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第252話

【更新について】


週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ


【前回まで】


ベッドで悶々としていたリリアの所にやってきたキースは、かつての約束を守れなくなった事、王配になっても冒険者を続ける理由を説明します。


□ □ □


書類筒から出した資料は、先日魔法関係の商店主達に説明した時に使ったものだった。


「一応念を押しておきますが、ここに書かれている事はまだ公表されていない事が大半です。他所で喋っちゃダメですよ?意味が分からなければ言ってください。説明しますから」


「う、うん。分かった」


戸惑いながらも資料を受け取り読み始める。キースはリリアの横の椅子に移り、ホットワインを片手に様子をみる。


リリアは読み進む間、大きな溜息、忙しなく繰り返される瞬き、眉間にしわを寄せる、大きく口を開け呆然とする等、様々な表情を見せた。


そして大きな溜息と共に読み終えた資料をテーブルに置くと、キースをじっと見つめる。


「これ、全部本当の事で、今起こっているのだよね?キースの考えた『先々こうなったら良いな』とかじゃなくて?」


「はい、これは全てこの半年程で起きた、というか、僕が起こした事と、今後起こしたい事です」


「何と言うか、情報量が多過ぎて……ちょっと言葉が出ないよ……」


先程まで飲んでいたホットワインのアルコール分など消し飛んでしまった様だ。


「他の人もそうなりましたから大丈夫です。では、試しに『転移の魔法陣』を体験してみましょうか」


キースは書類筒を持って席を立ち、テーブルの脇とその5m程先に魔法陣を置いた。


「魔法陣ですので、そのまま起動させるだけです。何も難しい事はありません。起動」


魔法陣の上を移動したキースに、リリアの目が真ん丸になる程見開かれた。キースはそのまま往復してみせる。


「さあ、リリアもどうぞ。人によっては酔った様な状態になる人もいますが、どうやら個人差があるみたいで……とりあえず試してみましょう」


リリアを促すとキースは魔法陣の脇に動く。


リリアは席を立ち魔法陣の上に立ったが、完全に腰が引けており、これ以上無い程におっかなびっくりである。


「い、いきます……起動!」


目をギュッとつぶって起動させる。リリアの姿は何事も無く対になった魔法陣の上に移動した。


「ほ、本当に動いた……」


「気分はいかがですか?気持ち悪いとか、クラクラするとかありますか?」


「……大丈夫みたい」


「それは良かった。では、せっかくですのでもうちょっとやってみましょう」


そのまま数回転移を繰り返し、魔法陣の上を往復する。若いだけあってすぐに慣れた様で、最後は驚きつつも笑顔を見せた。


「ちなみに……僕の身の回りの人以外で一番最初に転移したのって誰だと思います?リリアにも関係ある人、いや、関係あった人と言った方が良いかな?」


「え、誰だろ……前はあったけど今はもう関係無い人……」


「例の地上げの件の……」


「……? あっ!もしかして、あの2人?」


「ふふ、正解です」


不公平な契約を盾に、飲食店組合を仕切っていたダルクと、ロワンヌ商会現オーナーであるエレインの息子、ファクトの事だ。


「財産一切合切、それこそ下着1枚まで取り上げた訳ですが、逆恨みしてその日の夜に店に火をつけに来たのですよ」


「ええっ!?」


リリアは思わず大きな声を上げた。今夜は驚く事ばかりだが、やはり店と家族に関わる事となると反応が違う。


「ですが、そんな事は当然予測済みでして。捕まえて縛り上げて、予め沖に流しておいた漁船に『転移の魔法陣』で乗せちゃいました。あ、もちろん食料や水は持たせましたよ?」


「……確か『新天地を求めて旅に出た』って言ってたよね?昨日の今日で随分急だなとは思ったけど、そういう事だったんだ」


明かりといえば、星と月の光だけの闇の中、手足を縛られた状態で、海に浮かぶ漁船に転移させられる、何という恐怖だろうか。リリアは想像しただけで身体を震わせた。


「そのまま潮と風に逆らわずに進んで行けば、無人島が集まっている諸島に着くんです。今頃そこで、魚でも釣りながら仲良く暮らしているでしょう」


キースは人の悪そうな笑みを浮かべた。


□ □ □


「後、新しい目標の一つである『依代の魔導具』なのですが、リリアも実際に見た事あるのですよ?それが今現在判明している最終形なんです」


「……もしかして、アーティさん達?」


リリアの指摘に今度はキースの目が真ん丸になる。それを見たリリアは、やっと一本取り返したとばかりにふふんと笑う。


「お見事です……どの辺で気づきました?」


「路地裏で助けてもらってお店まで連れてきてもらったよね?で、お父さんが嫌がらせについて説明したけど、その時にアーティさん達がさ『3食ここでも良い』『いつもここに来てましたものね』って話してたんだ。でも、どう思い返しても、あの人達の事を見た記憶が無くて。明らかにうちの料理を食べ慣れている様子なのに。おかしいなって思ってた」


リリアの説明にキースは嬉しそうに何度も頷く。まるで生徒のデキの良さに喜ぶ教師の様だ。


「なるほど……では、あの中には誰が入っていると思いますか?直接会った事は……有ってもおかしくありませんが、まだ小さかったから憶えていないかな?」


「小さい頃に会ったっきりの人……」


リリアは小さい頃の記憶を呼び覚まそうと、目を閉じ考え込む。しばらくそのまま考えていたが、何か思いついた様に目を開けた。その瞳は潤み、今にも溢れそうだ。


「……思い出した訳じゃ無いのだけどさ、まさか……まさか、アリステアさん?」


「はい、正解です」


「…………あの人は、昔からいつもいつも、私達の事を助けてくれて。何てお礼を言ったら良いんだろう。本当に、もう……はぁ」


リリアは涙声で言葉にならない。キースが渡したハンカチで目元を押える。


「ちなみに、イネスさんは、アーティの中の人がおばあ様だという事に、ご自分で気が付いたらしいです。別れ際にお礼を言われたと。凄いですよね」


「そうなんだ……おばあちゃん、ちゃんとお礼言えて良かった」


鼻をすすりながら何度も頷く。開店当初の、経営が苦しかった時を助けてもらってから約50年後、再び店の、さらに孫の危機も救ってくれたのだ。それに気が付いた時の祖母の気持ちを考えると、ますます涙が止まらない。


この後、フラン、クライブを含めた3人の事で、しばらく盛り上がった。


□ □ □


「以上が、これまでの色々な事のタネ明かしと、今後についての展望です。どうでしょう?何か興味を引く様な事はありましたか?」


「……どれも興味深いのだけど、まだ頭の中でグルグルしてて……でも、とりあえず、国務省に入る事を目標にするのが良いのかなって」


すっかり冷めたワインの器に口をつけ、チーズを摘む。


「そうですね。『石力機構』についても、ゆくゆくは専門の部署を作る事になると思いますし。国務省なら今のどの話にも関わってきますから」


「今国務省を管轄しているのは国務長官、なのかな?」


「はい、そうです。もちろん陛下や殿下がその上にいらっしゃる訳ですが。王配も一応その上になるのかな?」


「じゃあ、キースが王配になったらコネ入省できるね!その時はよろしくお願いします!」


「ふふっ!僕の審査は厳しいですよ?魔導具や魔法陣関連の部署は、本当にデキる人しか配属されませんから」


「うん、頑張ります!」


「いずれにしても、まずは、学院で学ぶ基礎をきちんと納める事です。一段一段、地に足をつけて登っていきましょう」


「分かった。『呪文』も必修科目になるのだろうし、ぼーっとしている暇なんて無いよね!」


リリアはそこで一度言葉を切ると、背筋を伸ばしキースをじっと見つめる。


「……キース、今日はわざわざ来てくれてありがとう。色々スッキリできたし、新しい目標も見つかったよ。本当にありがとう」


「……いいえ、僕の方こそ。約束でしたのに」


「うーん、人の気持ちが絡む事は仕方がないよ。だって、王配なんて立場を背負っても一緒にいたい、って思う程好きになっちゃったんでしょ?」


「……はい」


「特に男と女のこういうのはさ。まあ、私も聞いただけで経験無いから、偉そうに言うのもなんだけど。それよりも……」


リリアがニヤリと笑う。その笑顔に、キースは何やら嫌な感じを覚え、ゾクリとした。


「殿下とはどうなのよ?」


「ど、どうとは?何がでしょう?」


キースは解っていたがすっとぼける。


「何がって、男と女なんだから色々あるでしょう!ほら!アレやコレやが!」


「ええ……そんな事僕だけの判断では言えませんよ。殿下にも関係するのですから」


キースはイングリットの名前を出して逃げを打つ。


「僕だけの判断では言えない、という事は言えない様な事をしている、という事ね!いやらしい!私もしたい!」


「そ、そんな事言われても……」


テーブルに視線を逸らしたキースの目に入ったのは、リリアの前にある空になったワインの器だった。


(まだ半分以上残っていたはずなのに!?これ酔っ払ってるって事か?)


「よし、じゃあ目を閉じて!」


「……はい」


相手は酔っ払いという事で、ここは逆らうべきでは無いと判断したキースは素直に目を閉じる。


「見えてない?もっとギュッと閉じて!」


その声に追い立てられる様に、力を込めギュッと目を閉じる。


次の瞬間、唇に柔らかい感触を覚えた。


(!?)


慌てて目を開けると、リリアの顔がすぐ目の前にあった。


「ふふん、びっくりした?指を当てただけですー!」


人差し指と中指を揃え横向きにしてみせる。驚くキースに対し上手くいったとばかりに笑顔を見せた。


「リリア……驚かせないでください……」


「これから王配になろうっていう人が、これぐらいで驚いててどうするの!それにさ、婚約が正式に発表されたら、一気に女の人が寄ってくるよ?相手は殿下の婚約者って承知で近づいてきてるのだから、遠慮せずにきっちり突っぱねなきゃダメだよ? キースは優し過ぎるところがあるから気をつけなね?」


人差し指を立てながら迫る。


「は、はい!分かりました!」


その迫力に気圧され、手を挙げて返事をする。


「うん、よろしい!…………じゃあ、別れ難いけど今日は解散しよう!明日から心機一転頑張るよ!これからもよろしくね!」


そう言って右手を差し出した。


「……はい、そうですね。僕も頑張ります。よろしくお願いします」


キースも差し出された手を握り返し、お互いに笑顔を見せ合った。


□ □ □


<浮遊>の魔法で帰って行ったキースを姿が見えなくなるまで見送り、空になったワインの器を片付けたリリアは、再びベッドの上で横になっていた。


ぼーっと天井を見つめるその表情は、泣いてはいないが、先程キースと別れた時とはうってかわり冴えない。


新しく示された目標はどれも興味深く、途中からは笑顔も見せてはいた。だが、『力を認めてもらい、同じパーティで活動する事でより親密になる』という目標が無くなってしまった事には変わりないし、そんなすぐに切り替えられるはずも無い。


「だいたいさ、いくら憧れていたとはいえ、初めて会ったその場で結婚申し込まないでしょ、普通……王女様なんだよ?」


思わず独り言ちる。


魔法に関連するアレコレも大変な話ばかりだったが、リリアにとっては、やはりこれが今日一番の衝撃だった。


「……思い立ったら一直線、実現に向けて周りを動かすって事か……はぁ」


リリアは素直に負けを認めた。勝ち負けという問題でも無いかもしれないが、自分の心に区切りを着ける為には必要な事だ。


(でも……ふふ、一矢報いてやったとも言えるしね)


リリアは右手で自分の唇に触れ起き上がる。


そして、いつも枕元に置いてある『影の兎の魔法陣』を起動させると、自由に動き回る兎達に見入った。

ブックマークやご評価いただけると嬉しいですね!


お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)

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