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第254話

【更新について】


週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ


【前回まで】


リリアと話をした翌日、今日は魔術学院で講義です。少し早めに来てマリアンヌ理事長と話をした後イングリットらと合流。講義を行う講堂へと向かいます。


□ □ □


講堂には貴族、一般市民、どちらの5年生も全員が集まっていた。


だが、講堂の中央から半分で様子が全く違う。


一般市民側の生徒は誰も喋らないし、物音一つ立てない。それどころか、呼吸音すら聞こえてこない程だ。貴族の生徒達も、その妙な空気に呑まれているのか、皆口数少なく様子を窺っている。


(何であいつらはみんなで<探査>を展開しているんだ?学院の中で何があるというんだ?)


ファンアールト家の三男、マシューズと他の貴族の子弟達も、一般市民側の生徒の様子を窺っている。


そう、一般市民側の生徒達は、全員が<探査>を発動していた。その為、誰も動かず喋らないのだ。


「……来た。5人だね」


貴族側の学生達が困惑する中、一般市民側の女子生徒の声が響いた。その途端に皆が<探査>を止め目を開く。


「マジで!?またミューズ?今週3勝目だよな!?」


「ふふん、ちょっといい感じなのかもね。理由は分からないけど」


「これはアレですよ。バイオリズムが良いってやつです。うちの父ちゃんが言ってました」


「バイオ……何それ?」


「特に何事も無く、いつも通り生活しているつもりでも、心や精神の状態には波があって、良い時と悪い時があるそうです。なので、ミューズは今良い波に乗っているのかもしれません」


「リュークの父ちゃんお医者さんだっけ。じゃあ信用できるね」


「え、そ、それは僕の言葉では信用できない、という事でしょうか……?」


「俺、過去一良い感じだったんだけどな……ちぇっ」


「負けたぐらいで一々凹んでる暇なんて無いって。次だよ次。いつも言われてただろ」


(魔力をできるだけ薄く広げて、誰が最初に感知できるかを競っていた、という事か……)


マシューズらは、素知らぬ風を装いながら、一般市民側の生徒の会話に聞き耳を立てる。


「ところで、5人も来るのか?」


「キースさんと理事長先生は分かったけど……残りは誰かな?」


「『呪文』の事を知っているとなると、かなり高位の方なんじゃないか?」


「冒険者ギルドのマスターとか?魔術師だし」


「近衛騎士団のイゼルビット副団長かもよ?」


「どちらの方もありそうだな……心の準備だけしておくか」


「ああ」

「そうね」

「だな」


一般市民側の生徒達はそこで言葉を切ると、怪訝そうに視線を交わす。マシューズが自分達が座る側に歩いて来ているのだ。


「ちょっと……いいだろうか」


マシューズはハリーが座る席の脇で立ち止まり、声を掛けた。


「……あ、ああ、はい、どうぞ」


お互いに非常にぎこちない。


同い歳、同じ内容を同じ建物で学んでいても、お互いの存在を意識する事も無く、先日の展示の時に初めて姿を見た相手だ。生まれも生活環境も違うし、言葉遣いも含めて会話の距離感が分からない。


そもそも、気位が高いマシューズが、一般市民の生徒に話し掛けるなどというのは、普段の彼からは考えられず、貴族側の生徒達も驚愕の表情を隠さない。


「さっきのは……いつもやっているのか?<探査>の……」


「あ、ああ、そうだな。やっている。休憩が終わる頃から始めて、教室に向かってくる講師を誰が最初に感知できるか、という、まあ、遊びというか競走というか、そんな感じで……」


「なるほど……」


「他人と競るとなると、どうしても気持ちが逸る。だが、それを抑えつつ、可能な限り速く自分が感知できるギリギリまで魔力を広げる、これが意外と難しい」


ハリーの隣に座っていたケビンが続く。ハリーが最初に話し掛けられ一呼吸置けた分、比較的ちゃんと喋れている。


「そうか……分かった。礼を言う」


「いや、どう、いたしまして……」


マシューズは、生徒達の視線を集めながら席に戻り椅子に座ると、何かを考えているのか目を閉じた。


□ □ □


生徒達は講堂に入ってきたまさかの同席者に混乱し、呆然としていた。


ミーティアは分かる。学院卒業後には、近衛騎士団の魔術師部隊に配属される者が何名もおり、繋がりは非常に深い。


銀級冒険者ニバリにも納得だ。もう1人の『呪文』の使い手であり、発見者が特殊な人物だけに、それ以外に発動できる(ある意味普通の)人がいるというのは、学ぶにあたってとても安心できる。


だが、いくら本人も魔術師とはいえ、執務に忙しいはずの王女殿下が聴講に来るというのは、さすがに予想外だった。


講堂には、マリアンヌを先頭にミーティア、ニバリと続いて入ってきた。2人が簡単に自己紹介を済ませると、マリアンヌが廊下を指し示しながら説明する。


「本日は、もう御一方参加されます。個人的なご都合でのご出席ですので、皆さんは座ったままで構いません」


マリアンヌが言い終わると同時に、キースに左手を預けながらイングリットが入ってくる。その後ろには、マルシェとレーニアも続いている。


この場の生徒達は全員、イングリットと会った事のある者はいない。家の当主でも無い学生の身では、そういう機会自体が無いのだ。


だが、マリアンヌの言葉、当人の雰囲気、キースがエスコートし側仕えと思しき女性達まで付いている状況。それらの事から、只者では無い事は察する事ができた。だが、精々『四派閥のどれかの家のお嬢様か?』と想像するのが関の山だった。


なので、この正体不明のお嬢様の自己紹介には肝を潰した。


「皆さんこんにちは。そして初めまして。イングリットです。急な事で申し訳ないのですが、私も魔術師の端くれ。ぜひご一緒させてください」


生徒達には嫌も応も無い。


王女様が『聴きたい』と言うのだ。『はい、分かりました』以外の返事などありはしない。というか、いきなりの王女殿下登場にそれどころでは無い。特大の衝撃に包まれたまま、全員がガクガクと頷いた。


「殿下は先んじて行われた近衛騎士団での講義にも出席されました。王家の方々がどれだけ『呪文』を重要視しているか分かろうというものです」


マリアンヌの言葉を背に受けながら、イングリットとミーティアは並んで一番前の席に座った。ニバリは一番後ろに回る。


「それでは早速始めたいと思いますが、皆さんもご存知の通り、指導官のお2人は、『北西国境のダンジョン』確保などの功績により昇級されました。まずはそちらのお祝いをいたしましょう。キース指導官、ニバリ指導官、昇級おめでとうございます!」


「おめでとうございます!」


マリアンヌの発声に合わせ、出身関係無く、皆が立ち上がって拍手をし声を掛けたが、一般市民側の生徒達は特に熱かった。


一学年下という事で、キースから一番長く、多くの事を教わったのが彼らであり、その存在はまさにヒーローだ。


「皆さんありがとうございます。これからも励んでいきますので、よろしくお願いします。それでは講義を始めましょう」


拍手が自然と収まるのを待って、キースが開始を告げた。


□ □ □


「それでは、まず最初に資料をお配りしますね。1枚取ったら隣の人に回してください」


そう言って紙束をそれぞれ端の席に座る生徒に預ける。


「皆さん取りましたか?足りないという事は無いと思いますが……あ、余った?ではそのまま前へ回してください……良いですか?では始めます」


紙を右手で掲げ、紙の左上を指さす。紙自体には何も書かれておらず、左上と左下の隅に小さな魔石が埋め込まれている。


「まずは、左上の魔石に魔力を流して魔力登録をしてください。……終わりましたか?では次に左下にある魔石にも魔力を流してください」


言われるがままに魔力を流すと、皆が小さく声を漏らす。本当は叫ぶぐらいの衝撃なのだが、ミーティアやイングリットがいる場で大声を出す訳にもいかない為、辛うじて抑えたのだ。


先程まで何も書かれていなかった紙には、文章が浮かび上がっていた。言うまでもなく『呪文』の文言だ。


「文章が9種類書かれているはずです、各自確認してください。少ない、多い、文章自体が浮かんでこない、という人はいませんか?大丈夫ですね?では、もう一度左下の魔石に魔力を流してください」


再び魔力を流すと、今度は文章が消え最初のまっさらな状態に戻った。またも皆の目が丸くなる。


「こちらの紙は、秘密にしたい今回の内容にピッタリだと思い用意しました。もし自分でも作ってみたいという人がいれば、終わった後にでも来てください」


キースの言葉に貴族側の生徒達が訝しげな顔になる。


「『作り方をタダで教えてくれるのか?』と考えていますね?私は製法が載っている資料を見つけただけで、自分で考案した訳ではありません。ですから皆さんに教えても何も損しません。どんどん訊きに来てください。まあ、さすがに作って販売までされると、一言言わざるを得ませんが」


そう言ってニヤリと笑った。

ブックマークやご評価いただけると嬉しいですね!


お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)

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