第274話
【更新について】
週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
秋の収穫祭、アルトゥールの講話は続いています。遂に、収穫祭最終日=祝賀会というネタばらしがされました。ライアルを始め、皆ビックリ仰天ですが、王都中の人々にお祝いされ感激です。
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「最後の話の前に、一つ軽く伝えておくか。準備にもう少し掛かるみたいなのでな。ただ待っていても時間がもったいないからの」
ざわめいていた観衆は徐々に静まり、アルトゥールに注目し始める。
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【アルトゥールの講話2】
今日はここまで、新しい魔法陣とダンジョンという、これからの国の運営に関わる大事な話をしてきた。だが、『こんな誰が聞いているか分からない場で、ペラペラ喋ってしまって良いのか?』と気にかけてくれている者もいるかもしれん。もしいたならありがとう。だが、それについてはこちらも考えているので安心して欲しい。
この場には間違いなく、各国の大使や大使館関係者がおる。一々探してはおらんが、そんな事せんでも絶対にいる。駐在している国の国王が国民に向けて話をするという、タダで情報がもらえる場に来ないはずが無いのだ。それを承知で話をしている。
今日話したのは新しく販売される魔法陣、『北西国境のダンジョン』確保までの詳細、『転移の魔法陣』完成に伴う新部署の設立、だった。この3つはな、既に使用されていたり、運用している為、儂らにとってはもう秘密では無い。強いて言えば『転移の魔法陣』関連だが、これも多数の人事異動が発生しておるからな。何がしかの情報は掴んでいたであろう。彼らにしてみれば、先程の展示でその裏付けが取れたという事になるな。
彼らには、『エストリアが『転移の魔法陣』を完成させた、という噂は本当だった』という話を国元に正しく伝えてもらわねばならぬ。何故か?そうする事で、こちらに対する手出しを控えさせる事ができるからだ。
基本的に我らから仕掛ける事は無い。これからは、『転移の魔法陣』の国内運用や、王女が成人した後、譲位からの戴冠式などが予定されている。正直非常に忙しい。他国の相手などしている余裕は無いのだ。
だが、手出ししてきたのならば相手ははせねばならぬ。でないと調子つくだけだからな。だが、様子見や牽制程度のつもりでも、その代償は高くつく事になる。こちらは文字通り、寝ている相手の首元に刃を突きつけることができるんじゃからな。そこのところをきちんと理解し『エストリアには手を出すべきでは無い』という結論に至ってもらわねばならん。
改めて言っておく。割に合わんからやめておけ。
先程も言った通り、こちらは忙しい。間違いなく、一番時間と手間が掛からない方法で対応するからな。それでも良いと言うのであれば仕方がないが、それなりの覚悟はしておいてくれ。
お、着いたか?ちょうど良いタイミングだったな。では最後の話に移ろうか。
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「話を始める前に3人のゲストを紹介しよう。さあ、上がってくれ」
キースはステージに上がる短い階段へと移動すると、先頭にいる人物の腕を取った。そのままゆっくりと階段を登ると、そのままアルトゥールの脇に並ぶ。
「知らぬ者はいないであろうが、直接見知っている者も減ってきたか?元祖白銀級冒険者であるアリステア、この150年間で唯一、海の神の啓示を受けた神官、『海の神の娘』キャロル、その夫で『神の娘の盾』ヒギンズだ」
唐突なアリステア達の登場に、中央広場は若干戸惑いの空気に包まれたが、すぐに拍手と歓声が巻き起こった。アリステア達は軽く手を振ってそれに応える。
「この3人はこれからの話に関係しておる。除け者にはできんからな、急遽来てもらった。もちろん『転移の魔法陣』でだ。本当に便利だ」
そう、先程のライアルの挨拶の後、転移した3人の行き先はカルージュの屋敷の自分達の部屋だった。身体と服を着替える為だ。
「今日最後の話は、ある意味一番重要かもしれん。王女の婚約がな、無事整った」
一瞬の間を開けて沸き起こった拍手と歓声は、まさに地鳴りの様で、間違いなくこの日一番のものだった。そしてそれは、アルトゥールが片手を軽く上げて抑えるまで続いた。
「ありがとう、皆本当にありがとう。それでな肝心の相手なのだが、まぁ、このステージの上にいる者たちを見れば察しがつくと思うが、そう、相手はこのキースだ」
キースが一歩前へ、イングリットの隣に立つと、チラリと視線を交わしお互いに笑顔を見せる。それを目にした観衆から、大きなどよめきが起きる。
「『王女の結婚相手が一般市民の冒険者で良いのか?』と考える者もいると思う。なのでな、今からその理由を説明する。4つあるからな、聞いて欲しい」
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【アルトゥールの講話3】
まずな、儂はこの一族は、一般市民だとか貴族だとか、そういう枠組みに当てはめるべきではない、超越した存在だと考えている。アリステア、ライアルとマクリーン、キースの3代はもちろんだが、当然キャロルとヒギンズも含まれる。50年近く家族同然に過ごしてきたのだからな。
特性に合わせ様々な知識と技術を身につけ、それが経験によって裏打ちされている。一人一人が傑出した能力を持つ稀有な存在と言えるだろう。そして、その力で数え切れない程の成果を国に齎してくれた。よって、皆にもこれまでの常識は捨てて考えて欲しい。
次にな、この一族が国外へ流出する事を防ぐ為だ。まあ、これはな、主にキースを指す。アリステアやライアル達はもうそれなりの歳であるからな、流石に無いとは思う……無いよな?ふむ、安心じゃ。
だが、その点キースはまだまだ若い。
エストリアで何か嫌な事でもあれば、『こんな国住んでいられるか』と出て行ってしまうかもしれん。特異な才能の持ち主である事は、今日の話を持って知れ渡った。どこの国も大歓迎であろうよ。
それを、女王の配偶者、『王配』というのだが、としてエストリアに縛り付ける……と言っても、無理矢理結婚させる訳では無いぞ?嫌々かどうかなどこの2人の様子を見れば解るであろう?何じゃこの2人の間の空気。桃色に染まっておるのが見えるようだわ。ふん、何を今更照れておるのだ。全く……
3つ目は少々生々しいのだが、後継者問題だ。知っての通り、ここ数十年のクライスヴァイク家はとにかく子供ができん。今思えば、儂のひいじい様辺りからその兆候は出ておった。ひいじい様と弟の2人しかおらんかったからな。それ以降も、5人、2人、儂の代が姉上と妹で3人、そこからは遂に3代続けて1人だ。
国内の貴族家とは、昔から王女を降嫁させたり、逆に王子の妻に迎えたりして結束の強化を図ってきた。周辺国の王家とも同様だな。それ自体はごく当たり前の事で、悪い訳では無い。だが、相手を選びつつも数百年に渡りそれを行ってきた結果、限界を迎えたのだと考える。こういう状態を『血に活力が無い』という言い方をするそうな。まさにその通りじゃ。
なのでな、そういった血を全く持たないキースを配偶者とする事で活性化を図り、勢いを取り戻す。王族、貴族、一般市民隔たり無く、エストリアに生きた全てのご先祖様達が繋いできた歴史だ。王女が死んだというなら諦めもつくが、残された末裔としては、手段が残っているのであれば可能な限り試す義務がある。
ちなみに、王配には王権、即ち、王位に就く資格は無い。だからな、2人が結婚した後、子供を成す前にイングリットが死んだ場合でも、キースがそのまま国王に就く事は無い。気にする者もおるかもしれんから、一応言っておく。
最後の4つめ、これが一番大きなの理由だ。ここまでの3つは、そうだな、合わせても100のうちの『8』ぐらいだな。……『80』では無いぞ?『8』だ。それ程に最後の理由は重要だ。
最重要の理由、それはな、『イングリットがキースと結婚したいと言ったから』だ。
……何やら静かになってしまったな。では、本人が望まない相手と結婚をした場合、どうなるのか考えてみよ。
結婚する直前に初めて顔を合わせ、好いてもおらん、どのような人物かすら分からん者と縁を結び、何をするのでも『義務』という言葉がついて回る、そんな人生をこの先何十年も過ごすのだぞ?それで王としての責務が果たせるのか?世継ぎは生まれるのか?心配でおちおち死んでいられんわ!
確かに、王女の結婚というのは基本政略結婚だからな。それが当たり前であり、望む相手との結婚などまず無いだろう。だがな、それは今の我々には当てはまらん。それは他に順位の高い王位継承者が存在している場合の話だ。我らには王女しかおらぬ。
エストリアの未来はな、この唯一の王位継承者を、如何に余計な事に気を煩わせずに気分良く働かせられるか、そこに掛かっておる!王だって人間だからな。自分の望む相手と一緒にいれば、否が応でも気分は上がるというものよ。
それにな、いくら以前から魔術師として憧れていたとはいえ、一国の王女が、初めて顔を合わせ挨拶を交わしたその直後に、跪いて手をとって『私と結婚してください』とやったのだぞ?そんなもの見せられて『他の者と結婚しろ』などと言えるか?結婚させるしかないであろう!その場にいた者は皆呆然としていたわ!
ん?なんだイングリット?え、あ……お、す、すまん、言ってしまった。そうだな、確かに『講話ではこの話はしない』と約束した。なん、と言うか、つい勢いで……分かった、分かったから、話は後で聞く。ほれ、皆も見ておるからの……
う、うぅ、ぅん!ま、まあ、という訳だ。この4つを理由にイングリットとキースは結婚する。『それでも納得いかん』という者は、それぞれの理由を上回る利を説いて欲しい。儂らはこれが最良だと思っているが、違う者が考えれば他にも良い知恵も浮かぶやもしれん。もし全てにおいてこの案を超える話があれば、そちらに乗り換えよう。その辺よろしく頼む。
かなり長くなってしまったが、以上をもって今年の収穫祭の講話を終了する。また来年もここで話をする事を楽しみに、一年を頑張ろうと思う。ではな、祝賀会を楽しんでくれ。ご清聴ありがとう。
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アルトゥールが話を締めた後、拍手と歓声は止むこと無く続いていたが、イングリットが魔導具を手に一歩前へ出てくると、徐々に静かになっていった。
「最後にお知らせがございます。先程陛下よりもお話がございましたが、本日の本当の趣旨は祝賀会です。そして、皆さんもその参加者となります。よって、出店している飲食店の全ての飲食物、これらについては無料で受け取る事ができます」
またもや大きな拍手と歓声が湧き起こった。もう今日何度目かも分からない。
「ですが、お願いがございます。お店では一つの商品につき2人前までのお渡しとさせていただきます。少しでも多くの方に行き渡らせる為ですので、どうかご協力を。お店の方は、もしそれ以上の注文があっても断ってください。そもそも、たくさんのお店が出ておりますからね。普段中々食べつけない物を試してみる良い機会ではないかと。何といっても無料ですし。ご連絡は以上です。それでは、8の鐘まで飲み過ぎ食べ過ぎに気を付けながら、楽しくお過ごしください」
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