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第266話

【更新について】


週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ


【前回まで】


拠点の地下室に集まり、キースの新しい『合成釜』のお披露目の後、エレジーアが使う猫型の『依代の魔導具』の作成が始まりました。無事に出来上がり熊のぬいぐるみから意識を移します。


□ □ □


猫の剥製が一際強い魔力光を放った。皆堪らず目を閉じる。キースはまぶた越しに光が消えたのを感じると、そっと目を開けた。


そこには、短い足で調合台をグッと踏みしめているネルシャ猫がいた。


(どうかな……上手くいっているとは思うけど)


固唾を飲んで見つめていると、猫のまぶたがぴくりと動いた。最初は僅かに、そこからゆっくり開いてゆく。


そして、キースと目が合った。


明らかに意志を感じるその力強い眼差しに、キースは成功を確信した。抑えきれない何かがグッと込み上げてくる。


「良かった、成功ですね。おめでとうございますエレジーアさん」


「……ああ、ありがとうキース、皆もね。どうやら無事に一段階進めた様だ。それと、サンフォード。自分が恩恵を受けたから言う訳じゃ無いが、感謝するよ。それに良い弟子を育てたね。大したもんだよ。ありがとう」


「…………」


皆がサンフォードを見ると、流れる涙を拭う事もせず、呆然とした表情をしている。エレジーアに礼を言われた事、弟子を褒められた事で頭も心もいっぱいいっぱいなのだ。


「身体の動き具合はいかがですか?ちょっと試してみてください」


「分かったよ」


エレジーアは調合台から飛び降りると、部屋の中を軽く走り始めた。気を取り直したサンフォードが、見守る様に後ろを着いてゆく。


ソファーの背もたれに飛び乗ったり、動いたと思ったら急に方向転換をしてみたりと動き回る。一通り動くと調合台の上に戻ってきた。


「各部位の動きは問題無いが、視界というか視点にまだ慣れていないから違和感はあるね。後ね、恐らく、このネルシャ猫という猫はあまり激しく動き回る品種では無いのなもしれんよ。身体が重く感じる。慣れていないのと足が短いのが原因かもしれんが」


「ああ~、見た目や毛の長さからも、確かにそんな感じがしますね。性格もおっとりしている子が多いらしくて、『猫の女王』なんて呼ばれる事もあるらしいですから」


「なるほどねぇ。では、それに合わせてのんびりするか……それとね、ちょっとお願いがあるんだが」


「はい、なんでしょう?」


「この熊のぬいぐるみなんだが。処分せずに何処かに遺しておいて欲しいんだよ」


右の前足でぬいぐるみの足をタシタシと叩く。


「もちろんです!『依代の魔導具』の最初期型としても貴重な品ですし、僕もこの熊は気に入っていますから。リビングの何処かに椅子を置いて、そこに座っていてもらおうかな」


『北西国境のダンジョン』を確保した後、状況が落ち着いたとみるや、キースはエレジーアの部屋に通いつめ、過去と現在の知識と情報を交換しあった。


この熊のぬいぐるみとほぼ毎日、朝から夕方まで一緒だったのだ。愛着も生まれようものである。


「では、取り敢えずひと段落ですね。せっかくですから、残りの剥製も『依代の魔導具』にしてしまいましょうか。せっかくですから、魔術師の皆さんやってみませんか?」


「はいっ!やりたいです!」


イングリットが勢い込んで手を挙げる。


「うん、絶対言うと思った。ニバリとラトゥールさんいかがですか?」


「ぜひ頼む」

「同じく」


ラトゥールとニバリも頷く。こんなハイスペックな合成釜を使う機会はほとんど無いし、扱う素材も珍しい。こんな機会は逃せない。


4分割になっている合成釜の残りのスペースに付くと、キースが声を掛けながら進めてゆく。程なく全ての猫の剥製が『依代の魔導具』として出来上がった。


「皆さんお見事でした。取り敢えずこれらはこちらで保管しておきますね。さて……あ~、一度上に戻りますか。立ち話もなんですから」


□ □ □


地下室から戻り、台所から続きになっているバンケットルームへと移動する。もちろんパーティーをする訳では無い。単に12人が一度に座れる部屋がここしか無かったのだ。


フランがお茶を淹れ終わり席に着くのを待ってキースが口を開く。


「皆さん、魔導具作成にお付き合いいただきありがとうございました。ここからは、魔導具と同じぐらい、いや、こっちの方が重要かな?そんな話になると思います」


カップに手を伸ばしお茶を一口飲む。とても美味しいが、産地などは判らない。コロブレッリ産では無い事だけは間違いない。


「先程、エレジーアさんの『依代の魔導具』に魔石を嵌めた時に、サンフォードさんから『緑石では無く青石なのは何故か?』というお尋ねがありました」


キースの言葉にサンフォードが頷く。


「私達の常識では魔石=青石です。緑石は言わば不良品であり使い道が無いものとして、ダンジョンに転がるまま放置されています。先程の言葉は、セクレタリアス王国では違ったという事からの発言だと思います。そこの説明をお願いします」


「うむ。簡単に言うとな、緑石は青石の上位互換なのだ。含んでいる魔力量が全然違うのだよ」


サンフォードの言葉に、部屋の中いっぱいに戸惑いの空気が広がった。皆あの時のやり取りから『もしかしたら』と思ってはいたが、若い頃から『緑石は魔石の出来損ない、使い道も無い』と教えられてきたのだ。今になって上位互換です、と言われても……という気持ちだ。


「なるほど……では、緑石は青石よりどれぐらい多く魔力を含んでいるのでしょう?」


「およそ100倍だ」


余りの差に戸惑いの空気は吹き飛び、今度は混乱の空気が満ちた。各自、腕を組んで唸る、ポカーンと口を開ける、大きな溜息を吐く、目を輝かせる、極わずかに目を見張るなど、様々な反応を示した。


「でもサンフォード、昔、魔導具に緑石を嵌めた事があったけど、きちんと動かなかったのよね。それは何故?」


尋ねたのはアリステアである。アリステアは若い頃からバーソルトの共同神殿の支援をしてきた。その中には、台所で使う調理器具の魔導具や、食品類を保存をする為の魔導具、それらを動かす為の魔石も含まれている。


金はたくさんあるが、抑えられるなら少しでも抑えたいし、魔石代が浮けば、その分の金を他の事に回す事ができる。そこで、緑石に目を付けたのだ。


もちろん『緑石は役に立たない』という話は知っていたが、少々効率が悪くても緑石ならダンジョンに行けばタダでいくらでも手に入る。普通に青石を買うのとは雲泥の差だ。


だが、緑石を嵌めても魔導具はうんともすんともいわなかった。そこまで期待していた訳では無いが、魔力を含んでいない訳でもないのに、作動する気配すら無いというのはどういう事なのか。魔石相手に腹を立てた記憶がある。


「……その緑石は、緑がかった乳白色、という色合いだったのではないか?」


「ええ、そうよ。……という事は、それは緑石本来の姿では無いという事?」


「そうだ。それを説明する前にちょっと違う話をするぞ。まず、魔石の成り立ちだが、魔石として結晶化したばかりの時は全て青石だ。そのうち、魔物の核にならずに、ダンジョン内で一定期間が経過すると緑石になるのだ」


サンフォードはお茶を一口飲み喉を湿らせ話を続ける。


「何故青石が魔物の核になるのか。それは解らん。私が生きていた間には判明しなかったのでな。それよりも、青石が緑石になる理由だが、これは簡単だ。結晶化して青石となった後、そのままダンジョン内で魔素を吸収し続ける事で緑石になるのだ。魔物の体内にある魔石は青石のままだ。魔物の核となった青石も魔素に触れてはいるが、体外にある青石に比べたら吸収できる量は微々たるもので、緑石になるほど吸収できない。今までに魔物を倒して緑石が出た、という経験がある者はいないであろう?」


室内を見渡したサンフォードに対し、全員が頷いた。


「緑石が緑がかった乳白色である理由だが、魔素以外に他の成分も一緒に吸収しているからだ。いわゆる不純物というやつだな。白い不純物が表面を覆い、その内側の緑石の緑色が透けて見えている、だからあの色合いに見えるのだ」


「では、魔導具がきちんと動かなかったのは、不純物に覆われた状態だったからなのね」


「そうだ。魔力がきちんと流れなかったのだ」


「その不純物、ですか。それを取り除くにはどうしたら良いのでしょう?」


ここまでただ唸っていたライアルが尋ねる。話にだいぶ慣れてきた様だ。


「水に漬けるのだ」


「……それだけ、ですか?」


「そうだ。それだけで良い。そうすると、自然と不純物が溶け出して純粋な緑石になる。そうだ、誰か、地下室に一緒に行ってくれるか?実物をお見せしよう」


「では僕が」


キースが席を立ち、サンフォードを抱っこして部屋を出る。


思いがけず入った休憩により、部屋の空気が一気に緩んだ。


「いや~、こいつまたはとんでもねぇ話ですね。『転移の魔法陣』や『呪文』と同じか、それよりもヤバいんじゃねぇですかね、これ」


「ああ、エストリアだけの話では無いしな。ダンジョン5箇所に、魔石……いや、青石か、その100倍の魔力を含んだ物が無造作に転がっているというのだからな」


デヘントとライアルが硬い表情で顔を見合わせる。


「イーリー、これはちょっと公表できないわね。詳細を発表したら最後、どのダンジョンでも緑石の取り合いになって大混乱よ」


「はい、お母様。下手をすれば奪い合いから人死にまで出るかもしれません。そうですね……各ダンジョンの最寄りの街に、国務省名義で回収の依頼を出す、というのはどうでしょう?」


「今ある分は国で全部預かるという事ね?そうね、私もそれしか無いと思う。回収が終わってしばらくしたら、『不純物を取り除いたら高品質の魔石が出てきました!』と、白々しく発表してめでたしめでたし」


「うんうん、それで行きましょう!後は、集める理由を尋ねられたら……緑石の使い道を研究する為、という事で」


「うふふ、何も間違っていないわね。その通りですもの」


(国をひっくり返しかねない情報だっていうのに、全くそれを感じさせねぇ。どんだけ図太いんだこの2人は)


デヘントは若干引き気味に、笑顔の義理の母娘を眺めていた。

ブックマークやご評価いただけると嬉しいですね!


お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)

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