第246話
【更新について】
週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
PVが急に増えた為、作者のモチベーションが上がっており、短期間で更新できました。これからもよろしくお願いします。
決して、ウマ娘の育成が頭打ちだからではありません。
【前回まで】
城塞跡の部屋から戻ってきました。イングリット達は帰りましたが、キースは、自分の中のイングリットに対する気持ちの急激な変化に戸惑います。アリステアらに相談し「それが普通」と言われ安心したのも束の間、ある女性とした『将来の約束』を思い出しました。
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キースが思い悩んで立ち尽くしていた頃、イングリット達は寝室の続き部屋に戻ってきた。見慣れた景色が目に入ると、無意識のうちに安堵のため息を吐く。『転移』はもう何度もしているのに、心のどこかに不安な気持ちが残っている様だ。
「2人とも、今日も一日お疲れ様でした。ありがとうございました」
補佐官達に対してもそうだが、イングリットは必ず、一日の最後に労いの言葉を掛ける。皆それが仕事であり給料を貰っているのだから、役割を全うするのは当然だ。だが、上の立場の者から労いと礼の言葉を言われて、嫌な気分になる者は少数派だろう。
「殿下こそお疲れ様でございました……それで、今回の『計画』は上手くいった、という事でよろしゅうございますね?」
城塞跡の屋上から降りてきた時から確信はしていたが、マルシェは敢えて尋ねた。皆で考えた『計画』の結果を、本人の口から直接聞きたかったのだ。
マルシェの問い掛けを受け振り返ったイングリットは、満面の笑みを浮かべていた。
「ええ!これ以上ありません!完璧でした!」
「~~~~!そうですか!それはようございました!お二人の間柄がまた一歩進んだ事、本当に嬉しく思います」
2人揃って礼をする。
「それもこれも2人が協力してくれたからこそです!……今日は寮に戻らないといけない用事はありますか?詳細を聞いて欲しいので、できれば夜もこちらにいてもらいたいのだけど……」
「勿論何もございません!殿下がお休みになるまでご一緒させていただきます!」
「ありがとう!もう話したい事が多過ぎて……よろしくね!」
「はい!私共も早く聞きたいところですが、とりあえず夕食と湯浴みだけは済ませませんと」
朝から丸一日外にいたのだ。湯に浸かって汗と汚れと疲れを流さなければならない。
「マルシェの言う通りです。話し始めてしまったら最後、まず間違い無く他の事をしなくなってしまうでしょう。私は帰参の連絡と食事、湯浴みの手配をしてまいります」
レーニアはそう言い残し、部屋を出て行った。
「では、準備が整う迄に着替えを済ませてしまいましょう。どうぞ」
「ええ、お願いします」
残ったマルシェとイングリットも寝室へと移動した。
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時間が勿体ない為、食事も湯浴みも、2人が世話をしつつ3人で一緒に済ませ、そのままの勢いで寝る準備を終わらせる。
「準備整いましたね?では2人もベッドに入ってください!」
掛布団を捲って両脇をポンポンと叩く。
主と同じベッドで横になるなど、通常では有り得ない。だが、その主からの指示である。それ以上の理由など必要無かった。
イングリットのベッドは1人で寝る分には十分な大きさだが、そこに成人女性2人が入るとさすがに狭い。しかし、この少々の窮屈さと女3人の内緒話という状況が、皆の気持ちを盛り上げているのも間違い無い。
「では始めます!え~、先日よりの目標である『キースさんと心身ともにより親密になる事』ですが、本日大きな進展がありました!これも2人の助言のお陰です!ありがとうございます!」
「いえいえとんでもない!」
「殿下の頑張りの成果でございます!」
「それで、具体的な成果ですが……当面の目標を無事達成いたしました!」
「おお~!」
「お見事です!」
「では、詳細についての質疑応答に進む前に、今日のポイントをおさらいしておきたいと思います」
□ □ □
・先日の授与式の後、2人で話した時からも分かる様に、キースももっとイングリットと触れ合いたいと考えているのは間違いない。
・キースはマルシェら側仕えの目が気になっている。イングリットにとっては家族同然だが、キースはまだそこまで考える事はできない。王女であるイングリットから彼女達が離れて1人になる、という状況はほぼ無い事から、安全を確保しつつ視界に入らない、何らかの方法を考える必要がある。
・女性経験に乏しいキース任せでは、こちらの望む様には中々進まない。よって、ただ待っているだけでなく、こちらからも場と状況を整え、キースの態度、考え、気持ちを誘導していく。
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「その点、本日の北国境の遺跡はこれ以上無い場所でしたね」
イングリットの言葉に2人も頷く。
この遺跡は、王都から馬車で鐘3つ程と近い事もあり、非常に有名である。それ故に散々調べ尽くされており、ここを目当てにやってくる人は少ない。
さらに、エレジーアの部屋のすぐ近くに屋上に上がる階段があり、それが屋上への唯一のルート
だった事も幸いした。最初に屋上を確認し階段を押さえてしまえば、安全な、2人だけの空間を容易に作る事ができ、側仕え達が目を離す事もできる。
さらに、屋外であるというのも好都合であった。
もし室内で2人が『盛りあがって』しまうと、婚約者内定という段階にも関わらず後継者ができてしまう可能性もある。
王位継承どころか、婚約者決定の発表すらしていないのに、さすがにそれはまずい。
女性に不慣れなキースは奥手ではあるだろうが、それ故に、一度勢いづいてしまうと止まれなくなる可能性もある。若い2人だけにどうなるか分かったものでは無いのだ。
現状の王室の人数を考えれば、万が一を回避できる後継者ができた事は歓迎されるかもしれない。だが、王室の権威も威厳もへったくれも無いし、後世の歴史に微妙な評判も残ってしまうだろう。
結婚後の子沢山は歓迎されるだろうが、それは今では無いのだ。
以上を踏まえて、イングリット達は、昼食後に『化粧室』に行った際に計画を練った。当然キース達の屋敷の化粧室である。1000年以上前からある遺跡に今も機能している化粧室などある訳が無い。
『片付けをしている間に夕焼けを見たらどうか』という、無理矢理感の無い提案。すぐ近くではあるが視界には入らないという、絶妙な待機場所。そして、眩しいまでの見事な夕陽。キースの知らないところで、舞台は整えてられていったのだった。
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「では殿下、屋上での詳細をお願いいたします。具体的にはどの様な行動をされたのですか?」
「はい、基本的には2人の助言通りにしただけで……」
イングリットは、2人から『身体をくっつければ後は自然と進む』という助言を受けていた。好きな相手から身体を寄せられ、芳しい香りが漂ってくれば、10代の少年なら後はお察し、という事だ。
それを実践すべく、手を繋ぎ夕陽を眺めている時に僅かに近寄り、腕と腕を触れ合わせる事で意識させた。イングリットは『押し付けるなら胸の方が良いのではないか?男の人はそういうのが好きだと聞いた』と提案したが、『キースには刺激が強過ぎる』とされ却下となった。代わりに、肩に頭を乗せ追撃をする事にした。
「そこまではきちんとできました。そしたら、キースさんが繋いでいた手を解いてきました。不満気に見上げたら、空いた右手で髪から耳、頬を撫でてきたのです」
「あら!キースさんったらやりますねぇ!殿下は撫でられていかがでしたか?」
「はい、最初は少し驚いたのでビクリとしたのですけど、撫でられているうちに嬉しい気持ちと、なんと言うか、身体の内側?が暖かくなってきて、ほわんとしてきました」
「そうでしょうね。髪や耳は、個人差はありますが性的な感覚を覚える人もいます。もしかしたら、殿下もそういうタイプかもしれません」
「なるほど……では、キースさんは、そういう意図で撫でてきたのでしょうか?」
「んん~、その可能性は低いかと。おそらく、単純に可愛くて愛おしくて触りたかった、という事だと思います。今のキースさんでは、まだそこまでは考えが及ばないでしょうから」
レーニアの返答にマルシェも頷く。
「分かりました。で、その後はお互いにもっと顔を寄せて、唇を額や頬、耳などに触れさせる様になりました」
「ふむ……さらに先へ進みたいけど踏み込んでしまって良いものか、と迷っていたのかな?」
「ここまでくれば大抵の女性は拒否しないと思いますけど……それに、そもそも婚約者ですから」
「でも、その辺り、お2人の初々しさがよく現れていて良いですね!キースさんの気遣いができる優しい性格も出ています!」
「それで、近くなった分、お互いの呼吸とか、匂いとかもより強く感じられるようになって……私の方が我慢できなくなってしまい、目を閉じてしまいました。そしたら、すぐに、こう、『今のがそうだったのかな?』という様な感触がありました。その後も何回かは、様子見というか、短く軽く触れる程度でした。ですが、段々と、力強く、長く、そして……ふ、ふ、深くなってきて」
「「深く!!」」
思わず2人の声が大きくなる。
イングリットは恥ずかしさのあまり、途中から掛布団を被ってしまっている。でも、話すのは止めない。微妙な女心である。
「ちなみに……何回ぐらいしたか憶えていらっしゃいますか?」
「ええ……10回ぐらいまでは何となくですが……でもそれ以降は分かりません」
「まあそうですよね。普通、しながら一々数えませんもの」
「ですが、そこまでしたのであれば、殿下のあのお顔にも納得です」
「え、いつのどんな表情ですか?」
イングリットは仰向けの状態で掛布団の縁を掴み、顔を半分だけ出している。
「お二人が階段から降りてきた時のお顔です。蕩けるような、満たされて幸せが溢れ返ったお顔をされていましたもの」
レーニアの言葉にマルシェうんうんと頷いている。
「~~~~っ!」
恥ずかしさの限界に達したイングリットは、またもや掛布団を頭から被った。
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