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第260話

【更新について】


週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ


【前回まで】


ゲインズボロー商会を呼んで、口外無用の念押しをしたイングリット。口止め料と秘密の追加報酬を提供しました。ゲインズボロー商会は、新たな商売のネタをもらいホクホクです。


【注】

キャロル=フラン

ヒギンズ=クライブ

です。念の為。


□ □ □


馬車は何事も無く無事に到着した。


キースが門に貼られた『施錠の魔法陣』を解除し、敷地内に入ると、門から玄関、その隣の馬車寄せへと続く道を進む。


春から半年以上人の手が入っていない為、雑草は伸び放題、色や花弁の大きさまで考え抜いて植えた寄せ植えや鉢物なども、枯れてカラカラだ。余りの惨状にクライブは頭を抱えた。


到着後、まず最初にキースの部屋に『転移の魔法陣』を設置し、王都の屋敷からライアル、マクリーン、イングリットを転移させた。そこからは、予め決めておいた分担に分かれて作業を開始する。


と言っても、キャロルとレーニアが台所で昼食の準備、それ以外は屋敷内の掃除、この二つだけだ。各部屋の扉と窓に貼った『施錠の魔法陣』を解除し、窓を開け空気を入れ替る。同時に、テーブルの上を拭き、床の埃を掃き清める。


『依代の魔導具』を使っていたアリステアらは、掃除を終え、昼食が出来上がるまでの間に、自分の身体に戻していた。


自分の身体に戻り、リビングに出てきた3人をキースらが出迎える。


「これが正しいのかは分かりませんが……元の姿を見て最初に思い浮かんだ言葉は、『みんなお久しぶりです』という言葉ですね」


「……確かに言葉に困るわね。ずっと一緒だったけど、何か違うというか」


「やはり見た目は重要です。喋り方も雰囲気もおばあ様達なのに、見た事無い方なので違和感が強いですもの」


イングリットは『困ったわ』と言わんばかりに、頬に掌を当て首を傾げている。


「動いた感じはいかがですか?関節の具合とか、筋力が落ちてるとか?」


「それが、不思議な事に全くなんとも無いのだ」


ヒギンズの言葉にアリステアとキャロルが頷く。通常であれば、半月も寝たきりだったりギプスをしていれば、動かす事もままならなくなる。半年以上ベッドに放置し何のケアもしていないのに変化無しというのは、明らかにおかしい。


「……意識が移動した後に、繋がっている元の身体に『保護』の魔法が掛かる様になっているのだろうねぇ」


「おそらく。でないと説明がつきません。もちろんそんな技術は聞いた事もありませんが、これだけの物を作るのです。何ができても不思議ではありません」


エレジーアの部屋にある家具や本には、『保護』の魔法が施されているが、あれは部屋全体に魔法陣で掛けてあるのだ。『依代の魔導具』は意識を移したのと同時に、自動で発動させているらしい。エレジーアやサンフォードにとっても未知の技術だった。


「皆さん、昼食の用意が整いました。ダイニングへどうぞ」


リビングの入口からレーニアが声を掛けてきた。


「ふふ、やはりとんでもない魔導具です。ますます楽しみになってきました。後で触るのが楽しみです」


□ □ □


「ご馳走様でした!よし!それでは行ってきます!」


「ええ、夕食の準備ができたら呼びに行くわ。程々にね……と言っても無駄ね」


「そうですね!ちょっと難しいです!」


取り繕ろう素振りすら見せない、ある意味潔い返事に、本人以外は呆れ半分に笑う。


「俺達は村長さんに挨拶をして、その後庭の草刈りをする予定だ。何かあれば呼びなさい」


「承知しました!村長さんによろしくお伝えください!」


皆に軽く礼をしたイングリットが、先に立って歩き出したキースに着いて行く。クマのぬいぐるみであるエレジーアはマルシェが抱え、黒猫のサンフォードはキースの肩の上だ。


「……分かってはいたが、やはり、白銀級になっても何も変わらんな」


弾む様な足取りの自分の息子を見送ると、ライアルはお茶の入ったカップを手に取った。


「まあ、肩書が変わっただけですからね。それにしても、よく半年以上我慢しました。ねえマクリーン」


「はい、本当に。あの知りたがりのキースちゃんが……大したものです」


「さて、どんな結果が出る事やら。楽しみにしておくとしましょう」


クライブの言葉に皆笑顔で頷いた。


□ □ □


「よし、下調べはこんなところでしょうか?次に進みましょう!」


ベッドの上に仰向けに置いてある『依代の魔導具』を前に、キースのテンションは最高潮に達していた。


箱に入っていた仕様書を読み、素の状態の魔導具の外観、特徴、各部位のサイズの記録を終え、次の段階へと向かうところだ。


「それでは、実際にやってみます!」


そう言ってベッドに上がり、魔導具の左隣に横になる。手が少し震えている様に見えるのは、興奮からか緊張からか、本人にもはっきりとは分からないだろう。


「えーと、右手を魔石の上に乗せて、なりたい姿を強くイメージすると……」


次の瞬間、キースと『依代の魔導具』が青白い魔力の光に包まれ輝き出す。光は徐々に強まり、イングリットらは余りの眩しさに目を閉じた。


包み込んだ光が一際強くなった後、それを境に収まってゆく。イングリット達は光が消えたのを感じ、そっと目を開いた。そして驚愕した。


ベッドの脇には、ある意味、キースと対極とも言える男性が立っていたのだ。


身長は間違いなく180cmを超えており、細身だが決して華奢では無く、不足なく筋肉がついている。


顔付きは、キースが持つ可愛らしさや愛嬌は欠片も無い。ぱっちりくりくりな瞳とは対照的な、切れ長で少し細めの涼し気な目元、スっと伸びた鼻梁、頬骨から顎の線はスッキリとして、もちもち頬っぺたの面影は無い。全体的に冷たい、硬質な印象を受ける。


かろうじてキースを感じさせる部分は、金髪でサラサラの髪質、自然な感じに分かれた七三、眉毛から目にかかる程までの長さの前髪、南国の海の様な緑の瞳だけだ。


着衣が魔導具に着せてある下着の様な長袖シャツと長ズボンという、ある意味とても残念な代物であるのに、それでも眉目秀麗で色気十分な美しい青年である。


皆で口をポカーンと開けて見上げていると、イングリットや側仕え達をじっと見つめながら、笑顔になる。


目尻が少し下がり口角が上った事で、先程までの硬い印象が一変し、明るく人懐っこい雰囲気を醸し出し始める。まるで、草一本生えていない凍りついた地面が、一面花畑になったかの様な印象である。


大変なのは見つめられているイングリット達だ。最初は超絶美形の青年、次の瞬間には魅力たっぷりな満開の笑顔、どちらも人目を引き付けて離さないという点では同じだが、真逆と言っても良い程に差がある。そんなギャップに取り乱しつつも頬を染め、目を合わせていられず視線を逸らす。


エレジーアとサンフォードも言葉も無い。(エレジーアは見えていないが、皆の魔力の乱れで何事か起こっているのは判る)


「どうかなイーリー?僕の要素を残しつつ、無い部分を取り入れてみたのだけど。上手く合ってるかな?」


「あ、あ、合っています!すごく素敵です!けど!これはダメ!ダメです!他の人に見せられないと言うか、見せたくないというか!とにかくダメです!いやらし過ぎます!」


激しく首を横に振る。マルシェとレーニアも、イングリットに同意する様に何度も頷いた。


(カッコ良過ぎてもダメって事なのか?難しいな。いやらし過ぎっていうのもよく分からないけど)


「そ、そう……分かりました。まあ、魔導具の勝手は掴めたからね、元に戻ろうか」


ベッドで横になり、魔石に手を乗せる。移した時と同じ様に魔力の光がおこり、キースの意識は自分の身体に戻った。


「少しでしたが、やはり自分ではない誰かになるというのは、何とも言えない心の高まりを感じますね!」


「誰しも、程度の差はあれど変身願望というものがあるというが、その類やもしれんな」


キースはサンフォードの言葉に頷くとイングリットに向き直る。


「イーリーも試してみてはどう?今後の為にも経験しておいた方が良いんじゃないかな?」


「……今後の為、ですか?」


イングリットが不思議そうに首を傾げる。


「…いや、色々タイミングが合わないとできない事だから。できる時に一度やっておいても良いんじゃないかと思って」


やりたいと思っても、まず自身が常に忙しく、更にアリステアらに一度元の身体に戻ってもらう必要がある。全ての都合がつく事は中々無いだろう。


イングリットが迷っていると、思わぬ方向から声が掛かった。


「私にやらせてくれるかい?」

ブックマークやご評価いただけると嬉しいですね!


お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)

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