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第242話

【更新について】


週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ


【前回まで】


キース達は近衛騎士団のでの講義を終え屋敷に転移してきました。イングリットと側仕え2人は、アリステアの編み物、フランのお茶とデザートの余りにも高いレベルに衝撃を受けました。これからお目当ての地下室へと向かいます。


□ □ □


「はい、ではこちらが地下室への入口。階段は暗いけど問題ないのでからご安心を」


キースがスっと手を伸ばすと、イングリットがその手を取った。2人は『うふふ』と笑い合い階段を降り始める。


(……慣れてきたけどまだ若干恥ずかしそうな2人の笑顔!堪りません!)


後ろでは側仕え2人が、澄まし顔でその光景に悶絶している。


数段降りると、壁に設置された『照明の魔導具』が点灯した。キース以外の3人は一瞬ビクッと身体を震わせる。


「これは初めからここに付いてたのだけど、近づくだけで勝手に点いて、離れると消えるんだ。お城の『照明の魔導具』は魔法陣で管理しているよね?これならそれすら必要ない。仕組みを教えてもらいたいのだけど中々手が回らなくて……」


初めて見る3人は『照明の魔導具』を見上げながら、感嘆の溜息を漏らした。


階段を降り、例の『鍵』の掛かっていた扉から室内に入る。2人が居るであろう、衝立の向こう側に置いてある応接セットに向けて声を掛ける。


「エレジーアさん、サンフォードさん、ただいま戻りました!」


衝立の影から黒猫の姿のサンフォードが顔を覗かせた。それだけで女性陣の顔が綻ぶ。可愛い猫は正義である。


彼らは屋敷全体を<探査>の範囲に入れている為、キース達が地下室に向かっている事は把握している。だが、入っていきなり喋るぬいぐるみと猫とご対面というのも衝撃が大きいと考え、衝立の向こう側で待機していたのだ。


「戻ったかキース。どうであった講義は?」


衝立を回り込んで近付いてくる。


「はい、とりあえず無事に終わりました。飽きる事無く聞いていただけた様です」


「ふむ、それは何より。まあ近衛騎士団に入れる程の魔術師なら、お主の話を聞き流すなど有り得ぬだろうがな」


そう言ってキースが伸ばした腕を伝い、右肩に飛び乗った。


(喋る黒猫を従える魔術師!おとぎ話みたい!)


女性陣の興奮度は更に上がり、瞳もキラキラだ。


古今東西、大抵の国では近衛騎士団はエリート集団であり、そこに入れる魔術師というのは極一部の優秀な者だけだ。当然、旺盛な向上心の持ち主でもある。新たな技術を習得できる機会を見逃す者などいないというものだ。


「戻りましたエレジーアさん。お変わりありませんか?」


サンフォードを肩に乗せたまま衝立を回り込む。


「お帰りキース……そちらが王女殿下かい?」


(今度は喋るぬいぐるみ!ああもう……堪りません!)


「はい、ご紹介します。エストリア王国王女にして次期王位継承者、イングリット・ロウ・クライスヴァイク殿下でいらっしゃいます」


「はじめまして、エレジーア、サンフォード両先生。イングリットでございます。ぜひイーリーとお呼びくださいませ」


イングリットは内心興奮で震えていたが、そんな事はおくびにも出さずに丁寧に礼をした。同じ魔術師として、偉大な先達に失礼な態度はとれない。


「これはご丁寧にありがとう。では遠慮なくイーリーと呼ばせてもらうよ。早速だがイーリー、お前さんは大したもんだよ」


「は、はい……と仰いますと……?」


初対面でいきなり褒められ、戸惑ったイングリットは、ぱちくりと瞬きを繰り返す。


「ちょっといきなり過ぎたね。それはね、キースを夫に選んだ事だよ!この事は、お前さんの生涯の中でも間違いなく最上位にくる事だ」


「なるほど!確かにそれは間違いございません!これに関しては、私も、過去の自分を褒めてあげたいと常々思っております!」


「これだけ特殊な魔術師というのは、私達が生きていた頃にもほとんどいなかったからな。『彼らならもしかしたら?』と思わせる人物が1、2人いた程度だ」


「その歳できっちり国を切り回すには、執務能力だけじゃ無理だ。周囲の人々に『お前さんの力になりたい、助けたい』と思わせる、人間的な魅力も十分に備わっているという事だよ。それを独特の思考と魔法技術でキースが助ける。2人が存分に力を振るえば、向こう数百年間国を支えられる礎ができあがるだろうさ。お互いに労りながら頑張りな」


「うむ、我らはそんな世界ができあがるのを楽しみに過ごさせてもらうとしよう。魔法に関する事以外でも何か手伝える事があれば遠慮なく言ってくれ」


「お前はとりあえず私をぬいぐるみから出す事を最優先におし!わたしゃ早く皆の顔が見たいんだよ!」


「そ、それはもちろん解っております。たださすがに素材が無くては……」


「そんな事は分かっているよ!ただの八つ当たりだ!」


「…………」


ここまで思いっきり開き直られては返す言葉もない。


「エレジーアさん、集まったらすぐに取り組みましょう。もう少しお待ちください」


「……まあ拾った様な2度目の人生だ。時間もある事だしね。ゆっくりやるとしよう」


(……キースが言うと本当に素直というかなんと言うか。やれやれ)


サンフォードは目を閉じて、抗議の意味を込めて尻尾をピコピコと動かした。


□ □ □


自己紹介も済んだところで、室内に設置してある設備等を説明しながら一周する。自力で動くのに時間がかかるエレジーアは、レーニアが胸の前で抱えていた。


イングリットらにとってはどれも興味深いものばかりだったが、やはり皆の目を引きつけたのは、壁に掛けられた『大聖堂』を描いた絵だ。


「これが『大聖堂』ですか……鐘楼がこの大きさという事は、相当に大きかったのですね。まさに大聖堂です」


「窓にハマっている色ガラスとてもステキ……陽が当たったらさぞ映えたでしょうね」


「絵でもこれだけの迫力です。生で見たらどれだけのものだったのでしょうか。凄い……」


女性陣も見惚れている。


「僕、絵心も無いし全く不勉強なのですが」


『大聖堂』の絵を見上げたままキースが切り出す。


「こちらの絵、初めて見た時から素晴らしくお上手だなと思っていまして。どなたか有名な方が描かれたものなのですか?」


キースの質問にイングリットらも頷く。


「あ、あ~、これはな」


「私だよ」


その声は意外な所から聞こえた。レーニアの腕の中、すなわち熊のぬいぐるみからだ。


「……え?」


「私だよ!意外で悪かったね!」


「……そ、そんな事ありません!確かに少し驚きましたけど……エレジーアさんは魔法陣一本だと思っていたので」


「手元にあるのはこの1枚だけだし、作品の数は多くなかったのだが、先生は非常にお上手なのだ。界隈では魔法陣と同じぐらい引く手数多だったのだよ。あの部屋にも1点飾ってあった筈だ」


『魔法陣と同じぐらい』という点にキースは目を丸くした。エレジーアはセクレタリアス王国中期に於ける、屈指の魔法陣の専門家だ。まさか、絵の腕前も同程度に評価されていたとは、さすがに想像の埒外だった。


「……本ばかりに気を取られていましたので、全然気が付きませんでした。この後行く予定ですので拝見してきます」


「ふん!気を遣わなくても良いんだよ!あれだけ過ごしていても目に入らない程度の絵だからね!大したもんじゃ無いよ!」


(拗ねた)

(拗ねましたね)

(……大人気ないですぞ先生)


「エレジーア先生、私、一つお願いがあるのですが聞いていただけますか?」


「……何だいイーリー、言ってごらん」


「先生を人型の『依代の魔導具』に移す事ができたら、肖像画を描いていただけませんか?」


「…………」


「キースさん、私、お父様やお母様、おばあ様おじ様おば様、子供がいれば子供達。何時になるかは分かりませんが、その時生きていらっしゃる方全員で集まるんです」


イングリットは笑顔で語りかけているが、その笑顔は何となく寂しそうにも見える。


「ご存知かとは思いますが、私にはおじい様以外に家族と呼べる存在はいませんでした。ですが、キースさんがお話を受けてくれた事で、たくさんの方が家族になってくれました。もちろんお気持ちだけでもとても嬉しいのですが、やはり形としても残しておきたいのです。お願いできますでしょうか?」


「……私は肖像画より風景画の方が得意なんだ!大したものは描けないかもしれないよ」


「ありがとうございます!少しでも早く実現できる様に、私達も頑張って参ります!」


熊のぬいぐるみの手を取りぎゅっと握る。


(あっさり引き受けたのは、自分でも大人気無いと感じていたというのもあるのだろうけど、基本的にイーリーは頼み方が上手い。この話の流れで断ったら人でなしだもの。そしてそれがごく自然で、押し付けがましさがない。こういうところは本当に参考になる。これからに向けて僕も身に付けていかないと)


キースは2人の様子を笑顔で眺めつつ、他国との使者や、国内の貴族と交渉する自分の姿を思い浮かべた。

ブックマークやご評価いただけると嬉しいですね!


お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)

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