第25話
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アリステアはそのまま半月ほど施療院で回復に努めた。
目が覚めた時に付き添ってくれていた、若く背の高い神官が、そのまま世話をしてくれている。
彼女はこの街出身だそうだ。
王都の神殿に入り修行を始め、今年の春に正式に神官となった。今回は司教の視察の随行員に選ばれ滞在していたという。
「正式に神官になった姿を地元の皆さんに見せてきなさい」という神殿側の配慮であろう。
アリステアが目を覚ました翌日の午後には、共同神殿の各派の司祭がお見舞いに来てくれた。
一人一人からありがたいお説教をもらい、(笑顔で)お叱りを受けた。
最近は、誰にも怒られたりしていない。
新鮮に感じ嬉しさすらあったが、ニコニコしてしまっては終わらない為、神妙な顔で通した。
その後、車椅子を押してもらい厩へ向かう。自分を落とさずに運んでくれたソレイユに会いたかったのだ。
アリステアが厩の手前まで来ると、ソレイユが馬房から顔を出しているのが見えた。
アリステアが来たのが匂いで判るのだろう。前足で地面を掻き、いなないている。
アリステアは首にしがみつき何度も何度も撫でながら、涙声で「ありがとう」と声をかける。
ソレイユも心配そうに鼻面を寄せてきた。この子でなかったら帰ってこれなかっただろう。
命の恩人(恩馬?)である。
自分が戻ってきてすぐに、状況はバーソルトの冒険者ギルドから報告済みとの事だが、アリステアは、王都の冒険者ギルド宛に報告書を書いた。
以前書いた「提案書」の形を思い出しながら、今回の経緯を記していく。
瀕死に陥り大怪我で戻れない状態だ。心配もしてくれているだろうし、自分でないと書けない細かい部分もある。本人からの説明は必要だ。
可能であれば、見つけた魔導具を回収してほしい、という事も一緒に書いた。
これをギルドに預ければ、物質転送の魔法陣で送ってくれるだろう。
さらに、馬車を出してもらい南門へ向かう。
(さすがに車椅子で街中には出られないよね・・・)
「命に別状は無く目も覚まし回復に努めている」と代官経由で発表してもらっているが、やはり地元の英雄の容態は誰もが心配している。
アリステアが姿を見せただけでパニックになるだろう。
馴染みの人たちに顔を見せたいが、こればかりは仕方がない。
門の中まで馬車で乗り入れ、そこで車椅子に乗り換え詰所に入る。
騒がせてしまった事を謝罪し、搬送等対応してもらった事に対しお礼をする。
誰もが「自分達は当たり前の事をしただけ、気にしないでほしい」と言ってくれた。
謝罪とお礼に来たのに、逆に自分の心配をされてしまい、恐縮するアリステアだった。
さらに10日が経過し、傷の具合も良くなってきた為アリステアは王都に戻ることにした。
代官、共同神殿の各派の司祭、神官達、孤児院の子供達、南門の衛兵詰所をもう一度回り、改めてお礼を言い帰る事を伝える。
目が覚めた時から世話をしてくれていた若い神官、キャロルもまだ付いてくれている。
元々彼女は王都の神殿所属だ。こちらに来ていたのがたまたまだったのだ。
最大の懸念材料だったのは街の人々への挨拶だ。顔見せ無しで帰る訳にはいかない。
皆で色々考えた結果、自分達が船に乗ってからする事になった。
船の上ならもみくちゃになることも無いし、船が港を離れれば自然と解散になるだろう。
出発時間より早めに船に乗って待機する。今頃、市場や広場でアリステアが王都に戻る事が告知されているはずだ。
(誰も来なかったらどうしよう・・・)
ちょっと心配になったが、さすがにその心配は杞憂に終わった。
船上から港を見ていると、人々が続々と集まり始める。あっという間に船の前から港全体が埋め尽くされる。
(こんなにたくさん・・・)
アリステアは目を潤ませる。松葉杖をついて立ち上がり両手を大きく振る。その姿を見て大歓声と割れんばかりの拍手、口笛が響き渡る。
「アリステアー!必ずまたおいでよー!」
「おねぇちゃーん!早く良くなってねー!」
「また市場へ来てくれよな!」
皆、手を振ったりその場で飛び跳ねたりしながら声をかけてくる。
アリステアも泣いたり笑ったりと、表情をくるくる変えながら手を振り続ける。
船が動き出し景色が流れ始めた。
アリステアは街の人達が見えなくなるまで手を振り続けた。
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