第261話
【更新について】
週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
無事にカルージュの屋敷にし、まずは皆で掃除をしました。昼食後、キースは遂に『依代の魔導具』に触る事ができました。実際に試してみたところ、超絶イケメンができあがってしまい、イングリットを初めとする女性陣は慌てふためきました。『試してみてみるか』というキースの提案に手を挙げたのは……
□ □ □
「私でも良いかい、キース」
「もちろんですよエレジーアさん!」
「もうすぐ猫型の魔導具ができるだろうけどね。目の間にすぐ使える、それも最高級品があるのだから試さない手は無いよ。それに」
言葉が途切れると、エレジーアの魔力が皆の周囲を包み込む様に動く。見渡しているという感じなのだろう。
「わたしゃできるだけ早く皆の顔が見たいんだ。今のあんた達のね」
(……確かに前からそう言ってたものな)
魔力だけで感知している状態というのは、云わば温度で感知するサーモグラフィーの画像の様なものだ。背格好や形だけで表情は分からない。
「サンフォードさん、この場合、魔石と魔石を触れ合わせれば良いのでしょうか?」
「ふむ、どうだろうかな……とりあえずやってみよう」
「キースさん、さすがに魔導具に着せてあるこの服のままでは……キャロルおば様とかにお借りする事はできないでしょうか?」
気が逸る男達をイングリットが押し留める。確かに、女性に寝間着の様な長袖シャツとズボンだけ、という訳にもいかない。
「ご、ごもっとも。えーと、草刈りはもう終わったのかな?」
そう言いながらバルコニーの扉を開け、そのまま外へ出る。下を見ると、伸び放題だった庭の草や枯れた植木らは全て刈り取られ、綺麗な状態になっており、既に誰もいない。
「あれ?もう誰もいない……随分早いな」
「さてはキースさん、さっき4の鐘が鳴っていた事に気が付いていませんね?」
「もうそんな時間!?全然気が付かなかった……」
アハハと恥ずかしそうに笑った。それだけ『依代の魔導具』に集中していたという事だ。なんと言っても、半年分の我慢が今この時に集約しているのである。
「ではちょっとお願いしてきます。皆は待っててください」
キャロルの位置を<探査>で調べ、台所でマクリーンと一緒に夕食の準備をしていたキャロルに事情を説明する。
「分かったわ。ではエレジーアさんを私の部屋に連れて行くわね。そこで移ってもらってそのまま着替えてもらいましょう」
「キャロル、一応立ち会ってくれますか?魔導具から魔導具へ意識を移すのは初めてなもので、どの様な様子になるのか見て欲しいのですが」
「承知したわ。記録は多い方が良いですものね」
キャロルと一緒に部屋に戻ると、『依代の魔導具』とクマのぬいぐるみを抱え、キャロルの部屋へと移動する。ベッドの上にエレジーアと『依代の魔導具』を並べ、魔石を触れ合わせる。
「イーリー、マルシェかレーニアに身支度を一緒に手伝ってもらいたいのだけど、良いかしら?」
「もちろんです。ではマルシェお願いします」
「かしこまりました」
「私の持ち物でお気に召せば良いのだけど……」
王都から距離があるとはいえ、北の国境沿いの要衝を任される貴族の奥様だ。家格としては上位に近い。
「はっは!あの城塞に移動してからは、社交も何も無いからね。化粧すら最低限で、普段着しか着ていなかったんだよ。ありがとう」
(その普段着が問題なのだと思うけど……)
貴族と一般市民では、生活にかかる費用の基礎値が違う。鵜呑みにはできないというものだ。
「では、僕達はリビングで待ってます!楽しみですね!」
「うむ。では先生、また後ほど」
「失礼いたします」
キースらが部屋を出て行くと、キャロルはもう一度魔石がきちんと触れ合っているかを確認する。
「うん、大丈夫ね。ではエレジーア、始めてください」
「分かったよ。よろしくね」
返事が聞こえてすぐに、クマのぬいぐるみは光に包まれだした。
□ □ □
「アーティ、アーティ、ちょっと良いですかな」
編み物に集中していたアリステアは、ヒギンズの自分を呼ぶ声で顔を上げると、息を一つ吐いた。
(やっぱりこっちの身体は疲れるわね)
編み物は激しい肉体労働では無いし、アリステアには『手先が器用』という特性も出ているが、やはり70歳は70歳である。若く健康な身体に慣れてしまっていた事もあり、何かをする度にその差を感じていた。
以前、ロワンヌ商会のエレインが、アーティが編んだレースを見て、『経験と若い勢い両方を感じる』という類の事を言ったが、非常に的を射た意見だった。
「なに、ヒギンズ。どうしたの?」
「あちらを見てください」
ヒギンズが指し示す方を見ると、訝しげな顔になりシパシパと瞬きを繰り返す。
「久々にこの身体に戻って編み物をしたせいかしら……目が霞んで後ろ姿のキャロルが2人に見えるのだけど」
「お母さん、かすみ目ではありません。実際に2人いるのです」
ライアルの言葉に目を細めて目を凝らす。
「あらヤダ、本当だわ。でも何で……あ、もしかして、『依代の魔導具』?」
「そうです。キャロルとエレジーアさんです」
2人共に銀髪で、髪は一本の三つ編みでまとめられており、そこにエレジーアは赤の石、キャロルは青の石が付いた簪が刺さっている。服はどちらも柄物の長袖のロングワンピースで、デザインは同じで色使いだけが違う。同じデザインで複数のカラーパターン、まさに屋敷から出ない時に着る普段着だ。
その2人が後ろを向いて立っている。アリステアにどちらがどちらなのかを当てさせようというのだ。だが、アリステアはそんな目論見を歯牙にもかけなかった。
「エレジーアは、元々髪色や背格好はキャロルと似た様な感じだったの?洋服も髪飾りもとてもよい感じね」
アリステアは自分から見て左手の人物に話し掛ける。皆の顔が驚きに染まった。
「後ろ姿だけで分かりますか!?『第六感』もあるし、おばあ様には意味無かったか……」
「キース、私がキャロルを他の人と間違えるなんて事は有り得ないの。特性も服も関係ありません。何回命を救ってもらったと思っているの」
腰に手を添え、ふふんと胸を張る。
誰もが(それは大威張りで言う事なのだろうか)と思ったが、振り返ったキャロルが嬉しそうにニコニコしている為、口に出す者はいなかった。
「そ、そうですか。では、エレジーアさんもこちらを向いてください」
ゆっくりと振り返ったエレジーアは、アリステアをじっと見つめる。
「改めて初めましてだね、アリステア。これからもよろしく」
「ええ、エレジーア。こちらこそ。その姿は幾つぐらいの時?40半ばぐらいに見えるけど」
「まさにその通りだよ。サンフォードが私の研究室に来た頃さ。懐かしいだろうと思って、敢えてこれぐらいにしてみたけど、どうだろうね」
皆がサンフォードに視線を移すと、既に瞳を濡らし鼻をすすりながら見上げている。色々と込み上げてくるものがある様だ。
「やはり、目を合わせるというのは大事ですね。相手の考えている事が伝わってきますから。まさに『目は口ほどにものを言う』です」
キースの言葉に皆が頷いた。時には口に出していない事まで伝える事もできる。残念ながらぬいぐるみの目ではそうはいかない。
「明日、王都に戻ったらギルドに寄って、先日お願いした素材の集まり具合を確認しましょう。少しでも早く猫型の『依代の魔導具』を作成しなければ」
キースとサンフォードが真剣な表情で頷き合う。
「ふふ、頼もしいね。よろしく頼むよ」
(そういえば、おばあ様は意識を移した時、服はどうしたのだろう?キャロルとヒギンズは自分達の持ち物で大丈夫そうだけど……後で訊いてみよう)
□ □ □
皆で夕食を済ませ、イングリット達を『転移の魔法陣』で送った後、アリステアとキャロル以外の6人(5人と1匹)で地下の倉庫へと降りる。
明日の片付けを少しでも楽にする為の準備と、エレジーアとサンフォードに『私達が知っている物があるか、ぜひ見せて欲しい』と頼まれたのだ。
エレジーアとサンフォードは、棚に置かれた雑多な品々を一つづつ手に取りながら、ああでもないこうでもないと言葉を交わしている。
曰く━━━
□ □ □
「これは確か、クリプト商会から発売された、自動でパン生地を捏ねる魔導具ですぞ!先生のお屋敷にもありましたな!」
「ああ、あったねぇ!でも、クロエはすぐに使わなくなってたよ。『自分で捏ねた方が早いし美味しくできます』って。結局、使うのは物珍しいうちだけだねぇ」
「んんっ!?この冊子は……私のお師匠の筆跡に似ているが……サインは……うん、このパッと見全く読めないサイン、間違いなく先生のものだ。懐かしいねぇ」
「ほう!アルゴン先生の直筆!それはまた凄い物が出てきましたな!」
「どれ、中身は……うわ、自作の詩集じゃないか!しかも随分とメルヘンな……あのいかつい顔からはとても想像できんよ」
「なんと!あのアルゴン先生が……」
「これはどうしたもんだろうねぇ……封印してあげた方が良いのか……」
「まぁ……もうお亡くなりになられていますし、そのままでよろしいのでは?秘密の恥ずかしい記録も1000年近く経てば貴重な歴史的資料です」
「そりゃそうだ!キース、お前さんも色々なモノを遺すだろうけど、後世の人々に笑われたくなければ気を付けるんだよ!」
「はい、気をつけます……」
何かあったっけ?と思いつつ、2人の後を着いて回るキースだった。
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