第276話
【更新について】
週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
アルトゥールの講話を聞いた人達の反応を追っていきます。前回は、商会オーナーであるエレインとオーエンでした。今回は……
□ □ □
(どうしてこうなった……)
リリアは酔っ払っいのお姉さん達に挟まれながら、途方に暮れていた。
「らいじょーぶ、リリア、きっとまたいい人見つかるから。リリアはかわいいからねぇ。らいじょぶらいじょぶ。そんでね、あたしにもねぇ、えへへぇ」
呂律がかなり怪しくなっているのは、リリアの3つ歳上のイリスだ。実家である装飾品を作成、販売している店で働いている。リリアが裏通りで拐われそうになった時、キースと一緒に逃げ込んだあの店だ。
「……リリア、ちょっと近くのお店からアルコールの入ってない飲み物貰ってくるね。このまま飲ませてると面倒な事になるから。ちょっと休憩させよう」
もう1人、それなりに飲んでいる筈なのに全く普通なのが、イリスと同い歳のファムだ。
実家は昼は食堂、夜は居酒屋を営んでおり、ファムもそこで働いている。キースが冒険者として新規登録をした日、昼食と夕食を食べた店だ。それ以来、キースもちょこちょこ顔を出している。
それぞれの実家も当然収穫祭には出店しており、2人もこの4日間目一杯働いた。それもあって今日は休みだ。普段から仲の良い2人は、飲食物全て無料という事もあり、午前中から連れ立って飲み歩いていた。
そして、それなりに飲んだ状態で『コーンズフレーバー』のブースに現れた。アルトゥールの『王女婚約』の話に驚きつつもリリアが心配になり様子を窺いにきたのだ。
リリアとしては心遣いはありがたいと思いつつも、酔っ払いの相手は避けたかった。だが、働いていてもお会計の手間が無い為、手が余ってしまっている。居座られても商売の邪魔と考えた祖母と母により、まとめて追い出されてしまった。
そして、2人に挟まれキースとの事を根掘り葉掘り訊かれているのだ。
「そっか、ちゃんと事前に話をしに来てくれたんだ。そういうところはさすがはキース君だね」
「ねぇ~、やっぱりねぇ、良い子だよねぇ。お店に来る時も必ずお土産持ってくるし。はぁ~、ほんとかわいい……でも、てっきりリリアとくっ付くと思っていたんだけどなぁ」
椅子に深く、だらりと腰かけたイリスが、搾りたて果物のミックスジュースを啜る。酸味と甘さ、さっぱりしたものを飲んだ事で、少し酔いが醒めてきた様だ。
「正直、そうなったら良いなとは思っていました。その為に頑張っていたのも間違いありませんし。キースがモテるのは解ってはいましたけど、でも、まさか、こんな事になるなんて……急展開過ぎます」
「うん……」
自分が好きになった相手が王女に結婚を申し込まれる、そんなのは想像の埒外で、もはや妄想と言っても良いレベルだ。
「そうだね。そもそも、初めて会った相手に『結婚してくれ』なんて言えないもの。しかも王女様だよ?次の王様だよ?訓練校しか出てない私達だってそんな事しないよ」
3人で腕を組んで唸る。王女で次期王位継承者という、国で最高の教育を受けて育ってきたのにも関わらず、後先も考えずに、初対面の一般市民の冒険者に結婚を申し込む。どう考えても普通じゃない。
「元々、ぜひ会いたいと思っていらっしゃったそうです。その時も、室内にキースがいると知らないで入ってこられたみたいで」
「いきなり顔を合わせたせいでテンパっちゃったんだ」
「多分……」
「リリア、もういっその事、押し倒しちゃえば良かったんじゃない?」
ファムの突然のとんでも発言に、イリスとリリアの目が丸くなる。当の本人は、澄ました顔でグラスを傾けている。
(……ファムさん、普通に見えるけどこれ酔っ払ってるんだ。酔うとこんな事言うのか)
「まあ、リリアはスタイルも良いしワンチャンあったかもねぇ。でも、キース君だからな……どうかな」
「……きっと、縁があった、無かった、っていうのはこういう事を言うんだろうね。男と女は難しい」
(さっき押し倒せって言ったのに。この何の脈絡も無い発言……やっぱり酔っ払いだ)
「そういえば、冒険者はどうするの?王配になったら無理だよね?白銀級になったし、終わりなのかな?」
「あ、結婚してからも続けるそうですよ。続ける事が結婚を受ける事の条件の一つだったそうです」
リリアはキースから聞いた話を説明する。
「……王配ってそんなに暇じゃないよね?大丈夫なのかな」
「それを提案する方も、それに許可を出す人も、どっちも頭おk……いや、これ以上はここではやめよう。捕まるかもしれない」
酔っているくせに変なところで冷静なファムである。
「じゃあ、あの話も進められるかな?」
「なに?キース君と何かあるの?」
「うん、うちの店と業務提携というか、アドバイザリー契約というか、それを結ぶんだよ」
「……はい?」
「何で2人してそんな不審そうな顔するの……うちは真っ当な装飾品屋なんだからね?先月キース君が寄ってくれた時にちょっと話になってさ」
きっかけはイリスが『よそのお店と違う、独自のウリが欲しい』と言った事だった。そこでキースが『身を守る魔法陣を付けたらどうか』と提案したのだ。
「そう、リリアがしているそのバングルみたいなやつね。魔法陣刻んであるんでしょ?」
「え、何で知ってるんですか?私誰にも言ってないんですけど」
左手首のバングルを右手で抑える。
「キース君がそのバングルを買った時、店番をしていたのは私だったの。それに、自分の店で扱っていた品かどうかなんて、チラッと見ただけでも判ります!」
ドヤ顔で胸を張る。
「でね、キース君が結界系の魔法陣とそれを写し取って貼り付ける技術を提供してくれる事になって。でも、方法が未公開だから、それが公開されるまで保留って事になってるんだ」
「それは、さっき陛下が試された『転写の魔法陣』ですね。貼り付ける時に大きさを変えられる機能がありますから」
「やっぱり!でもこれで話を進められる。お父さんや職人さん達も乗り気だったからさ、何とかモノにしたいんだ」
「セクレタリアス王国の頃にも、そういう装飾品は作られていたそうです。ただ、ブローチなどが一般的だった様ですね。魔法陣を刻むのにある程度の大きさが必要ですから」
「じゃあ、そのリリアのバングルみたいに幅が狭いと、作るのが大変という事ね?さすがはキース君」
「そうですね……」
リリアはバングル外し裏返す。そこには見た事もない精巧さできっちり魔法陣が刻んである。刻む際は、魔法陣を作成する時と同様に『針』を用いる。これだけ小さく刻むには、先端に集めた魔力をとにかく細く尖らせる必要がある。そして、それを維持したまま、図案と寸分違わぬ様に痕を着けてゆく。長時間集中し続けなけれならない大変な作業だ。
(……キースはどういう気持ちでこれを刻んでくれたのだろう)
リリアは魔法陣を指先で撫ぜる。屋上で説明を受けた後から何度も考えてきた。
これを渡してきた際、彼は自分に対して特別な感情があったのか、無かったのか。自分で出した結論としては『全く無かった訳では無い』という中途半端なものだ。我ながら未練たらしいとは思うが、あれからまだ数日だ。正直未練タラタラである。
「リリア、もう終わった事をあれこれ考えて仕方がないよ!」
イリスが両手をテーブルについて、リリアの方に身を乗り出しながら立ち上がる。
バングルの内側を撫でながら一人しんみりしてしまったリリアが、何を考えているのか察したのだ。
「次の目標も決まっているんでしょ?立ち止まっている暇なんてあるの?それに向けて心機一転、頑張っていこう!という訳で休憩終了!さ、次行くよ!どこにしようか」
「今年の収穫祭には『フローリア』が出店しているのよね。日替わりのお惣菜とワイン、焼き菓子を出しているのですって。イリスあの店一度行きたいって言ってたでしょ?行ってみましょう」
「ほんとに!?あそこの料理とお菓子をタダで食べられるなんて!祝賀会最高!キース君ありがとう!ほら、リリアも急いで!品切れになっちゃうかもしれない!」
「あ、え、ちょっと!そんなに引っ張らなくても行きますから!」
2人が自分の事を励まそうとしてくれているのは十分理解しつつも、胸の奥のちくちくが治まるには、もう少し時間がかかりそうなリリアだった。
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