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第237話

【更新について】


週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。


よろしくお願いします(o_ _)oペコリ


【前回まで】


ギルドで合流したライアルやデヘント達を屋敷に案内したアリステア達。エレジーア、サンフォードらと挨拶&今後の見通しについて話をしました。寝る前にエレジーアから『イングリットに対してもっと同年代の女の子として接してやれ』と言われ考えています。


□ □ □


翌日の朝、キースはニバリと共に近衛騎士団の管理棟にいた。


屋敷から『転移の魔法陣』を設置した空き部屋に転移すると、扉を少しだけ開けて外の様子を窺う。誰もいない事を確認すると、するりと廊下に出て執務室へと向かった。


部屋の前まで来ると、ちょうど廊下の反対側から歩いてきた、大柄な男性と行き会った。騎士団長のマテウスだ。


「騎士団長、おはようございます!」


「おう、2人とも!よく来てくれたな!今日はよろしく頼む!」


連れ立って室内に入り、副団長のボブとも挨拶を交わす。


「……騎士団長、ミーティアさんはお休みですか?」


キョロキョロと室内を見回すキースの言葉に、マテウスとボブは顔を見合わせる。笑顔とも言えない微妙な表情だ。


「あいつは……準備してる」


「準備?ああ、使うお部屋の準備を仕切られているのですね」


「そう……だな。それも間違いでは無い」


はっきりしない返答にキースが不思議そうに首を傾げる。


「まあ、行けば分かるさ。それよりキース、お前さんの事だ!白銀級昇級も祝いたいのだが、先にこれだけ確認させてくれ」


マテウスは一度言葉を切ると室内を見回す。


(あ、これは……)


キースはその仕草だけで、マテウスが何を尋ねようとしているのかに気が付いた。


ここは騎士団長と副団長の執務室だ。他に人はいないのだから辺りを窺う必要は無い。それでもそういう仕草をしてしまうという事は、話題は一つしかない。


「王配になるってどういう事だ!この間来た時は何も言ってなかっただろう!そもそもこれは本当の話なのか!?」


真顔で勢い良く詰め寄ってくる。普段は抑え役であるボブも横で頷いている。


(やっぱり。まあお気持ちは解るけど)


王国の貴族、それも『四派閥』の一角を占める屈指の大貴族であるマテウスにとって、次の国王であるイングリットの結婚相手が決まった、という話は一大事である。しかも、その相手が自分の所に出入りしているキースなのだ。確認せずにはいられないだろう。


「はい、事実です。話は、殿下に初めてお会いした時に遡るのですが……」


「ああ、この間聞いたやつだな?陛下や国務長官と面会している所に殿下が入ってきた、という」


「はい、そうです。順を追ってご説明しますね」


キースは包み隠さず、1から10まで全て話した。


これまでは返答を保留していた為敢えて言わなかったが、話を受けた今、もう隠す理由も無い。


同時に、王配となった後も冒険者を続ける事、『依代の魔導具』と『石力機構』の再現という今後の目標についての説明もする。


これは、各家に所蔵されているであろう書籍類などを当て込んでの事だ。マテウスのクロイツィゲル家はもちろん、ボブのユンゲルス家も王国初期から続いてきた家である。屋敷の図書室に手掛かりになる様な資料がある可能性は十分だ。


「いくら熱望していた『万人の才』と会えたからといって、会って最初の会話で結婚を申し込むとは……」


「ええ……言葉もありません。その場にいた皆さんはさぞかし驚かれたでしょうね」


マテウスもボブも驚きと呆れ半々といったところだ。


「だが、あの方の望みが叶うのならばそれで良い。臣下の身でこんな事を言うのは不敬かもしれんが、殿下には少しでも幸せを感じながら過ごしていただきたい」


いつに無く真面目な顔のマテウスの発言に、ボブも頷いた。これはエストリアの貴族、一般市民の区別無く、イングリットの生い立ちを知る者の共通認識と言っても良い程だった。


両親も友人と呼べる者もいない、わずか1歳の頃から次期国王となるべく教育されてきた王女。そんな存在に肩入れしない人間は中々いないだろう。


「しかし、結婚する条件が王配になっても冒険者を続ける事とはな……いくら『転移』で行き来自在とはいえ、よく認められたものだ」


「そこだけは譲れませんでしたので、無理を通させていただきました。新たな目標もございますので」


「それだ。あの女戦士は魔導具の身体で、中身はアリステアだったと。確かに違和感を覚えていたのだ。陛下やウォレイン男爵と、こう、距離感というのか?妙に近いのでは?とな。それこそ、お2人とは曾孫と言っても良いぐらいに歳が離れているのにな。だが、正体が彼女だったのであれば納得だ」


「お前そんな事考えていたのか。俺は全く気が付かなかったわ……だがよ、その『依代の魔導具』と『石力機構』だったか?それを再現してどうするのだ?」


「『石力機構』は"かの国"が滅んだ原因ですので、再現できたからといって、即街全体に広めるのはさすがに難しいと考えています。ですので、最初は屋敷1軒、次に一区画、と徐々に適用範囲を広げてゆく、という方法を考えています。『依代の魔導具』の方は、これはまだ誰にもお話していないので内緒でお願いしたいのですが……」


そう前置きしてから説明する。話を聞いたマテウスとボブ、ニバリは驚きつつも笑顔になった。


「そりゃあ良いな!最高だ!」


「ああ、これ以上無いご褒美と言えるのではないか?全面的に賛成する」


マテウスとボブの言葉にニバリも頷く。皆の賛意に自然とキースの顔も綻んだ。


「ありがとうございます。喜んでもらえるか不安だったのですが、貴族のお2人に賛成していただけるのは心強いです。実現に向けて頑張っていきたいです」


「よし、とりあえず近衛騎士団に所属している者全員に、所有している書籍類の中身を再確認する様に指示を出す」


「だが、中には実家に何十冊もあるというような者もいるだろう。一から読んでいたのでは時間が掛かって仕方が無い。何か手掛かりになる様な言葉などはあるか?」


(本当に副団長は一歩先を行く気の回し方が上手だよな。話が早くて助かる)


「それでは『石力』、『石力機構』、人名で『エミーリア』、『サンフォード』、この4つに注目していただきたいです。サンフォードがエミーリアの師匠にあたります」


「分った。それも合わせて指示する。何か見つかれば良いがな」


「ありがとうございます。とにかく数を当たる必要があると考えていましたので、大変助かります」


近衛騎士団員は8割が貴族出身者だ。各家により多少の差はあれど、全て合わせたら膨大な数になるだろう。


「なに、近衛騎士団は既にお前さんに命を助けられていると言っても過言ではない。これぐらい安いものよ」


これから行う『呪文』の講義と、先日の、装備へ貼った『魔力付与』の魔法陣の事だ。魔術師も騎士も、装備更新や新技術により個人能力が上がれば、当然死にづらくなる。人の育成がタダでできない以上、それだけで国に貢献している事になる。


「ああ、そうだ。借りはどんどん返していかないと溜まる一方であるしな。これぐらいいくらでも協力するぞ。気にするな」


「それに、何と言っても未来の王配殿下だからな!できるだけ恩を売っておいて、今からズブズブの間柄になっておかなくては!なあボブ?」


「団長、さすがに露骨過ぎますよ。もう少し言葉を選んで下さい。キース、王配といえば公私共に女王に最も近い存在だ。そして近衛騎士団は王と国の剣であり盾。我らが女王と国に最大で最高の成果を捧げる為、我々は情報の共有化を図り、緊密で円滑な連携を常に維持しなければならない。よって、我々が懇意になる事、これはもはや義務と言えるのだ」


ボブがニヤリと笑う。


「そういう事だ!だからな、気にすんな」


「お2人とも……感謝いたします」


キースが目を潤ませながら頭を下げた。


(……『特権と義務は右手と左手。大きさは常に同じであり、大きな特権にはそれと同じ大きさの義務が付いてくる。義務を果たさず特権だけを得ようとするものは恥ずべき存在であり、その様な存在は除かれるべきである』だったか。王国初期の頃に定まったというが、これを決めた方は余程の目に遭われたのだろうな)


ニバリはキースの後ろで、彼の頭のてっぺんで揺れている寝癖を見つめながら、遥か過去の王族に思いを馳せていた。


(特に、王都周辺に領地を持っていたり、王城で役職を持っている人は、その辺りの意識が非常に高い。もちろん、国王陛下を始め他の貴族の目もあるからなのだろうが。実際、地方に行くと傍若無人な貴族もいるからな)


(その点このお2人は、まさに『特権と義務』の考えを体現された存在と言える。王族と貴族、そして冒険者、これだけでも傑物が揃ったと言えるのに、古の魔術師までいる。この様な時代は2度ないかもしれん。私も流れに乗り遅れない様、自分にできる事を精一杯務めていくとしよう)


その後、キースの白銀級昇級について話していると、部屋の扉が叩かれた。マテウスが返事をすると、入ってきたのは大隊長の徽章を付けた中年の男性騎士だ。机の手前で互いに敬礼を交わす。


「団長、出席者全員揃いました!」


「了解した!それでは行くとしよう。キース、よろしく頼む」


「はい、お任せ下さい」


マテウスを先頭に執務室を出ると、一行は講義を行う講堂へと向かった。

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お手数おかけしますがよろしくお願いします(*´∀`*)

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