているのでしょう。ちょっとあれこれ忙しくて、確認すらできてないのですが」
「……いや~、これは凄いですな。これを元に再現できれば、また一段階先へ進む事ができる。キース坊ちゃん、これをお借りする事はできますか?もちろん、きちんと契約を結んでからですが」
「あ、お売りしますので好きに使ってください」
キースの言葉にスカルポーニは目を閉じて唸る。
「この世に出回っていない魔導具で、状態も最高ですからな。参考にできる値付けもありませんし、一体幾らなら妥当なのか……うちもそれなりに金はありますから、かなりの額でも払えないという事はありませんが」
スカルポーニは、再現し販売できる様になった暁には、一つ売れる毎にキースに幾ら、という契約を考えていた。個人的にはもちろん欲しいのではあるが。
「うーん、僕としては、この『照明の魔導具』は屋敷の備品として付いてきただけなので、これを使ってお金を儲けようとは思っていないのですよね……どうしましょうか」
金に不自由していない人間は、金への執着が強く常に増やす事を考えているか、既にたくさん持っているから興味が無いか、大抵そのどちらかである。
「スカルポーニとしては、これを量産できたとして、どれぐらいの数売れそうだと考えるの?」
アリステアの質問に、困惑気味だったスカルポーニの表情が真剣なものになる。
「そうですな……現在世の中で使われている『照明の魔導具』の9割ぐらいは、これに置き換えられる場所に設置されているのではないかと。そのうちの半分が換えたとしても、約5割ですな」
「5割!?」
アリステアとキースが声をハモらせた。余りの数字に顔を見合わし、目をぱちぱちさせている。
リクイガス商会は、これまで何十年にも渡り、ほぼ独占状態で『照明の魔導具』を作り、売り続けてきた。実際の販売数などは過去の帳簿をひっくり返してみないと分からない。そんな状況で、現行品の5割が新商品に切り替える可能性があるというのだ。もしそれが本当に全部交換されたとしたら、一体どれだけの売上になるのか。全く想像がつかない。
「世の中には、常に点灯させておきたい場所と、人がいる時だけ点いていれば良いという場所がございます。建物や敷地の外と繋がっている出入口、敷地の外周部や、夜間でも人通りがある街中は前者、廊下や室内は後者です。前者は据え置き、後者は全部これに切り替える事ができるでしょう」
「それが9割……」
「凄すぎて全然ピンときませんね。ちなみに、おばあ様はどういう契約になっているのですか?」
「私?『1個売れるにつき100リアル』よ」
「……販売価格の割合では無いのですね?」
「私もこれで儲けようとは思っていなかったから」
キースの言う通り、『販売価格の1%』などと設定すれば、高額商品が売れた時の配当は多くなっただろう。
しかし、アリステアの元には、回収してきた遺物の売却益もあるし、『北国境のダンジョン』の報奨金を始め、他の投資や出資の配当金など、定期的に多額の収入がある。この契約はあくまでも、出資に対する約束という意味でしかなかった。
「じゃあ、僕もそれで良いですよ。細かい事はお任せします」
「……こちらとしてはありがたい話なのですが、どうしたものでしょうね」
スカルポーニは腕組みして唸る。新たな『照明の魔導具』の登場と、商会の行く末にも大きな影響を及ぼす契約に戸惑っているのだ。
「じゃあ、こういうのはどう?契約は一旦保留して、今日は『照明の魔導具』の貸出についてのみ約束しましょう」
アリステアは胸の前でポンと一つ手を打つ。
「そもそも、スカルポーニはもう商会のオーナーでは無いのだから、ワーデンや番頭さん達の知らないところで勝手に契約する訳にはいかないでしょう?物を持って帰ってもらって、皆で確認しながらよく相談してちょうだい。細かい事はそれからにしましょう」
「確かにその通りですね!今全部決めなければいけない理由はありません」
「……ありがとうございます奥様、キース坊ちゃん。では、そうさせてもらいます」
キースは書類筒から魔術契約用の紙を取りだし、約束する内容を書いてゆく。更に、『転写の魔法陣』で複製を作り、1枚をスカルポーニに渡す。
「先程陛下が試されているのを拝見した時から思っていましたが、これも本当に素晴らしいですな。便利過ぎます」
渡された契約書を両手で持ち、下から透かして眺めている。
「ありがとうございます。売り出されたらぜひどうぞ」
お互いにサインを交しあい、立会人としてアリステアが両方の書類にサインをした後、埋め込まれた魔石に魔力を流す。埋め込まれた青石は、約束を印象づける様に光を放った。
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