表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
265/341

第264話

【更新について】


週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ


【前回まで】


祝賀会は秋の収穫祭に組み込み、王都で行う事になりました。キースとイングリットは、敷地を借りる予定だったヴァンガーデレンの奥様方にお礼と説明をしました。同じ頃、アリステア達は……


□ □ □


キース達がヴァンガーデレン家にお邪魔しているのとほぼ同時刻、アリステア達はロワンヌ商会の応接室にいた。


キース達がヴァンガーデレン家に行った様に、商会のオーナーであるエレインに、開催場所と提供量の変更を伝えにきたのだ。挨拶を終え席に着いたところで、エレインが切り出す。


「お話の前に、皆さん、昇級おめでとうございます。キースさんはまた別としても、20代半ばで銀級というのは十分に速いですよね? 皆さん程の方なら時間の問題でしたでしょうけど、流石だわ」


「ありがとうございます。ですが、私達はキースのおまけみたいなものですから。全てはあの子が力を発揮した結果です」


「いえいえ、若い子が存分に力を振るえる環境を整えるのは大変な事ですよ?歳若いとそれだけで周囲からの雑音も多くなりますからね」


(一般的にはそうなのだけど、冒険者は意外とそういうの少ないわよね。一緒に行動していれば『こいつは口だけじゃない』というのがはっきり分かるからかしら?)


フランはアリステアとエレインの話を聞きながら、考えを巡らす。ごちゃごちゃ突っかかってくる者がいても、実際に十分な力があるところを見せれば何も言えなくなるし、それでもまだ言ってくるのであれば、今度は強制的に黙らせられるだけだ。完全な実力主義というやつである。


「それにね……」


そこで言葉を切るとエレインはうふふと笑う。


「ごめんなさいね、笑ってしまって。ほら、皆さんは褒められるといつも『キースが凄い。私達はついで』と仰るでしょう?まるで、キースさんのご両親とか、おじいさんおばあさんみたい、なんて思ってしまって。まだお若いのにね」


「あ、あ~、それはちょっとよろしく無いですね。気を付けます」


アリステア達は視線を逸らす。当たっているだけに否定もできない。


「それで、今日は祝賀会のお話ですね?」


「はい、また変更がございまして……一週間弱しかないところ、恐縮なのですが。まずはこちらをお読みください」


そう言いながら10数枚程の紙束を渡す。昨日、キース、イングリット、ディックの3人で作成した、収穫祭出店者向けの告知文を、『イクシアガーデン』用に手直ししたものだ。


収穫祭出店者用の告知文も、既に今日の朝から配布が始まっている。国務省の農務局の職員が手分けして、出店リストを見ながら店舗一軒一軒回っているのだ。


見本が完成し、『転写』で複製を大量に作成する際は、3人に加えイングリットの補佐官達も行った。


連れ立ってイングリットの執務室に入ると、補佐官達は既に帰る用意をしていたが、理由を聞くと喜んで手伝ってくれた。(だが、さすがに1人当たり100枚前後『転写』するとは思っていなかった為、若干引いてはいた)


告知文は時節の挨拶こそあるが、至って簡潔に書いてある。ほぼ業務連絡である為、貴族や国同士の間で交わす様な、持って回った文章である必要は無い。


「では拝見しますね」


エレインは受け取った書類に目を落とした。


□ □ □


・今年は収穫祭を一日延長し、5日間とする。そして、その最終日を依頼していた祝賀会とする。


・上記に伴い、開催場所は、ヴァンガーデレン家の別邸の敷地から、王都・中央広場に変更される。収穫祭に出店している店舗は、そのままブースで営業を継続して欲しい。


・なお、最終日が冒険者達の祝賀会であるのを知っているのは、現時点では皆とキース達のみである。既に取引先等に話してしまった者もいるかもしれないが、今日以降は口外しない事。


□ □ □


(殿下のお名前で発行されて、印章も押してある。祝賀会の責任部署は冒険者ギルドではないのかしら?確かに、冒険者ギルドは国務省の管轄だけど……この変更に直接ご指示を出したという事?それに何だかこの書類……)


「……お話は承知しました。各店舗に配布します。こちらとしては、色々な手間が減りますので何の問題もございません。ですが……ちょっとお尋ねしても良いですか?」


「もちろんです。どうぞどうぞ」


「書類のお名前はイングリット殿下となっていますが、この変更は殿下のご指示なのですか?」


「はい、昨日の午後に冒険者ギルドのマスターがキースに話をして、キースがイングリット殿下にご相談したのが切っ掛けでした」


アリステアは祝賀会への出店希望者が殺到してしまい、まとめて断ろうとしていた事を説明する。


「確かに、1000人近くが集まる規模の催しは中々ありませんから、出店できるならしたいですが、まさかそんな事になっていたなんて……私共にも気を遣っていただきありがとうございます」


エレインは笑顔で礼を言いながらも、内心は(希望すればすぐに殿下にお会いできるのは、さすが白銀級といったところだけど、昨日の午後から始まった話が、翌日の午前中には全て決まって書類までできてしまうの?)と訝しんでいた。


キースが、ダンジョン確保以外の何が評価されて白銀級に至ったのかの詳細は、まだ発表されていない。冒険者達は知っているが、そちら方面に伝手がないと、正確な話は集まらないだろう。


「食材などの追加発注もしなければなりませんが、各お店大丈夫でしょうか?」


「基本、商売人は『減らせ』と言われるのは嫌がりますが、『増やせ』と言われるのは大歓迎ですので。手間は有ってもどのお店も喜んで対応しますよ。ご安心ください」


王都エストリオの人口は約10万人。最大でも1000人弱だった客が、最大10万人になるのだ。店としては大歓迎である。


エレインは、ローテーブルに置いてあった『呼び出しベル』の魔導具を手に取る。魔力を流し2度、3度と振ると、ベルはすぐに鳴り返した。


ベルをテーブルに戻すと執務机に向かい、引き出しから書類筒を取り出す。同時に扉が叩かれ、若い女性従業員が入ってくる。


「これを『イクシアガーデン』の各店舗と、本店がある店は本店の方にも届けてちょうだい。1箇所1枚ね」


「はい、かしこまりました」


紙束を書類筒に入れ、受け取った従業員を見送ると再び席に着く。


「この変更は取り止めとなる可能性はありますか?」


「既にイ…ングリット殿下預かりの案件として関係各所が動いておりますし、出店者への告知文も配布し始めています。それに、何より殿下が大層張り切っておいでとの事。ですので、そこは心配いらないかと」


「そうですか、なら大丈夫ですね。それにしても、祝賀会をお祭りにくっ付けてしまうなんて……この発想はどこから出てくるのでしょう?私の様な年寄りではとても無理です」


エレインの言葉にアリステア達も頷く。ほぼ同じ時刻に、ヴァンガーデレン家でも同じ様な会話がなされていたが、さすがにそれは知る由もない。


「頭が良いだけではないのですよね……何と言うか、思考の柔軟性が高いと言いましょうか。一緒にいても今度は何をするのだろうと、楽しくて仕方がありません」


「その分ついて行くのは大変ですが」


アリステアとフランの言葉にクライブも頷く。


「ふふ、それであっても羨ましいですね。これからも大変でしょうけど、頑張ってくださいね」


「はい、ありがとうございます」


□ □ □


エレインはアリステア達が店を出るのを見送ると、置いていった2種類の告知文を手に取った。


(字の癖が同じなのは良いのよ。でも、イングリット殿下の印章の右下のインクの掠れ具合、5行目の左端の文字のインクの滲み、他の告知文も同じだった。この2枚だけなら偶然もあるかもしれないけど、10数枚も全く同じ箇所が掠れて滲むなんて有り得ないでしょう)


告知文をテーブルに戻し、宙を見つめる。天井から下がる『照明の魔導具』が輝いている。


(それに、昨日の午後決まってそれから書類を作り始めたのでしょうに、もう配り始めているって言ってた。600店弱も出店予定なのよ?完成までが速過ぎる。何人で作業したか知らないけど、夜通しやらなければ出来上がらないんじゃない?急いでいるのは分かるけど、あのイングリット殿下がそんな仕事させるのかしら……)


立ち上がると窓の方へ歩いてゆく。表通りに目をやるがアリステアらの乗った馬車は既に見えない。


(……あの3人の無欲さも気になるのよね。30手前なのに、あんなに達観できる?自分の子供や孫相手、自分の事なんてどうでもいいけど……)


エレインは娘の息子である、今年10歳になる孫の顔を思い浮かべる。茶色いくせっ毛とそばかすが特徴の、素直で可愛いく、頭の良い子なのだ。顔を合わせるとつい色々と買い与えてしまい、その度に娘に怒らるのだがどうしてもやめられない。アリステアらの態度と言葉に、どこと無く自分に通じるモノを感じるのだ。


エレインは大きな溜息を一つ吐くと、モヤモヤしたものを胸に抱いたまま、机に向かい仕事に取り掛かり始めた。


□ □ □


「よし、それでは始めましょうか!皆さんよろしくお願いします!」


拠点の地下室にキースの声が響き渡る。


素材も揃った為、遂に『猫型依代の魔導具』の作成に取り掛かるのだ。

ブックマークやご評価、いいねいただけると嬉しいですね!


お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ