第253話
【更新について】
週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
様々な事をネタばらししつつ、リリアに新たな目標を持たせる事ができ、リリアもキースも気持ちに(概ね)区切りをつけることができました。
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「いらっしゃいキース。今日はよろしくお願いしますね」
「はい、理事長先生。頑張ります!」
リリアとの屋上で話し合った翌日、キースは午後の3の鐘に合わせて魔術学院にやってきた。当初は4の鐘に合わせて訪れる予定だったが、リリアの話をしたかった為予定を早めてやってきたのだ。
「朝連絡をもらってから、すぐにリリアの様子を見に行ったの。きちんと顔を挙げていて、目も、こう、真っ直ぐでグッと力強い感じだったわ。あれならもう大丈夫でしょう。ありがとう」
「いえいえ、僕は自分の都合で話しただけですから。目標の件も提案をしただけで、そんな大層な事はしていません」
「そうは言いますけどね、ほぼ途切れた彼女の道が、再び繋がった事には間違いありませんよ?全く同じ道ではありませんが……」
マリアンヌはお茶のカップを手に取り、一口飲むと大きく息を吐いた。今日のお茶もコロブレッリ産だ。先日マールが買った分はまだ残っているらしい。
「まあ、さすがにね、一晩で完全に切り替えられた訳では無いでしょうけど。あ、もちろん、あなたに対する気持ちも含めて、ですよ?」
マリアンヌの言葉に、キースは何も言わずに曖昧に笑った。
リリアの事は嫌いでは無い。
むしろ好きであるし、好意を向けられれば男としても嬉しくは思う。だが、不思議な事に、彼女に対してはイングリットの様に『そういう気持ち』にまではならなかった。
基本明るく元気で、少し強目な口調で話すが意外と怖がりというギャップのある性格、緩く癖のある肩までの薄い茶色の髪、パッチリとした二重の黒い瞳、身体もほぼ大人と言って良い程に成熟してきている。彼女とすれ違うほとんどの男が視線を留めるだろう。
同じ1年生の男子など、こんなお姉さんが同じクラスにいたら、意識してしまって大変なのではないだろうか?なんて心配をしてしまう程である。
(やはり、接していた期間の長さと会う頻度なのだろうか)
リリアと頻繁に関わっていたのは、拐われそうになっていた日から地上げ事件が解決し、『北国境のダンジョン』へ出発する迄の1週間程でしかなく、それ以降は、たまに店で顔を合わせていたぐらいでしかない。片手で数えられる程度だ。
片や、イングリットとは『北西国境のダンジョン』で、アーレルジ王国のフルーネウェーフェン子爵を捕まえ、ダンジョン確保に算段が着いて以降、定期的に会っている。
(それに、相手をどれだけ意識しているか、だよな)
結婚を申し込まれ返答はすぐでなくとも良いと言われたとしても、顔を合わせればどうしてもその事を思い出し考える。
そうしていくうちに、よりその相手の事を意識する様になり、イングリットの印象が強く、濃くなれば、その分リリアの要素はどうしても弱く、薄くなってしまう。
「それで、悩んでいた原因なのですが……」
キースは一旦考えるのをやめ、リリアが知る切っ掛けとなった説明を始める。マリアンヌの目が驚きに丸くなった。
「結果的に正解だった訳だけど、たったそれだけの会話からそこまで?」
「はい……2人も大したものですが、やはり最初に会話を拾ったその商会の番頭さん、ですね。この方もかなりデキる方なのでしょう」
ユーコの父がオーナーであるゲインズボロー商会といえば、衣料品関係ではエストリア屈指の大商会だ。そこで働いているだけでも一目置かれるのに、商会の幹部として、国務省で担当者との折衝を任されている程だ。相手先ではどんな些細な会話、変化の徴候も見逃さない、常にそういう心づもりでいるからこそなのだろう。
「各省庁の職員の皆さんは、そういった情報の取り扱いについては如何なのでしょう?まだ一般公開されていない話を通路を歩きながらしてしまうというのは、正直、意識が低いという印象を受けます。この話だけで判断するな、と言われそうですが、実際に一般市民の学生にまで伝わってしまっていますからね」
「そうね……」
マリアンヌとしては『そんな事は無い。大丈夫』と言いたいところだが、これが現実だ。リリアとユーコで止まったのは運が良かっただけである。
「という訳で、今日の講義は『機密の保持』についてお話をしようと思います。彼らには『呪文』について、できるだけ長い期間秘密にしてもらわないといけませんから」
「ええ、分かりました。よろしくお願いします。私も後ろで聞かせてもらいますね」
マリアンヌはにっこり微笑んだ。
□ □ □
キースとマリアンヌは、受付脇の待合室に降りてきていた。講義を聴きに来るイングリットを出迎える為だ。
降りるとすぐにニバリが玄関から入って来た。挨拶をし講義内容について説明していると、受付からマールが出てきて、イングリットの乗った馬車が敷地内に入った事を知らせてきた。
出迎えるべく馬車寄せで待機していると、近衛騎士団の騎兵2騎が並べて入って来た。安全確認と到着を知らせる『先触れ』役として、馬車に先行しているのだ。
騎士達は馬車寄せで馬から降りると、キース達と停車場所の間に立った。彼らも目の前の女性が魔術学院理事長である事は知っているが、要人に対する警戒はそういう問題では無いのだ。
その後、騎兵2騎づつが馬車の前後を護る形で進んできて、目の前で止まる。騎士達が馬車の周囲に配置すると同時に、扉の下に踏み台が置かれ、扉が開いた。
最初にイングリット、続けて近衛騎士団副団長のミーティアが踏み台を使って降りてくる。
「おはようございます、皆さん。今日もお邪魔いたします」
イングリットが両手を前で揃え挨拶し、待っていた3人は順に挨拶を返した。
「殿下、昨日はごゆっくりできましたか?喉のお加減はいかがでしょう?」
「はい、もうすっかり。昨日は図書室で調べ物をしておりました」
マリアンヌに対し笑顔を向ける。キースとは昨夜と朝起きてからやり取りをしている為、アイコンタクトと小さく頷くだけだ。
そのまま理事長室の続きの応接室へ移動し、今日の講義の内容について説明をする。
「なるほど……もちろん永遠に秘密にはできるとは思っていませんが、できるだけ長く、とは思っています。よろしくお願いします」
情報の扱いについては、親兄弟の振る舞いを見ている分、貴族出身であれば多少は良いかもしれない。だが、学生ではそこまで期待できないだろうし、一般市民出身者では言わずもがなだ。
「……だが、学院敷地外での口外は魔術契約で禁じたのだろう?であれば、そこまで心配しなくても良いのではないか?」
ニバリの言葉にキースは腕を組む。
「学生の間はそれで良いと思うのですが、卒業後はそうもいきません。成人した大人として、自らの意思で、自覚を持って対応するべきです。ですので、この契約は卒業時に破棄するという事でいかがでしょうか?実際問題、働き始めたらとても不便な事になると思うのです」
契約が続いていると、国務省や近衛騎士団に入っても『呪文』を話題にできないという事になる。これでは間違いなく仕事に支障が出てしまうだろう。
「確かにその通りですね……わかりました。では、魔術契約についてはその様に。理事長先生もよろしいでしょうか?」
「はい、承知しました。キースも言いましたが、自分でよく考え実践し、経験を積む事こそが重要です。上から頭を押え付けるなら幾らでもできますから」
学院に所属している間なら自分達の保護下である為、多少の事ならフォローできる。だが、卒業してしまったらそうはいかない。貴族社会は、一度の失敗で表舞台から消えかねないのだ。マリアンヌとしては、できる限りそのような事態を回避する為の手助けをしたいと考えている。
「では、皆さんそういう事でよろしくお願いします。それではそろそろ向かいましょうか」
キースの声に合わせて席を立ち、講堂へと向かった。
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