第251回
【更新について】
週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
キース達がランチに『コーンズフレーバー』に行ったその日の夜。ベッドの上でリリアが悶々としています。彼女がぼんやりしていたのは、同級生のユーコとの会話が切っ掛けでした。その時外の様子が……
□ □ □
(……? 今一瞬明るかった様な……)
横になっていた身体を起こし、窓の方を見る。
様子を窺っていると、窓の下から球状の何かが立ち上ってきた。それも一つでは無く複数だ。
(<光球>の魔法!?)
<光球>の魔法は、文字通り光の球を作り出す魔法だ。主に暗闇での光源として使われる、初歩的な魔法の一つである。
光の球は大人の拳程の大きさで、それが10個以上ふよふよと漂っている。リリアが見とれていると、光の球は音も無く弾けだし、黄色い魔力の雫を振り撒きながら消えてゆく。
しかし、弾けたかと思えばすぐに次の光の球が現れる。
(まるで水中の泡みたい……)
途切れる事なく続く光の演出を前に、リリアはしばらく立ち尽くしていたが、ある事に気が付くと急いで窓に近づき鍵を外し、勢いよく開けた。
本来であれば、この様な意味不明な状況の時こそ、<探査>を使い外の様子を確認するのがデキる魔術師なのだろう。だが、リリアには『こんな事をするのは1人しかいない』という確信があった。
窓枠に手をかけ下を覗き込む。
視線の先には、彼女が想い浮かべていた通りの顔があった。ただ、それは思いのほか近かった。
窓枠のすぐ下まで<浮遊>で浮いていたからである。
(~~~~~~!?)
いきなり30cm程の距離で見つめ合ってしまい、お互いに仰け反る。
「こ、こんばんはリリア。今ちょっとお時間良いですか?」
先に立ち直ったキースがそっと声を掛ける。集中が切れて地面に落ちてもおかしくない状況だったが、その辺はさすがだ。
「……う、うん。大丈夫。えと、何かゴメン」
何故かリリアは謝った。
キースはそのまま浮かび上がったが、リリアの姿を見るとすぐに視線を逸らした。
「あ、あ~、屋上をお借りしましょう。少し肌寒いですから、風邪ひかない様に準備してきてくださいね」
キースはそれだけ言い残すと、そのまま上昇し視界の外に消えた。
唐突な言葉に眉間にしわを寄せ首を捻るが、その理由にはすぐに気が付いた。そして、あまりの恥ずかしさで一瞬で顔に血が上る。
風呂から出て直ぐにベッドで悶々としていた為、下着姿だったのだ。正確には、上は長袖シャツを着ていたが、下はそのままだ。シャツの裾が長めだった為辛うじて隠れてはいたが、リリアの中では異性の前に出て良い姿では無い。
(~~~~~!!!!もう、ありえないありえないありえない!!!)
上下きちんと着込み、キースの言葉を思い出しさらに上着を羽織る。
何とか心を落ち着かせ、自分も<浮遊>の魔法を発動し屋上に上がった。
屋上は主に洗濯物を干す場として使われている為、屋根も付いている。自宅兼店舗であり、加えて飲食店である為、洗い物は多い。天気に関わらず常に干せる場が必要なのだ。
それに、飲食店では味と同じぐらい清潔である事が重要になる。薄汚れた格好をしている人間が作った料理を好んで食べる客は、そういないだろう。
キースは、隅の方に置かれたテーブルセットに座っていた。リリアもそちらへ向かって空中を移動する。
(……そういえば、ここにも最近来てないな)
まだ魔術学院に通い出す前、ランチ営業後に自分の分の賄いをここで食べていた事があった。ずっと店の中で動いている為、休憩の時ぐらい外に出たかったのだ。
そんな事を思い出しつつ、テーブルの傍らにゆっくり降りた。
テーブルには飲み物の器と袋が載せられ、ホットワインの香りが漂っている。秋から冬に近づきつつある今の時期、夜に飲むのには丁度良い。
「……おまたせ。どうもお見苦しいものを……」
「あ、いえ、とんでもない……」
妙なやり取りをしながらお互いに頭を下げる。
「こっちは赤ワインでシナモンとクローブ、レモンが入ってます。もう1つは、スパイスは同じですが白でレモンではなく林檎が入っているそうです。どっちにします?」
それぞれの手に容器を持ち示す。
「じゃあ、白で。もしかして、2つ北の十字路のお店のやつ?」
「そうですそうです。ちょうど目に入ったので。夜に人を訪ねるのに手ぶらもなんですから」
「あそこ何頼んでも美味しいんだよね……いただきます」
「はい、どうぞ。あ、こっちはスモークチーズです。一緒にどうぞ」
「……スモークチーズってなんでこんなに美味しいんだろう。燻製にするとだいたいの食べ物は美味しくなるけど、チーズは特に美味しいと思う」
飲食店の娘らしく、やたら真剣な顔で力強く語りながら味わっている。
(……少しは気分がほぐれてきたかな?ではそろそろ……)
「え〜、リ、リリア、さっきの<浮遊>の魔法、とても上手でしたね。実際練習し始めてどれぐらい経ちますか?」
「う、うん。ありがとう。今月に入ってからだから、半月ぐらいかな?」
「半月!?それであれだけ自由に動けますか……さすがですね!」
「! ありがとう……」
こんな中途半端なもやもやした気持ちでも、キースに褒められると素直に嬉しくなってしまう。
「でも、講義にはきちんと集中しなければなりませんよ?理事長先生も気にかけていらっしゃいますから」
「っ!? は、はいっ!気をつけます……」
リリアは、ここ最近の自分の様子がマリアンヌまで伝わっている事に驚きつつ、姿勢を正す。
「今日の話題は2つあるのですが、1つはそれです。その悩みは僕が聞いても良い話ですか?もしそうなら解決に向けて一緒に考えましょう」
「…………」
キースの言葉にリリアは押し黙る。
イングリットにめでたい何かがあったのはまず間違い無い。それが『婚約者決定』というのも可能性充分だ。
だが、そこから出た『その相手はキースである』と言う結論、これは何の根拠も無い妄想だ。こんな事で悩んでいるなんて、呆れられたり嫌われたりしてしまうのではないか?そう考えると口に出す勇気は無かった。
だが、解決にはキース本人に確認を取るのが唯一の手段であるのも解っていた。
『イングリット殿下の婚約者がキースらしいが知っているか?』
こんな事他の誰に尋ねれば良いというのか。
「………………わ、笑わない?」
「人の悩みを笑うつもりはありませんよ? どんな内容だろうと、その人にとって悩む程真剣に考えているという事なのですから」
まさに『キースならこう言うだろうな』と、思っていた通りの返事が返ってきた。
「………………じゃあ、言うよ?」
「はい、どうぞ」
その言葉に勇気をもらったリリアは、一つ大きく深呼吸をすると、右隣に座るキースを見つめる。表情は真剣だが眉毛の端は下がり、今にも泣き出しそうだ。
(あ、これって……それで……)
リリアの表情を見た瞬間、キースはリリアが何に悩んでいるのかを察した。なぜ察する事ができたのか、なぜリリアがそれを知っているのかは分からないが、とにかく理屈では無く『リリアは知っている』、そう感じた。
「…………キース、イングリット殿下と結婚するの?」
(やはり)
キースは目を閉じ静かに一呼吸つくと、腹にぐっと力を込め、リリアと目を合わせる。
「……はい、そうです」
キースの答えにリリアは息を飲む。
「そっか……でも、まさか本当にそうだなんて……」
俯いたリリアの表情はキースからは見えない。
「……もう1つの話はこの件に関する事です。僕はリリアに謝らなくてはいけません」
俯いていたリリアが顔を上げる。かすかに涙の跡が見えた。キースは『例の約束』の話をする。
「……そうだよね。王配、だっけ?それになるのだから冒険者としての活動はできないものね」
「あ、いえ、冒険者はやめません。王配になっても続けます。ただ、女王の夫である王配のパーティに、同年代の女性を加入させる事はできない、という事です」
不思議そうな顔になったリリアに対して、慌てて訂正する。彼女の頭の中は?マークがぐるぐるしている事だろう。
「なぜそれが可能なのかは後で説明しますね。その前に、なぜ僕と殿下が結婚する、というお話を知っているのでしょう?どこかで噂にでもなっているとか?」
「……うん、噂、なのかな。私が聞いたのはこういう話」
ユーコが言っていた、『国務省で商会の番頭さんが聞いた会話』の内容を伝え、さらに、それを基に自分とユーコの考えを説明する。
「……確かに、そのやり取りなら殿下のご婚約までは連想できると思います。ですが、貴族家に良さげな人がいないからといって、僕を結びつけるとは……凄いですね」
キースは腕を組んで唸り、ホットワインを一口啜る。
「……憶えてるかな?学院で『呪文』の展示をしてくれた日の夕方、お店でお母さんが言った事。殿下がキースの事を気に入って……みたいな話」
「憶えています。『陛下は早くお相手を決めて安心したいはずだ』とも言ってましたね」
「うん。『キースも有り得るのでは?』という話になった時、お母さんの言った事が浮かんできて。それから、ずっとその事が頭の中でグルグルしていたんだ。考えれば考える程有り得そうに、そうなってしまいそうな気がしてきて……」
「なるほど……それで講義中もぼんやりしてしまったと」
「うん……しかも実際にその通りだったし……はぁ。でもキース、まだ冒険者続けるのって、やっぱり目標を達成していないから?」
『様々な未知を知りたい、経験したい』というのが、キースが冒険者になった理由の一つだった。
「それもあるのですが、新しい目標が2つできました。それを果たしたいと考えています。えーと……ここに詳しく書いてありますから、ちょっと目を通してください」
そう言うと、傍らに置いたいつもの鞄から書類筒を取り出し、その中から数枚が綴じられた書類を抜き出すとリリアに渡した。
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