第267話
【更新について】
週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
無事『依代の魔導具』を完成させ、エレジーアを移す事ができました。今度は、合成中に話が出た
緑石についての話をする事に。緑石と青石の違いからサンフォードが解説していますが、『緑石は青石の上位互換』という発言に皆が度肝を抜かれました。
□ □ □
「お待たせしました!」
サンフォードと地下室から戻ってきたキースは、軽く息を弾ませながら席に着いた。宝石箱の様な、小ぶりな箱を両手で持っている。
「こちらにはサンフォードさんの私物の緑石が入っているそうです」
「魔力が強いからな。漏れない加工がしてある箱に入れて保管していたのだ。だから<探査>でも見つからなかったのだろう。ではキース、取り出してくれ」
「はい、それでは失礼します」
蓋を両手で持つとそっと上にあげ、箱から一つづつ出して並べ出した。皆の口から自然と溜息が漏れる。
大きさは小さいもので5g、大きいものだと50g程だ。様々な大きさの緑石が、数百年という年月を越え輝いている。
「これが不純物が抜けた緑石……」
「まさに青石の緑版ですね!宝石みたいです」
「うん、なんか目新しい。すごくキレイ」
シリルの言葉に同意を示す様に女性陣が頷く。
「確かに、とても強い魔力ですね。別に身体に悪い訳では無いが、これだけ強いとさすがに気になります。他のものを感知しづらくなりますし」
ラトゥールが眉間に皺を寄せる。
「あ!私何かに似てると思ったのですが、これ、キースさんの瞳みたいですね!緑でキラキラ輝いていて!」
「え、そ、そう?いや~こんなに綺麗じゃないでしょ」
「いいえ、そんな事無いですよ!どちらも透き通っていてとても素敵です!」
「それを言うなら、イーリーだってまさに青石じゃない。とても良いと思うけど」
「いえいえいえ、そんな、私なんて……確かに自分でも気に入ってはいるのですけど!」
(何やってんだこの2人)
(早く結婚すれば良いのに)
皆が呆れ気味に眺める中、壁際に控えるマルシェとレーニアは、公式からの養分に内心ホクホクだ。
(緑と青の瞳……そういえば……)
「盛り上がっているところ悪いんだが、瞳の色で、一つ思い出した事がある。まあ、与太話みたいなものなのだけどね。聞くかい?」
エレジーアの言葉に皆が椅子の上に座っていた長毛種の猫に注目した。
□ □ □
「お前さん達、今まで生きてきた中で、緑か青の瞳の人間と会った事あるかい?当然この2人を除いてだよ?」
手を挙げる者はいない。訝しげな顔を見合わせ考え込んでいる。
「先生、私が直接見た訳では無いのですが……アルマンの同級生の研究室に、青い瞳の娘が入ったという話を聞いた事がありました。私はその一人だけですね」
アルマンというのは、サンフォードのかつての弟子の一人だ。
「サンフォードも話だけかい。どうやらね、緑と青の瞳の人間というのは、ほとんど生まれないそうなんだよ。これは王国初期の頃から言われている事なのだけど、どうやら今の時代もその様だね。生まれる頻度としては、何十年に一人とかそういう次元の様だ。そんな珍しい存在である2人が、ほぼ同い歳として生まれ、出身も立場も全く違うのに結婚する。何とも不思議な縁じゃないか」
「確かに稀有な巡り合わせですな」
「そんな事あるんだ。すてき」
「2人は結ばれる運命だったという事ですね!」
「良かったわね2人共」
「話はまだ終わりじゃないよ。それでね、過去に一組、キースとイーリーの様に、夫が緑、妻が青の瞳を持つ夫婦がいた記録がある。誰だか思い浮かぶかい?急にそんな事言われても分からんよね。セクレタリアス王国第2王朝の初代王、サイード・ダーレー・ゴドルフィンと、その妻であるアハルティーエ王妃さ」
『石力機構』を作り上げ世に広めたゴドルフィン一族の族長と、その妻である。
「お二人の瞳がその色であったのは間違いない様だ。色々な文献にことある事にその描写が出てくるからね。そもそも、そんな事で嘘を書いても仕方が無い。そして、その印象深さと希少性により、緑と青の瞳はこのお二人に何かしらの縁がある、若しくは、守護を受けている証なのでは?という考えが流行った時期があった。お二人の亡くなった後から50年間ぐらいの様だ」
エレジーアはお尻を上げて伸びをする。まだこの身体に慣れていない事もあり、座っているだけでも疲れてくる様だ。
「その話は、一般にも知られていたのだけどね、以降はそのまま消えていったそうだ。対象者が余りにも少なかったせいで、話題になる事がほとんど無かったからだという。それ以降は、ごく一部の物好きな連中の間だけで語り継がれてきた」
(ごく一部の物好き……エレジーアさんこういうの好きだもんな。東方の守護聖獣の話とか)
「『石力機構』を作り上げ普及させたサイード王と、それを助けたアハルティーエ王妃。お前さん達が力を合わせれば、きっとこの2人の様になれるだろうさ。楽しみにさせてもらうよ」
エレジーアは話を締めくくると、再び伸びをしながら大きな欠伸をした。
□ □ □
キースとイングリットは一度地下室に戻り、その後キースの部屋でお茶を飲んでいた。いつもは向かい合って座るが、今は側仕えの2人以外はいない為、ソファーに並んで座っている。
「正直、ちょっと意外でした」
「ん?……もしかしてさっきの瞳の色の話?あ、これ美味しい。イーリーもどうぞ」
「はい、いただきます。……あ、良いですね。この砕いたナッツの香りと食感が」
「ね。フランのお手製かな?帰る前に訊いておこう」
お手製ならレシピを教えてもらい、既製品ならどの店で買ったのかを尋ねるのだ。
「お話戻るのですが、あの話の根拠って見た事が無いという個人の記憶だけで、統計や資料とか、形としては何も無いじゃないですか?それをキースさんが普通に受け入れていたので」
「ああ、そういう事?うーん、そうだね。理由は幾つかあるのだけど……」
腕を組んで目を閉じ、少しの間考える。
「やはりね、あの話が全く的外れで作り話だったとしても、誰にも迷惑が掛からない、というのが一番かな。話の始まりは1000年以上前のとある夫婦の瞳の色、それが事実かそうでないかは、僕達には何の影響も無いでしょ?」
「確かにそうですね……」
「それに、イーリーがさっき言った様に、資料も何も残っていない。本当か嘘かを確かめる術が無い。ならさ、話に乗って楽しめば良いと思うよ?実際にほとんどいないのは間違い無いし、その当人同士が結婚するというのは相当珍しいだろうから。それにね……結ばれる運命だった、というのは案外本当なのかもよ?」
「え、ええっ!?本当ですか!?」
イングリットは驚きの余り、先程それを言ったのは自分であるのに、それを否定する様な反応を見せた。
「僕と初めて会った時に結婚を申し込んだ事、この間の授与式の朝、急に君の事を意識し始めて話を受けた事、もしかしたら、この2つはそういう事なんじゃないの?」
イングリットは初めて会ったあの日の事を思い出す。面会している部屋に入れてもらい、挨拶を交わした。目の前の人物が、以前より会いたいと思っていたキースだと認識した瞬間、頭の中は『結婚しなきゃ』という思考で埋め尽くされ、気が付いた時には、キースの傍らで膝を着き、手を取っていたのだ。
「そ、そうだったのでしょうか……でも、確かに、それならば、あの時の自分の行動にも納得です」
思い出すと今でも頬が赤くなる。後悔もしていないし結果的に正しい行動であったが、王女という立場からしてみれば間違い無く0点だ。
「そうでしょう?僕も自分で不思議だったけど、今ならそういう事だったのかな?って思えるよ。それこそ、瞳の色の話と同じだよね。自分達がそれで納得しているのだから、他人がなんと言おうと構った事じゃない。だからそれで良いんだよ」
そう言ってイングリットの頭に手を伸ばし、髪を撫でる。丁寧に編み込んである為崩さない様にそっと触ると、イングリットはくすぐったそうに肩を竦め、照れ臭さそうに俯いた。
「それでね、さっきの件なんだけど」
キースの切り出しに、甘そうに蕩けていたイングリットの表情は一変し、真剣な顔になる。何の話をするのか察したのだ。
「はい。戻ったら侍従長のラファルに差配してもらおうと思います。側仕え達への説明は、もちろん私が行います」
「うん、そうだね。それが良いと思う。よろしくお願いします」
「……無理矢理で良いのかという気もしますが、ここまで来た以上、何としても見届けていただかなくては。今のところ特にそういう兆候はありませんが、歳を考えると油断はできません」
顔を見合せ頷き合う。
「機会は一度きり。絶対に外せない。それを逃さない様に、魔法陣や魔導具で何かできないか考えてみる。起きてる人間が少ない時が一番怖いからね」
「はい……」
「全ての用意が無駄になれば良いのだけど。フランと一緒にお祈りしようかな。ウェイブルト様には『おいおい人間!こんな時ばかり随分と都合がよいのではないか?』って言われそうだけど」
「別の神殿の司教様ですが、困った時だけ祈る、それだけでも良いそうですよ。自分が困っている時、悩んでいる時こそが、本当に心からの祈りだから、だそうです」
「そっか……そういうものなんだ。フランに相談するよ。よし、じゃあ今日は終わろうか。お送り致します、姫様。お手をどうぞ」
「はい、お願いします」
キースが伸ばした右手に左手を乗せる。
2人の動きを受けてマルシェが廊下を確認に出ると、レーニアが扉と向き合い待機する。様々な魔法陣や魔導具、家にいる人々の実力から、キース達の屋敷は王国一安全だろうが、彼女らにとってはそういう問題では無いのだ。『これはこれ、それはそれ』というやつである。
レーニアが自分達に背を向けたのを見ると、キースは右手をグッと握り引き寄せた。イングリットもその意図を察し引かれるに任せる。
イングリットはキースに抱きとめられる形になり、顔を近付けた2人はサッと口付けを交わすと、何事も無かったかの様に離れた。
この様な、屋内かつ人目につきづらい状況に於いて、キスをしたり手を繋いだりしてイチャつくのが、2人の中で流行っていた。
いくらマルシェとレーニアだけとはいえ、あまり露骨にするのは立場もあるし恥ずかしい、でも、何も無いのは寂しいし、という、もどかしい気持ちの現れというやつだ。
だが、この件については、お互いへの昂る気持ちで舞い上がり、判断が鈍っていると言わざるを得ない。
マルシェとレーニアは元々が近衛騎士団員であり、側仕えになる際、徹底的に徒手格闘を仕込まれたプロフェッショナルだ。頭脳労働専門の素人2人の動きなど、直接見るまでもなくお見通しなのである。
にも関わらずそのままにしているのは、2人きりの時にしかしない事と、色々してくれた方が自分達が捗るからである。
(ああ、もう、本当に可愛いのだから!早くマルシェに教えてあげたい!)
扉を見つめながら、澄まし顔を保つのに苦労するレーニアだった。
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