第236話
【更新について】
週一回を目標に、 書き上がり次第随時更新となります。
よろしくお願いします(o_ _)oペコリ
【前回まで】
冒険者ギルドで素材や資料の買取希望を出しました。ちょうど『北西国境のダンジョン』から戻ってきたライアル&デヘント達と一緒になった為、現状の共有の為に屋敷へとご招待。エレジーアとサンフォードとも挨拶を交わしました。
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地下室で立ち話というのも、という事でリビングに場を移した。エレジーアはキースが抱え、さらに右肩にサンフォードが乗っている。その後ろを、アリステア、フラン、マクリーンが身悶えしながら着いてゆく。
10名を超える大人数だが、リビングの中央に置いてあるソファーと、壁際にある小ぶりなテーブルセットに全員座る事ができた。
「それで……お2人の目から見ていかがですか?『依代の魔導具』と『石力機構』、再現の目処と言いますか、達成可能でしょうか?」
ライアルはフランの淹れたお茶を一口飲むと、そのカップを手にしたまま尋ねる。中身は古の魔術師達と理解しているが、目の前にいるのはクマのぬいぐるみと黒猫だ。母や息子より常識人である彼は若干話しづらそうではある。
「『依代の魔導具』の方は問題無いだろう。先生に施したものと同じ程度のものであれば、すぐにでも可能だ」
「おお……」
言い切るサンフォードに、2つのパーティは静かに感嘆の溜息を漏らす。あんなとんでもない魔導具を『すぐ作れる』と言い切る。さすがは製作者だ。
「ただ、どうせならよりクオリティの高いものを目指したい。正直、当時は間に合わせるだけで精一杯でな、試験すらできなかった。死んでしまってからでは移せないからな」
サンフォードは先が鍵型になっている尻尾をピコピコと動かしながら、当時の状況を思い出す。剥製の身体には心臓も無いのに、何となく胸の辺りがきゅっとなる気がするのが不思議だ。
『エレジーアの具合がいよいよ悪い』という連絡を受けてからのサンフォードは、連日徹夜で研究を続けていた。
未完成であったのが一番の理由だが、横になって目を閉じても、『間に合わなかったらどうしよう』『少しでも良いものを』『上手くいくだろうか』と色々考え出してしまい、疲れているはずのに全く寝られなかったのだ。
移す処置をしてからは腹を括ったが、それでも常に処置の成否は気に懸かっていた。確認したくても部屋の護りと連動させてしまった為それもできない。
目が覚めた今でも『本当に成功していて良かった』と1日の間に何度も考えるのだ。
「ただ、『石力機構』、こちらは今の時点では難しいと言わざるを得ないね。仕組みは解らないし資料も無い。手掛かりを探す事から始めなきゃならん」
エレジーアは、ソファーに座ったキースの足の間で抱えられていた。シリル以外の女性陣はその様子を見てニマニマしている。シリルは顔には出さずにニマニマしている。
城塞や神殿以外は全部消し飛んでしまったし、遺ったそれらの遺跡も、数百年の間に散々人の手が入っている。そもそも、"かの国"の王族でも『秘中の秘』とされ強力な魔術契約で守られてきた話だ。手掛かりになる様なものが存在するのかどうか、それ自体怪しい。
「まず優先するのは、『依代の魔導具』の再現とクオリティの向上、サンフォードさんの弟子のエミーリアさんに関する情報の収集、次に『石力機構』についての何がしかの情報や資料の発見と回収、ですね。授与式の後にもお願いしましたが、お父さん達やデヘントさん達も、無理の無い範囲で気にかけていただけたら嬉しいです」
キースの言葉に皆が頷く。
「大きな遺跡に近い街に行った時とかは特に、よね」
「うん。お店だけじゃなくて露天商とか『持ち寄り市』とかの、少し怪しいところも」
フランの言葉にシリルが続く。
『持ち寄り市』というのは、云わば『フリーマーケット』である。特定の日に街の広場などで開催され、各自が不要になった物を出品して売り買いする。売り手も買い手も価値が分からず、特定の人には大変なお宝が二束三文で取引される事もあるだろう。
「とりあえず僕達はこんなところかな。皆さんはしばらくのんびりですよね?」
キースに問われたライアルとデヘントは顔を見合わせる。
「そうだな。何だかんだでまだ全然休んでないからな。しばらくは依頼を受けるつもりは無い。戻った挨拶などもしないといけないしな」
授与式の後すぐに、引き継ぎの調整をする為に『北西国境のダンジョン』戻った。その為まだ全くゆっくりできていない。デヘント達も同様だが、特にラトゥールやローハン、デニスら、比較的若く独身の彼らは王都で早く遊びたい、というのもある。
彼らぐらい名の通った冒険者は、大商会のオーナーや貴族とも個人的な付き合いがある。そういったお得意様に挨拶する必要もある。
「キースちゃん、一度カルージュに戻るという話もあったわよね?それはどうするの?」
「明日からの4日間で『呪文』の指導が3日予定されていますので、それが終わってからでしょうか。せっかく行くのにあまり慌ただしくても、ですし」
「そうだな。軽く掃除とかもしたいし村の人達にも挨拶しないとだ。説明はしてあるが、その辺はやっぱりちゃんとしておかないと」
アリステアの言葉にフランとクライブも頷く。
「行く日が決まったら教えてくれ。俺とマクリーンも行くから」
「分かりました。前日までにはお伝えします」
その時外から『5の鐘』の低い音が聞こえてきた。
「もうこんな時間ですね……それではとりあえず一旦解散と致しましょう。お付き合いありがとうございました」
キースの言葉を受けて皆席を立つ。
「食事はどうしましょうね?デヘントさん達は……」
様子を窺うキースの視線を受けたデヘント達、というかラトゥールらは視線を逸らした。
「……皆さんでどこかに行くのかな?お父さん達はどうされます?」
「今日はシリルの妹さんにお呼ばれしていてな。そちらにお邪魔してくる」
「遠征の労いとお姉ちゃんのお世話のお礼なんですって。全然お世話してないのにねぇ」
「ああ。こちらこそ長々と連れ出してしまったお詫びをしたいぐらいだ」
そう言いながらライアルとマクリーンが顔を見合わせる。
「妹は3人の事気に入ってるから、理由をつけて会いたいだけ。気にしなくていい」
「だが、幾らエルフとはいえ4年半だぞ?さすがに何も無しというのは気が引ける。向かう途中でお菓子とお茶の葉でも買っていこうと思っているが」
「それは喜ぶと思う。ありがとう」
シリルの表情は変わらないが、僅かだが口角が上がっている。
「そういえば、シリルの妹さんと会った記憶無いな。ありましたっけ?」
「あるけどキースがまだ赤ちゃんの頃。だから憶えてない」
「そうでしたか……ではぜひお会いして挨拶したいですね」
「キースだったらいつでも歓迎。待ってる」
口角だけでなく目尻も少し下がって見えるシリルだった。
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(よし、じゃあ今日はもう寝るか。明日は講義だし)
イングリットとのやり取りを終え、メモ紙だらけのベッドの上を片付けた後、組んだ手を頭の上に上げて伸びをする。
「おや、今日はもう終わりかい?少し早いね」
「ええ、意識して早く終わらせる様にしています。でないと際限無く続いてしまうので」
「王女様も明日から休みなんだろう?良いじゃないか、好きなだけやれば。好きな相手ができた10代の若者なんてそんなもんだ」
「先生、この2人は普通の10代ではありません。一緒にすると言うのも……」
「ふん!そんな事は百も承知だよ!だからこそ、2人だけの時ぐらい『普通』になるべきなんだ!」
エレジーアの言葉にキースはハッとした。
自分はまだしもイングリットは王女であり次の国王だ。兄弟姉妹はもちろん従兄弟すらいないし、魔術師だが魔術学院にも通っていない。完全に対等というのは無理だとしても、遠慮無しでやり取りできる同年代、という存在がいない。
「だが、今は違う。お前さんがいる。そもそも、両親やアリステア達は彼女を家族として扱ったのだろう?結婚するのは誰だ?お前さんじゃないか!本人がしないでどうするんだい!」
「確かにその通りですね……一応『2人だけの時は名前で呼び合う』という事は決めたのですが」
「それじゃ足りないね!そうだね……『2人だけの時は一切敬語禁止』ぐらい提案してみな」
「ええっ!?いきなり大丈夫かな」
「絶対に離したくない大事な相手からの提案だ。より距離が縮まったと喜ぶだろうさ。間違いないね」
「……わかりました!やってみます!」
「ああ!絶対成功間違いないよ!試したら結果を教えておくれ」
「承知しました!助言ありがとうございます」
キースは起き上がりぬいぐるみの手を取りぎゅっと握る。サンフォードの目には、クマのぬいぐるみがどことなくドヤ顔をしている様にも見えた。
そして、それはすぐに結果が出た。
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