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第24話

【更新日時について】


書き溜めが尽きるまでは、毎日5時・11時・16時に更新いたします。


通勤・通学、お昼休みのお供としてぜひどうぞ。

ミスリル製の短剣は凄まじい斬れ味を発揮した。


大腿骨という、身体の中でもかなり太い骨を切ったにも関わらず、手応えは全く無かった。


気が付いた時には左足が床に転がっていた。


アリステアは、自分で落とした足を眺めながら肩で呼吸を繰り返す。


右足一本で立とうとするが、急に片足になったのと、背負い袋も背負っているせいか、上手くバランスが取れない。


一刻も早く部屋の外へ出て、ポーションと解毒薬を飲まなければならない。


アリステアは地面に両手を付き、獣の様に四つん這いで走った。


なりふり構っていられないのだ。動き出したとたん左足に激痛が走り出す。


しかし止まっている時間は無い。それに、一度止まってしまったら動けなくなってしまうだろう。


たったの200mなのに、果てしない距離に感じる。


やっとの思いでベルトまでたどり着き、解毒剤と回復用ポーションを立て続けに飲む。


どちらも王都屈指の薬師が作った、金で買える最高級品だ。


新人冒険者にも「薬をケチるやつから死ぬ」という指導をしているのだ、まさか白銀級冒険者の自分が妥協するわけにもいかない。


横になりたい衝動を必死に抑えながら、階段を上り、入口を出て馬の所に戻る。


ソレイユもアリステアの様子がおかしいのを感じているのだろう。


落ち着かなげにいななき、足踏みをしている。


「ソレイユ・・・お願いしゃがんで」


背中をぽんぽんと叩き背中を下に押しながら声をかける。


ソレイユは一瞬考える様な素振りをしたが、そのまますっとしゃがんだ。


鞍に跨り鐙に足をかけ、合図を出す。


ソレイユは立ち上がったか、走り出さずに止まっている。


アリステアの様子がおかしいため、走り出してよいものかどうか考えているようだ。


アリステアは首を撫でる。


「私は大丈夫だから行ってちょうだい。もし私が落ちてもそのまま街へ行きなさい」


特徴的な毛色という事もあり、この馬がアリステアの馬であることはかなりの人間が知っている。


馬だけが帰ってくればおかしいと思うはずだ。


共同神殿の人達や宿屋の主人には、今日どこに行くかを話してある。こちら方面に探しに出てくれるかもしれない。


ソレイユはゆっくり走り出した。アリステアが落ちないかどうか確認しているかのようだ。


ポーションの効果で、出血は止まり痛みもほとんど感じない。ただ、やはり大怪我の影響はゼロではない。


そして毒が体に入ったせいか熱が出始めた。


普通に跨っていられなくなり、ソレイユの首にしがみつく。顔が金色のたてがみに埋まり、体温を感じる。



(帰るんだ・・・絶対に生きて帰るんだ・・・)



遺跡を出発してどれくらいの時間が経ったのだろうか。ケガと発熱とで意識は朦朧としている。


一応まだソレイユに乗ってはいるようだ。その時ソレイユが立ち止まった。


(ソレイユ・・・?どうしたの・・・疲れちゃったのかな・・・)



そこはバーソルトの街の南門だった。ソレイユは無事にアリステアを運びきった。


門の手前で立ち止まり動かなくなった馬に、訝しげな顔の衛兵が近づく。


近づきながら気が付く。


(この毛色・・・アリステアさんの馬だよな。ご本人はどこに・・・?)


たてがみにしがみつき顔を伏せていた為、正面から近づいてきた衛兵には姿が見えなかった。


そしてアリステアは限界を迎えた。馬の上からずるずると地面に落ちる。


衛兵が慌てて近づき抱き起こそうとしたその時、その身体の異常な熱さと左足の膝から下が無い事に気が付く。呼びかけても返事がなく、荒い息遣いだけだ。



南門は蜂の巣をつついたような騒ぎと混乱に陥った。


街の英雄が瀕死の状態で戻ってきたのだ。


ギルドや共同神殿、街の責任者である代官への連絡、共同神殿へ搬送する為の荷馬車の用意、騒ぎを聞きつけ集まってきた野次馬を蹴散らし、神殿への道を開けさせる先導役と、衛兵達は走り回った。


幸い南門は共同神殿に近かった。アリステアは神殿の施療院に運び込まれる。


さらに幸運な事に、王都の海の神の神殿の司教が共同神殿の視察に訪れていた。


話を聞いた司教はすぐにアリステアの下へやってきた。後ろから随行者の神官も付いてくる。


「私は< 解 毒 >を唱える!そなたは< 回 復 >を!海の神の娘と謳われるそなたの祈りで、彼女の命を繋ぎ止めるのだ!」


神官は首から下げている聖印を握り、その心の全てを込めて海の神に祈る。


(海の神ウェイブルト様!どうかみんなのお姉ちゃんをお助けください!)


神聖魔法は、祈りの心の強さと本人の精神力の強さで効果が変わる。


アリステアは国家功労者であり、この街の共同神殿にも定期的に寄付をしている重要人物だ。


心の底から神に奇跡を祈った司教は、< 解 毒 >の神聖魔法を1度使っただけで意識を失って倒れた。それだけ消耗したようだ。


しかし、< 回 復 >をかけた若い神官は、それほど消耗した感じも無く、司教を介抱していた。

まだ若いのに大変な力の持ち主の様だ。


司教と神官の神聖魔法の甲斐もあり、熱は下がり呼吸も落ち着き始める。だがアリステアはそのまま2日間眠り続けた。




アリステアは遺跡から戻った3日目に目を覚ました。


(ここは・・・どこだ・・・?でも・・・)


知らない場所だけど、なぜか懐かしい感じもする天井だ。


見ながら考えるが、まだ頭がいまいち回らない。


ベッドの横に置かれた椅子に、神官姿の女性が座っている。


「・・・!気が付かれましたか?お加減はいかがですか?痛い所とかはありませんか?」


海の神の聖印を首から下げている。静かで落ち着いた声だ。


アリステアに< 回 復 >の神聖魔法をかけた神官だった。


「うん・・・大丈夫・・・ここは・・・バーソルト?」


「そうです。共同神殿の施療院です。あなたが瀕死で戻ってきて3日が経過しています」


(そうか・・・帰ってこれたんだ・・・)


生きている。その事に安堵し大きく息を吐く。足を一本落とした甲斐があるというものだ。



神官の女性から戻ってきた時の顛末を教えられた。


「動けるようになったら、お礼と謝りに行かないとな・・・」


頭を右に動かすと、ソレイユに積んでいた荷物と背負い袋が見えた。


「背負い袋の中の、四角い物を取ってもらえる?」


神官の女性が袋の口を開け、魔導具を取り出し渡してくる。


それを受け取り、角度を変えながら破損箇所が無いか確認する。


魔導具は、あんな持ち帰り方をしたのにどこも壊れてはいなかった。


それを撫でていたアリステアの目から涙が溢れる。


(もう遺跡にも入れないな・・・)


目を閉じて深くため息をついた。


ブックマークやご評価いただけると嬉しいですね!


お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)

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