第240話
【更新について】
週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。 今回は少し短いですが、あまり間が空くよりかは良いかなと……よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
近衛騎士団での『呪文』の講義を終え執務室に戻りました。興奮するイングリットがキースを讃える中で、キースとイングリットの婚約の話が出ました。1人だけ知らなかったミーティアに、イングリットが(もったいぶりながら)馴れ初めを説明しました。
□ □ □
「殿下、この後のご予定はお決まりなのですか?今日からしばらく充電期間だと伺っておりますが」
「いえ、特にこれと言っては……」
マテウスに対し、イングリットはお茶のカップを置きながら答える。
(ん、視線?……右の壁際?)
やり取りを眺めていたキースがそちらの様子を窺うと、そこにはイングリットの側仕え兼護衛である、マルシェとレーニアが控えていた。立ち姿はいつもの待機の姿勢だが、様子が少々おかしい。
(あれは……何をしているんだろう?)
マルシェは右目でウインクを繰り返しており、キースと目が合うとイングリットに視線を移す。レーニアは声は聞こえないが、何かを喋っているかの様に口が動いている。
(さ……そ……て……さそて?『さそて』って何だ?……あ、『さそって』?『誘って』か!はいはいはい!あ~それで昨日の返事なんだ!)
昨晩キースが『明日の予定は?』と尋ねた時、イングリットは『朝一で予定があって、その後は未定。相手の都合次第』と返答していた。だがこれは立場を考えればおかしい。
イングリットは王女である。国王の次に尊重されるべき存在だ。基本的にイングリットが相手の都合に合わせるのでは無い。相手がイングリットに合わせるのだ。休暇中だからと百歩譲っても、イングリットが動けばそれに合わせて周囲の人々も動く。関係各所に連絡もしなければならないし、前日夜の時点で未確定という事は無い。
(相手の都合、この相手って僕の事か!気を遣ってくれたのだろうけど、普通に言ってくれれば良いのに……)
壁際の2人にチラリと視線を向けて小さく頷くと、2人も目を細め頷き返してきた。
「殿下、この後ご予定無ければ、先日お話した屋敷の地下室をご覧になりませんか?」
キースの提案にイングリットの顔に笑顔が弾ける。『待ってました!』という心の声が聞こえてきそうだ。
「よろしいのですか先生?色々とお忙しいのでは?」
それでも提案に飛びついて来ないあたり、さすがは王女殿下である。だが、頑張って取り繕っても、ここにいるメンバーはイングリットのキースに対する気持ちを知っているので、あまり意味は無い。
「今日の確定している予定はこの講義だけですので問題ありません。それに、殿下の為なら都合など幾らでもつけますので」
「まあ、先生ったら……」
イングリットは恥ずかしそうに少し俯く。だが周りには嬉しさの気配が溢れている。
(……どうしたものかと思っていたけど本当に良かったわ)
嬉し恥ずかしなイングリットを見ながら、マリアンヌは自分の心が暖かい何かで満たされていくのを感じていた。
マリアンヌは以前、イングリットと面会した時に『キースの心変わりに備えて、いつでも受け入れられる様に周囲に根回しを進めておけ』と助言した。
それにより、イングリットは補佐官達に事情を話し協力を求めた。イングリットが今まで以上に心を開いた事で、彼らの結束はより固くなると同時に『キースを王配に』という統一された目標もでき、完璧な一枚岩となり得たのだ。
「キース、屋敷はどの辺りに借りたのだ?貴族街寄りか?」
「はい、『時を告げる鐘』の1区画南側の区画にあります。その屋敷の由来がまた変わっておりまして」
キースは、『大聖堂』、『時を告げる鐘』、屋敷についてをざっと説明した。『依代の魔導具』に入った魔術師がいる事は敢えて伝えない。細かく説明するには時間が足りないし、騎士団の3人とマリアンヌはこれから仕事だ。特にミーティアなどは、こんな話を聞かせたら仕事に手が付かなくなってしまうだろう。
「確かに、あの辺りに1軒だけ明らかに様式が違う屋敷があったわね!王都より古い建物だったなんて……キース、今度また時間がある時にでも、お屋敷にお邪魔できるかしら?ぜひ見学させてちょうだい」
マリアンヌの言葉にミーティアも激しく頷く。古の魔術師の研究室とくれば、とても捨てておけない。
「はい、ぜひ!私はだいたい自由になりますので、お2人で都合を合わせてご連絡お願いします」
「ありがとう!よろしくお願いね!」
キースの色良い返事に、マリアンヌとミーティアは笑顔を見合わせた。
□ □ □
「それでは今日はこれで失礼致します」
「おう!お疲れさん!明日はニバリが担当してくれるという事だったが、来るのか?」
「はい、参ります」
「はい、ぜひ」
「はい、もちろんです!」
キース、マリアンヌ、イングリットの声が揃った。3人が思わず顔を見合わせると、その様子を見ていたマテウスとボブが思わず吹き出す。
「私はキースに尋ねたつもりだったのですが……もちろん、殿下と理事長先生もお待ちしております」
そう答えるとニヤリと唇の端をあげた。
「しょ、少々張り切り過ぎてしまった様ですね。では先生、ちょっと恥ずかしいですし、お暇いたしましょう」
イングリットが頬を染めながらキースを振り返る。
「ふふ、かしこまりました。では皆さんまた明日よろしくお願いします」
そう言って別れの挨拶を交わすと、3人は執務室を後にした。
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