第271話
【更新について】
週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となりますが、家庭内コロナウイルス陽性者発生の為、遅れておりました。
改めて よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
皆さんもどうぞお気をつけて……
【お知らせ】
週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となりますが、家庭内コロナウイルス陽性者発生の為、遅れておりました。
改めて よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
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【前回まで】
秋の収穫祭も無事に4日目まで終わりました。お祭りや『呪文』の講義、魔法陣の改良などをしつつ、お祭り最終日、祝賀会当日を迎えます。
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(さて、乗ったはいいが……どこに連れて行かれるんだこりゃ)
デヘントは目を閉じ腕を組んで考える。
間もなく10の鐘が鳴るというこの時間、彼と彼のパーティの仲間達は、ギルドの馬車に乗り祝賀会の会場に向かっている。だが、変更になったという開催場所を知らされていない為、どこへ向かっているのかは分からない。
勿論、王都の中である為、馬車の小窓を開け外を見れば場所は特定できる。だがそれをライアルに言ったら、『せっかく企画してくれたんだ。そんな野暮な事しないでそれも込みで楽しめ。拐われる訳じゃないのだから』と言われてしまった。
(まあ、それは解っちゃいるんだ。だから敢えて情報は集めなかったのだからよ。ただ……何かおかしい。今年の収穫祭も急に一日追加とかよぉ。こんな事初めてだろ。何なんだってんだ一体)
答えがさっぱり見えないまま、デヘント達は中央広場へと運ばれて行った。
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「結局、何も教えてくれませんでしたね……」
「そうだな」
こちらはライアルのパーティが乗る馬車の中、マクリーンの言葉にライアルが頷いたところである。
もちろん、シリルとニバリも一緒だ。
状況はデヘント達と同じく、ギルドの馬車に乗せられ運ばれていく途中である。
「訊いた事に答えている風にも聞こえたけど、自分の言葉は一つも無かった」
そう言いながら、マクリーンの隣に座るシリルが足を組みかえる。スラリと均整のとれた足は、若草色にくるぶし丈のパンツに包まれている。
「そうなのよね。ギルドマスターの言葉をそのまま言っただけなのよ。言質を取らせない、というのかしら」
「いつの間にか、あんな話し方ができる様になったんだな……」
「本当にね……なんと言っても、王配になるのですもの。そういう事も身に付けないといけないのよね。ちょっと寂しいけど」
はぁと溜息を吐き、マクリーンは眉を八の字にした笑顔を見せる。
「そもそも、あいつだって祝われる側なのに、一体何をしているのだろうな?」
「ギルドマスターに何か相談されてそのままお手伝い、という事なんじゃないの?キースちゃんらしいわ」
「ふん……大方そんなところだろうな。お母さん達も色々な所に伝手があるだろうから、こういう企画には強いしな」
(……何の説明も無いのに性格だけで状況を把握してしまった。さすがは親子だ)
腕を組んで目を閉じ、静かに夫婦の会話を聞いていたニバリは内心舌を巻いた。
「ニバリ、あなたキースから変更した話何か聞いてないの?最近一緒にいる事多いでしょ。白状なさい」
そんなニバリをシリルがじっと見つめる。
シリルも、キースが言わなかったのにニバリが教えるとは思っていない。答えが欲しかったというより、声を掛けた時の反応が見たかったのだ。
勿論ニバリもそれは承知している。静かに首を横に振っただけである。
「……まあいい。楽しませたいから内緒なんだろうし。期待して待つ」
シリルの口角が少しだけ上がっている。『それならそれで構わない』と、この状況を楽しんでいる様だ。
(どんどんハードルが上がっていくな。大丈夫かな?)
思わず息子と母親の心配してしまう、苦労人気質のライアルだった。
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その肝心の息子は、父親に心配されている事もつゆ知らず、既に収穫祭本部に到着していた。完全に開催側スタッフである。
「おはようございます殿下……」
「おはようございます先生。……今日はよろしくお願いします」
まずはイングリットと挨拶を交わす。
多くの人の目がある為、普段の呼び方をしない様に意識しているのもあるが、それ以外にも、2人の間には常には感じられない、不思議な緊張感が漂っていた。
そう、遂に世の中に自分達の婚約が発表されるのだ。様々な場面を経験してきた2人にとっても、人生初だ。意識するなという方が無理な話である。
「本日はお日柄も良く……って何を言っているのでしょうね。少々緊張している様です」
「先生もですか……私もです。昨日も少しうとうとした程度で、あまり寝られませんでした。後で急に眠気がこなければ良いのですが……」
首を傾げて右手を頬に添える。まさに『困ったわ』のポーズである。
「それにしても殿下、今日のお召し物もまた素敵ですね!よく似合っておいでです」
「ふふ、皆さんの祝賀会ですし、婚約発表もございますので、気合いを入れて整えました!」
その場でくるりと一回転する。くるぶし丈程のスカートの裾がふわりと浮き上がり、ヒールのある靴が覗いた。
「このドレスの赤ワインの様なお色と、胸元の黄色い花飾りという組み合わせは、もしかしたら、紅葉を表していらっしゃるのですか?」
「はい、その通りです!王城から見える木々もだいぶ色づいてきましたから。それに合わせてみたのです」
「なるほど……やはり色合いを季節に合わせる事も大事ですよね。この時期に寒色では少々寒々しいですし。あと、昼間に着るドレスは肌を殆ど出さないそうですが、こちらもそういう型式なのですね?今少しお靴も見えましたが、そちらも肌は見えていませんでしたし」
「さすが先生!よくご存知ですね!いわゆる昼間に行われる式典の正装、です。逆に、夜会など夜に着るドレスは、袖が無かったり、首周りや背中が大きく開いていたりスリットが入っていたりと、肌の露出が増えます」
「ううぅん……勉強になります」
(あれだけ魔法陣や魔導具を触って、さらに学院で講義も受け持っているのに、いつドレスの勉強なんてしているのかしら。本当に熱心というか労力を惜しまないわね)
壁際で控えながら2人のやり取りを聞いているマルシェとレーニアは、不思議で仕方がなかった。
(それに、報奨の授与式の時もそうだったけど、きちんと整えた事に気がついて言葉を掛けてくれるのは嬉しいのよ。いつも見てくれている実感があるというか。『次も頑張ろう』という気になるもの)
この2人なら、きっと歳をとってからもお互いの事を思いやる良い夫婦になるだろうな、と思いつつ、澄まし顔で控える側仕え達だった。
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「陛下、間もなくお時間です。よろしくお願い致します」
「おう、分かった。今行く」
アルトゥールは返事をしながら立ち上がった。
彼が今いるのは、中央広場の一角に設けられた収穫祭本部の一室だ。呼びに来た侍従長のラファルの後に続き部屋を出る。
(これも今年と来年で終わりか。我ながらよくここまで続けられたものよ)
前を行くラファルの、ほぼ白髪の後頭部を見ながら思う。
(とうに引退しているか死んでいるのが普通であろうに……人の道などまさに一寸先も見通せんものだな)
息子、孫に引き継いだはずのなのに戻ってきてしまった王位、そして95歳になってもまだ元気にしている自分、どちらも全く信じられない。
(だが、この先の目処は立った。そこまでは何としても死ねぬ。無事に見届け引き継いでみせる。それに)
アルトゥールの眉間に力が入り、グッと皺を作る。
(何としても戴冠式と結婚式は見たい。ここまで頑張ってきたのだ。それぐらいの褒美を貰っても良いであろうよ)
まるで、目の前に目に見えない何かがいるかの様に、正面を見据えながら歩みを進めた。
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中央広場の収穫祭本部脇に据え付けられた特設ステージ前には、多くの人々が集まっていた。立錐の余地もない、とはまさにこの事だ。
アルトゥールが皆の前に姿を現すというのもその理由の1つである。
『受像の魔導具』で姿を大きく映しもするが、一般市民が直接アルトゥールの姿を目にする機会は、年に数回しかない。こういう時ぐらい生で見たいと思うのも尤もな事であろう。
アルトゥールへの国民の支持はとても高い。在位の間に、ダンジョンを2箇所増やし国を富ませた事も大きいが、何と言っても人生が劇的過ぎる。
息子に引き継いで死なれ、やっとの思いで孫に引き継いでもまた死なれた。しかも、その代わりがいずれも自分なのだ。国王に就任する事3度、在位60年の、玉座に縛りつけられた95歳の老人。自分の国の国王がこんな数奇な人生を送っていたら、どうしたって応援してしまうだろう。
ステージの上にアルトゥール、イングリットと続けて姿を現すと、中央広場は爆発的な歓声と拍手に包まれた。2人は、それぞれステージの両端に進み、手を振りながら反対の端まで進むと、ステージ中央に用意された席に腰を下ろした。『受像の魔導具』の方を向き、映り具合を確認する。
「よし、それでは始めようか。よろしく頼む」
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