第239話
【更新について】
週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
近衛騎士団で『呪文』に関する講義を行ったキース。講堂に入ったらイングリットが居て驚きましたが、無事に終わりました。帰る前に一旦執務室に移動しました。
□ □ □
執務室に入り扉が閉まると、イングリットがキースの方に向き直った。その顔は、頬はほんのりと染まり瞳も煌めき、口角も上がっている。かなり興奮している様子が窺える。
「先生!ただ『呪文』に関してというだけで無く、今後の発展を見据えた素晴らしいお話でした!集団戦が基本になる近衛騎士団の魔術師は、ただ魔法を発動させれば良いという訳ではありません!やはり戦力、火力とも言えますが、それを集中運用してこそ!勿論皆それは理解しているとは思いますが、今は『呪文』に気を取られている感がございます!改めて意識してもらう事で、ミーティア以下隊長達の指揮への反応も良くなるでしょう!それに『魔法と可能性を否定するな』、これも心に響きます!彼らがそうだとは言いませんが、なまじデキが良いと自分の力を頼みにし過ぎるというか、固執し保守的になる傾向があると言いますから!中には『呪文』は私や団長達からの指示だから渋々、という団員もいるかもしれません!ですが、先生の実体験を踏まえた言葉なら、そういった心を解きほぐし前へと進めてくれるでしょう!ああ、本当に感激しました!まさに『万人の才』!こんな素晴らしい方が私の旦那様になってくださるなんて!もう何と言ったら良いのか……」
イングリットは興奮のまま一息に喋ると、大きく呼吸を繰り返す。壁際に控えていたマルシェが堪らず近付いてきて、その背中を撫でる。
「殿下……もしかしてですが……こちらに来るまで我慢されていたのですか?」
「ふぅ……はい!近衛騎士団の皆さんの前でこんな姿をお見せしたら、あっという間に話が広まって、外を歩けなってしまいますから!ですので、あの場では当たり障りの無い反応だけで何とか我慢したのです!ワタクシだってそれぐらいの分別はございますよ?」
「あ、ありがとうございます?」
キースは礼を言いつつも首を捻る。
「あの……よろしいですか?」
イングリットの勢いに若干引きながら、おずおずと手を挙げたのはミーティアだ。
「はい、どうぞミーティア」
「今、殿下はキースの事を『私の旦那様』と仰いましたが、それは……?正式に結婚のお約束をした、という事なのでしょうか?」
ミーティア以外の6人、イングリット、マテウス、ボブ、マリアンヌ、キース、ニバリは顔を見合わせる。
「……今更ですが、団長と副団長は私と先生の事はご存知なのですよね?いつお知りになりました?」
イングリットは同じ副団長でも、ボブの事は『副団長』、ミーティアの事は『ミーティア』と呼ぶ。本人は意識していない様だが、同性で同じ魔術師なだけに距離が少し近い。
「兄から聞きまして。講義の前にキースに確認しました」
マテウスの言葉にボブが頷く。マテウスの兄、すなわち現在のクロイツィゲル侯爵家当主である、エイブラムの事だ。
「そうでしたか……さすがはクロイツィゲル侯爵、お耳が早いですね。ミーティアはその時既に私達と一緒にいましたものね。詳細……知りたいですか?私としては少々恥ずかしいので、あまり気が進まないのですが……」
そう言いながらチラチラとミーティアの方を見る。
「さ、左様ですか……殿下とキースは知り合われてそれ程経っておりませんよね?そんな短期間でご婚約に至ったという事は、胸が熱くなる様な切っ掛けがあったのではございませんか?ぜひ馴れ初めをお聞かせいただけたらと思ったのですが……」
「そうですか…………分かりました。他ならぬミーティアの頼みです。仕方がありません。恥を忍んでお話いたしましょう」
「恐れ入ります!ありがとうございます!」
ミーティアはマテウスの後ろで気を付けの姿勢を取り礼をした。
(殿下……もったいぶり過ぎでしょ)
(正式発表前で話せる人間が限られているからな。その点ミーティアなら問題無い)
(お気持ちは解りますけど、さすがに露骨過ぎますね)
(誰かに聞いて欲しくて仕方がないのだな。まあ殿下の希望が叶うならそれで良いが)
(……)
ミーティア以外の5人は生暖かい目で2人を見つめる。
「ミーティアも、私が『万人の才』と呼ばれていたキース先生に会う事を熱望していたのはご存知かと思いますが……」
イングリットが話を切り出した。
(そこからか……これは少し長くなりそうだ)
マテウスは壁際に控えている、イングリットの護衛兼側仕えのレーニアとマルシェに視線を送った。
元上司からの合図を受けて、2人はお菓子を補充し、各自のお茶を入れ替えてゆく。
□ □ □
「……先生は泣き濡れる私を真剣なお顔でじっと見つめたかと思うと、席をお立ちになり近付いて来られました。そして、私の足下に跪かれ手を取りました。そして静かに『王配のお話お受けいたします』と仰られたのです」
「何という……ああ、その様子が目に浮かぶ様です!」
ミーティアは胸の前で手を組み、大きな溜息をついた。
「という訳で、私の念願は叶ったのでした。片想いかと思いきや実は両想いだったという、これ以上無い結末で。めでたしめでたし」
イングリットは会心の体言止めで話を締めると、お茶のカップに手を伸ばした。中身はすっかり冷めてしまっているが、喋り過ぎて喉が渇いていたため、その冷たさが心地よい。
「お話ありがとうございました!はぁ……殿下が望まれる方と結ばれる、私共臣下にとって、これ以上の歓びはございません。本当に良かった……」
そう言いながらハンカチで目元を拭うと、キースの方に勢い良く向き直る。
「キース、いえ、キース様!」
「!?は、はい!」
(マジか、様付いちゃったよ……)
イゼルビット家もかなりの歴史ある家柄だ。その嫁とはいえ、近衛騎士団副団長を務める才媛に『様』付けで呼ばれるのはやはり恐れ多かった。
「殿下の事、くれぐれもよろしくお願い致します!不肖このミーティア・イゼルビット、私個人は勿論、イゼルビット家と私の実家、カラパス家の総力を挙げて、ええ、まさに粉骨砕身、犬馬の労を厭わずお仕え致します!何なりとお申し付けくださいませ!」
(あのミーティアがこんな風になるとは……意外と恋バナ?というのか?こういう話好きなんだな)
マテウスが珍しいものを見るかのように眺めているが、興奮し切っているミーティアは全く気が付かない。
「ありがとうミーティア。ですが、あくまでも内定でございますし、譲位までまだ1年半近くあります。あまり早く発表してしまうと、注目を集め過ぎてしまい、先生の活動など色々と不都合が起きる可能性があります。今はお気持ちだけで十分ですよ。あと、先生の事も『様』は付けないであげてくださいね。今まで通りでお願いします」
テンションが上がっているミーティアに対して、イングリットは余裕の態度だ。だが、内心は、良い反応が得られてこの上なく嬉しく思っている。
「た、確かに……あまりに劇的な馴れ初めに舞い上がってしまった様です。失礼致しました。では、これまでと同じく務めてまいります」
ミーティアは改めてイングリットに礼をした。
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もうすぐスギ花粉も終わりですね。今年もやれやれですs。




