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第265話

【更新について】


週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ


【前回まで】


祝賀会の会場を変更した為、キースとイングリット、アリステア達と分かれて、それぞれ対応しました。拠点の屋敷に戻り、遂に『猫型依代の魔導具』の作成が始まります。


※1リアル=5円。一般市民の平均年収は100万リアル(500万円)程です。


□ □ □


キース、ライアル、デヘントをリーダーとする各パーティのメンバーに加え、イングリットとマルシェにレーニア(2人は壁際で控えているが)が大きな机の周囲を囲み、注目している。


テーブルの脇に置かれた椅子には、熊のぬいぐるみであるエレジーアが載せられ、すぐ横にはサンフォードが前足を揃えちょこんと座っている。


「それでは始めたいと思います。といっても、ここに書かれた順番通りに、混ぜていくだけなんですけどね」


左手に持った本を皆に見える様に掲げる。サンフォードの弟子、エミーリアが遺してくれた手順書だ。


「この合成釜は新調したのだな?前のは丸型の、洗面器の様な形だったと思ったが?」


ライアルが調合台の上に載った、長方形の浴槽の様な器の側面を掌で撫でる。


『合成釜』とは、魔術師らが用いる、素材を合成する為の器だ。外側にぐるりと合成用の魔法陣が刻まれており、素材を入れ魔法陣を起動させて使用する。


『釜』と呼んではいるが形は様々で、実際に米を炊く釜に似た丸っこいもの、たらいや洗面器の状のもの、今回キースが購入した四角い浴槽の様なもの、素材や大きさ、価格も色々だ。


「はい、前の釜は刻まれていた魔法陣が手順書の魔法陣と少し違っていたので。素材を合わせるだけですから問題無いとは思いますが、やはり最初は書いてある通りにやった方が良いかなと」


「そうね。応用やアレンジは基本ができてから、と言うものね。まずはきちんと作り上げる事が重要です」


「はい、お母さん。素材も限りがありますから。無駄にはできません」


マクリーンの言葉に頷き返す。今回はたまたますぐに持ち込まれたが、旨味の少ない不人気素材は次回の入荷が何時になるか分からない。エレジーアは自分の目で物を見て、自由に動き回るのをとても楽しみにしている。これ以上待たせない為にも、準備に手抜かりは許されないのだ。


「この『釜』と混ぜるへら、黒鋼(くろはがね)製だよね?かなりしたんじゃない?幾らしたの?」


シリルが釜を軽く叩く。重厚だが、どこか澄んだ様な、不思議な音が返ってきた。黒鋼は、白銀に次ぐ希少な金属素材である。軽く、硬く、魔力の伝導率が高い。


今回キースが購入したのは、かなり大きなサイズのものだ。縦80cm、横180cn、深さも50cm程ある。


「へらとセットで80万リアルです。さらに、魔法陣を刻んでもらうと手数料に20万程掛かります。素材と大きさからして、まあ相場通りですね」


皆の口から溜息が漏れる。この場にいるメンバーは、高給取りの冒険者の中でも最高峰の稼ぎを誇るが、その彼らにしても100万リアルは100万リアルだ。安い買い物では無い。


「自分が払えるお金で解決できるなら、幾らでも払いますよ?それに、『転写』で魔法陣を貼り付けてあるので、もし、魔法陣を替えなければならない時は剥がせますから。もう買い換える必要は無いんじゃないかな?」


「なるほどな。一生に一度の買い物なら、この金額でも惜しくは無いな」


「はい。ガンガン使い倒してやろうと思います!デヘントさん達も、何か作って欲しい物があれば言ってください。あ、素材は用意してもらう必要がありますけど」


(その素材の値段も問題なんだよなぁ)


デヘントの後ろで、バルデとローハンが無言で顔を見合わせる。


「キースさん、小さい魔法陣がありますけど、これはなんですか?」


イングリットが釜の内側を指さす。側面に小さな魔法陣が等間隔で3つ貼られており、魔法陣の下から溝の様な浅い窪みが底面まで真っ直ぐ伸びている。


「これはね……説明するより試してもらった方が早いか。起動してみて」


「えっ、良いのですか?では早速……起動」


イングリットが魔法陣に魔力を流す。薄青い光が発した次の瞬間、溝の部分に半透明の板状のものが現れた。


「これは……仕切りですか?」


「うん、そう。仕切りを出す事で、釜の使用するスペースを変えられるんだよね。釜が大きいのに素材の量が少ないとかき混ぜづらいよね?だから、できあがる魔導具の大きさとか、溶かす素材の量に合わせて変えるんだ」


そう言いながら、他の2つの魔法陣も起動する。釜は3枚の仕切りにより4つに区切られた。さらに、停止と起動を繰り返し、区切り方を変えて見せる。


「ふむ、これは良いな!人型が完成したら私も使う釜はこのタイプにしよう」


サンフォードは釜の縁に前足を掛け、後ろ足で立ち上がる様にして覗き込んでいる。中身はおじいさんだが、姿だけならとても可愛い。


「ふふ、ぜひそうして下さい。扱っているお店を紹介しますので、一緒に行きましょう。よし、釜はこんなところかな……」


キースは調合台の上に置いてある箱の蓋を開けると、中身を取り出し始めた。出てきたのは依代のベースとなる猫の剥製だ。


「エレジーアさん、猫の剥製は4種類用意してみました。特徴を説明しますからご自分で選んでください」


「ああ、わかったよ」


「商業ギルドで尋ねたら、動物の剥製ばかりを扱っているお店を教えてもらいまして。猫だけじゃなくて犬や鳥、亀、大きな馬とか、何十種類もありました。色々な商売があるものですね」


置かれた剥製のうち、白、茶トラ、キジトラは、すらりとしなやかな、いかにも猫らしい体型だ。クリっとパッチリした瞳が特徴的な、かなりの美猫である。生きていた頃は、さぞかし可愛がられた事だろう。


だが、残りの一体はそれらとは少々、まさに毛色が違った。


「こちらはですね、『プルシャ猫』という種類だそうです。アーレルジの西側にある『プルシャ』という国原産の猫だそうで。確かにちょっと見た事ないですよね。お値段も他の剥製の倍ほどしました」


体毛は長めでふわふわのふさふさ、見栄えのする特徴的な襟毛、顔の形は丸く豊満な頬っぺたで鼻は低い。大きな丸い目は少し離れて付き、かわいらしく見せると同時に、独特な表情を作り出していた。


体つきは胴が短く骨太。筋肉がしっかりと付き、足は太く短く足先が丸くて大きめ。ふさふさとしたしっぽも短い。


「凄い。毛がふわふわ。抱っこしたい」


シリルがそっと手を伸ばしその長い毛に触れると、皆も触りだし「おお~、本当だ」「ずっと触っていたいです」等感想を漏らした。


「ふむ、そんなに気持ち良いのかい?じゃあ、それにしようかね」


「はい、承知しました。剥製の大きさが40cm程なので、釜はこのまま一番小さいサイズで混ぜます。では素材を全部入れて魔法陣を起動……と」


魔法陣全体が青く光り出すと、その光はすぐに全ての素材を包み込んだ。。皆の視線を集める中、1分も経たないうちに素材が崩れ出し、形を失い始める。


そのタイミングで、キースはへらに少し魔力を流しながら、ゆっくりかき混ぜ始めた。溶けたものは最初はドロドロしていたが、混ぜているうちに液体状になり、さらにとろみを帯びて滑らかになってくる。


「……素材と魔力が混ざり切るのが速いですね。さすがは黒鋼製の釜、伝導効率が高いだけの事はあります。混ざり具合は……うん、固すぎず緩過ぎず良い感じです。では剥製をこの中に沈めます」


立ち姿の剥製を抱え釜に入れる。液体はちょうど剥製の耳の先まで、全体を包み込んだ。


「……これでこの後はどうなるんだ?」


「中の液体状のものが徐々に減ってくるそうです……あ、ほら、ここ見てくださいお父さん」


ライアルはキースの指先に視線を向けた。


「おお、確かに耳が液体の上に出てきたな……減った液体は剥製が吸い込んでいるのか?」


「そう……だと思いますが……どうなっているのでしょうね?後ほど調べてみます」


液体が全て無くなり、釜から取り出す。液体の中に沈めたというのに、何故か剥製の毛は全く濡れていない。ふわふわのふさふさのままだ。


「次に魔石を取り付けます。首と顎の間に窪みができているはずですが……あ、ありましたね。ではここに嵌め込みます」


剥製を逆さにし、20gの大きさの魔石を手に取り嵌めようとする。


「キース、青石にした理由は何かあるのか? 確かに、資料にはどちらを使うかの指定は無かったが」


調合台の上に座っていたサンフォードが、キースを見上げながら首を傾げる。


「青石、ですか?……ああ、魔石の事ですね?」


「そうだ」


「……という事は、敢えて緑石を使う場面もある、という事ですか?」


お互いに首を傾げ不思議そうに見つめ合う。


(2人の会話がここまで噛み合わないのは初めてだわね。それにしてもなぜ緑石?あれをどう使うと言うの?使い道があるの?そんな話聞いた事無いのだけど)


アリステアは2人のすぐ後ろでそれぞれの表情を見ていた。どちらも(1人は猫だが)心底困惑している様子が窺える。


「……サンフォード、使う石はどちらでも良いのだったね?」


「はい先生」


「では、その話は後にしよう。どうも何か食い違っているみたいだ」


「……分かりました。確かに今でなくとも良い様です。腰を折ってすまんキース、続けてくれ」


「は、はい、では進めます……」


(すっごい気になるんだけど……なんなんだろ一体)


キースは非常に思わせぶりな会話に後ろ髪を引かれながらも、気を取り直して魔石を窪みに嵌めた。


「魔石は意識を移した後に首輪を付けて隠します。最重要箇所ですからね。それでは意識を移しましょう」


熊のぬいぐるみの魔石も顎と首の間に付いている為、お互いが触れ合う様にすると、まるで猫が熊の首に噛み付いている様な配置になった。


「よし、ではエレジーアさん、お願いします」


「わかったよ」


エレジーアは一言短く答えると意識を集中した。


熊のぬいぐるみと猫の剥製が魔力光に包まれ、一際強く光を放つ。


□ □ □


ペルシャ? さあ……ちょっとよく分からないですね……

ブックマークやご評価いただけると嬉しいですね!


お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)

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