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第268話

【更新について】


週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ


【前回まで】


エレジーアから、緑の瞳と青の瞳についての不思議な話を聞きました。さらに、キースとイングリットは、何やら準備を進めている様で……


□ □ □


翌日、王都では『秋の収穫祭』が始まった。日の出直後に開会の花火が打ち上がり、多くの人々が中央広場へと繰り出した。


多くの飲食店と物販店が店を出し、様々な催し物が執り行われる。王都のお祭りとしては、年越しから新年に掛けての『例大祭』の次に盛り上がるお祭りだ。


中央広場内は飲食店と物販店、それぞれのエリアに区切られている。飲食店のエリアには買った商品を座って食べられる様にと、エリア内の複数箇所に椅子とテーブルが設置されている。それらはまるで、海に浮かぶ島々の様にも見えた。


飲食店と物販店のエリア分けの徹底や、椅子とテーブルを多く設置する等は、イングリットが執務に携わる様になった翌年から行われ始めた。


護衛や補佐官らと共にお祭りを巡り、自らが目にした気になった点を、翌年以降の各種お祭りで改善点として反映させたのだ。


その時のイングリットの視線の先では、小さい子供を連れた家族連れが、買った食べ物を抱えたまま食べる場所を探していたり、串焼屋が近くの服屋の方に煙を流してしまい、商品を煙まみれにして揉めていた。


「お祭りの楽しみといえば、やはりお祭りならではの食べ物を買って食べる事でございます。それが不自由では楽しさも半減というもの。来場者が減ったら、出店している店の売上にも影響が出ますよね?客も不便、店は売上が立たないとなると、せっかくのお祭りも廃れてしまいます」


牛肉と野菜が刺さった串焼(毒味済みだ)を片手に補佐官達に熱弁を振るう。


「あと、飲食店の区画、物販店の区画をはっきり分けた方が良いと思います。先程の様に煙で揉めたり、食べ物を持ったまま品物を触って汚したり、トラブルの素です。そういった意見はこれまでにあがってこなかったのでしょうか?」


イングリットの提案は翌春の『迎春祭』から取り入れられた。迎春祭は冬を送り春を迎える為の祭りである。この提案が功を奏したのか、初日より2日目、さらに3日目と、日が経つに連れて来場者数と全体の売上額が増えた。これにより、王都で行われる祭りでは、引き続き実施される事となったのだった。


□ □ □


キース達は、近衛騎士団で講義をした後、昼過ぎまでお祭り会場をぶらついて過ごした。買い食いを楽しんだり、物販店で掘り出し物がないか探したりもしたが、主な話はお祭りの様な催し事を開催する側の考え方と、実際に行う準備についてだ。


日時、場所、出店者の選定と調整、各部署への仕事の振り分け、必要書類の作成と配布、回収した書類の記載内容のチェック、中央広場周辺の通りと絡めた会場の動線設定、国軍の兵士による巡回の手配等々、主催者側が考えなければならない事は非常に多い。


自分が直接関わる様になるかは分からないが、王配という立場は『王都でお祭りを開催する』にあたって、どの様な手続きと対応が必要なのか知っておかなくてはならない。学ぶ機会を逃す訳にはいかないのだ。


さらに、ただ学ぶだけでは無く、これらを如何に効率良く効果的に進めるか等の、改善点も考えなければならない。


「ふぅむ……」


「キースさん?疲れちゃいました?ちょっと一息入れましょうか」


「ああ、いや、そうでは無くて……僕の提案、とんでもなく迷惑な話だったなって。変な事思い付いて皆さんに申し訳ない」


実際の現場の対応を知った事で、『収穫祭を一日延長して祝賀会とする』という自分の提案が、いかにはた迷惑な話だったのかを察したのである。


全てが決まり、後は天気の心配ぐらいであったところに、『イングリット殿下から一日延長の指示。対応開始』となったのだ。翌朝出勤してきた職員達は大慌てだった事だろう。


「さすがに『一日早く開催してくれ』というお話でしたら難しいですけど、延長する分には、まあ何とか。……全く何も無しという訳ではありませんでしたけど」


「うぅーん、ありがとうイーリー、お手数掛けました」


「何を仰るのです!最初に言ったではありませんか。『これはホームパーティーで家族のお祝いだ。私も仲間に入れてくれ』と。それにイけると判断して最終的に開催すると決めたのは私です。であれば、これはもう私の仕事ですから。だから気にしないでください」


そう言いながら、隣に座るキースの手に自分の手を重ね、笑顔を見せた。


□ □ □


その後は、『転写』や『転移』などの魔法陣の改良に勤しむ。翌日も同様に講義→お祭り→魔法陣弄りと過ごし、お祭り3日目は、朝からイングリットと共に国務省の建物に向かう。実際に魔法陣を作成している現場を見学するのだ。


国には幾つかの魔法陣を提供し契約してきたが、実際にどの様な環境で作成されているのかは見た事が無い。その為キースはかなり楽しみにしていた。


「喜んでもらえるかな?」


そう言いながら、いつも持ち歩いている鞄をポンポンと叩く。


「間違いなく大歓迎ですよ!作成している人達は『これも転写できれば良いのに』と嘆いているそうですから。肉体的疲労もですが、『間違えたら1からやり直し。これまでの作業全部無駄』というのがキツいです。仕組み上仕方が無いのですが」


イングリットはすれ違う職員達に笑顔で挨拶を返しながら、建物内を歩いてゆく。


魔法陣の複製を作る時は、見本の上に紙を乗せ、筆記用具と同じぐらいの、針状の魔導具に魔力を流しながらなぞって痕を付けてゆく。いわゆる『トレース』である。


魔力で痕を付けてゆくので、間違えるとやり直せないし、余計な線が入ってしまうときちんと動かない可能性が高い。どんなに完成間近でも廃棄だ。その為、1人が1日で作れるのはせいぜい2枚といったところで、完成間近での失敗が続いたら0枚という日も珍しくない。


「皆の負担軽減、生産量の増加、価格も下げられますし納品待ちの期間も短くなります。良いことづくしです。あ、ここを右です」


十字路を曲がるとすぐに扉があり、その両脇に衛兵が立っている。敬礼に礼を返しながら中に入る。


(……待合室?でもちょっと違う感じ)


室内は一見すると待合室の様に見えたが、それにしてはテーブルや椅子の配置がおかしい。


そう、ここは入退室の為に設けられた検問所だ。


人1.5人分の幅で作られた門型の魔導具、その脇にはテーブルと椅子からあり、専門の職員が付いている。それが3つ並んでいる。同時に最大3人通行できるという事だ。


「ここから先は、特定の認識プレートを貸与された者しか入れません。冒険者の方だと街の入口で冒険者証を読み込ませますよね?仕組みはあれと同じです。門型の魔導具は魔法陣、魔導具、刃物を検知します。刃物は持ち込み不可、魔導具と魔法陣は効果次第ですが、殺傷能力がある物はやはり不可です」


「仕事に必要のないものは持ち込めない、と言うことですね?」


「はい、その通りです……ですが、メインは持ち込みの規制よりも、不正持ち出しの防止と発見です。高額商品ですので」


イングリットは門型の魔導具手前で立ち止まる。


「この先で仕事をしている者は100名程おります。同じ通路が3つ作られているのは、始業前と終業後の人の流れが捌ききれないからです。先程少し言いましたが、プレートを持っていない人物が入室を希望する際は、事前に連絡が必要です。それは私の同行者であったとしても同じです。なので、今日の先生の届けも出していますし、そこに特例はありません」


イングリットは衛兵から紙を受け取るとキースに見せる。


「ちなみに、今日申請が出ているのは先生だけですね。そもそも、ここから先は申請したとしても、許可が出るとは限らないんです」


紙を衛兵に返すと、キースを横のテーブルに促す。


「こちらの束は私の持ち物として中に持ち込みましす。先生の私物はどうしましょう?鞄の類は全て開披検査をしなければなりませんし、魔法陣は枚数を記録して効果を確認する必要がありますが……お持ちですよね?」


「ありますね……」


「持ち込む必要が無いのであれば、こちらのロッカーに仕舞うのが楽ですね。魔力で鍵も掛けられます」


「……では、鞄はロッカーに入れて、魔法陣数枚だけ持ち込みましょうか」


「承知しました。ではそうしましょう」


イングリットはキースが鞄をしまい終わるのを待つと、扉に続く通路の一つへと向かう。


「この束が申請してある魔法陣です。105枚ありますので確認してください」


「かしこまりました。少々お待ちください」


テーブルに着いている衛兵の合図で、扉に着いている2名もやってくる。枚数が多い為3人で確認するつもりのようだ。


「殿下の持ち込み物でも確認するのですね……」


「はい。率先して検査を受けるところを見せる、という意味合いもありますが、こういう決まり事は『但し〇〇は除く』という様な例外を作ってしまっては駄目なのです。そこから綻びが生まれますから。それに、陛下はまずここには足を運びませんし、私だって余程の事がないと来ません。そんな頻度の事を面倒だなんて思いません」


門型の魔導具をくぐり抜け魔法陣の束を受け取る。キースも無事通過できたが内心はドキドキである。


「それでは行きましょう。最初は応接室に行きまして、その後実際に作成している部屋になります」


キースはイングリットの後に続いて建物の奥へと進んだ。

ブックマークやご評価いただけると嬉しいですね!


お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)


毎日暑い&ウィルスも流行っております。健康第一でお過ごしください。

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