第273話
【更新について】
週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
秋の収穫祭最終日、アルトゥール王による一年の総括の講話が行われています。各種魔法陣関係や『北西国境のダンジョン』についてなどの話がされ、これから収穫祭が一日延長された理由の説明です
。
□ □ □
ライアル、デヘントの両パーティ一行が馬車から降りると、目の前にはキースと冒険者ギルドのマスター、ディックがいた。
「皆さんおはようございます。こちらへどうぞ」
建物に横付けされた馬車から降りると、キースとディックの先導で建物内に入る。
建物の中は仕切りで壁と通路が作られ、いかにも仮設という感じである。通路を少し歩き短い階段を上がって、横に広くなっている空間に集合した。
「みんなこっちの緞帳側を向いて立ってくれ。ライアル達は右の奥から横一列に、デヘント達も同じ様に……2歩左へ。うん、そんな感じだ。私達がすぐ後ろでその間に並ぶ」
アリステアが前で全体を見渡しながら指示を出し、立ち位置を調整する。
「キース、お前やはり色々知っていたな?というか、マスターと一緒に色々段取りしていたんだろう?」
位置を決め終わったところで、まずはライアルが口火を切った。準備もあろうとここまで黙って指示に従っていたが、そろそろ良かろうと判断したのだ。
「……お父さん、そもそも僕は『知らない』なんて一言も言ってませんよ?」
不思議そうに首を傾げとぼける。視線も斜め上を向いており目を合わせようとしない。
「そうよね、知っていたけど言わなかっただけよね。全く……お母さん悲しいわ」
マクリーンがよよよと泣き始めるが、もちろん嘘泣きである為、誰も気にしていない。
「キース、期待していいんでしょ?」
「ええ、かつてない、史上初、空前絶後の祝賀会です。シリルもきっとお気に召しますよ」
「わかった」
(史上初とはまた大きく出たな。それにしてもまだ場所すら分からねぇ。たくさんの人の気配はするが、声も物音一つ聞こえてこねぇし。どうなってんだ……)
ライアル達との会話を聞きながらデヘントは辺りの様子を探る。
その時、床まで降りている緞帳の、向かって右の端がめくれた。そこから顔を覗かせたのは、イングリットの側仕え兼護衛であるマルシェだ。
キースに向かってひとつ頷くと、すぐに再び緞帳の向こうに消える。
(マルシェ?……イーリーもいるんだ。まだ休みだものね。……でも、みんなは婚約の話知らないよね?祝賀会に王女様が居たらびっくりすると思うけど)
マルシェの顔が覗いた辺りを横目で見ながら、シリルは考えを巡らす。
「皆さん、ここは<静音>の魔法で音を遮ってあるのですが、これからそれを解除します。急に周囲の音が聞こえてきますのでちょっと気を付けてください。3つ数えたら解除します。いいですか?いきますよ?3、2、1、はい」
キースが両手を打ち鳴らすのとほぼ同時に、一気に音が流れ込んできた。話し声、言葉にならないざわめきや歓声などが聞こえてくる。その中でも明確に聞こえてくる声がある事に気が付いた。彼らの国王の声だ。
(殿下だけじゃなくて陛下までいらっしゃるのか!内輪の祝い事にわざわざ足を運ばせるとは、全く……)
いずれは身内になるとはいえ、王室の権威というものがある。ホイホイ引っ張り出してよい存在では無いのだ。これは終わったら一言釘を刺しておいた方が良いなと思いつつ、ライアルはアルトゥールの声に耳を傾けた。
「そして、ここまできてようやく、最初に言った、収穫祭が一日延長された理由に結びつく。ここまでの余りの話の濃さに、皆このことを忘れておったのではないか?大丈夫か?ワシ?ワシはもちろん憶えておるよ。当たり前であろう!」
観衆の笑い声が聞こえてくるが、キースとアリステア達以外は眉間に皺を寄せている。
彼らはここは祝賀会の会場だと思っている。アルトゥールの声と観衆の笑い声という組み合わせにピンとこないのだ。そもそも、話の途中である為、なんの話しをしているのかが分からない。
「よいか?この急遽追加された収穫祭の最終日、これはな、昇級を果たした冒険者達の祝賀会なのだよ」
観衆はアルトゥールの言葉に一瞬静まり返ったが、すぐに歓声を上げ拍手を始めた。緞帳越しに話を聞いたライアル達は、皆唖然呆然である。
「そもそも、この祝賀会は別の場所での開催が予定されていたそうだ。だがな、人数もさることながら、出店希望が殺到してしまい、敷地不足になった。せっかく祝いたいというのを断るのも、と考えているうちに、『準備はできているのだから、祭りを一日延長してそれを祝賀会にしてしまえ』という意見が出た。それが今日だ。とんでもない発想じゃろ?それを了承して、当事者達に秘密のまま話を進める王女も大概だがの」
座っていたアルトゥールは立ち上がり、ステージの端へ歩いて行く。
(これが祝賀会!?)
(あらあら……なんて事)
(お祭りでお祝い?すごいじゃん)
(じゃあこれは恒例の陛下の講話か?って事は中央広場に連れてこられたのか!)
(この緞帳の向こうは……もしかして)
(うわーマジかよ!こりゃスゲェ!)
「言い出した者は自分の功になど目もくれず、長年苦労した両親と先輩達の事を、できるだけたくさんの人に労ってもらいたいと考えておった。確かにこれならば、王都10万人が祝ってくれるからな、これ以上無いと言える。4年半もの間、王都にも帰らず現地の厳しい状況の中で頑張ってきた2パーティの事を、どうか皆で称えてやって欲しい。さあ、緞帳を上げよ!我らの英雄達の凱旋だ!!」
厚い生地で作られ、立派な刺繍が入った重厚な緞帳が、天井へ向けてスルスルと上がってゆく。
緞帳が上がり切り、横一列に並ぶ冒険者達の姿を目にした観衆達は、ステージに向けてこれ迄以上の拍手と歓声を送り始めた。
□ □ □
「皆さん、あと3歩前へ!ほら、大観衆が声を掛けてくれていますよ!手を振って応えてください!」
「あ、ああ」
キースの言葉を受けて前に出て手を振る。ライアルなどはまだ動きも表情も少し固い。だが、マクリーンやローハン、バルデらは笑顔で大きく両腕を振っている。順応性の高さというよりかは性格であろう。
「よし、それではライアル、集まった人々に対して一言頼む」
「……はい、承知しました」
「現地での対応については先程私が話したからな。挨拶だけ簡単にで良いぞ」
(またおじい様は勝手な事を……いくらお父様とはいえ、この人数を前に前置き無しで挨拶しろなんて!無茶振りが過ぎます!)
イングリットは笑顔のまま、隣に立つアルトゥールの脇腹を少し強目に肘で突いた。
ライアルは、アルトゥールから『受像の魔導具』の拡声器を受け取ると、目を閉じて一度大きく深呼吸をした。息を吐き切って目を開けると、先程までの戸惑いと固い雰囲気は微塵も無い。いつもの落ち着いた表情と、程よい緊張感がこもった、力強い瞳に戻っている。
(いきなり数万人相手に挨拶する事になっても、深呼吸一つで落ち着けるなんて……やっぱりお父さんは凄い)
そんなライアルを、キースが後ろから尊敬の眼差しで見つめていた。
□ □ □
「王都の皆さんこんにちは、ライアルです。本日は私達の昇級を祝っていただき、誠にありがとうございます。先程陛下からもありましたが、私達は、本日の収穫祭が祝賀会になっている事を知りませんでした。ここに着いてからも場所も知らされず、まさかこんな事になっているとはと、今も若干戸惑っております」
一度言葉を切って息を整えながら、広場を見渡す。人で埋め尽くされた中央広場は、ステージの上から見ると、人々のざわめきと身体の動きで海の波の様である。観衆の最後方、広場の端はとても見えない。挨拶中ではあるが、ライアルは65000人ぐらいと見積もった。
「『北西国境のダンジョン』での対応の詳細は、先程陛下がお話されたとの事ですので、私からは当時の自分達について少しお話します。正直、私達護衛の間では、この交渉はすぐに終わるというのが共通認識でした。覚書があり歴史上の事実と資料まである。すぐに解決する条件は揃っておりましたから。まあ、実際に川向うになっている以上、多少は譲る必要はあるだろうから、話し合いはその調整に重点が置かれるだろうと。しかし、それがまさかの4年半です。魔術学院の一年生だった息子は卒業してしまいました。そう、相手があそこまで白を切るとは、現地で対応している自分達にとっても想定の範囲外だったのです」
ダンジョンの入口はエストリアの土地とはいえ、実際にエドゥー川の向こうなのだ。力づくで奪いにくる可能性は大いにある。それを抑える為には、見合った対価が必要だ。
「ですが、隣に立っているデヘントは言いました。『ライアルさん達が居たからキース達はここに来た。結果的にこれが唯一の正解ルートだった』と。言われて私は気付きました。私達の役割は解決する事では無く、解決できる者が来るまで相手に時間を掛けさせる事だったのだ、と。そこに気が付いた事で心がストンと軽くなった気がしました」
(お父さん、自分達で確保できなかった事を結構気にしていたんだな。『息子が来てすぐに解決したのに、あいつらは4年いても全然話を進められなかった』みたいな?でも、それはお父さん達の仕事じゃ無いよね)
「駆けつけてくれた息子とその仲間達は、知勇兼備で本当に頼もしい存在です。しかも私たちに内緒でこんな素晴らしい祝賀会の用意までしてくれました。本当に自慢の息子です……と、このままでは挨拶ではなく息子自慢になってしまう」
おどけた口調に観衆から笑いが起こる。
「繰り返しになりますが、私達はダンジョンを確保し、無事に戻ってくる事ができただけでなく、皆さんにも祝ってもらう事ができた。何をおいてもそれに尽きます。今日は本当にありがとうございました」
ライアルの締めの言葉に、広場は再び歓声と大きな拍手に包まれた。
「ライアル、急に頼んだにもかかわらず、素晴らしい挨拶であった。さすがはエストリア筆頭よ。皆もありがとう。自分達の席に移動して、祝賀会を楽しんで欲しい。ライアル、マクリーン、キースはちょっと残ってくれ」
マルシェが前を歩き、ステージの下へと誘導する。ステージの脇に席が用意されているのだ。結婚式で言えば新郎新婦の席の様なものである。
「よし、だいぶ長くなってきてしまったが、あと一つあるのだ。これだけは外せん。すまんがもう少し付き合って欲しい」
□ □ □
アリステア、フラン、クライブらは、ステージを降りると席には向かわず、通路を外とは反対方向、控室へと向かった。
通路の一番奥の控室に入ると、中ではレーニアが待機していた。顔を見合わせ頷き合うと、それぞれ床に置いてあった魔法陣の上に乗る。次の瞬間、アリステア達の姿は消えた。
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